2010/12/24

Christmas Cornucopia - アニー・レノックス

クリスマス・ソング特集の最後は大御所登場、アニー・レノックス(Annie Lennox)です。

11月にリリースされた新作「Christmas Cornucopia」はいわゆるクリスマス・キャロル、ようするに賛美歌とトラディショナル・ソングのカバー集です。国内盤の発売がないので、日本ではリリースされたこと自体知らない人が多いと思いますが、本国 UK ではアルバムチャートの上位にランクインしています。

「クリスマス・ソング?賛美歌?興味ねー。」という人も、とりあえず1曲お聴きください。「God Rest Ye Merry Gentlemen」です。天使が空から降りてきてキリスト様の生誕を告げ、みんなでベツレヘムへ行進するとかいう内容の賛美歌なんですが、アニー様が歌うとまったく違う世界が広がります。キリスト様はともかく、アニー様には誰もがひれ伏さずにいられないはずです。ちなみにアニー様の誕生日は本当に12月25日です。

レッド・ツェッペリン(Led Zeppelin)をもう一度復活させるとしたら、ヴォーカリストは彼女しか考えられません。これを聴いたみなさんなら、もちろん異議ないはずです。

なお、ステージでアニー様がお召しになっている、胸に「HIV Positive」と書かれた服は、Sing キャンペーンの T シャツです。クリスマス、お正月、ヴァレンタインなどのプレゼントにお勧めします。

2010/12/23

ワイアーからのお願い (Red Barked Tree - ワイアー)

ワイアー(Wire)の曲のタイトルや歌詞で Please なんて言葉が出てくると、当然こんなふうになります。

おねがいだから
ぼくの背中に刺さった
きみのナイフを抜いてください
それから抜くときは
どうかたのむから
ひねったりしないで

ワイアーの新作「レッド・バークト・トゥリー(Red Barked Tree)」は、この歌い出しの「Please Take」で始まります。スキンヘッドのグレアム・ルイス(Graham Lewis)が誘うような目線で、しっとりと歌い上げます。

前作「オブジェクト47(Object 47)」の記事を先日書いたばかりですが、2年半ぶりの新作「Red Barked Tree」が12月20日にリリースされました。正確に言うと、ワイアー公式サイト pinkflag.com 限定の先行リリースです。ダウンロード版のフォーマットは MP3 とflac、2種類での提供です。もちろんオラは flac を予約、ゲットして毎日聴いています。ただし一般の CD ショップや iTunes で入手できるようになるのは1ヶ月後です。待てない人は pinkflag.com で買いましょう。

そういえば1曲「Two Minutes」が無料でダウンロードできるようになっているので、これ聴いてがまんするという手もあります。でも今回のアルバムは「Two Minutes」みたいな曲ばかりだと思ったら大間違いなのでよろしく。

実は「Red Barked Tree」の収録曲、アルバム発売前のギグで何曲か既に演奏していて YouTube を探すと出てきます。11月8日に UK 音楽サイト The Quietus 主催でおこなわれたギグの映像が上がっていたので「Adapt」という曲をご紹介します。コリン・ニューマン(Colin Newman)は「これはクリスマス・ソングだ!」と申しております。気象変動、災害、金融市場の破綻、児童労働、政治の空洞化などの問題がうつくしいメロディーで歌われています。

メリー・クリスマス!

2010/12/19

40キロ夜間行進訓練と鯉 (トラウト・マスク・レプリカ - キャプテン・ビーフハート & ヒズ・マジック・バンド)

In Memoriam: Trout Mask Replica by BGSU University Libraries
In Memoriam: Trout Mask Replica, a photo by BGSU University Libraries on Flickr.

キャプテン・ビーフハート(Captian Beefheart)を聴いたことがありますか?先日亡くなったドン・ヴァン・ヴリート(Don Van Vliet)がやっていたバンドです。

アヴァンギャルドと形容される音楽は、その実態はともかく頭のいい人たちが演る音楽ということになっています。そのテのアーティストはだいたい痩せっぽちでインテリっぽい顔をして、難しいことを話す人が多いからです。そのファンもまた、同じように性格の悪そうな人が多く集まります。素人がうかつに曲の感想などを述べることはできません。

キャプテン・ビーフハートこと、ドン・ヴァン・ヴリートの音楽もアヴァンギャルドに分類されるのですが、彼の場合はちょっと事情が異なります。それは彼のルックスが胡散臭そうなおっさんで、けっして頭良さそうには見えないからです。その分、曲を聴いて「何これ?変なのー」と気軽に言える親しみやすさを備えています。

またアヴァンギャルド・ミュージックといえば、その多くが即興演奏を中心としたものですが、キャプテン・ビーフハート & ヒズ・マジックバンド(Captain Beefheart & His Magic Band)の場合はぜんぜん違います。各パートの演奏内容は予めかっちりと決められており、そこからはずれることは許されないのです。バンドメンバーはその内容に沿って厳密に演奏しなければなりません。ロックやブルースというより、むしろクラシック音楽奏者的な正確さが求められます。

ヴォーカル、ギター、ベース、キーボード、ドラムなど、各楽器はそれぞれ異なるキー、リズム、メロディで曲が進行します。曲やパートによっては、キーとかくり返しパターンがまったくない場合もあります。個々のバンドメンバーは周りの音を聴きながら演奏すると、自分がどこ弾いているのわからなくなってします。かと言って聴かないとやはり曲がどこまで進んでいるのかわかりません。マジック・バンドのメンバーにとって、演奏するということは自分との戦いを意味していたのです。

「トラウト・マスク・レプリカ」時代にマジック・バンドでギターを弾いていたズート・ホーン・ロロ(Zoot Horn Rollo)による回顧録「ルナー・ノーツ」という本があります。そこに書かれているバンドの様子はまるで新興宗教か管理者養成学校のようです。ドンは教祖様かイケイケ企業のワンマン社長のようです。ロロは給料もろくに与えられず、合宿所に閉じ込められ、毎日毎日、朝から晩まで練習です。自分がそれまでに習得したテクニックはすべて忘れて、ドンが指示する通りに弾くよう強要されます。うまく弾けないとプライドというものが何であったのか思い出せなくなるくらい、長時間に渡ってミソクソにこきおろし、精神的に追い込みます。

聴いたことない人はおそらく何を言ってんだかわかんないでしょうから、とりあえず1曲お聴きください。アルバム「トラウト・マスク・レプリカ(Trout Mask Replica)」から「Hair Pie Bake 2」です。

いかがでしょう?バンドの一人一人が死に物狂いで戦っている様子、感じ取っていただけたでしょうか?「トラウト・マスク・レプリカ」には、そこらのアヴァンギャルドにはない血と汗と涙、根性と苦悩、陰謀と挫折があります。それが発表後40年経った今でもこの作品が愛されている秘密です。この後さらに60年経ち、今チャート上位にあるような音楽がすべて忘れられてしまっても、ビーフハートの音楽だけは「おいおい、いったいこれ何だよ?」とか言われながらも聴かれていることでしょう。

それにしても「鱒のマスクの複製」がなんで「鯉」なんだ?

2010/12/14

Frankly, Scarlett, I Don't Give a Damn - スパークス

スパークス(Sparks)、1994年リリースのアルバム「Gratuitous Sax & Senseless Violins」収録の曲で、もちろん元ネタは「風と共に去りぬ」です。

んで、ツインピークス(Twin Peaks)で製材所を経営していたジョシー・パッカード(Josie Packard)の元ネタがスカーレット・オハラ(Scarlett O'Hara)になるわけです。

だからどうしたって?

若造、こういうくだらないことを知ってるか、知っていないかで、ものごとの味わいが違ってくるのだよ。教養というやつさ。

それにしても、この時期のスパークスでパーカッションを担当しておられたクリスティ・ヘイデン(Christi Haydon)様は、今、どうしておられるのでしょう?クリスティ様はエンタープライズ号に乗務していたこともある方です。

1995年、ドイツでのライブ映像です。クリスティ様の勇姿をじっくり味わっていただきたい。

すっげー虚しい (プリティ・ヴェイカント - セックス・ピストルズ)

セックス・ピストルズ(Sex Pistols)の曲、「プリティ・ヴェイカント(Pretty Vacant)」のオリジナル・リフは、グレン・マトロック(Glen Matlock)がアバ(ABBA)の「S.O.S.」からいただいてきたそうです。結果的には似ても似つかない曲になっていますけど。

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若い人はアバのビデオを観て「うわ、昔のバンドってこんな変な格好してたの?こんなの流行ってたの?」って思うかもしれません。いいえ、あんな格好は流行ってませんでした。当時もアバの異様さは突出していました。

ちなみにグレン・マトロックとシド・ヴィシャス(Sid Vicious)は二人共、アバの隠れファンでした。

俺たちはアバのファンを一人クビにして、同じポジションに別のアバファンを入れたんだ。(ジョニー・ロットン)

また、シドはストックホルム空港でアバの女性メンバー二人に出会ったことがあります。サインをもらおうと駆け寄ったところ、悲鳴をあげて逃げられてしまったそうです。

以上、ネタ元は No Irish, No Blacks, No Dogsです。

ところで、「すっげー虚しい(Pretty Vacant)」と歌うおじさんたちが、この上もなく充実しているように見えるのはなぜでしょう?

おじさんたちといっしょに歌いたい人はこちらを参照

2010/12/11

Object 47 - ワイアー

http://en.wikipedia.org/wiki/File:Wire_Object_47.jpg

若い人などは今でも、ロックバンドといえば「一発当たればお金持ちになれる商売」というイメージを抱いている人が多いかもしれません。残念ながら、もう既にそういう時代ではありません。バンド業だけで裕福な暮しができるのは、本当にごくごく一部の人たちだけです。

普通のロックバンドの現実は厳しいものです。バンドを維持していくためにはメンバーの食い扶持だけでなく、レコーディングやツアーのマネージメントをはじめ、諸々の手伝いをしてくれるスタッフの給料も払っていかなければなりません。サウンドにこだわって自前のスタジオやステージ機材を揃えたりすると、その維持、管理だけで毎月かなりのお金が飛んでいきます。それに所詮は人気商売です。CDを作ったから、ツアーをしたからといって、確実にお金が入ってくる保証はありません。

ワイアー(Wire)は1976年にイギリスで結成された4人組のバンドです。いわゆる 初期のロンドン・パンクとして登場しました。1990年代に一時活動を休止していたこともありますが、長い間ずっとオリジナルメンバーで活動を続けてきました。初期のパンクバンドとしてはかなり有名なほうですが、CD はそんなに売れません。ツアーでまわるのはどれも小さな会場です。

おまけにこの人たちは、あえて売れるのを拒否するようなやり方ばかりしています。ライブで演奏するのは毎回ほとんど新曲です。みんなの知ってる古い曲は、アレンジを大幅に変えて、すぐにそれと分からないように演奏します。たとえばバンド初期の人気曲に 12 XU というのがあるのですが、昔出したライブアルバムには、この曲が「イントロだけ」しか収録されていませんでした。「それでこそオリジナル・パンク、オトコのバンドだぜ!」と言えなくもないのですが、一方でお金にはずっと苦労してきたはずです。

30年以上も苦楽を共に活動を続けているので、ワイアーのメンバーはみな年を取っています。ずばりジジイです。しかも写真を見てわかる通り、全員かなりコワモテのジジイです。メンバーのうち三人は50代後半で、最高齢のブルース・ギルバート(Bruce Gilbert)は1946年生まれ、現在64歳です。グリーン・デイみたいなのをパンクだと思っている人がワイアーのライブへ行くと、ショーの間ずっと、ステージ上から爆音でコワいオヤジに脅迫されているような気分になるはずです。

そんなワイアーにも、一度だけまとまったお金が入ってきたことがありました。それは先日紹介したエラスティカ(Elastica)のコネクション(Connection)が売れたときです。実際、2000年代に入ってからのワイヤーの復活は、このときのお金が元手になって実現できたのだと思います。

復活して再び注目されるようになったワイアーは Read & Burn 01 と 02、そして Send という新作を作成しました。さらに、過去のライブ音源や映像の CD/DVD 化や旧作のリマスターに取り組みました。

1970年代後半登場のパンクバンドには、ヒッピー文化から引き継いだ平等主義思想の名残りが強く残っていました。そのためセックス・ピストルズ(Sex Pistols)を始め、多くのバンドが曲のクレジットを「メンバー全員の名前」で記載していました。初期のワイヤーもそうでした。

ところが、リマスター版のボックス・セットの発売に当たり、スリー・ガール・ルンバ(Three Girl Ruhumba)などファーストアルバム「ピンク・フラッグ(Pink Flag)」収録曲のクレジットを、実際に作曲に関わった人のものに変えようという提案がコリン・ニューマン(Colin Newman)から出されたのです。これに異議を唱えたブルース・ギルバートは、最終的にバンドを脱退することになってしまいました。傍から見ると、そんな30数年一緒にやってきて、お互いトシなんだからもうちょっと仲良く、と思うのですがそうはならないのが人生です。

現時点でのワイアーの最新アルバムは2008年に発表された「オブジェクト47(Object 47)」です。ブルース・ギルバート脱退後、初のアルバムということになります(正確に言えば、前作の Read & Burn 03 のレコーディングにもブルースは参加していないのですが)。

ギタリストのブルースがいなくなったためか、全体に轟音ギターと曲のテンポが抑えられています。特に1曲目「ワン・オブ・アス(One of Us)」はちょっと今までのワイアーにはなかったタイプの曲で、音だけ聴くと「さあみんなで手を取り、朝日に向かって歩き出そう」という雰囲気です。でも歌詞がやっぱりワイアーです。出だしはこんなフレーズで始まります。

文句を言ってもいいかな?きみがそんなつもりだったとは思ってもみなかった

思わず一緒に歌いたくなってしまう軽快なリフレインは

ぼくらの中の一人は、ぼくらが出会ったあの日を悔やむのだろう

もうあからさまにブルース・ギルバートへのあてこすりです。30数年一緒にやってきて、60という年齢で去って行ったメンバーに対して、そこまで言うかという内容です。

でもね、違うんです。ワイアーだから。ワイアーにかかれば仲間割れもアートになるんです。嘘だと思ったら、リフレインの部分、一緒に歌ってみてください。

One of us will live to rue the day we met each other

発音しやすいようにひらがなにすると、こうなります。

わーんの すぅぃ とぅ ぅぃ てぃ ち

歌っているうちに、ほら、One of Us の one が、あなたの知ってる誰かに思えてくるでしょう?なんだか切ない気持ちになってきたでしょう?さらに繰り返してると、だんだん自分自身のことのように思えてきます。

One of Us の元ネタは、ひょっとしたらこれかも

2010/12/07

アヴァロン島から The Bogus Man が帰ってきた (オリンピア - ブライアン・フェリー)

http://en.wikipedia.org/wiki/File:Bryan_Ferry_-_Olympia.jpg

一般にロキシー・ミュージック(Roxy Music)/ブライアン・フェリー(Bryan Ferry)の代表作と言えば「アヴァロン(Avalon)」ということになっていますが、そう主張するみなさんに対しては「本当にそうか?ロキシーやフェリーのアルバム、ほかにも聴いてそう言ってのか?ホントはアヴァロンとボーイズ・アンド・ガールズ(Boysand Girls)と東京ジョー(Tokyo Joe)くらいしか聴いたことないんとちゃうか?」と問いただしたいと思います。

「ブライアン・フェリーを聴き続けて35年、1977年のソロ来日公演はヤングミュージックショーで見ました」というオラにとって「アヴァロン」は、あまり高く評価できないアルバムです。むしろ「ブライアン・フェリーが伝説の島アヴァロンへ行ったっきり、帰ってこなくなってしまった」因縁の作品です。

「アヴァロン」の発表は1982年、その後の20年ほどは、ずっとアルバムが出るたび、律儀に買い続けてきたものの、フェリーの声が霧の向こうのアヴァロン島から流れてくるみたいで、オラは長いこと、とても寂しい思いをしてきました。

変化が訪れたのは2001年のロキシー再結成あたりからです。2002年発表の「フランティック(Frantic)」は、冒頭の「It's All Over Now, Baby Blue」を聴いた瞬間「オラのブライアン・フェリーが帰ってきた!」と確信し、思わず泣いてしまいました。

聞くところによると、ブライアン・フェリーは「アヴァロン」の頃、幼なじみの女性と結婚し、長く連れ添い子供も何人かもうけたにもかかわらず、「フランティック」発表後に別れてしまったそうです。原因はこれですね。間違いありません。元奥さんには大変申し訳ありませんが、オラはうれしいです。

実際のところ「フランティック」では、半分くらい戻ってきているものの、まだ片足はアヴァロンに置いたままという感じでした。続く「ディラネスク(Dylanesque)」に期待したのですが、これもいまひとつ本調子という感じではありませんでした。

ブライアン・フェリー、もうダメなのか。もはやこれまでかと、なかば諦めつつ新作の「オリンピア(Olympia)」を聴いたのですが、すごい、これ、予想に反して大傑作。1曲目の「You Can Dance」はイントロは「アヴァロン」からのサンプリングですが、そこから先のダークな展開が今までと違う。やった、帰ってきた。本当にアヴァロン島から The Bogus Man が帰ってきた!

「You Can Dance」のビデオは、「マニフェスト(Manifesto)」のジャケットからマネキンさんたちが抜け出して踊っているような映像で、フェリーの脇でお稚児さんのようにギターを弾いているのがオリバー・トンプソン(Oliver Thompson)さん、「ディラネスク」の頃から参加している兄ちゃんです。なかなか淫靡な音を出します。フェリー・バンド以前はこれといった活動をしてなかったみたいなんですけど、いったいどこで見つけてきたんでしょう?

この音、この声、そしてダンスフロアの照明が作り出す光と陰の中で経験したはずのない記憶がよみがえってきます。

去年マリエンバートでお会いしましたよね。

2010/12/05

Home Sweet Home (...at Christmas) - ヴィヴ・アルバーティン

Viv Albertine by Man Alive!
Viv Albertine, a photo by Man Alive! on Flickr.

クリスマスソング第二弾です。今日はヴィヴ・アルバーティン(Viv Albertine)の「Home Sweet Home (at Christmas)」をご紹介します。

ヴィヴ・アルバーティンと言えばもちろん、あのスリッツ(The Slits)のオリジナルメンバーのヴィヴです。あまり知られていませんが、2008年のスリッツ再結成には、当初ヴィヴも参加していました。

テッサ(Tessa Pollitt)が「またバンドで一緒に演りましょうよ」って言ってきたの。「でも、4ヶ月練習して曲を全部思い出さなくちゃダメよ」って。私、25年の間、一度もギターにさわってなかったのよ! それで近所のあんちゃんからフェンダー・スクワイアを買って、キッチンのテーブルにすわって練習を始めたの。そしたらダンナが「頭おかしくなったのか?いったい何をやってるんだ?」って。でも前にも同じことがあったのよ。スリッツを始めた頃、仲良くしてた友達が「ヴィヴ、あなたにギターなんか弾けるわけないでしょ。止めて何かほかのことをしなさいよ。」って。今になって、昔とまったく同じことを言われたわけ。冗談じゃないわ。あなたたち、私を見くびらないで。
February 25th, 2010 - thequietus.com

ということで、小学生の娘を持つ50代既婚女性として、スリッツの活動を再開したヴィヴですが、Ladyfest など数回のギグに参加しただけでスリッツを脱退してしまいます。理由は「かつてのスリッツの曲、そして現在のアリの曲が、今の自分にはしっくりこない」ということでした。

(スリッツを脱退したのは「Shoplifting」みたいな曲を演るのがイヤだったんですか?という質問に対し)
それもあるわね。「Shoplifting」は特に恥かしい(笑)。でもプレイ自体はいいのよ。自分の演奏したギターパートは大好き。我ながら素晴しいと思う。ギターはいいんだけど、あの歌詞を今、自分が歌うということにしっくり来なかったの。それにセットリストの半分はアリ(Ari Up)の新曲で、アリの曲にも共感できなかった。私は彼女のバックバンドのメンバーじゃないのよ。
January 13th, 2010 - www.pennyblackmusic.co.uk

その後、ヴィヴ・アルバーティンはソロアーティストとしての道を歩み始めました。で、本題の「ホーム・スウィート・ホーム(アット・クリスマス)」です。

これ元は「Confessions of a MILF」というタイトルで、あちこちのライブで演奏されています。自虐ネタで、YouTube に上がってる映像を見ると、タイトルを紹介するところで必ず笑い声が上がります。演奏はこれ以上ヨレようがないというくらいヨレヨレです。

ヨレヨレのミックスはデニス・ボーヴェル(Dennis Bovell)が担当しています。キーボードを弾いているのは UK 音楽サイト The Quietus のライターで、Typical Girls: The Story of the Slitsを書くことによりスリッツ再結成のきっかけを作った Zoe Street Howe です。ヨレヨレのドラムは何でこんなところにいるんでしょう、ヴァン・ダー・グラフ・ジェネレーター(Van Der Graaf Generator)のガイ・エヴァンス(Guy Evans)が叩いてます。

MP3 ファイルは このページ一番下にある欄にメールアドレスを入力すると、無料ダウンロード用のリンクが送られてくるようになっています。ヨレヨレの曲なので「ああ、ヨレヨレだなあ。どうしてこんなにヨレヨレなんだろう。」と聴いているうち、あなたもヨレヨレになるかもしれません。

2010/12/02

ブラック・クリスマス - ポリー・スタイリーン

2010年の暮れも押し迫ってきて、来月あたりお正月になりそうな気配ですが、みなさんいかがお過ごしでしょう。

この時期になると、どうしても出てきてしまうのがクリスマスソングというやつですが、今日はイギリス在住のポリー・スタイリーン(Poly Styrene)さんの新曲をご紹介します。

ポリーさんはもちろん、かのエックス・レイ・スペックス(X-Ray Spex)のヴォーカリストだった人です。2008年にエックス・レイ・スペックス再結成コンサートやゴールドブレイド(Goldblade)との共演シングルなどを出した後、しばらく音沙汰がなかったのですが、現在ソロとしてニューアルバムを作成中で、来年3月にリリースされる予定です。

この曲はアルバムからの先行シングル(?)で、娘のセレスティ・ベル(Celeste Bell)さんとの共作、歌も一緒に歌っています。また、Web サイトでメールアドレスを登録すると、MP3ファイルを無料でダウンロードできるようになっています。

楽しいクリスマスなんて知らない
サンタクロースはろくでもない男だった

黒い煙が夜の空に吹き上がる
黒い、真っ黒なクリスマスを夢に見るの

2010/11/29

ジョン・ライドンの「ミスター・ロットンズ・スクラップブック」前書き

https://www.concertlive.co.uk/mrrottensscrapbook/

洋楽に関しては国内音楽サイトの情報はあまりチェックしていないので今頃気付いたんですが、ジョン・ライドン(John Lydon)の750部限定写真集についてRO69に記事が掲載されていました。NME の翻訳記事で「ミスター・ロットンズ・スクラップブック」の前書き部分も訳されているのだけど、ニュアンス無視の事務的な翻訳。あと、写真も最近のじゃなく、32年前のジャケット流用。ひどい手抜き。

そこでオラがジョン・ライドンの気持ちを汲み、前書き部分を訳し直しました。原文は ConcertLive のページ、右脇に写真として掲載されています

これは俺の本だ。
スクラップブックだ。
写真や絵や文章やX線写真が収録されている。
たくさんの人々に関する文章や写真が詰まっている。
俺の人生に影響を及ぼした人々だが、全部ってわけじゃない。
多過ぎて収録し切れないからな。

俺が人生でこれまでに出会ったすべての人に感謝する。
出会っただけで、思い出せない人たちにも。

いやむしろ
このスクラップブックの刊行にあたって
誰でもいいからみんなに感謝したい。

追伸
マハトマ・ガンジー様。
俺はあんたと出会ったことがないが
だからといって気を悪くしないでくれ。
愛を込めて ジョン

2010/11/23

「アリス・クーパー」 by ジョン・ライドン

本日、勤労感謝の日を記念して、ジョン・ライドン氏の「アリス・クーパー」("Alice Cooper" by John Lydon)全文を訳出し、ここに公開させていただきます。

http://www.johnlydon.com/jlbooks.html#coops

原文は 1999年に発売されたアリス・クーパー(Alice Cooper)の CD ボックスセット「The Life & Crimes of Alice Cooper」に同梱のブックレット用に書き下ろされたものですが、アリス・クーパーの魅力だけでなく、ジョニーおじさんの音楽や人生に対する考え方が真摯に述べられたきわめて重要な資料となっています。

せっかくの休日にオラが丸一日かけて訳したものなので、「勤労に感謝しようにも仕事がねえんだよ!」という方も「そういえば、セックス・ピストルズが登場した1976年のイギリスも、ちょうど今の日本のように仕事のない若者が街に溢れていたんだよなあ」などと思いを馳せながらお楽しみください。さもなきゃくたばっちまえ。


アリス・クーパーの曲の歌詞なら全部知っている。

実際、この俺にいわゆる「音楽キャリア」と呼べるようなものがあるとすれば、それはジュークボックスから流れる I'm Eighteen を口パクで演じたことから始まった。およそ音楽とはほど遠い行為がパンクの誕生ってわけだ。最初、マルコム・マクラーレンがバンドに入らないかと声をかけてきたときは、冗談を言っているとしか思えなかった。パブに呼び出されて他のメンバーたちに会った。閉店後の店で、奴らは俺に歌真似でも何でもいいから歌ってみろと言ってきた。真似くらいならできるが、まともに歌えるわけがない。ジュークボックスにある曲の中で唯一何とかできそうだったのが I'm Eighteen だった。曲に合わせてベリーダンサーみたいにクネクネもだえまくるのを見て、マルコムは「よし、こいつしかいない!」と思ったらしい。こうして俺は職にありつき、華麗なるキャリアを歩み出したというわけだ。

俺はセックス・ピストルズを「音楽芸人」とか「悪意に満ちた茶番劇」と呼んでいる。こと俺に関して言えば、明らかにアリス・クーパーの影響を受けていて、もちろんそのことをものすごく誇りに思う。アリスの影響がなければ、若くしてあんな特別なチャンスをモノにすることはできなかった。彼は昔の俺に進むべき方向を示してくれる道しるべだった。

Killer は間違いなくロック史上最高のアルバムだ。もちろんその前には超名作アルバム Love It To Death もある。この2枚は当時の俺みたいな悩める子羊にはヘビー過ぎる代物だった。俺はロック・ミュージックを作ろうと思ったことは一度だってない。なぜなら最高のロックはアリスの手によって作られ、レコードとして既に存在しているんだから。ピストルズでまったく違うアプローチを取ったのはそのためだ。自分がすばらしいと思ったからこそ、そのイミテーションを自分で作りたくはなかった。すばらしい人に影響を受けたのなら、絶対にその模倣をすべきじゃない。

たとえば Luney Tune は俺が長年愛聴している大好きな曲だ。地獄のようにぞっとする気味の悪い曲だ。だが今どきのゴス・ロックの連中はカスだ。アリスがやっていたことに比べたら単なるまがい物。未熟でバランス感覚の欠如した三流コピーだ。

ひとつの真にオリジナルな作品に対して、その安っぽいコピー品が10は出てくる。なさけないのは、人々が注意を払うのはいつもコピー品の方だってことだ。連中は何か新しいものが生み出される過程を、自分で見きわめようという気がないらしい。最悪だ。歴史的な観点を放棄してしまうと、すべてのものに意味がなくなってしまう。俺はあらゆる種類、あらゆるジャンルの音楽に興味を持ち、その中にオリジナルなものを探す。オリジナリティこそ最も重要だ。そしてアリス・クーパーほどオリジナルなものは空前絶後、ほかにない。

数年前、俺はアリス・クーパーのファンクラブに加入した。すると箱いっぱいのニワトリの羽が送られてきた。すばらしい!「おい、これ、アリスが殺したニワトリの羽じゃん」これ以上悪趣味で愉快なものがほかにあるか?

アリスがいれば、ドラキュラなんて用無しだ。ドラキュラはくそ真面目すぎる。一方アリスの I Love the Dead は最高のユーモアに溢れた曲だ。昔、シドのアコースティック・ギター、俺のバイオリンのコンビで地下鉄駅へ行ってよく演奏した。I Love the Dead をくり返し、くり返し、何時間も何時間も歌い続けるんだ。もちろんシドはギターを弾けないし、俺もバイオリンなんか弾けるわけない。でも最高に楽しかったよ。どうかお願いだから歌を止めてくれって、みんな金を出すんだ。

こうしたアリスの曲はどれも時代を越えた存在だ。聴く者を開放する。時代のファッションとは無縁。すべてを超越している。しかもその曲は常にシンプルで、短くて、辛辣で、快楽に満ちていて、もったいぶった言いまわしは一切ない。核心をストレートに突いている。アリス自身そのことを理解していて、常にそれをやってのける。いつも新しくて下品な切り口がある。どの作品も下品さの新境地を切り開いている。あんたも、もうちょっとパンツのゴムを緩めたほうがいい。

野郎ばかりのバンドの名前をアリス・クーパーにするというのは、お堅い人々に嫌悪感を抱かせるなかなか魅力的なアイデアだ。彼はそうやって世界を修復不能な混沌の渦に突き落とした。むさ苦しい男たちが皮のコルセットと奇抜な化粧を身に纏い、ティーンエイジャーの悩みを歌う。これほど感動的なものがほかにあるか?イメージに左右されるのではなく、イメージを逆手にとって遊ぶ。それこそユーモアというものだ。

アリスは素晴しい見世物ショーの座長でもある。完璧なアンチヒーローだ。卓越した舞台センスで演じ、人々を虜にする。誰ひとりがっかりさせたりしない。ドレスを着た服装倒錯のマッチョのイメージは、人の興味を引き、一石二鳥の役割を果たす。

アリスには主張があり、オリジナリティと傲慢さ、大胆さがある。そして恐れずに行動する勇敢さを備えている。20年経って、すっかり人畜無害になったゴス-服装倒錯ファッションで着飾るのとはまるで意味が違う。小手先でアリスの真似するのは簡単だが、明らかに間違いだ。そこには何ひとつ危険なものはない。真似っ子連中のやることといえば、おもしろくもない麻薬がらみの長口舌ををたれるだけだ。アリス・クーパーの曲には、麻薬に頼るようなメンタリティを後押しするものは一曲たりともない。

アリス・クーパーは自己憐憫とは無縁だ。これっぽちも関係ない。天罰が下るときはそれを受け入れる。アリス・クーパーほどパワフルに、ありありとしたイメージでキャラクターを演じられるものはいない。すべてが完璧で、すべてのキャラクターが弱さを持っている。にもかかわらず、自己憐憫はない。「俺は間違いを犯した。そして今、その報いを受ける」

アリス・クーパーには「老い」を思わせる要素もない。生きる喜びだけがある。過ち、欠点など、人生のすべての醜い面はユーモアをもって描き出される。

アリス・クーパーは縄につながれた狂犬をイメージさせる。ワイルドな狂気が、擦り切れてボロボロな縄によってかろうじて繋ぎ止められている様だ。アリスにふわさしいイメージだと思う。制約は逆にパワーをもたらす。社会は個性を持った人間に対し、馬鹿げたルールを押し付け、一方で彼らはその暗黒面を照らし出す。奇妙な話だが、我々には束縛が必要なんだ。四方を強固な壁に囲まれてこそ、カオスはその力を発揮する。

アリスの功績は表面的なレベルでだけ語られるべきものではない。多くの人がその間違いを犯している。もっと深いところに数多くのものがある。アリスの曲のいくつかは大ヒットしたが、多くの人は曲に身を委ねようとしない。だからアリスを見誤る。

アリス・クーパーをロックンロールのどこに位置付けるかって?はるか空の彼方に決まってるだろ。俺はどれだけアリスを尊敬しているか、それを秘密にしようとしたことはない。俺がアリス・クーパーのファンであることを、らしくないと思う奴もいるらしい。ああ、そうかい。

セックス・ピストルズはリアルで、アリス・クーパーはそうじゃないだって?冗談じゃない。俺は今もアリス・クーパーを聴き続けている。アリス・クーパーみたいな奴こそが、世界をマシな場所にしてくれるんだ。

アリス・クーパー... すごい奴だよ。

2010/11/20

Supreme VOL.6 ジョン・ライドン特集

PiL 再始動後もレコード会社のサポートなしにツアーや営業活動をやっているため、日本の音楽雑誌や音楽サイトにジョニーおじさんが登場することは殆どありませんが、突然 Supreme というファッションブランドのムック本の表紙と巻頭インタビューで登場しました。表紙はセックス・ピストルズ時代とか昔のじゃなく現在のジョン・ライドンの写真です。エラいぞ、Supreme。

記事作成はすべてニューヨークの Supreme でおこなわれているようで、インタビューも翻訳です。おもしろかったのは、日本についてちょっと触れていて、こんなこと言ってます。

日本人がオレのことを好きなのには、幾つか理由があると思うよ。オレは日本で、自分の中でもとびきりイカれた曲をプレイしてきた───たとえば『Flowers of Romance』のアルバムに入ってる『Four Enclosed Walls』みたいな曲が、日本では大ヒットした。この惑星上の他のどこでも受け入れられなかったのに。

そう言われてみると、日本ではかなり早い時期に PiL の評価が確立されていたかも。「PiL なんかやめて、セックス・ピストルズ再結成しろー」みたいな声はそんなになかったし。

このインタビューで使った写真をプリントした完全予約限定版ジョニーおじさんTシャツも Supureme から販売されています。あとこの本、翻訳だけでなく英語原文も巻末に掲載しています。エラいねー。

Google と「ジム・モリソンのお告げ」

Google のエリック・シュミットがアリス・クーパーをチューリッヒのオフィスに招き、社をあげての歓迎コスプレ・パーティーを開催したとのニュース。

エリック・シュミットはアリスの熱烈なファンらしい。見直したぞ、エリック。

つまり昔のエリックはこんなルックスのコンピュータ・オタクで、しかもアリス・ファンだったということになる。リアル「ウェインズ・ワールド(Wayne's World)」じゃん。

さては Google に関わるようになったのも「ジム・モリソンのお告げ」だな。

2010/11/18

三人娘のルンバ (スリー・ガール・ルンバ - ワイアー)

Colin Newman by furnstein
Colin Newman, a photo by furnstein on Flickr.

気がつくとハッチの中だった。オラは後ろ手に縛られて、椅子に座らされていた。少し離れたコンソールの前にベン・ライナス(Benjamin Linus)役のコリン・ニューマン(Colin Newman)が立っていて、その横には胸にゼッケンを付けた三人の娘さんたちがこちらを向いて並んでいた。

「気が付いたな」

ベンがオラに言った。

「早速だが、番号を選びたまえ。目は閉じて。」

アナ・ルシアとどちらにしようか一瞬迷って、菊地凛子さんの番号43番を言おうとしたとき、ベンがオラの言葉を遮った。

「考えるだけでいい。」

ベンは何か急いでいる様子だった。

「その数字を2で割る。」

小数点以下まで計算するのかどうかベンに尋ねようとしたとき、また言葉を遮られた。

「存在しないものは存在しない。」

ベンはオラに近づき、何か小さな箱のようなものをオラの膝の上に置いて言った。

「箱を開けて。」

そう言われても手を縛られている。仕方ないので箱を落とさないよう膝の間に挟み、体を折り曲げて口で開けた。思ったより簡単だった。箱は軽い。中に何が入っているのかは分からない。

またベンが言った。

「数字は?」

小数点以下の処理を迷っていたら、ベンが見透したように言った。

「答は考えなくていい。」

考えなくていいって、数字?それとも箱の中身?そのときハッチで警報が鳴り出した。

「目を開けたまえ。」

ベンに言われて目を開けた。ハッチの中は赤い警報ランプが点滅していて、ベンしかいなかった。アナ・ルシアと菊地凛子さんはどこへ行ったのだろう?あともう一人は誰だっけ?

警報の音が大きくなってきた。ベンはかなりあせっている様子だ。

「数字を考えて!」

ハッチ全体が揺れ始めた。やばい。ええい、もう小数点以下は切り捨てだと決心した瞬間、ベンが怒鳴った。

「ごまかすな!!」

突然天井からシャッターが降りてきた。閉じ込められた。番号、番号は何番だっけ?三人目は?誰だっけ?あのムームー着てたの、誰だっけ?揺れがどんどんひどくなる。本棚が倒れた。椅子からずり落ちる。引っくり返ったオラに何かが覆いかぶさってきた。

す、杉田かおる?

解説

という人間の極限的状況を描いたのがアルバム Pink Flag 収録のワイアーの名曲「三人娘のルンバ(Three Girl Rhumba)」(1977)です。シングル曲でもなく、かつてはワイアーの他の曲同様知る人ぞ知る曲だったのですが、この曲のリフをパクったエラスティカのコネクション(1994) がヒット、そのパクりをエラスティカ側があっさりと認めて著作権料が支払われたことで話題になりました。でも相変わらず有名なのはコネクションの方で、Three Girl Rhumba を「コネクションのカバー?」と思っている人が今でもたくさんいるようです。一応、オリジナルの Three Girl Rhumba にも注目が集まりテレビ CM に使われたりして、ワイアー史上「最も稼いだ曲」となっています。

一方、持ち慣れない大金が入ってきたことでワイアーのメンバー間に取り分をめぐり争いが起きるようになり、2004年にブルース・ギルバートが脱退するきっかけにもなってしまいました。

みなさんも、歳をとってからお金でもめないよう、日頃から取り分とか契約とか遺言はきちんとしておきましょう。

MP3ファイルのダウンロード
Three Girl Rhumba (from pinkflag.com)
おまけ
"Maybe I just had LOST's season finale on my mind, but Wire frontman Colin Newman looks more than a little like that show's Benjamin Linus these days."
追記
「ワイアーが取り分をめぐってモメたという話のソースはいったいどこだ?」という問い合わせをいただきました。このへんの経緯と当事者発言は「33 1/3 Wire's Pink Flag」に書かれています。

2010/11/16

UK 音楽サイト I Like Music でジョン・ライドン特集

PiL @ Benicàssim by fiberfib
PiL @ Benicàssim, a photo by fiberfib on Flickr.

イギリスの音楽サイト I Like Music でジョン・ライドン(John Lydon)特集が組まれています。なんだよ、今頃おせーよ、なんでツアーのときにやらないんだよとか思いますが、インタビューの内容を読むと、どうもこのサイト、あまり昔のことを知らない若いスタッフで運営されているようで、今になってジョニーおじさんの素晴しさに気付き、急遽特集を組んだようにも見えます。だったら許してあげます。

ジョニーおじさんは最近、ご幼少時の写真から健康診断のX線写真まで、あんなのやこんなのまで、おじさんの軌跡すべて無修正で収録した750部限定の写真集 Mr.Rotten's scrapbook を発表しました。

昨年末、PiL の ライブ CD ALiFE 2009 を手がけた ConcertLive からの発売です。お値段は449ポンド(約6万円)。事前予約すると安くなるけど、それでも379ポンド(約5万円)。事前予約で全部ハケたら約3,800万円の売上げ、結構な金額になるなあ。もう今さら普通のレコード会社と契約したってろくなことないんだから、今後も Concert Live と組んで色々新しいことやっていくのが良いんでは?

期待の PiL の新作は「今年の年末には出す」と言っていたんですが、ジョンの父親の死をはじめ、マルコム・マクラーレン、義理の娘アリ・アップと身近な人の不幸が重なりかなりまいっていて、アルバム製作は中止しているそうです。

特集記事今週の1曲は 「フォー・エンクローズド・ウォールズ(Four Enclosed Walls)」です。8月末のイスラエル、テルアビブでのコンサートでも、やはりちゃんと歌ったそうです。

政府なんて関係ない。扇動や分断工作に屈したら、俺たちが批判している当の政府と同じ穴のムジナになってしまう。イスラエル政府は俺のイスラエル入りをあまり歓迎していなかったがイスラエルの人々は違った。もちろん、聴衆の中にはイスラム教徒もいた。(ユダヤとイスラム)2つの人々をひとつところに集めるなんてすてきだろ。俺はイスラエルの聴衆に昔の PiL の曲、Four Enclosed Walls を一緒に歌わせたんだ。「アッラー」というリフレインのある曲だよ。「アァァァァァァッラァァァアァァ」ってな。そうさ、俺たちみんなでアッラーを讃えたんだ。イスラエルでさ。ユダヤジョークにしちゃ上出来だろ?ハハ。

2010/09/02

ライブ・アット 9:30 クラブ・イン・ワシントン D.C - パブリック・イメージ・リミテッド

The Crowd Roars by liquidsunshine49
The Crowd Roars, a photo by liquidsunshine49 on Flickr.

先日の記事に書いたNPRのサイトで公開されているパブリック・イメージ・リミテッド(Public Image Ltd.)のポッドキャストですが、コンサート内容がそのまま1本のMP3ファイルとしてダウンロードできるようになっています。曲目は以下の通りです。

  1. This Is Not A Love Song
  2. Poptones
  3. Memories
  4. Tie Me To The Length Of That
  5. Albatross
  6. Death Disco
  7. Flowers Of Romance
  8. Psycopath
  9. Warrior
  10. U.S.L.S. 1
  11. Disappointed
  12. Sun
  13. Bags
  14. Chant
  15. Religion
  16. Public Image
  17. Rise
  18. Open Up

2時間を越える長さなので、「そんなに一気に聴けねえよ」という人は、適当なツールを使って曲毎にファイルを分割しましょう。でも通常のコンサートはもっと長くて、上記のほかCareering、The Suit、Four Enclosed Walls、Banging The Doorなどの曲がセットリストに入っています。

2010/08/31

ジョニーおじさんの夏

How do I feel about this? by Zoonie
How do I feel about this?, a photo by Zoonie on Flickr.

もう9月になるというのに暑い日が続く毎日ですが、みなさんいかがお過ごしでしょうか?オラはこないだ西町の西友でクーラーを買ってきました。もう大丈夫です。何も心配することはありません。

ところで今年の夏、元気な人といったら何といってもジョン・ライドン(John Lydon)おじさんです。昨年末、パブリック・イメージ・リミテッド(Public Image Ltd.)としての活動を再開、ツアーを始めたジョニーおじさんは、30数年になる芸能生活上、最も忙しく活動的な日々を過ごしているようです。

12月のイギリス7ヶ所での公演から始まり、4、5月は北米24ヶ所、7、8月はイギリスに戻って14ヶ所、この後もまだ各地のロックフェスなどへの出演が予定されています。

ジョニーおじさんとレコード会社(ヴァージン)との契約は一応続いているようなのですが、今回のツアーはレコード会社のサポート一切なし、自己資金でやっています。このため日本国内の音楽系サイトにはほとんどニュースが出ていません。ただマスコミの取材には超積極的に応じていて、今日現在オフィシャルサイトからリンクされている再結成後のインタビュー記事は既に99本にも及びます。

おじさんに対するヴァージンの放置プレイは昨日、今日始まったことじゃなくPILのデビューアルバム以来ずっと続いています。今回のPIL再始動に当たっては、メタルボックスを再発してツアーの資金に充てようと考えヴァージンに電話したそうです。けど案の定、ヴァージンからの返事はなく、悶々としていたところに運良くバターのCMへの出演依頼があり、これが大いウケて(CM放送後、85%の売り上げ増!)、ツアー資金の目処が立ったそうです。また、このツアーで稼いだお金はニューアルバムのレコーディングにつぎ込むと言ってます。

俺はバターという強力な武器を手に入れた。きみがパンにバターを厚く塗れば塗るほど、PILのニューアルバムリリースが近づく

ちなみにツアーが決まり、リハサールを開始して2週後、ジョニーおじさんに連絡もなしに突然ヴァージンからメタルボックスの再発がアナウンスされたそうです。

で、肝心の公演内容のほうですが、以前紹介したALiFE 2009などで聴ける通り、とおっても素晴しい! 毎回2時間以上ぶっ通し、こめかみの血管もぶち切れよとジョニーおじさんが吠え続けます。ルー・エドモンズ、ブルース・スミスに新加入のスコット・ファースが2010年のPILにふさわしいサウンドを作り上げています。YouTubeなどにも色々上がっているんですけど、5月のワシントン D.C.での公演が2時間まるごとMP3でダウンロードできるようになっているので、ぜひ聴いてください。それからニューヨーク公演観た人の感想文がなぜかJTBのブログに載ってます

今日31日、ジョニーおじさんは、イスラエルのテルアビブで開催されるフェスへ出演することになっています。最近ヨーロッパでは対パレスチナ政策を理由にイスラエルでの公演を拒否するミュージシャンが増えているようで、おじさんのところへも「イスラエルになんか行くな」という声がたくさんあったようです。

別に政府の政策云々で呼ばれたわけじゃない。普通にプロモーターからオファーがあったから行くんだ。俺はイスラエルで暮す普通の人のために行って歌うだけだ。制裁なんかで何も解決できやしない。単に人々を苦しめるだけだ。

今回のツアーのセットリストには「レリジョン(Religion)」と一緒にフォー・エンクローズド・ウォールズ(Four Enclose Walls)」も入っていて、毎回観客と一緒に「アァァァァッラァァァァアァァァァァ」と合唱してます。もちろん今日も間違いなく歌います。さすがジョニーおじさん、すげぇ。

2010/06/22

Never Come - ヴィヴ・アルバーティン

「ねぇママ、ママって、昔もバンドやってたの?」

「そうよ。あなたが生まれるずーっと前よ。」

「ママ、あたしね、古いもの大好き!昔の音楽とか昔のお洋服、マイケル・ジャクソンとか昔の人たちも!」

「ママは昔ね、結構ファッションリーダーだったんだから。みんなママの真似をしたのよ。」

「へぇー、どんなファッション?」

「えーっとね、花柄のかわいいワンピースをビリビリに破ってくしゃくしゃにして着たり、フンドシ一丁で体中に泥を塗って走りまわったり...。」

「....ホントにそんなの流行った?」

「ホントよぉ。パリのコレクションなんかにも結構影響与えたんだから。」

「なんてバンド?」

「スリッツって言うの。女の子だけでしかもステージ上で四股踏んだりするバンドは当時、世界中のどこにもなかったんだから。」

「四股?踏んでたの?ママはギターを弾いてたんだよね?」

「歌って、ギターを弾いて曲も作ってたわよ。ママのギターのお師匠さんはキース・レヴィンって人なんだけど、会ったことなかったっけ?」

「会ったことある。キースおじさん。変なおじさん。」

「そう、その変なおじさんがママにギターの弾き方を教えてくれたの。キースは『いいかいヴィヴ、ギターを弾こうなんて考えちゃダメだ。感覚を研ぎ澄ますことでギターに自ずからサウンドが宿るんだ!きみが感じることによって、ギターは鳴るべき音で鳴り出すんだ!』なんて調子だから、ママずいぶん長いことチューニングの方法を知らなかったの。」

「こないだ一緒にステージに出たジーナおばさんも一緒のバンドだったの?」

「活動していたのは同じ頃だけど、ジーナはレインコーツ、別のバンドだったの。」

「ジーナおばさんはママと同じ歳だよね?ママのほうがきれい、勝ってると思う。」

「しーっ、そんなことみんなの前で絶対言っちゃダメ。ぜっっったいにダメよ!」

「はぁい、ごめんなさい。...ママ、ラジオのスタジオに着いたよ。」

「じゃあママ、これから1曲歌うから、おとなしく待っててね。終わったら一緒にアイスクリーム食べに行きましょ。」

(2014/07/20 追記)
ヴィヴ・アルバーティンがキース・レヴィンにギターの弾き方を教わったというのはどこかで読んだ記憶があったので、この小話は勝手な想像で書いたのですが、最近出たヴィヴの自伝「Clothes, Clothes, Clothes. Music, Music, Music. Boys, Boys, Boys」を読んでみたら、なんと、ほぼこの通りの事実でした。以下にその内容をご紹介します。

「ヴィヴ、ギターのコードやスケール、そんなクソみたいなものの練習で時間を無駄にしちゃいけない。ぼくはきみにギターを弾かない方法を教えてあげる。」

ええっ?だって私コードを教えてほしいのよ!コードも知らずにどうやって曲を書けばいいのよ?

キースはギターを弾く上で次の三つのルールを守るように言った。まず最初にチューニングをすること(いつも彼がチューニングしてくれたけど)。次に、弾く前にちゃんと手を洗うこと。それから三日以上、練習をサボって間を空けないこと。

2010/05/25

No One's Little Girl - ザ・レインコーツ

結成後30数年にして、ザ・レインコーツ(The Raincoats)初来日であります。併せてしばらく入手困難だった CD が再発になり、iTunes でもダウンロードできるようになりました。大変喜ばしいことです。

が、問題なのはツアーのポスター。なんで「今の彼女たち」の写真を使わないのさ。Gina Birch は50代半ば、Ana Da Silva はもう60近いはずだぞ。どうして二人が箒にまたがって飛んでる写真を使わないのか、理解に苦しむ。

下の YouTube 映像は去年の London Lesbian and Gay Film Festival に出演したときの様子だけど「おばさん通り越してもうおばあちゃんなの! だけどヒッピーなの! もちろん No One's Little Girl 歌っちゃうの!!」なんて感じで、お姉さま、すてき。

2010/01/07

ヴィニ・ライリーと貧困問題(A Collection of Bonus Tracks From 2001-2009 - ドゥルッティ・コラム)

ヴィニ・ライリー(Vini Reilly)を知らない人も多いと思う。このおじさんです。見ての通りやせっぽちで、そのへんの工事現場を注意して見ると、よく似た人がヘルメットをかぶって、必ず一人はいるはずです。

ヴィニおじさん、仕事はドゥルッティ・コラムというバンドのギター弾きで、芸歴は30年以上、40枚近くのアルバムを出しています。枚数はたくさん出してますが、はっきり言ってどれもあまり売れていません。それでも何とかここまで続いてきたのは、バンドと言っても、実はほとんどおじさんひとりでやってきたからだと思います。

そんなおじさんが昨年の秋、5枚組のボックスセット The Durutti Column 2001-2009 を出しました。2001年から2009年までに出したアルバム5枚をひとまとめにしたお徳用セットで、£13.99 だから日本円にして2,000円くらい、マジですかという値段です。しかもオリジナルには収録されていないボーナストラックが7曲も入っています。

オリジナルのアルバム5枚とも持ってるようなファンでも「ボーナストラック7曲もあるし、まあいっか」で買ってしまうくらいの値段なので、普通は気にしないんですけど、ヴィニおじさんは違うんです。気にするんです。

「オリジナルを全部買ってくれるような熱心なファンに、重複した CD を買ってもらうのは申し訳ない」って気にするんです。そんでわざわざボーナストラックだけを集めて、1枚の EP みたく仕立てて「(A Collection of Bonus Tracks From 2001-2009」としてダウンロード販売してるんです。

「iTunes とかなら、好きな曲だけダウンロードできるんだから、別に変わりないじゃん」とか言う人は、おじさんの気持ちがわかってないと思います。

(2013/01/03 追記) ヴィニ・ライリーの脳梗塞発作とその後の状況については「ヴィニ・ライリーの病状と彼への寄付について」をお読みください。

注目の投稿

便所と夫婦と世界が抱える問題 (Double Trouble - Public Image Ltd)

いったい何をごちゃごちゃ言ってんだよ。何だって?トイレがまたぶっこわれた?ああ、前は俺が直したよ。また配管屋を頼めって言ったろ。何度でも頼めって...。 なんということでしょう。PiLのニューアルバムWhat the World Needs Now...はトラブルの歌で幕...