2010/06/22

Never Come - ヴィヴ・アルバーティン

「ねぇママ、ママって、昔もバンドやってたの?」

「そうよ。あなたが生まれるずーっと前よ。」

「ママ、あたしね、古いもの大好き!昔の音楽とか昔のお洋服、マイケル・ジャクソンとか昔の人たちも!」

「ママは昔ね、結構ファッションリーダーだったんだから。みんなママの真似をしたのよ。」

「へぇー、どんなファッション?」

「えーっとね、花柄のかわいいワンピースをビリビリに破ってくしゃくしゃにして着たり、フンドシ一丁で体中に泥を塗って走りまわったり...。」

「....ホントにそんなの流行った?」

「ホントよぉ。パリのコレクションなんかにも結構影響与えたんだから。」

「なんてバンド?」

「スリッツって言うの。女の子だけでしかもステージ上で四股踏んだりするバンドは当時、世界中のどこにもなかったんだから。」

「四股?踏んでたの?ママはギターを弾いてたんだよね?」

「歌って、ギターを弾いて曲も作ってたわよ。ママのギターのお師匠さんはキース・レヴィンって人なんだけど、会ったことなかったっけ?」

「会ったことある。キースおじさん。変なおじさん。」

「そう、その変なおじさんがママにギターの弾き方を教えてくれたの。キースは『いいかいヴィヴ、ギターを弾こうなんて考えちゃダメだ。感覚を研ぎ澄ますことでギターに自ずからサウンドが宿るんだ!きみが感じることによって、ギターは鳴るべき音で鳴り出すんだ!』なんて調子だから、ママずいぶん長いことチューニングの方法を知らなかったの。」

「こないだ一緒にステージに出たジーナおばさんも一緒のバンドだったの?」

「活動していたのは同じ頃だけど、ジーナはレインコーツ、別のバンドだったの。」

「ジーナおばさんはママと同じ歳だよね?ママのほうがきれい、勝ってると思う。」

「しーっ、そんなことみんなの前で絶対言っちゃダメ。ぜっっったいにダメよ!」

「はぁい、ごめんなさい。...ママ、ラジオのスタジオに着いたよ。」

「じゃあママ、これから1曲歌うから、おとなしく待っててね。終わったら一緒にアイスクリーム食べに行きましょ。」

(2014/07/20 追記)
ヴィヴ・アルバーティンがキース・レヴィンにギターの弾き方を教わったというのはどこかで読んだ記憶があったので、この小話は勝手な想像で書いたのですが、最近出たヴィヴの自伝「Clothes, Clothes, Clothes. Music, Music, Music. Boys, Boys, Boys」を読んでみたら、なんと、ほぼこの通りの事実でした。以下にその内容をご紹介します。

「ヴィヴ、ギターのコードやスケール、そんなクソみたいなものの練習で時間を無駄にしちゃいけない。ぼくはきみにギターを弾かない方法を教えてあげる。」

ええっ?だって私コードを教えてほしいのよ!コードも知らずにどうやって曲を書けばいいのよ?

キースはギターを弾く上で次の三つのルールを守るように言った。まず最初にチューニングをすること(いつも彼がチューニングしてくれたけど)。次に、弾く前にちゃんと手を洗うこと。それから三日以上、練習をサボって間を空けないこと。