2012/09/30

それは地理的な場所じゃない、俺たちの心の中にある場所なんだ (Reggie Song - パブリック・イメージ・リミテッド)

明日10月1日、イギリスで PiL の新しいシングル「Reggie Song」が発売になります。今回取り上げているテーマはずばりエデンの園です。「Religion」の続編ともいえる曲で、いよいよ旧約聖書、創世記との対決です。

「The Room I Am In」の記事でも紹介した通り、ジョン・ライドンはここ数年インタビューで度々「この地上こそが天国なんだ (Heaven is on earth)」という言葉を口にしていますが、これがアルバム「This is PiL」を通じて共通するテーマにもなっています。

俺たちが経験できる唯一のものが、この現実なんだ。馬鹿野郎なのは、俺たちをエデンの園から追い出した神の方だ。だから俺たちにはエデンの園に帰る権利がある。そうすべきだ、そうしようぜ! そういう歌です。

俺たちの親友、特にランボーと仲のいいレジナルドって奴のことを歌った曲だ。もうずっと昔からの友達でさ、フィンズベリーパークで生まれ育ったアーセナル国の住民さ。どんな困難なことがあっても、決っしてあきらめない奴なんだ。あいつはジャマイカ人の血をひいてるんだけど、まあそんなことは俺たちにとって重要じゃない。俺たちはフィンズベリーパークの仲間なんだ。あいつは自分の子どもたちの面倒をみてやりたいんだけど、それが許されていない。政治システムのせいさ。そのシステムが彼からありとあらゆるチャンスを奪い、苦しめてるんだ。同じような問題はあちこちにあって、しばしば悪循環を引き起こしている。だけどあいつはそんな制度ともうまくつき合っていく方法を身に付けている。うまく操るんだよ。すごくイカれた奴さ。俺と同じくらいイカれてる。

俺たちはみんなイカれてるんだ。だがお互い愛しあってる。お互い真摯に、誠実につき合ってるからさ。レジナルドは賞賛に値する奴なんだ。ある日あいつが言ったんだよ。「灯火のように光れ」って。そして「ジョニー、おまえは灯火のように光らなくちゃならない」って言ったんだ。その言葉に俺が「エデンの園で」って付け加えたわけさ。すげえ!素晴しいリフレインだ。まさに真理だよ。俺たちはみんなエデンの園に帰りたいんだ。俺たちにとってのエデンの園がフィンズベリーパークなんだよ。だがそれは地理的な場所じゃない、俺たちの心の中にある場所なんだ。

JOHN LYDON: I AM FOLK MUSIC

この Reggie Song には4月のロンドン Heven でのライヴ映像をフィーチャーしたオフィシャルなビデオもあるんですが、もっと観ていただきたいのは9月25日にイギリス BBC テレビ音楽番組「Later... with Jools Holland」に出演したときのスタジオ・ライヴ映像です。PiL としてのテレビ出演は20年ぶりで、ジョニーはホームレス風ディナー・ファッションで登場します。この日のジョニー、風邪をひいていて声がちゃんと出ていないんですけど、それを補って余りある迫力が伝わってくるはずです。

レジナルドを知ってるかい?
分別をわきまえた奴でさ
あいつはちょっとしたアイディアを持ってる
それで穏やかな気持になれるんだ
あいつはヤバいものには近付かない
エデンの園アダムとイヴみたいに
すごく純真な奴なんだ

あいつは夢見てる
俺たちはみんな夢見てる
俺たちがここを出ていかなければならない理由なんてない
俺たちは、エデンの園で灯火のように光るんだ
悪いことなんて何もない、ここを出ていく理由もない

だから俺たちは光るんだ
光っているんだ

エデンの園で灯火のように光るんだ
出て行く理由なんて、どこにも、何ひとつもない
エデンの園で、俺を光らせてくれ
出て行く理由なんて、何ひとつない

あいつはロンドンで生まれた
俺もロンドンで生まれた
俺たちの多くはロンドンの生まれだ
だがどこの生まれだろうと関係ない
あんたもあの園に帰れば、まっとうな人間でいられる

俺はずっと夢見ている
悪いことも、出て行く理由も、何ひとつないんだ
エデンの園で灯火のように光るんだ
出て行く理由なんてどこにもない

上等なウィードから
七本の楡の木(セヴン・シスターズ)まで
何でも揃ってる
俺はそのフィンズベリーパークの生まれなんだ
こきげんだぜ
きっとあんたにもわかる日が来る
神の言葉をあれこれ考えたところで
大したことは何もわかりゃしない
あいつは女好きでさ
純真なやつなんだ
エデンの園にいるみたいに

エデンの園で灯火のように光れ
出て行く理由なんてどこにもない
エデンの園で灯火のように光るんだ
出て行く理由なんてどこにもない

俺はずっと夢見てる
出て行く理由なんてない
俺は今でもエデンの園に住んでいる

俺はずっと夢見てる
出て行く理由なんてない
俺は今も住んでいる
みんな住んでいるんだ
エデンの園に

2012/09/08

ハイム(Haim)、ポリドール・レコードと契約、ヨーロッパ・ツアー開始!

Haim 4
Haim 4, a photo by alansheaven on Flickr.

LA の三姉妹バンドのハイム、バンド側から正式のアナウンスはまだないのですが、どうやらポリドールと契約して、アルバムのレコーディングに取りかかっているようです。アラナがこんなツイートをしてました。

ポリドール・レコード 「さて君たちの中で誰かぼくらのために新しい音楽を作ってくれる人はいるかな?」
アラナ 「只今作業中」

ポリドールのサイトを見るとちゃんとハイムの名前が載ってました。遂にアルバムがリリースされるようですね。そのほかも活動が活発で色々動きがあるので、まとめてご紹介します。

まず数量限定でリリースされたアナログ EP「Foever」ですが、追加のプレスで白いレコードやTシャツ付きのパッケージが販売されています。ほかに「Just Tell Me That You Want Me」というフリートウッド・マック(Fleetwood Mac)のトリビュート・アルバムにも参加、これは一曲だけですが「Hold Me」をカバーしています。CD、ダウンロードで既に販売中です。

ライヴの方は、地元 LA での小さなフェス等への参加のほか、8月はマムフォード & サンズ(Mumford & Sons)主催の移動フェス(?) Gentleman of the Road に加わり北米4ヶ所でのコンサートを行いました。そして11月からは、ハイム初の本格的なヨーロッパ・ツアーが予定されていて、イギリスを中心にオランダ、ドイツ、フランスなどをまわります。

あと7月19日にサンタモニカ埠頭で開催された無料コンサートでのライヴの模様が YouTube にアップされていたのでご紹介します。曲は以下の8曲です。客席からの撮影ですが、音質、画質共にきれいに撮れていて、ハイムのパワフルなライヴの雰囲気が充分に堪能できます。やっぱハイム、ライヴが最高にかっこいい!

  1. Better Off
  2. The Wire
  3. Honey & I
  4. Forever
  5. Go Slow
  6. Oh Well (Fleetwood Mac cover)
  7. Falling
  8. Let Me Go

えっと、あと何か忘れてなかったかな。そうだ、「Forever」の公式カラオケ・ビデオも公開されてます。

2012/09/06

あんたがいるそこはずっと、まぎれもない天国なんだ (The Room I Am In - パブリック・イメージ・リミテッド)

Snow at Finsbury Park
Snow at Finsbury Park, a photo by Xenoc on Flickr.

ジョン・ライドンのロリポップ・ブログ(Lollipop Blog)、ブログと言ってもジョンが文章を書いて公開してるわけじゃありません。インタビューのビデオです。普段着のジョンが居間の椅子に座って話す様子を撮影、そのビデオを YouTube で公開するだけという、きわめて21世紀の PiL らしい低予算のプロモーション活動です。そのロリポップ・ブログ第4回のビデオが先日公開されました。今回のテーマは、ニューアルバム「This is PiL」収録の曲「The Room I Am In」についてです。

この曲は明確なビートやメロディーのない、いわゆるアンビエントな感じのサウンドで、従来の PiL にはなかったタイプの曲です。ジョンもほとんどメロディらしきものは歌わず詩を朗読しています。重苦しい一方でどこか美しいムードの漂う曲なんですが、曲の途中でなぜかジョンは笑っています。なぜでしょう。その理由は「ここが天国だから」です。

この曲はルー・エドモンズがスタジオで録ったものを編集したことから始まったんだ。メンバーの誰ひとりモノになるとは思ってなかった曲さ。テクノロジーの力で作り上げた音楽だな(笑)。みんなびっくりしたよ。彼は素晴しいものにしてくれたんだ。アンビエントで調子外れなサウンドで、心地良くて美しく、それでいて皮肉な感じも漂ってる。彼の心の底から生まれたサウンドだよ。

だから俺は、それに負けない相応(ふさわ)しい歌を入れようと思ったんだ。最終的に「絶望の中での生活」を心を込めて語るのがいいってわかったんだ。公営住宅の部屋、タールで汚れた壁、俺たちが育った場所の諸々についてさ。

だが地獄に思えるようなこの場所が、実は天国なんだってことを理解しなくちゃならない。俺たちが生きてるこの現実こそが天国なんだ。だから精一杯生きなくちゃならない。俺たちが経験できる唯一のものが、この現実なんだ。

宗教が広めてる最も有害な考えが「死後の救済」ってやつさ。宗教が言ってるのは今生きてることを無駄にしろってことじゃないか。

ここが天国なんだ。この部屋にいるみんな、世界中のみんなが今いるのが天国なんだ。今あんたがしている呼吸のひとつひとつ、それが天国なんだ。

あんたも自分の母親が癌になって、最後に息をひきとる場に立ち会えば、ああここが天国だったんだなってわかるはずだよ。

いつもだとここでライヴのビデオをご紹介するんですが、今のところ「The Room I Am In」はライヴで演奏されていないため、ビデオもありません。「へえ、ジョン・ライドンって、こんなこと歌う人なんだ」と興味を持った方はぜひ PiL のアルバム「This is Pil」をお買い求めください。

この窓からは、大した希望など見えた試しがない
このちっぽけな建物の外では
どんよりと曇った朝から始まり、晴れた空が広がり
夕暮れの色はやがて、漆黒と星だけの空になる
窓格子ごしにそれを眺めるだけ
汚物だらけの公営住宅
そこの部屋に俺はいる

わかっている
そんな中に
俺がいるちっぽけな部屋がある
俺の地獄
それが俺の居場所
それが俺の居場所

あんたがいるのはほかのどこでもない
あんたがいるそこはずっと
まぎれもない
天国なんだ

2012/09/01

みんなアメリカを探しに来たんだ (America - ファースト・エイド・キット)

Long Live Liberty
Long Live Liberty, a photo by Wallflower83 on Flickr.

ポーラー音楽賞(Polar Music Prize)、日本での知名度はいまひとつなんですが、ABBA のマネージャーだった Stig Anderson がスウェーデン王立音楽アカデミーの援助を受けて1989年に創設した賞で、音楽界のノーベル賞とも呼ばれています。今年はポール・サイモン(Paul Simon)とヨーヨー・マ(Yo-Yo Ma)が受賞し、授賞式が8月28日にストックホルムで開催されました。

受賞者を差し置いて、昨年に引き続きステージに立って歌ったのはスウェーデンが誇るおぼこ姉妹デュオ、ファースト・エイド・キット(First Aid Kit)です。去年は「Dancing Barefoot」を歌って受賞者のパティ・スミス(Patti Smith)を泣かせてしまったんですが、今年もまたやってくれました。

歌ったのはポール・サイモンのサイモン & ガーファンクル(Simon & Garfunkel)時代の曲「America」です。客席で聴いてるポール、うるうるしてます。なんだかこの授賞式、もはやファースト・エイド・キットの実力をベテラン・アーティストにアピールする場になってませんかね。

「America」は探していたものが、あるはずの場所に見つからなかった。いったい何を探していたのか、わからなくなってしまったという青春の歌です。そこで探すのを止めてしまうと単なる昔を懐しむ歌にしかなりませんが、そこが始まりだと気付けば希望の歌になります。

「ぼくら恋人同士にならないか。お互いの財産目当てに結婚を企むんだ」
「あら、わたしカバンの中に少しばかり土地を持ってるのよ」
それからぼくらは煙草を1箱とミセス・ワグナーのパイを買い、アメリカを探して歩き出した

「キャシー」
ピッツバーグでグレイハウンドの長距離バスに乗るとき、ぼくは言った
「ミシガンにいた頃のことが、今じゃもう夢みたいに思えるよ」
サギノーからはヒッチハイクで4日もかかった。
ぼくはアメリカを探しに来たんだ

バスの中ではゲームをしてふざけ合った
彼女が「あのギャバジンのスーツを着た男の人はきっとスパイね」と言えば
ぼくは「気を付けろよ、あの蝶ネクタイは隠しカメラだから」と応えた

「煙草を取ってくれないかな。レインコートのポケットに残っているはずなんだけど」
「1時間前に吸ったのが最後の一本よ。」
仕方ないのでぼくは景色を眺め、彼女は雑誌をめくった
広々とした平原に月が昇っていた

「キャシー、ぼくは道に迷ってしまったみたいだ」
彼女が眠っているのを知りながらぼくは言った
「どうしてだかわからないけど、虚しくて、苦しいんだ。」
ニュージャージーの高速道路ですれ違う車の数を数えた
彼らもみんなアメリカを探しに来たんだ
みんなアメリカを探しに来たんだ

ファースト・エイド・キット、来年の授賞式では誰の歌を歌うんでしょう。今から楽しみです。

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