2013/05/04

我々には変化がふさわしい (Change Becomes Us - Wire)

Change Becomes Us - Wire

あるとき絶大なる人気を誇り大勢の人々の支持を得たバンドや音楽作品が、その作者やファンと共に年を取り、次の世代に引き継がれずにやがて忘れ去られてしまう。そんな例は洋の東西を問わずいくらでもあます。挙げていくときりがありません。むしろそれがごく普通のあり方です。

ファンの立場で言えば、コンサートに行って自分の好きなあの曲を聴きたいというのはごく自然な欲求です。大好きなあの曲を演奏してくれて、それでまわりのみんなと一緒に盛り上がる。とても幸せです。でもそんなことを何度か繰り返しているとある日、ふと気付きます。大好きなアーティストのあの曲、サビの部分で声に伸びがなくなってる。ああ、年を取ったんだ。自分も肌に張りがなくなって贅肉も付いちゃったしな。まわりを見回すと、コンサート会場にいるのは自分と同じような年代の人ばかりになっています。

こんなんじゃいけない。素晴しい音楽が年月に埋もれてしまうと感じ、次のコンサートには息子や娘を誘ってみます。だけど返事は案の定「そんな年寄りの音楽、興味ない」です。振り返ってみると、自分だって若い頃は親やその年齢の人が「これはいい! これを聴け、これを読め」って言ったものを素直に受け入れたことなんてないしな、無理ないなって思います。

一方、アーティストの方はもうちょっと早く問題に気付きます。苦労してやっと多くの人たちに曲を聴いてもらえるようになった。ヒットしたあの曲では会場みんなの大合唱が起こるようになった。でもあの曲がヒットしたのはもう3年前。今ではお決まりの曲にお決まりの反応。おかげで何だかバンドのイメージが固まっちゃって、ファンはいつも同じ顔ぶれ、新しいファンが入ってくる余地がなくなってるような気がする。

ということでハードなサウンドのバンドが突然ロカビリーに走ったり、清楚なイメージで売っていた女性シンガーが突然どぎついメークでステージに登場したりするのですが、多くの場合うまくいかず、そのまま芸能界から消えてしまうことも少なくありません。

そんなめんどくさいこと考えないで、ファンは自分の好きなように楽しめばいいし、アーティストは観客の望むものを提供するのが仕事でしょ、という説にも一理あります。そして多くの人は実際にそうしています。でもそんなんじゃ嫌だ、という人たちも当然出てきます。

ワイアー(Wire)は1977年にレコード・デビューして、35年以上を経った今も精力的に活動し続けているバンドですが、ワイアーのアルバムはどれひとつとして、同じスタイル、同じ音の感触のものはありません。つまりあるアルバムで成功したやり方はそのアルバム限りであっさりと捨ててしまい、二度と使おうとしません。次のアルバムはまったく違うアプローチで取り組みます。ライヴも同様で、ツアー毎にセットリストはがらりと変わり、その大半は新曲です。

商売という側面からバンド活動を考えると、これほど間違ったやり方はありません。新作のプロモーションをして、CD を売って、ツアーをして、やっと人々に受け入れられてきて、次のアルバムはもっと売れる、次のツアーではもっとたくさんの人が集まるというときになると、バンドはまったく別のものに姿を変えているのです。投資をして、商品を宣伝して、みんなが買おうという気になったらもう商品がないなんて商売とは言えません。

しかし驚くべきことに、同時代のイギリスで登場したバンドの大半が解散、活動を停止している中、ほぼオリジナルメンバーのまま、コンスタントに活動し続け、今最もアクティヴなバンドがワイアーです。常に変わり続けるというやり方は一貫して変わっていません。その中心人物、コリン・ニューマン(Colin Newman)は新作「Change Becomes Us」について次のように語っています。

ワイアーの奇妙な歴史における重要事項として、1980年に解散した当時、それはアルバムをもう一枚作れるほどの数だったんだが、レコーディングはおろかデモ録音さえしていない作品がそのままになっていたという事実がある。もっとも当時のぼくらはそれをアルバムにしようなんて気はなかったんだけどね。それがずっとぼくらの中で引っかかっていたんだ。

2000年に活動を再開したとき、それを形にしてみてはという提案を受けたことがある。そのときも検討には値しないアイディアに思えた。だが(1980年頃に作られ)元は「Ally in Exile」というタイトルだった曲だけは作り直して「I Don't Understand」になった。この曲は数年後(女性下着ブランドの)ヴィクトリア・シークレットの宣伝にも使われた。

だから完全に無視していたというわけではないんだ。ひょっとしたらこの作品を使って「ワイアーはけっして過去を振り返らない」スタイルのものが作れるかもしれない。そう思いついた。なにせこれらの作品はアルバムとしてレコーディングされたこともないし、当然リリースもされたことがない。ほとんどの人はそれが一体どういう作品なのか知らないんだから。

2011年、イギリスのエージェントから二度目のツアーのオファーを受けた。これまでになかったことだよ。1年に二度もイギリスでツアーをやるなんて1978年以来だったからさ。ぼくらはいつもたくさんの新曲をステージで演ってる。だけどそのときは(前のツアーを終えたばかりで)「Red Barked Trees」に続く新しい作品がまだ用意できてなかったんだ。

そこで思い出したのが(1979年から1980年にかけて作られた)作品さ。その中から7、8曲をセットリストに入れて演奏した。オーディエンスの9割はそれが昔作られた作品だなんて気付いてなかった。「今まで観た中で今回のバンドが最高だ!」って感じの反応だった。これほど面白いことはないよ。

ぼくらはこれをレコーディングしておかしなものができるわけがないと確信した。それでウェールズのモンマスにある、数々の名作が作られたロックフィールド・スタジオを予約した。そこで1週間かけてレコーディングして、その後6ヶ月かけて仕上げたんだ。

For Wire and Colin Newman, Change is Good

つまりワイアーの「Change Becomes Us」は1980年には存在し得なかった4枚目のアルバムが、2013年の今、突如姿を現わしたものとも言えます。もちろんその音はまるで1980年のものには聴こえません。しかし本人たちがやり残してずっと引っかかっていたこと、35年経ってもまだやる価値のあることを実現したものです。

アルバムのオープニングを飾るのは「Doubles & Treble」で、元は「Ally in Exile」と呼ばれていた曲です。つまり上記インタビューにある通り、アルバム「Send」に収録された「I Don't Understand」とは双子の関係にある曲です。今のワイアーが「Send」の時代とはまるで違うバンドだということが、これを聴けばよく分かるはずです。そして次のアルバムではまた別のワイアーが姿を現わすに違いありません。

決まった形にとどまらず、変化し続けるワイアーは今なおそのファンを増やし続けていて、今年は北米で今までにない長いツアーを行う予定だそうです。

亡命中の同胞のひとりが
緊急指令を受けた
既に彼はトラブルの渦中にあり
気の休まる暇などなかった
暗号に気付くと
即座に解読した
メッセージに書かれていたのは
国とその地域、そして道路

恐れていた通り
彼の正体はバレていたのだ
ネットワークの規模が
膨れ上がり過ぎたのだ
組織の肥大化が
ありがたくない事態を招いた
今後一切の連絡を断つため
最後の言葉を送信した

レジスタンス活動は
効果が上がらず停滞
彼は連中の到着に備える
殺戮のときを待つ

レジスタンス活動の効果はなく
彼は殺戮のときを待つ
彼は到着に備える
彼はじっと待つ

レジスタンス活動は無駄
彼は殺戮に備える

彼は劇場の中で泣き崩れたが
照明には曝されたくなかった
ことさら
戦略的洞察力を煽るような光には

だが幸運にも
彼は蓄えを用意していた
2重に、そして3重に
ドアに鍵をかけた

0 件のコメント: