Colin Newman, a photo by furnstein on Flickr. |
気がつくとハッチの中だった。オラは後ろ手に縛られて、椅子に座らされていた。少し離れたコンソールの前にベン・ライナス(Benjamin Linus)役のコリン・ニューマン(Colin Newman)が立っていて、その横には胸にゼッケンを付けた三人の娘さんたちがこちらを向いて並んでいた。
「気が付いたな」
ベンがオラに言った。
「早速だが、番号を選びたまえ。目は閉じて。」
アナ・ルシアとどちらにしようか一瞬迷って、菊地凛子さんの番号43番を言おうとしたとき、ベンがオラの言葉を遮った。
「考えるだけでいい。」
ベンは何か急いでいる様子だった。
「その数字を2で割る。」
小数点以下まで計算するのかどうかベンに尋ねようとしたとき、また言葉を遮られた。
「存在しないものは存在しない。」
ベンはオラに近づき、何か小さな箱のようなものをオラの膝の上に置いて言った。
「箱を開けて。」
そう言われても手を縛られている。仕方ないので箱を落とさないよう膝の間に挟み、体を折り曲げて口で開けた。思ったより簡単だった。箱は軽い。中に何が入っているのかは分からない。
またベンが言った。
「数字は?」
小数点以下の処理を迷っていたら、ベンが見透したように言った。
「答は考えなくていい。」
考えなくていいって、数字?それとも箱の中身?そのときハッチで警報が鳴り出した。
「目を開けたまえ。」
ベンに言われて目を開けた。ハッチの中は赤い警報ランプが点滅していて、ベンしかいなかった。アナ・ルシアと菊地凛子さんはどこへ行ったのだろう?あともう一人は誰だっけ?
警報の音が大きくなってきた。ベンはかなりあせっている様子だ。
「数字を考えて!」
ハッチ全体が揺れ始めた。やばい。ええい、もう小数点以下は切り捨てだと決心した瞬間、ベンが怒鳴った。
「ごまかすな!!」
突然天井からシャッターが降りてきた。閉じ込められた。番号、番号は何番だっけ?三人目は?誰だっけ?あのムームー着てたの、誰だっけ?揺れがどんどんひどくなる。本棚が倒れた。椅子からずり落ちる。引っくり返ったオラに何かが覆いかぶさってきた。
す、杉田かおる?
- 解説
という人間の極限的状況を描いたのがアルバム Pink Flag 収録のワイアーの名曲「三人娘のルンバ(Three Girl Rhumba)」(1977)です。シングル曲でもなく、かつてはワイアーの他の曲同様知る人ぞ知る曲だったのですが、この曲のリフをパクったエラスティカのコネクション(1994) がヒット、そのパクりをエラスティカ側があっさりと認めて著作権料が支払われたことで話題になりました。でも相変わらず有名なのはコネクションの方で、Three Girl Rhumba を「コネクションのカバー?」と思っている人が今でもたくさんいるようです。一応、オリジナルの Three Girl Rhumba にも注目が集まりテレビ CM に使われたりして、ワイアー史上「最も稼いだ曲」となっています。
一方、持ち慣れない大金が入ってきたことでワイアーのメンバー間に取り分をめぐり争いが起きるようになり、2004年にブルース・ギルバートが脱退するきっかけにもなってしまいました。
みなさんも、歳をとってからお金でもめないよう、日頃から取り分とか契約とか遺言はきちんとしておきましょう。
- MP3ファイルのダウンロード
- Three Girl Rhumba (from pinkflag.com)
- おまけ
- "Maybe I just had LOST's season finale on my mind, but Wire frontman Colin Newman looks more than a little like that show's Benjamin Linus these days."
- 追記
- 「ワイアーが取り分をめぐってモメたという話のソースはいったいどこだ?」という問い合わせをいただきました。このへんの経緯と当事者発言は「33 1/3 Wire's Pink Flag」に書かれています。