「ねぇママ、ママって、昔もバンドやってたの?」
「そうよ。あなたが生まれるずーっと前よ。」
「ママ、あたしね、古いもの大好き!昔の音楽とか昔のお洋服、マイケル・ジャクソンとか昔の人たちも!」
「ママは昔ね、結構ファッションリーダーだったんだから。みんなママの真似をしたのよ。」
「へぇー、どんなファッション?」
「えーっとね、花柄のかわいいワンピースをビリビリに破ってくしゃくしゃにして着たり、フンドシ一丁で体中に泥を塗って走りまわったり...。」
「....ホントにそんなの流行った?」
「ホントよぉ。パリのコレクションなんかにも結構影響与えたんだから。」
「なんてバンド?」
「スリッツって言うの。女の子だけでしかもステージ上で四股踏んだりするバンドは当時、世界中のどこにもなかったんだから。」
「四股?踏んでたの?ママはギターを弾いてたんだよね?」
「歌って、ギターを弾いて曲も作ってたわよ。ママのギターのお師匠さんはキース・レヴィンって人なんだけど、会ったことなかったっけ?」
「会ったことある。キースおじさん。変なおじさん。」
「そう、その変なおじさんがママにギターの弾き方を教えてくれたの。キースは『いいかいヴィヴ、ギターを弾こうなんて考えちゃダメだ。感覚を研ぎ澄ますことでギターに自ずからサウンドが宿るんだ!きみが感じることによって、ギターは鳴るべき音で鳴り出すんだ!』なんて調子だから、ママずいぶん長いことチューニングの方法を知らなかったの。」
「こないだ一緒にステージに出たジーナおばさんも一緒のバンドだったの?」
「活動していたのは同じ頃だけど、ジーナはレインコーツ、別のバンドだったの。」
「ジーナおばさんはママと同じ歳だよね?ママのほうがきれい、勝ってると思う。」
「しーっ、そんなことみんなの前で絶対言っちゃダメ。ぜっっったいにダメよ!」
「はぁい、ごめんなさい。...ママ、ラジオのスタジオに着いたよ。」
「じゃあママ、これから1曲歌うから、おとなしく待っててね。終わったら一緒にアイスクリーム食べに行きましょ。」
She's 11 yrs old. She said I love old things mummy, old music, old clothes, old people! (M Jackson is old music to her).
— Viv Albertineさん (@viv_albertine) 2010年6月7日
(2014/07/20 追記)
ヴィヴ・アルバーティンがキース・レヴィンにギターの弾き方を教わったというのはどこかで読んだ記憶があったので、この小話は勝手な想像で書いたのですが、最近出たヴィヴの自伝「Clothes, Clothes, Clothes. Music, Music,
Music. Boys, Boys, Boys」を読んでみたら、なんと、ほぼこの通りの事実でした。以下にその内容をご紹介します。
「ヴィヴ、ギターのコードやスケール、そんなクソみたいなものの練習で時間を無駄にしちゃいけない。ぼくはきみにギターを弾かない方法を教えてあげる。」
ええっ?だって私コードを教えてほしいのよ!コードも知らずにどうやって曲を書けばいいのよ?
キースはギターを弾く上で次の三つのルールを守るように言った。まず最初にチューニングをすること(いつも彼がチューニングしてくれたけど)。次に、弾く前にちゃんと手を洗うこと。それから三日以上、練習をサボって間を空けないこと。