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2013/05/04

我々には変化がふさわしい (Change Becomes Us - Wire)

Change Becomes Us - Wire

あるとき絶大なる人気を誇り大勢の人々の支持を得たバンドや音楽作品が、その作者やファンと共に年を取り、次の世代に引き継がれずにやがて忘れ去られてしまう。そんな例は洋の東西を問わずいくらでもあます。挙げていくときりがありません。むしろそれがごく普通のあり方です。

ファンの立場で言えば、コンサートに行って自分の好きなあの曲を聴きたいというのはごく自然な欲求です。大好きなあの曲を演奏してくれて、それでまわりのみんなと一緒に盛り上がる。とても幸せです。でもそんなことを何度か繰り返しているとある日、ふと気付きます。大好きなアーティストのあの曲、サビの部分で声に伸びがなくなってる。ああ、年を取ったんだ。自分も肌に張りがなくなって贅肉も付いちゃったしな。まわりを見回すと、コンサート会場にいるのは自分と同じような年代の人ばかりになっています。

こんなんじゃいけない。素晴しい音楽が年月に埋もれてしまうと感じ、次のコンサートには息子や娘を誘ってみます。だけど返事は案の定「そんな年寄りの音楽、興味ない」です。振り返ってみると、自分だって若い頃は親やその年齢の人が「これはいい! これを聴け、これを読め」って言ったものを素直に受け入れたことなんてないしな、無理ないなって思います。

一方、アーティストの方はもうちょっと早く問題に気付きます。苦労してやっと多くの人たちに曲を聴いてもらえるようになった。ヒットしたあの曲では会場みんなの大合唱が起こるようになった。でもあの曲がヒットしたのはもう3年前。今ではお決まりの曲にお決まりの反応。おかげで何だかバンドのイメージが固まっちゃって、ファンはいつも同じ顔ぶれ、新しいファンが入ってくる余地がなくなってるような気がする。

ということでハードなサウンドのバンドが突然ロカビリーに走ったり、清楚なイメージで売っていた女性シンガーが突然どぎついメークでステージに登場したりするのですが、多くの場合うまくいかず、そのまま芸能界から消えてしまうことも少なくありません。

そんなめんどくさいこと考えないで、ファンは自分の好きなように楽しめばいいし、アーティストは観客の望むものを提供するのが仕事でしょ、という説にも一理あります。そして多くの人は実際にそうしています。でもそんなんじゃ嫌だ、という人たちも当然出てきます。

ワイアー(Wire)は1977年にレコード・デビューして、35年以上を経った今も精力的に活動し続けているバンドですが、ワイアーのアルバムはどれひとつとして、同じスタイル、同じ音の感触のものはありません。つまりあるアルバムで成功したやり方はそのアルバム限りであっさりと捨ててしまい、二度と使おうとしません。次のアルバムはまったく違うアプローチで取り組みます。ライヴも同様で、ツアー毎にセットリストはがらりと変わり、その大半は新曲です。

商売という側面からバンド活動を考えると、これほど間違ったやり方はありません。新作のプロモーションをして、CD を売って、ツアーをして、やっと人々に受け入れられてきて、次のアルバムはもっと売れる、次のツアーではもっとたくさんの人が集まるというときになると、バンドはまったく別のものに姿を変えているのです。投資をして、商品を宣伝して、みんなが買おうという気になったらもう商品がないなんて商売とは言えません。

しかし驚くべきことに、同時代のイギリスで登場したバンドの大半が解散、活動を停止している中、ほぼオリジナルメンバーのまま、コンスタントに活動し続け、今最もアクティヴなバンドがワイアーです。常に変わり続けるというやり方は一貫して変わっていません。その中心人物、コリン・ニューマン(Colin Newman)は新作「Change Becomes Us」について次のように語っています。

ワイアーの奇妙な歴史における重要事項として、1980年に解散した当時、それはアルバムをもう一枚作れるほどの数だったんだが、レコーディングはおろかデモ録音さえしていない作品がそのままになっていたという事実がある。もっとも当時のぼくらはそれをアルバムにしようなんて気はなかったんだけどね。それがずっとぼくらの中で引っかかっていたんだ。

2000年に活動を再開したとき、それを形にしてみてはという提案を受けたことがある。そのときも検討には値しないアイディアに思えた。だが(1980年頃に作られ)元は「Ally in Exile」というタイトルだった曲だけは作り直して「I Don't Understand」になった。この曲は数年後(女性下着ブランドの)ヴィクトリア・シークレットの宣伝にも使われた。

だから完全に無視していたというわけではないんだ。ひょっとしたらこの作品を使って「ワイアーはけっして過去を振り返らない」スタイルのものが作れるかもしれない。そう思いついた。なにせこれらの作品はアルバムとしてレコーディングされたこともないし、当然リリースもされたことがない。ほとんどの人はそれが一体どういう作品なのか知らないんだから。

2011年、イギリスのエージェントから二度目のツアーのオファーを受けた。これまでになかったことだよ。1年に二度もイギリスでツアーをやるなんて1978年以来だったからさ。ぼくらはいつもたくさんの新曲をステージで演ってる。だけどそのときは(前のツアーを終えたばかりで)「Red Barked Trees」に続く新しい作品がまだ用意できてなかったんだ。

そこで思い出したのが(1979年から1980年にかけて作られた)作品さ。その中から7、8曲をセットリストに入れて演奏した。オーディエンスの9割はそれが昔作られた作品だなんて気付いてなかった。「今まで観た中で今回のバンドが最高だ!」って感じの反応だった。これほど面白いことはないよ。

ぼくらはこれをレコーディングしておかしなものができるわけがないと確信した。それでウェールズのモンマスにある、数々の名作が作られたロックフィールド・スタジオを予約した。そこで1週間かけてレコーディングして、その後6ヶ月かけて仕上げたんだ。

For Wire and Colin Newman, Change is Good

つまりワイアーの「Change Becomes Us」は1980年には存在し得なかった4枚目のアルバムが、2013年の今、突如姿を現わしたものとも言えます。もちろんその音はまるで1980年のものには聴こえません。しかし本人たちがやり残してずっと引っかかっていたこと、35年経ってもまだやる価値のあることを実現したものです。

アルバムのオープニングを飾るのは「Doubles & Treble」で、元は「Ally in Exile」と呼ばれていた曲です。つまり上記インタビューにある通り、アルバム「Send」に収録された「I Don't Understand」とは双子の関係にある曲です。今のワイアーが「Send」の時代とはまるで違うバンドだということが、これを聴けばよく分かるはずです。そして次のアルバムではまた別のワイアーが姿を現わすに違いありません。

決まった形にとどまらず、変化し続けるワイアーは今なおそのファンを増やし続けていて、今年は北米で今までにない長いツアーを行う予定だそうです。

亡命中の同胞のひとりが
緊急指令を受けた
既に彼はトラブルの渦中にあり
気の休まる暇などなかった
暗号に気付くと
即座に解読した
メッセージに書かれていたのは
国とその地域、そして道路

恐れていた通り
彼の正体はバレていたのだ
ネットワークの規模が
膨れ上がり過ぎたのだ
組織の肥大化が
ありがたくない事態を招いた
今後一切の連絡を断つため
最後の言葉を送信した

レジスタンス活動は
効果が上がらず停滞
彼は連中の到着に備える
殺戮のときを待つ

レジスタンス活動の効果はなく
彼は殺戮のときを待つ
彼は到着に備える
彼はじっと待つ

レジスタンス活動は無駄
彼は殺戮に備える

彼は劇場の中で泣き崩れたが
照明には曝されたくなかった
ことさら
戦略的洞察力を煽るような光には

だが幸運にも
彼は蓄えを用意していた
2重に、そして3重に
ドアに鍵をかけた

2012/11/17

ちゃんときみの名前が書いてある (Comet - ワイアー)

Untitled
Robert Grey by Fergus Kelly on Flickr.

昨年に引き続きワイアー(Wire)のおじちゃんたちは今年も日本にやって来てくれました。いつも通り淡々と演奏して、淡々と帰っていきました。その淡々としたワイアーの中でも一際淡々としてるのがドラムのロバート・グレイ(Robert Grey)です。まるで寡黙なボクサーがトレーニングをしてるみたいにいつもステージの後ろで黙々とドラムを叩き続けています。

長年ワイアーを聞き続けてる人なら彼のドラムがワイアー・サウンドの要だということはよおく知ってると思います。いわゆるロック的なノリというものを完全に排除した彼のビートがワイアーをワイアーたらしめています。

嘘だと思ったらコリン・ニューマン(Colin Newman)が彼の奥さんマルカ(Malka Spigel)と一緒にやってるバンド GitHead と聴き比べてみてください。Wire も Githead もメンバーは4人で楽器構成も同じ、同じように多くの曲をコリン・ニューマンが書いて、似たようなメロディとギターサウンドで同じコリン・ニューマンが歌ってます。でも Wire と Githeadd それぞれの曲から受ける印象がまるで異なります。

たとえば Wire の 「One of Us」Githead の「Take Off」を聴き比べてみてください。

ね、全然違うでしょう。え?まったく同じに聴こえる?困ったなあ。いやビデオ撮影を担当したのが両方ともマルカなので、視覚に惑わされて同じように聴こえるのだと思います。目を瞑ってもう1回よおく聴いてください。

ね、違うでしょう?はい、違いますね。違うということになりました。この違いがどこから生まれるかというと、ロバート・グレイの叩くドラムのビートなんですよ。そういうことにしておいてください。

ええっと、ところで話は変わりますが中高年のみなさんの中には「ワイアーのドラムってロバート・ゴウトゥベッド(Robert Gotobed)って名前じゃなかったけ?」と疑問に思う方が少なくないと思います。はい、昔はそう名乗ってました。その理由については本人がこのように語っています。

Gotobed というのは先祖代々うちの名字なんだけど、祖父はこの名字が嫌いだったんだ。誰もホントの名字だって信じてくれなかったからさ。それで祖父は名字を Grey に変えたんだ。俺自身は Grey という名字で育ったんだけど、若い頃そのことを知り逆にこの奇抜な名字が気に入って Gotobed を名乗ることにしたんだ。当時はパンクの時代で変な名前を名乗ってるやつがたくさんいたから、俺の名字もきっとその類いだとみんな思ってたみたいだよ。

だけど時を経るに連れて俺も祖父と同じ意見を持つようになった。若いときには Gotobed という名字が力になることもあるが、年を取ると却ってそれが邪魔になるんだろうな。Grey という名字の方が今の自分にはふさわしいってわかったんだ。たぶん自分に自信が付いたせいだと思うよ。もう奇抜な名前で自分を誇示する必要なんてないからさ。

Wire's Pink Flag, by Wilson Neate

すごい速さでやって来る
彗星だ

こっちへ向かってやって来る
ちゃんときみの名前が書いてある

天からの贈り物
壊滅的大惨事

大合唱が起こる
大合唱が起こる
ぶぁ、ぶぁ、ぶぁ、ぶぁ、ぶぁ、ぶぁーん
後はただすすり泣く声

大合唱が起こる
大合唱が起こる
ぶぁ、ぶぁ、ぶぁ、ぶぁ、ぶぁ、ぶぁーん

大合唱が起こる
大合唱が起こる
ぶぁ、ぶぁ、ぶぁ、ぶぁ、ぶぁ、ぶぁーん

大合唱が起こる
大合唱が起こる
ぶぁ、ぶぁ、ぶぁ、ぶぁ、ぶぁ、ぶぁーん

大合唱が起こる
大合唱が起こる
大合唱が起こる
大合唱が起こる

2012/02/11

何人が死んで、生き残っているのは何人だろう? (ピンク・フラッグ - ワイアー)

Wire by : : Kasper
Wire, a photo by : : Kasper on Flickr.

ワイアー(Wire)の新作はライヴ・アルバム「The Black Session - Paris, 10 May 2011」です。と言っても普通の会場で演ったものではなく、昨年5月にパリのラジオ・フランスで、少数の観客を招待して録音されたスタジオ・ライヴです。実は昨年後半のツアー会場で限定販売されていたものなのですが、今回めでたく一般販売されることになりました。

国内盤の CD は2月20日の発売ですが、ダウンロード版のほうは先行リリースされていて、すぐに購入可能です。

昨年のツアーは、2010年暮れにリリースされた「Red Barked Tree」からの曲が中心だったのですが、Two People in a Room、Drill、Kidney Bingos など、しばらく演ってなかった古い曲も多く演奏されました。

ただしこのアルバムのハイライトはやはり、演奏時間10分にも及ぶロング・ヴァージョンの「Pink Flag」でしょう。1977年にリリースされたファースト・アルバムのタイトル・トラックで元々コードが2つしかない曲だったのですが、さらにコードを減らしワン・コードで延々と続きます。2000年のワイアー復活以降もライヴでは毎回必ず演奏されてる曲です。もう35年近く演奏し続けてます。

何人が死んで、生き残っているのは何人だろう?

ぼくは赤い奴隷商人に買い戻された
物資がかき集められ、戦略を策定
時計はすべて、18時15分に合わせられた
1955年の死者、生存者数を報告せよ

ピンクの旗が、うなり声を上げてはためき
少年兵たちはラッパを吹き鳴らした
懺悔する間もなく、命令が下る
3月4日には帳簿が改竄された
3月12日現在、消息が判明した数を報告せよ

何人が死んで、生き残っているのは何人だろう?

2012/01/02

年頭所感 (Field Day for the Sundays - ワイアー)

United Shoe Machinery Employees' Field Day by Beverly Public Library, MA
United Shoe Machinery Employees' Field Day, a photo by Beverly Public Library, MA on Flickr.

2012年も早や2日目を終えようとしていますが、みなさん充実した日々をお過ごしでしょうか。

オラはテレビでラグビーを見て、ラックとモールの違いを発見したり、愛ちゃんと佳純ちゃんを見ながら、イランと日本の今後の外交関係について考えていました。

毎週日曜定例、みんなが人生を棒に振ってしまうような運動会に
ぼくはなりたい

ヨメさんが赤面するような、後味の悪いやつ
月曜の朝、アクアホワイトで磨いても消えないようなやつ

みんなが胸を張って言える、はっきりした日々の目標に
ぼくはなりたい

ぼくの巻頭ヌード写真みたいに、趣味の悪いやつ
腰のあたりにぼかしの入った、月曜の朝みたいにぐったりしたやつ

2011/07/02

島を動かせ (Red Barked Trees - ワイアー)

Guanyin Bodhisattva of the Southern Sea by gmeador
Guanyin Bodhisattva of the Southern Sea, a photo by gmeador on Flickr.

アルバム「Red Barked Tree」締めくくりの曲「Red Barked Trees」は30数年のワイアー史上初のアコースティックな曲です。作った本人たちは「まるでペンタングル(Pentangle)だろ、わはは」とか言ってますが、今どきペンタングルなんて名前持ち出してもみんなわからないでしょう。でも今、もっともお洒落なのがペンタングルとかブズーキです。知らない人はあわてて YouTube でチェックしましょう。

賢者の石とかこのテのものはどこかヨーロッパの深くて暗い森の中にあり、ハリー・ポッターが仲間たちと一緒に勇気を出して探しに行くというイメージです。では回復の赤い木、Red Barked Tree は一体どこにあるのでしょう?まず注意していただきたいのは曲名です。アルバムタイトルは「Red Barked Tree」ですが、曲のほうは複数形で「Red Barked Trees」になっています。つまりこの木は一本だけぽつんとあるわけじゃなく、一ヶ所にたくさん生えているようです。赤い木の森ということです。

次にその場所ですが「The search is on, in southern seas」と歌われています。南の海です。南極海という説もありますが、普通はインド洋あたりから東南アジア、オセアニア辺りではないでしょうか。だんだんイメージがはっきりしてきましたね。真っ赤なマングローブの森みたいなのを探しているようです。

「島を動かすのはすごく危険で、先生も正確なところ、どうなかるかは予測できません。だけど今はこれしか方法がないんです。」
(ベン・ライナス似の)歴史の教師はそう言って、オーキッドへの入り口、東校舎の中庭にある温室に姿を消した。

自分が反対側にいたことに気付き
迷信から目覚める
マスクを装着して夜間の視界を確保
安全を確保しながら離脱し、定配置に付く

母の過ち、娘の痛み
父は非難を引き受け損ねた

苦痛の一日、無理やり押し込まれた一日
ベルベットの手袋に隠された力
飛行機が空に誓いの言葉を描き
愛の行為の宙返りをまざまざと見せつける

南の海で探索が始まった
回復の赤い木の森を探している

トレーダーは猛り狂って逃亡
ディーラーは浮かれ騒ぎ、暴言を吐く
マーケットはうなり声を上げ弱者を食い物にし
繁華街に子供牧場を買う

わずかな特権階級、エリート集団は
切り払い火を放って逃げる

南の海で探索が始まった
回復の赤い木の森を探している

2011/06/30

推進派と反対派 (Two People in a Room - ワイアー)

big buddy & orangie by paparutzi
big buddy & orangie, a photo by paparutzi on Flickr.

「原子力発電には反対だ!」

「原子力発電を推進すべきだ!」

「放射能が漏れたらどうするんだ?」

「電気が足りなくなったらどうするんだ?」

「放射能が漏れたぞ!どうするんだ?」

「電気が足りないぞ!どうするんだ?」

「よし、わかった。電気は何とかしよう。その代わり大量に漏れてる放射性物質を今すぐ何とかしてくれ」

「よし、わかった。放射性物質は何とかしよう。その代わり足りない電気を今すぐ何とかしてくれ」

ワイアー(Wire)の3番目のアルバム「154」に収録されている「Two People in a Room」、この曲も最近よく演奏されているようです。2日の来日公演でも演ってくれるかもしれません。

部屋の中にいるのは二人だけ
二人のひきつった表情筋が
神経症と双方向拷問行為の
密かな披露宴の様子を露わにする

部屋の中にいるのは二人だけ
血まみれのイメージが浮かぶが
どちらも傷付いていない
二人とも武器は選んだが
動きは凍りついたまま

部屋の中にいるのは二人だけ
二人の立場が入れ替わり
停戦の号令が下される
どんな偽りの衣も貫く強烈な照明は
二人に撤退を勧告する

ああ神さま、二人への恵みに感謝します

2011/06/29

ますますひどくなる痛みは誰も直面しようとしない過去に起因する (Bad Worn Thing - ワイアー)

DSC01447 by FotoSpawn
Thomas the Train and "The Fat Controller", a photo by FotoSpawn on Flickr.

「Bad Worn Thing」はグレアム・ルイス(Graham Lewis)がイングランドを鉄道で旅行したときに味わったひどい経験を元に書いたそうです。日本からの旅行者がよくイギリスの鉄道のいいかげんさについて書いていますが、それに慣れているはずのグレアムが怒ったのですから相当ひどい目に合ったのでしょう。

普通のバンドなら怒りを込めてシャウトするところですが、ワイアー(Wire)ですからそんな曲になりません。ドラムとベースが紡ぎ出す田園地帯を淡々と進む列車のようなビートを基本に、ギターは幻想的で哀愁を帯びたどこか希望さえ漂わせるようなトーンで奏でられ、悲観的な歌詞があくまで冷静に歌われます。

実は今の日本の政治、社会状況を歌った曲なんだよ、と言っても通るんじゃないかな。

ピーラーが挟まったジャムサンドイッチ
ポン引きの所持品検査をしてカーディーラーの正体が明らかになる
太っちょ局長の鉄道はノロノロ進む
人の命を奪うことに奴は躊躇しない

駅のシャンペン・バーでポーカーパーティーのエースを監視
望みのない空間
気力の萎える胡散臭い場所
誰も働かないし、働けと言う者もいない

連中はスピーチの時間を短縮して
きみの翼を刈り取る
関係の消失による仲間の不在
アブソルートウォッカの絶対的真実
必然的結果の満員状態

俺に従え!説明は抜きだ
売り飛ばされた未来、首相はゆっくり歩く
ますますひどくなる痛みは
誰も直面しようとしない過去に起因する

連中はスピーチの時間を短縮して
きみの翼を刈り取る
関係の消失による仲間の不在
アブソルートウォッカの絶対的真実
必然的結果の満員状態

くたびれてヨレヨレのガラクタ

2011/06/28

『Red Barked Tree』は今までのぼくらの作品の中でも一番売れたアルバムだ (Clay - ワイアー)

Untitled by Fergus Kelly
Untitled, a photo by Fergus Kelly on Flickr.

7月2日のライブを前にワイアー(Wire)のインタビュー記事が Cookie Scene のサイトに掲載されています。新作「Red Barked Tree」の売れ行きが好調で、今までのアルバムの中で一番売れているそうです。大変めでたいことだと思います。

前回の来日は2004年、アルバム「Send」のリリース直後でした。ファンの中にはあのときの「ズゴゴゴゴゴ」というサウンドを期待している人が結構いるんじゃないかと思いますが、「Object 47」や「Red Barked Tree」を聴いたみなさんにはもうお分かりの通り、ワイアーはもう「Send」のワイアーではありません。あれからもう7年経ったんです。

一方、今回のツアーでは「Two People in a Room」や「Boiling Boy」、「Kedney Bingos」など昔の曲をよく演奏しているようです。eMusic のインタビューでコリン・ニューマン(Colin Newman)がその理由を話していたので、一部ご紹介します。

「Send」のノイズは素晴らしかったんだけど、ひとつ気にくわなかったのは作品としての繊細さに欠けていることなんだ。個々の楽器の音がよく聴き分けられない。ひとつのマシーンが鳴っているように聴こえる。実際あれはマシーン・ロックだった。まあ意図して作ったものなんだけどね。

「Send」期で良くなかったのはバンドの進化が止まってしまったことだ。メンバーのひとりひとりに自分の役割をより高めようという意欲が失せてしまったんだ。ものごとが何から何までガチガチに決まっていた。曲のアレンジは予め隅々まで決まっていて、レコードと同じように演奏しなくちゃならなかった。耐えられないほど退屈だったんだよ。

たとえばイタリアでワイアーが自分たちと同じ年齢層のオーディエンスに依存していたら、ライブには毎晩10人くらいしか集まらないことになるよ。実際に集まっているのは20代が中心なんだ。オーディエンスというのはそういうもんだよ。オーディエンスに対してアピールし続けなければ新たなオーディエンスは得られない。常にアピールするものを持っていなくちゃならない。よく知られていることだと思うけど、今ぼくらは過去のWireの作品からセレクトしてライブで演奏している。うまくいってると思う。だがこれは状況に応じてやっていることなんだ。もし80年代のぼくらが70年代の作品ばかり演奏したらノスタルジアという落とし穴に落ちていたことだろう。だってそんなことをしていたら80年代のオーディエンスも70年代のとまったく同じ、ただ年を取っただけの連中ばかりになってしまう。だからぼくらは意図的に新しい作品ばかり演奏するようにしていたんだ。「Send」の頃もまだ少しそのやり方をしていた。部分的だけどね。だって2000年のツアーでは古い曲ばかり演っていたからさ。一方「Send」ツアーは「Send」の曲、つまり Read & Burn 01 と Read & Burn 02 の曲ばかり、古い曲はアンコールでだけ演奏したんだよ。だけど2008年に再びツアーに出たとき「こうやって曲の構成を決めてしまうのは、もう意味ないんじゃないかな」と思い始めたんだ。

Wire's Colin Newman | eMusic

赤に変わったら
同系交配の形式を選択する
我々は先例でできているから

ペースを保ち続けろ
戦利品を回収して、不名誉を回避せよ
足跡を残さずに潜れ

非難の声が上がる
つき進め、めくらめっぽう撃ちまくれ
標的を射止めて、議論を終わらせろ

景気の踊り場
石灰に沿って境界を整えよ
罪悪の人生

お互い疎遠になっても
遊びたいという欲求はない
我々は粘土でできているから

非難の声が上がる
標的を射止めて、議論を終わらせろ
たとえ未解決の問題が残っていてもかまわない

非難の声が上がる
たとえ未解決の問題が残っていてもかまわない
つき進め、めくらめっぽう撃ちまくれ

段階的に導入する
だがいつ始めたらいいのだろう
チャンスは僅か

中は空っぽだ
間違いなく大敗に終わる
我々には影響力が不足している

非難の声が上がる
つき進め、めくらめっぽう撃ちまくれ
標的を射止めて、議論を終わらせろ
たとえ未解決の問題が残っていてもかまわない
つき進め、めくらめっぽう撃ちまくれ

2011/01/29

煮えたぎる少年 (Boiling Boy - ワイアー)

この曲が最初に収録されたアルバムは「A Bell is a Cup (1988)」なんですが、翌年発表の「IBTABA (1989)」にはライブバージョンが入っています。「It's All in the Brochure (2000)」にも入ってます。今回の「Strays」で4回目のオフィシャルな録音ということになります。もちろんライブでも度々演奏されている曲なので、Legal Bootleg series にも3回くらい収録されています。しつこいです。こだわっています。年季が入ってます。

ワイアー(Wire)の曲の例に漏れず、この曲も歌詞は何を言ってんだかよくわからない内容です。ただし例によって、それが何だかとってもうつくしいものに聴こえます。だから帽子はしまっておきなさい。

西風からの贈り物
暗く、深く
密かな夕暮れに
気味悪いのが届く

帽子はしまっておけ
帽子はしまっておけ

展望ある前進
おうちで練習するために
主義との決別
おうちで練習するために
衝突を決断
おうちで練習するために

帽子はしまっておけ
帽子はしまっておけ

彼が自分の魂を
イメージの中に移すと
原子が励起し
暗闇の中で白く輝き出した
煮えたぎる少年は錯乱のかたち
だけど彼には強みがあった
コールドスタートできる心臓

帽子はしまっておけ
帽子はしまっておけ

あ、それから US インターネット・ラジオ局の Daytrotter のサイトでは、この曲を含む4曲(2008年のスタジオライブ)の MP3 ファイルがダウンロードできるようになっています

German Shepherds - ワイアー

先日、ワイアー(Wire)の CD「Strays」が届きました。「Red Barked Tree」を直接 pinkflag.com から購入した人だけに送られてくるオマケ CD です。「Red Barked Tree」は flac 形式のダウンロード版を購入したのですが、「Strays」は CD が郵送されてきました。オマケは先着2,000名限定ですがサイトにはまだ案内が出ているので、今すぐ申し込めばまだ間に合うと思います。

収録曲は「Red Barked Tree」と同時期にスタジオで録音されたもので、アルバム本編からあぶれた(stray)4曲ですが、いずれもライブでは長い間演奏され続けてきた曲です。アルバム本編はワイアー正規メンバーの3人だけで作成されましたが、こちらには助っ人の Margaret McGinnis や Matt Simms も参加しているそうです。

  1. Boiling Boy
  2. German Shepherds
  3. He Knows
  4. Underwater Experiences

German Shepherds はアルバム「IBTABA (1989)」にも入っていた曲で、この曲に出てくるフレーズ It's Beginning, To, And Back Again の略がアルバムタイトルになっています。IBTABA 収録バージョンはメロディがあまりはっきりしないアレンジでしたが、今回のバージョンはメロディアスでなぜか Map Ref. 41°N 93°W そっくりです。「Red Barked Tree」収録の Clay も I am the Fly みたいだったし、このへんどうもグレアム・ルイス(Graham Lewis)がお茶目なようです

三頭の犬が飛んでいた
上で吊っていた男は
円の正方形化と禅を学んでいた
年老いた女が
酔ってゴミ箱におしっこをしていた
あまりに高く飛びすぎて
止まらなくなっていた
写真を持った男は出番を逃した
この雨の中、傘は役に立たず
鳥が横たわって血を流していたが
ぼくはその首を
ひねることができなかった
会ったこともない教祖様から
電話料金の請求書が届いた

ぼくを急かさないで
もう始まってるし、また元に戻るんだから
ぼくを急かさないで

ちょうど今
機会を生かせるかもしれない男がいる
ぼくは彼の中に閉じ込められて
時間を無駄にしたくない
彼には見る目がある
ぼくらは一緒に靴を片方投げた
うまいことに
また立場が逆転したことが
明らかになった

ぼくを急かさないで
もう始まってるし、また元に戻るんだから
ぼくを急かさないで

2011/01/23

エゾシカ問題を考える (Smash - ワイアー)

(ベン・ライナス似の)歴史の教師が言った。

「北海道に暮らす私たちにとって、野生動物との共存、特にエゾシカの頭数増大問題は避けて通ることができません。3時間目は体育館に集まってください。みんなで一緒にこの問題を考えましょう!」

体育館へ行くと、ステージに教師が4人、ギターやベースを持って立っていた。

(ベン・ライナス似の)歴史の教師が言った。

「わたしは昨日、車で石北峠を通ったとき、エゾシカを轢いてしまいました。」

それからおもむろに、ギターをかき鳴らしてこんな歌を歌い出した。

あいつが言っていたのを思い出した
「おれたちみんな擂り潰したジャガイモとパンみたいにぐちゃぐちゃなるんだ!」
不意に起こる衝突、()き殺された動物の怒り
舗装道路のトラウマ、車による虐殺

あいつが訴えていたのを思い出した
「血と唾液がべっとり残るんだ!」
毛皮と内臓とストーンチップと染み
内側の車線にはバラバラになった骨が転がる

あいつの言ってたことを思い出した
「カッとなったときは十まで数えろ!」
超ウルトラ激しい怒り
超ウルトラ激しい怒り

あいつの言ってたことを思い出した
「カッとなったときは十まで数えろ!」
超ウルトラ激しい怒り
超ウルトラ激しい怒り

昨日の森に注意しろ
高速道路の向う側
遠く彼方に
鹿が歩いていくのが見えたところだ

新作「Red Barked Tree」を引っさげ、ワイアー(Wire)の先生たちはツアーを開始しました。上の動画は年明け一発目、ロンドンの Rough Trade East ショップで開催されたギグです。今までツアーのギターはマーガレット先生(Margaret Fiedler-McGinnis)が担当だったのですが、今回はマット先生(Matt Simms)が臨時教員として参加しています。先生たちは今オーストラリアにいて、これから4月までに全部で16ヶ国まわるそうです。

2010/12/23

ワイアーからのお願い (Red Barked Tree - ワイアー)

ワイアー(Wire)の曲のタイトルや歌詞で Please なんて言葉が出てくると、当然こんなふうになります。

おねがいだから
ぼくの背中に刺さった
きみのナイフを抜いてください
それから抜くときは
どうかたのむから
ひねったりしないで

ワイアーの新作「レッド・バークト・トゥリー(Red Barked Tree)」は、この歌い出しの「Please Take」で始まります。スキンヘッドのグレアム・ルイス(Graham Lewis)が誘うような目線で、しっとりと歌い上げます。

前作「オブジェクト47(Object 47)」の記事を先日書いたばかりですが、2年半ぶりの新作「Red Barked Tree」が12月20日にリリースされました。正確に言うと、ワイアー公式サイト pinkflag.com 限定の先行リリースです。ダウンロード版のフォーマットは MP3 とflac、2種類での提供です。もちろんオラは flac を予約、ゲットして毎日聴いています。ただし一般の CD ショップや iTunes で入手できるようになるのは1ヶ月後です。待てない人は pinkflag.com で買いましょう。

そういえば1曲「Two Minutes」が無料でダウンロードできるようになっているので、これ聴いてがまんするという手もあります。でも今回のアルバムは「Two Minutes」みたいな曲ばかりだと思ったら大間違いなのでよろしく。

実は「Red Barked Tree」の収録曲、アルバム発売前のギグで何曲か既に演奏していて YouTube を探すと出てきます。11月8日に UK 音楽サイト The Quietus 主催でおこなわれたギグの映像が上がっていたので「Adapt」という曲をご紹介します。コリン・ニューマン(Colin Newman)は「これはクリスマス・ソングだ!」と申しております。気象変動、災害、金融市場の破綻、児童労働、政治の空洞化などの問題がうつくしいメロディーで歌われています。

メリー・クリスマス!

2010/12/11

Object 47 - ワイアー

http://en.wikipedia.org/wiki/File:Wire_Object_47.jpg

若い人などは今でも、ロックバンドといえば「一発当たればお金持ちになれる商売」というイメージを抱いている人が多いかもしれません。残念ながら、もう既にそういう時代ではありません。バンド業だけで裕福な暮しができるのは、本当にごくごく一部の人たちだけです。

普通のロックバンドの現実は厳しいものです。バンドを維持していくためにはメンバーの食い扶持だけでなく、レコーディングやツアーのマネージメントをはじめ、諸々の手伝いをしてくれるスタッフの給料も払っていかなければなりません。サウンドにこだわって自前のスタジオやステージ機材を揃えたりすると、その維持、管理だけで毎月かなりのお金が飛んでいきます。それに所詮は人気商売です。CDを作ったから、ツアーをしたからといって、確実にお金が入ってくる保証はありません。

ワイアー(Wire)は1976年にイギリスで結成された4人組のバンドです。いわゆる 初期のロンドン・パンクとして登場しました。1990年代に一時活動を休止していたこともありますが、長い間ずっとオリジナルメンバーで活動を続けてきました。初期のパンクバンドとしてはかなり有名なほうですが、CD はそんなに売れません。ツアーでまわるのはどれも小さな会場です。

おまけにこの人たちは、あえて売れるのを拒否するようなやり方ばかりしています。ライブで演奏するのは毎回ほとんど新曲です。みんなの知ってる古い曲は、アレンジを大幅に変えて、すぐにそれと分からないように演奏します。たとえばバンド初期の人気曲に 12 XU というのがあるのですが、昔出したライブアルバムには、この曲が「イントロだけ」しか収録されていませんでした。「それでこそオリジナル・パンク、オトコのバンドだぜ!」と言えなくもないのですが、一方でお金にはずっと苦労してきたはずです。

30年以上も苦楽を共に活動を続けているので、ワイアーのメンバーはみな年を取っています。ずばりジジイです。しかも写真を見てわかる通り、全員かなりコワモテのジジイです。メンバーのうち三人は50代後半で、最高齢のブルース・ギルバート(Bruce Gilbert)は1946年生まれ、現在64歳です。グリーン・デイみたいなのをパンクだと思っている人がワイアーのライブへ行くと、ショーの間ずっと、ステージ上から爆音でコワいオヤジに脅迫されているような気分になるはずです。

そんなワイアーにも、一度だけまとまったお金が入ってきたことがありました。それは先日紹介したエラスティカ(Elastica)のコネクション(Connection)が売れたときです。実際、2000年代に入ってからのワイヤーの復活は、このときのお金が元手になって実現できたのだと思います。

復活して再び注目されるようになったワイアーは Read & Burn 01 と 02、そして Send という新作を作成しました。さらに、過去のライブ音源や映像の CD/DVD 化や旧作のリマスターに取り組みました。

1970年代後半登場のパンクバンドには、ヒッピー文化から引き継いだ平等主義思想の名残りが強く残っていました。そのためセックス・ピストルズ(Sex Pistols)を始め、多くのバンドが曲のクレジットを「メンバー全員の名前」で記載していました。初期のワイヤーもそうでした。

ところが、リマスター版のボックス・セットの発売に当たり、スリー・ガール・ルンバ(Three Girl Ruhumba)などファーストアルバム「ピンク・フラッグ(Pink Flag)」収録曲のクレジットを、実際に作曲に関わった人のものに変えようという提案がコリン・ニューマン(Colin Newman)から出されたのです。これに異議を唱えたブルース・ギルバートは、最終的にバンドを脱退することになってしまいました。傍から見ると、そんな30数年一緒にやってきて、お互いトシなんだからもうちょっと仲良く、と思うのですがそうはならないのが人生です。

現時点でのワイアーの最新アルバムは2008年に発表された「オブジェクト47(Object 47)」です。ブルース・ギルバート脱退後、初のアルバムということになります(正確に言えば、前作の Read & Burn 03 のレコーディングにもブルースは参加していないのですが)。

ギタリストのブルースがいなくなったためか、全体に轟音ギターと曲のテンポが抑えられています。特に1曲目「ワン・オブ・アス(One of Us)」はちょっと今までのワイアーにはなかったタイプの曲で、音だけ聴くと「さあみんなで手を取り、朝日に向かって歩き出そう」という雰囲気です。でも歌詞がやっぱりワイアーです。出だしはこんなフレーズで始まります。

文句を言ってもいいかな?きみがそんなつもりだったとは思ってもみなかった

思わず一緒に歌いたくなってしまう軽快なリフレインは

ぼくらの中の一人は、ぼくらが出会ったあの日を悔やむのだろう

もうあからさまにブルース・ギルバートへのあてこすりです。30数年一緒にやってきて、60という年齢で去って行ったメンバーに対して、そこまで言うかという内容です。

でもね、違うんです。ワイアーだから。ワイアーにかかれば仲間割れもアートになるんです。嘘だと思ったら、リフレインの部分、一緒に歌ってみてください。

One of us will live to rue the day we met each other

発音しやすいようにひらがなにすると、こうなります。

わーんの すぅぃ とぅ ぅぃ てぃ ち

歌っているうちに、ほら、One of Us の one が、あなたの知ってる誰かに思えてくるでしょう?なんだか切ない気持ちになってきたでしょう?さらに繰り返してると、だんだん自分自身のことのように思えてきます。

One of Us の元ネタは、ひょっとしたらこれかも

2010/11/18

三人娘のルンバ (スリー・ガール・ルンバ - ワイアー)

Colin Newman by furnstein
Colin Newman, a photo by furnstein on Flickr.

気がつくとハッチの中だった。オラは後ろ手に縛られて、椅子に座らされていた。少し離れたコンソールの前にベン・ライナス(Benjamin Linus)役のコリン・ニューマン(Colin Newman)が立っていて、その横には胸にゼッケンを付けた三人の娘さんたちがこちらを向いて並んでいた。

「気が付いたな」

ベンがオラに言った。

「早速だが、番号を選びたまえ。目は閉じて。」

アナ・ルシアとどちらにしようか一瞬迷って、菊地凛子さんの番号43番を言おうとしたとき、ベンがオラの言葉を遮った。

「考えるだけでいい。」

ベンは何か急いでいる様子だった。

「その数字を2で割る。」

小数点以下まで計算するのかどうかベンに尋ねようとしたとき、また言葉を遮られた。

「存在しないものは存在しない。」

ベンはオラに近づき、何か小さな箱のようなものをオラの膝の上に置いて言った。

「箱を開けて。」

そう言われても手を縛られている。仕方ないので箱を落とさないよう膝の間に挟み、体を折り曲げて口で開けた。思ったより簡単だった。箱は軽い。中に何が入っているのかは分からない。

またベンが言った。

「数字は?」

小数点以下の処理を迷っていたら、ベンが見透したように言った。

「答は考えなくていい。」

考えなくていいって、数字?それとも箱の中身?そのときハッチで警報が鳴り出した。

「目を開けたまえ。」

ベンに言われて目を開けた。ハッチの中は赤い警報ランプが点滅していて、ベンしかいなかった。アナ・ルシアと菊地凛子さんはどこへ行ったのだろう?あともう一人は誰だっけ?

警報の音が大きくなってきた。ベンはかなりあせっている様子だ。

「数字を考えて!」

ハッチ全体が揺れ始めた。やばい。ええい、もう小数点以下は切り捨てだと決心した瞬間、ベンが怒鳴った。

「ごまかすな!!」

突然天井からシャッターが降りてきた。閉じ込められた。番号、番号は何番だっけ?三人目は?誰だっけ?あのムームー着てたの、誰だっけ?揺れがどんどんひどくなる。本棚が倒れた。椅子からずり落ちる。引っくり返ったオラに何かが覆いかぶさってきた。

す、杉田かおる?

解説

という人間の極限的状況を描いたのがアルバム Pink Flag 収録のワイアーの名曲「三人娘のルンバ(Three Girl Rhumba)」(1977)です。シングル曲でもなく、かつてはワイアーの他の曲同様知る人ぞ知る曲だったのですが、この曲のリフをパクったエラスティカのコネクション(1994) がヒット、そのパクりをエラスティカ側があっさりと認めて著作権料が支払われたことで話題になりました。でも相変わらず有名なのはコネクションの方で、Three Girl Rhumba を「コネクションのカバー?」と思っている人が今でもたくさんいるようです。一応、オリジナルの Three Girl Rhumba にも注目が集まりテレビ CM に使われたりして、ワイアー史上「最も稼いだ曲」となっています。

一方、持ち慣れない大金が入ってきたことでワイアーのメンバー間に取り分をめぐり争いが起きるようになり、2004年にブルース・ギルバートが脱退するきっかけにもなってしまいました。

みなさんも、歳をとってからお金でもめないよう、日頃から取り分とか契約とか遺言はきちんとしておきましょう。

MP3ファイルのダウンロード
Three Girl Rhumba (from pinkflag.com)
おまけ
"Maybe I just had LOST's season finale on my mind, but Wire frontman Colin Newman looks more than a little like that show's Benjamin Linus these days."
追記
「ワイアーが取り分をめぐってモメたという話のソースはいったいどこだ?」という問い合わせをいただきました。このへんの経緯と当事者発言は「33 1/3 Wire's Pink Flag」に書かれています。

2009/11/12

LOST (12XU - ワイアー)

照明が暗くなり、ステージ上にワイアーのメンバーが登場する。ステージに向かって左手は グレアム・ルイス(Graham Lewis)、中央後方はロバート・グレイ(Robert Grey)、右手がマーガレット・フィードラー・マックギネス(Margaret Fiedler McGinnis)。彼女はワイアーのツアーを自らの環境保護運動の一環として位置付け参加している。そして中央はコリン・ニューマン(Colin Newman)。数年前からコリン・ニューマン役を本人に代わってマイケル・エマーソン(Michael Emerson)がつとめているのは誰もが知るところだ。

スポットライトが点き、コリンがシャウトする。

「ワン、ツー、スリー、ストップ!」

一瞬の静寂の後、会場割れんばかりの拍手。

完璧。

おまけ
"Colin Newman (who now resembles Ben Linus from Lost)"

2004/08/24

WIRE ON THE BOX:1979 - ワイアー

高電圧じじい集団ワイアー(Wire)の1979年のライブ映像をまとめた DVD がなんでかわからんけど突然発売されました。25年前といえば、彼らがまだ高電圧アートやくざで、ちょうどアルバム「154」を発表した頃のパフォーマンスです。

2004/01/24

電気の鳴らし方

ムラコーからの情報。偏屈電気じじい集団ワイアーが来月東京と大阪でギグをおこないます

ムラコーのお友達の間で最近「こおゆうかっこいい音を出すバンドを知ってるか?」と話題らしい。いいことだねぇ。ワイアーに関して日本ではほとんど情報ないから、音だけの口コミで伝わったんだろうねぇ。

しかし彼らはエラいよね。一時期を除いてまともに食えるだけのレコード・セールスなんかないはず。今はメンバーもそれぞれ別の国に住んでるらしいから、さぞかし家族も「おとうちゃん、変な音楽やってお金にならないツアーなんかしないでちゃんと働いてよ!」と泣いているだろうに。あの歳でいまだ活動を続けていて新しいファンを獲得しているとはね。

東京、大阪近辺にお住まいの方はこの機会にぜひワイアーによる正しい電気音を味わってみてください。ワイアーの CD 聴いたことないので何か1枚という方には最新作「Send」をお勧めします。

2003/04/30

Send - ワイアー

ワイアー(Wire)の新作「SEND」が到着しました。すばらしい。1977年以来、身体によく効く電気な音を出し続けております。昔はこんなでしたが、最近は年季が入ってこんなんなり、電圧がさらに上がっています。この調子であと25年くらい行ってほしいです。そのときを楽しみにしてます。

なお、SEND の11曲中7曲が先行して発売された Read & Burn 01, 02 とカブっていますが(うち1曲は別バージョン)、PostEverything から購入すると、10曲入りのライブ CD(昨年シカゴで収録)が付いてきます。国内版にはおまけが付かないので注意。