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2015/11/15

便所と夫婦と世界が抱える問題 (Double Trouble - Public Image Ltd)

いったい何をごちゃごちゃ言ってんだよ。何だって?トイレがまたぶっこわれた?ああ、前は俺が直したよ。また配管屋を頼めって言ったろ。何度でも頼めって...。

なんということでしょう。PiLのニューアルバムWhat the World Needs Now...はトラブルの歌で幕を開けます。その名もDouble Trouble、あろうことか便所の配管トラブル、ウンコ飛び散り夫婦喧嘩ソングです。

ここに至った経過を見ず知らずの第三者の立場から簡単にご説明いたします。ジョン・ライドンは元祖パンク、Do It Yourselfの人ですから何でも自分でやります。ご飯作ったり、義理の孫のためにPTAの会合に出席したりと家のこともマメでして、トイレの配管一式まで自分でやってしまいます。だもんで、妻のノラは別のトイレの調子が悪くなったときもまたジョンが直してくれると思ってそのままにして置いたらそれが大惨事に...という次第です。

甘い言葉などいらない
俺を安全な場所に押し込むな
やさしく抱きしめられてたまるか
俺が望むもの、それはトラブル、トラブル、トラブル

文句あるんんだろ、望むところだ
もっと怒れよ、すっきりしようぜ
白黒はっきりさせよう、それしかない

俺が望むものはトラブル、次から次へやってくるトラブル
俺にトラブルを与えてくれ

一応解説しておきますと、Double Troubleというのはシェイクスピア由来のフレーズです。マクベスに出てくる魔女たちがヒキガエルやトカゲ、毒草なんかを大きな鍋で煮込みながら歌う呪いの歌です。映画のハリー・ポッターにも出てきます。Double, Double, Toil and Trouble(次々とふりかかれ、苦難と厄災よ)って歌詞です。実際に聴いてみると納得いただけると思いますが、三歳児ならToilet Troubleって空耳するのも無理はありません。けどだからといって、還暦を目の前にした大の男がWhat the World Needs Now...と冠したアルバムの一曲目でそれを力いっぱい歌うかというと、歌うんです。パンクですから。

崇められるなんてごめんだ
肩身の狭い思いはまっぴらだ
俺の名を汚すな
トラブル到来で屈辱とおさらばだ

世の中がエボラだ、戦争だ、経済格差だ、テロだって次々と大きなトラブルに見舞われているときに便所が壊れたって夫婦喧嘩ですか、呑気だねえという感想を抱く方々も少なくないことでしょうが、便所や夫婦喧嘩の問題にちゃんと取り組めないような人が世界の問題をどうこうできるはずなどありません。そうゆうもんです。それもできないような人たちがなぜか結構政治家や実業家になってしまっているということが問題をさらに根深いものにしているのです。便所と夫婦喧嘩は今こそ歌うべき大きな問題です。

ジョン・ライドンが今までに経験した最大のトラブル、それは7歳のときに髄膜炎にかかり、それまでの記憶をすべて失ってしまったことです。親の顔も自分が誰なのか分からない、言葉も話せず人の話はノイズにしか聞こえない、スプーンの持ち方すら分からないほどでした。数年かかって徐々に記憶は取り戻したのですが、いくつかの後遺症が残り、中でも幻影は長く続いたそうです。

ひどい頭痛と目まい、失神、火を吹く緑色のドラゴンとか存在しないものが見え始めた。そんなものいないって分かってる自分の中に、ドラゴンが見てパニックを起こしてる自分がいるんだ。それがどれほど恐しいことか。身体が勝手に反応して止まらない。恐怖のあまり引き付けを起こした。

次の朝、母親は容態がさらに悪化していることに気付いて医者を呼んだ。医者が到着すると俺は気を失なった。気が付くとそこは救急車の中だった。俺はまた気を失なった。次に俺が意識を取り戻したのは病院の中で数ヶ月後のことだった。俺は6ヶ月以上も昏睡状態だったんだ。

率直に言って、俺が空想にふけるようなことはまずない。俺の頭の中にそんな余地はない。他人の気持ちを考えない奴だってときどき言われるのはそのせいかもしれないな。時間をムダにしたくないのさ。朝起きるのはものすごい努力を必要とするけど、俺にとっては眠ることの方がその10倍も大変なことなんだ。眠るのが嫌いだ。起きたときにまた自分が誰だか思い出せなくなるんじゃないかって恐怖に襲われるんだ。この感覚はおそらく一生俺につきまとうはずだ。絶対に消えない。俺がなかなか眠らず、常に警戒してるのはそのせいなんだよ。ま、昔は「眠らずにいられるモノ」に頼ったことがあったような気もするけどな。

退院してからもしばらくの間は度々幻影に悩まされた。すごく怖いやつだ。中でも思い出すのは神父。今でもときどきその夢を見る。背が高くガリガリに痩せた男で黒い髪に黒い瞳、そのものすごく恐しい目で俺を睨むんだ。ハンパじゃなく大ごとなんだ。そいつが夢に現われると、俺は立ち向かわなくちゃならない。そうすれば消え去る。だけどそれは簡単なことじゃない。自分が夢を見てる状態で夢のコントールなんてできないだろ。だけどどうにかこうにか、何年もかかって、俺は自分の夢をコントロールできるようになったんだ。

John Lydon - Anger Is An Energy: My Life Uncensored

もう少しで死ぬところだったんだ。まったく笑えるようなことじゃない。だけど妙なことにあの病気が今の俺を作ったんだ。あれを経験したからこそ俺は今ここにいるんだ。かつて俺を死にそうにしてくれた神様には感謝するよ。記憶をすべて失なってしまい自分が誰であるかさえ分からなくなったんだ。あのときの苦しさは今も忘れちゃいない。俺が今までに味わった最大の達成感はあの病気を克服したことさ。

Lydon calling: A visit with the punk king

ジョン・ライドンというのはこうゆう人ですから、身近な個人的なトラブルと世界的なトラブルに優劣を付けたりしません。小さな個人的なトラブルに悩んでる人を馬鹿にしたりしません。どれも大切なことです。だからみなさんも日常様々トラブルに遭遇してると思いますが、Double Troubleを聴いて元気を出して立ち向かってください。健闘を祈ります。

ところトイレの件はどうなったのでしょう?

なんだかんだで、俺たちはバケツを使うハメになる

おう、いえー。

2014/10/11

怒りはエネルギーだ - ジョン・ライドンの自伝第二弾「Anger is an Energy: My Life Uncensored」

1994年に出版された「Rotten: No Irish, No Blacks, No Dogs」に続くジョン・ライドンの自伝第二弾「Anger is an Energy: My Life Uncensored」が10月9日に発売されました。

「えーっ、自伝ってそんなに何冊も出すものなの?」って思いました?いや、自伝/伝記大好きの国イギリスではぜんぜん珍しくないことのようです。それに書くべきことがある、出す価値があるから出すんです。

ということで、最初はおもしろいエピソードでもちょこっと訳して紹介しようかなと思ったんですが、当のジョン・ライドンが宣伝のため、ラジオ、テレビ、出版イベントなどに出演しまくっておりまして、そのひとつのインタビュー記事がすごく良かったもんですから、そっちを紹介します。

まず予備知識のない方のためにちょっと説明しておきますと、ジョン・ライドン、別名ジョニー・ロットンは7歳のとき髄膜炎という病気にかかります。一命はとりとめたものの、高熱の後半年も昏睡状態が続き、目覚めたときには完全に記憶を失なっていました。自分が誰かわからない、両親の顔も覚えていない、言葉も話せない、体の動かし方すら覚束無いという状態です。彼は7歳からその後4年間を自分が誰であったかを思い出すために費します。

怒りは俺のあらゆる種類の記憶を取り戻すために必要なエネルギーだった。完全に記憶を取り戻し、自分が誰で、自分の両親が誰だかわかるようになるまで数年かかった。病院は両親に「とにかく彼を怒らせなさい」と言った。それが記憶を取り戻すエネルギーになるんだって。だけどもしそうしなければ、ずっとこのままだろうって。

不満とかいうレベルの話じゃないぜ。俺は自分自身に対して怒ったんだ。とにかくそのエネルギーのおかげで俺は自分が見つけるべきものを見つけられるようになった。この怒りのエネルギーがあったからこそ、今俺はこうしているんだと思う。おかげで俺は人間として独り立ちできたわけさ。マルコム・マクラーレンなんかがあたかも俺を育て上げたみたいに言ってたが、それより遥か以前のことだよ。

だがまた自分が起き上がれなくなってしまうんじゃないか、自分が誰だか思い出せなくなってしまうんじゃないかという恐怖は今も消えない。これ以上の孤独な思いはほかに絶対ない。両親が俺を憐れんで甘やかしていたら、俺は施設に入れられて、ずっとそのままだったのかもしれない。

というわけで、俺の個性や生命力というものができ上がったわけだ。危機一髪だったのさ。せっかくセカンド・チャンスをもらったんだぜ。無駄になんかできるわけない。

俺の曲に対してその視点や意図に共感を示す人々がいる。彼らはそういうことをすべて理解していて、俺と経験を共有できてるんだ。驚くべきことだよ。

俺にはそこで共有されている痛みが何だかわかる。そういう人間がいれば、同じような経験を共有できる。もちろん細かな点は違っているだろうよ。だけど目を見ればわかる。だから俺はそれを心の奥の闇に閉じ込めるんじゃない、オープンにしなくちゃならない、白日の元にさらそうという気持になるんだ。

だから俺は続けてるんだ。そういうのを見るのがうれしいんだ。だってみんな生きてるってことなんだぜ。「コンサート会場は空っぽだ、ジョン。みんな自殺しちゃったんだ」なんてうれしいわけないだろ。

俺たちはみんな色んなものに対する怒りを抱えている。だが幸いなことに、その怒りをポジティヴに使うこともできる。俺は、歌を作るってことはそれを促すものでなくちゃならないと思ってる。

俺は正しい音程で歌う必要なんてないし、アメリカン・アイドルの予選を通過するためにやってるんでもない。俺はノイズを組み合わせて曲を作る。俺が感じるままのノイズだ。作曲家になんてならなくていい。ただ誠実にやればいい。俺はいつも自分が感じるあらゆる感情を表現しようとしている。ギグで解き放つ感情が歌に命を吹き込むんだ。

曲の中には歌うとき、ものすごく緊張するものもある。たとえばDeathDisco、あれは俺の母親の死について歌ったものなんだ。死で誰かを失うことに慣れることなんてできるわけない。

だがそうした歌を歌うとき、即興演奏というのはジェットコースターになる。俺が今PiLで一緒にやってるのはみんなすっげーいい連中ばかりで、高い技能と許容力を持ち合わせている。彼らがそのノイズとトーン、張り詰めたサウンドで俺をチャレンジしがいのある高みへ連れて行ってくれるんだ。

音楽にはどんな制限もルールもない、完全なる自由、最高の空間だと思うね。その代わりたくさんのものをつぎ込まなくちゃならないが、その価値はある。トレードオフさ。だけどそれだけの価値があるんだ。

'We all have an inner anger which should be used to a positive end' - John Lydon speaks to the SNJ ahead of the Cheltenham Literature Festival

ね、今出す価値、読む価値のある本だと思うでしょ。原著は500ページを越えるぶ厚い本なんですが、Amazon Kindle版はなんとわずか580円で売ってます(580円というのは発売直後のサービス価格だったらしく、現在は通常価格になっています。2015/01/30 追記)。

でも「英語で500ページの本なんて読めないよ」という人が大半でしょう。そうですよね。邦訳出るかなあ。昨今の日本の出版状況からすると、このボリュームの翻訳本が出る可能性はきわめて低いんですよね。そのまま日本語にすると700ページ、800ページというボリュームになってしまうため、値段が高くなる → 売れる部数が限られる → 出しても採算取れない、ってことで、出版社は出すのをためらってしまうんですよね。

でもここは前作「No Irish, No Blacks, No Dogs」を出したロッキングオン、意地見せて出してくれよお。今、一番出すべき本でしょう。全国の小中学校の図書館に必ず一冊は置いとくべき本だよ。

あ、そうそう、本のタイトル「Anger is an Energy」というのは、もちろんPiL(Public Image Ltd)の代表曲「Rise」のフレーズから取ったものです。

それから、この本の出版準備とジーザス・クライスト・スーパースター出演のため、ジョン・ライドンはPiLとしての活動を休止していましたが、12月にライヴ活動を再開、同時にニューアルバムのレコーディングを始め、来年夏発売の予定です。

(関連記事)
ロッキングオンにはジョン・ライドンの自伝「No Irish, No Blacks, No Dogs」の完全版を出していただきたい
May the road rise with you (Rise - パブリック・イメージ・リミテッド)

2014/07/19

ジョン・ライドンの自伝はゴースト・ライターが書いた?

John Lydon with Keith and Kent Zimmerman

タイトルはよくある釣りなのであわてないように。ジョン・ライドンの「No Irish, No Blacks, No Dogs(邦題: Still A Punk - ジョン・ライドン自伝)」、書いたのはジョン・ライドン本人じゃなく別の作家ですが、ゴーストじゃなくて表紙にちゃんと名前が書かれています(上の写真)。ジョン・ライドンや周囲の人たちに取材をしてあの本を書いたのはキース/ケント・ジマーマン兄弟です。

ある人物の生い立ちやらエピソードなど、事実を元に書かれた本のうち、別の第三者が書いたものは伝記(biography)、本人が書いたものが自伝(autobiography)と呼ばれています。だから上記ジョン・ライドンの本は分類上伝記であって、自伝ではありません。

原著のどこにもautobiographyなんて書かれていないのに、わざわざタイトルを「ジョン・ライドン自伝」に変更して、表紙からジマーマン兄弟の名前をはずしてしまったのは日本のロッキング・オン社です。責めたい人はロッキング・オンを責めてください。

少し前、日本でもゴースト・ライター騒動がいくつかありましたが、どうして書いた人の名前の隠すような商習慣があるんですかね?「この本おもしろい。この人が書いた本、ほかも読みたい!」ってなっても、隠してたらわからないじゃない。

一方でロッキング・オンが出した日本語版、翻訳はすごくいいんです。口語が生き生きと訳されています。勉強になります。オラなんか、英語翻訳の教材として今でもよく読み返してます。ところがですね、翻訳者の名前がどこにも書かれていないんです。ひどい。

で、長いこと誰が訳したのかわからなかったんですが、数年前、偶然Amazon のページを見て、竹林正子さんが翻訳したものと判明しました。Amazon は権利関係をデータベースで管理しなければならないため、著者、翻訳者などをちゃんと表示してるみたいです。

今の若い方は知らないでしょうが、昔のロッキング・オンは「俺たちはスターを崇めたりしない。主役はスターじゃなくて、聴き手の俺たちの方だ!」という雑誌だったんですよ。で、英語の歌詞で言ってることもろくに理解しないまま、スタッフが強引な解釈を書きまくってて、逆にそれがおもしろい雑誌だったんです。それがいつから「主役の俺たち」をスターの影に隠すような商売になってしまったかなあ。あ、どれくらい昔かというと、1970年代、ロッキング・オンの値段が280円だった頃の話です。

2014年7月現在、「STILL A PUNK―ジョン・ライドン自伝」は品切れになっていて再版の予定がないみたいなんですが、ロッキング・オンには、諸々の反省を踏まえ、初心に立ち返り、著者名、翻訳者名を正しく表記、さらに大幅にカットした内容を追加して、「No Irish, No Blacks, No Dogs (完全版)」を出版していただきたいと思います。

伝記、自伝の話をもうちょっと続けると、イギリス人ミュージシャンってよく自伝とかバイオグラフィー出しますよね。これ伝統なんだそうです。イギリスでは伝記がよく読まれていて、伝記を書く人の社会的な地位も確立されてるそうです。伝記がイギリスの長編小説に大きな影響を与えてきたそうです。丸谷才一さんがそう言ってるので間違いありません

ジョン・ライドンの本を書いたジマーマン兄弟はアメリカ人ですが、この本を書いたことで実力が認められて、ミュージシャンの伝記だけじゃなく、色々な本を書くようになったそうです。あ、アリス・クーパーの「Golf Monster」もこの二人が書いたものです。

あと何だったかな。そうだ、ジョン・ライドンはホンモノの自伝をこの10月に出します。今回はちゃんとautobiographyって言ってるので本人が書いてることは間違いありません。ただしひとりじゃ無理なので、Andrew Perryって音楽ジャーナリストとの共著になるって正直に言ってます。Amazon UKにはもう載ってます。タイトルは「Anger is an Energy: My Life Uncensored」。

(追記)
よく調べてみると、No Irish... 初版の表紙にはThe Autobiographyってサブタイトルが書かれていたことが判明。つまりジョン・ライドン自身も執筆してたんだね。ごめん、ロッキング・オン、「ジョン・ライドン自伝」で間違ってなかったのな。それから竹林正子さんの名前も奥付に書いてあった。許してください。ということで、この文章自体が単にロッキング・オンに難癖つけただけみたいになってしまいましたが、それでももちろん完全版は出すべきだぞ。

(関連記事)
ロッキングオンにはジョン・ライドンの自伝「No Irish, No Blacks, No Dogs」の完全版を出していただきたい
怒りはエネルギーだ - ジョン・ライドンの自伝第二弾「Anger is an Energy: My Life Uncensored」

2014/06/07

神様ってのはそういう者を愛するんだろ? - ジョン・ライドン出演のジーザス・クライスト・スーパースター、全公演中止

Bilbao BBK Live 2013 PIL, a photo by Dena Flows on Flickr.

ジョン・ライドンがヘロデ王役で出演、今月9日のニューオリンズを皮切りに、北米54箇所をまわる予定だったミュージカル公演、ジーザス・クライスト・スーパースターの US ツアーは5月末の開始直前になって突然中止が発表されてしまいました。こんな大規模なツアーがぎりぎりになって中止されるなんてよほどのことなんですが、公式サイトには何も理由が書かれていません。出演者やスタッフも同様に、満足な説明なしに突如中止を告げられたようで、Twitter にも出演者らの怒りの声が上がってました

数日経って、プロモーター Michael Cohl がニュースサイトの取材に応じました。記事によると要するに「チケットがぜんぜん売れなかったので中止にした」ってことです。

アメリカの興業商売のことはよく知りませんが、こうゆうのってよくあるんですかね?なんか素人目には大々的にぶち上げてみたはいいけど資金が思うように集まらなくて、プロモーションにお金かけられなくて、それでもチケット売り上げで自転車操業しながらツアーやろうとしたけど、それもダメで万事休す、みたいに見えるんですけど。この Michael Cohl はミュージカル「スパイダーマン:ターン・オフ・ザ・ダーク」でも失敗してるんで、そっちの負けを取り戻そうとしてあせったんじゃないの?

まあ、一度中止が決定すると、あれこれ言っても再開されることはないので仕方ありません。初のミュージカル出演のため張り切って準備していたジョン・ライドンはこう言ってます。

そのプロモーターとかいう奴とは一度ニューヨークでモメてるんだよ。あいつのことは気に入らなかったし、本能的に信用できない奴だと思ってた。

きっとみんながあっと驚くような中止理由を説明してくれるだろうよ。(プロモーターの)コール君は何で俺に電話しなかったんだ?5ドルくらいなら貸してやったのに。

どんな運命が待ち受けていようと、俺はそれを受け入れ最善を尽くすだけさ。神様ってのはそういう者を愛するんだろ?

次か?次はバレエをやることになってるんだ。

Anger for ‘Jesus Christ Superstar’ Cast, and a Black Eye for Its Promoter

ということで、ジョニーおじさんのヘロデ王は幻に終わってしまいましたが、彼のバレエ、白鳥の湖にご期待ください。

2014/04/05

「この俺がイエス様と一緒に歌うんだぜ。これ以上のことをいったい誰が何を望むっていうんだよ」ジョン・ライドン、ミュージカル「ジーザス・クライスト・スーパースター」にヘロデ王役で出演

PIL @ Atlantico Live, Roma - 27 ottobre 2013, a photo by GoldSoundzIt on Flickr.

2010年以降、毎年春になるとライヴツアーを開始している PiL が、なぜか今年は何の音沙汰もありません。ジョン・ライドン、せっかく調子出てきたのに今年はお休み?と思っていたところ、昨日、驚きのニュースが発表されました。

ジョン・ライドンがミュージカル「ジーザス・クライスト・スーパースター」にヘロデ王役で出演。6月9日から北米54都市をツアーします。

ファンとして2009年に復活してからのはジョンの活躍ぶりを見て、そろそろ映画やドラマから出演の声がかかるんじゃないかなって思っていたんですが、まさかの舞台ミュージカル、あろうことか「ジーザス・クライスト・スーパースター」、これはまったく予想してませんでした。

この俺がイエス様と一緒に歌うんだぜ。これ以上のことをいったい誰が何を望むっていうんだよ

さて、このミュージカル「ジーザス・クライスト・スーパースター」、舞台や映画の DVD が発売されていて、国内では劇団四季の演目にもなってるので観たことある人も多いかと思います。一方で「キリスト教礼賛ミュージカルでしょ?何でそんなのにジョン・ライドンが出演?興味ないね。」という人が結構いるかもしれません。別にキリスト教やミュージカルに詳しいわけじゃありませんが、そんな人たちのためにオラの生半可な知識で簡単にご紹介しておきます。

まずこのミュージカル、最初からミュージカルだったわけではありません。最初はレコードだったんです。アンドリュー・ロイド・ウェバーというイギリス人の作曲家が曲を作り、ロック・ミュージシャン達を雇い、キリストが処刑されるまでの7日間の話を元に演劇仕立てのレコードを作ったんです。このレコードが大ヒットしたためその後で舞台化が実現しました。ミュージカルの初演は1971年ですが、40年以上を経た今もウェバーが立ち上げた劇団 The Really Useful Group を中心に世界中で上演が続いている作品です。

で、中身はですね、イスカリオテのユダとキリストのお話です。

時代は現代なのか大昔なのかよくわからないようになっています。とにかくユダヤ人の国イスラエルがあります。形式的にイスラエルは独立した国でヘロデ王というのが統治してるんですけど、実質的にはローマ帝国の支配下にあります。民衆たちは貧困や圧政に苦しんでいます。

そこに「神の子」を名乗るひとりの青年キリストが現われ、病気の人を治したり、パンのかけらを籠いっぱいに増やしたりの奇跡をおこなったため「彼こそユダヤの王だ」と大評判となり、彼を慕う人々が大勢集ってきます。一方、権力者たちはキリストに集まる人々の動きを警戒します。これ以上騒ぎが大きくなってはローマから反乱の動きと捉えられかねないからです。ローマと戦争になったのではイスラエルはひとたまりもありません。

その気配をいち早く察知し、キリストやその支持者たちに危害が及びかねないと心配した友人のユダは、キリストに警告します。「もう神の子を名乗るのはよせ。普通に大工として生きればいいじゃないか」。しかしキリストはユダの言葉に耳を貸そうとしません。キリストは自信たっぷりで、娼婦マグダラのマリアに膝枕でナデナデされて喜んだりしています。ユダは思い悩んだ末、キリストや人々を守るため、権力者たちによるキリストの逮捕に手を貸します。

キリストは逮捕されたといっても別に盗みや殺人を犯したわけではありません。「神の子」を名乗ってるだけです。普通なら「おかしなことを言って人々を惑わせるな」でムチ打ちとかで済むはずだったのですが、権力者間の責任の押し付け合い、責任転嫁のせいであれよあれよという間に十字架にはりつけられることに。そして思い余ったユダは...。

何だかいつの時代も世界中のどこでも変わんないねえ、というお話です。ユダとキリストの間に同性愛的な雰囲気が漂い、見方によってはマグダラのマリアを加えての三角関係のお話とも取れます。

今でこそ「ジーザス・クライスト・スーパースター」はミュージカルの名作としての評価を確立していますが、発表当時は「神への冒涜だ!」と大変なバッシングを受けた作品です。だから「俺はアンチ・キリストだ」「教会は犬(Dog)をさかさまにしただけの God に祈りを捧げる場所」と歌ったジョン・ライドンを選んだのも、当然といえば当然の成り行きです。

今回、我らがジョン・ライドンが演ずるのは傀儡(かいらい)のユダヤ王、ヘロデです。出番は少ないのですが、このミュージカル一番の憎まれ役です。ビデオは2000年の映画版、リック・メイオールのヘロデ王ですが、これをジョン・ライドンが演じるとどんなことになるのか、すごく楽しみ。

(2014-06-07追記)このミュージカルは残念なことに中止になってしまいました。
神様ってのはそういう者を愛するんだろ? - ジョン・ライドン出演のジーザス・クライスト・スーパースター、全公演中止

2013/11/23

俺は分泌物なんかじゃない (セックス・ピストルズ - Bodies)

A photo by sparkleplen_t on Flickr.

ちょっと遅くなってしまいましたけど、ジョン・ライドンの BMI Icon 受賞を祝して、セックス・ピストルズ時代の曲についてひとつ書きます。

セックス・ピストルズ(Sex Pistols)のコンサートで一番の大合唱になる曲はどれでしょう?God Save The Queen?Anarchy in the UK?それともPrettyVacant?うん、どれも一緒に歌う人はたくさんいるけどね、違います。曲が始まるやいなや会場を揺るがす怒涛のような大合唱が起きる曲は Bodies です。

どれほどの大合唱なのかというと、観客が歌ってるバージョンがピストルズの公式ライヴ・レコーディングになるほどです。日本ではライヴ・アルバム「FilthyLucre Live」に Buddies(相棒ども)というタイトルで収録されており、イギリスの場合はシングルのB面としてリリースされています。

Bodies は生きてる人間の体じゃなくて死体という意味です。何の死体かというと胎児の死体です。そして曲のテーマとして取り上げられているのは中絶、堕胎、abortionです。この曲を書いた当時のジョニー・ロットン(Johnny Rotten)はまだハタチかそこらでした。

ハタチかそこらの若いあんちゃんが堕胎をテーマに歌をつくった?しかもそれが何十年も歌い継がれるようなアンセムになった?そんなどう考えてもあり得ないようなことを現実のものにしたのがセックス・ピストルズであり、ジョニー・ロットンという人です。

一方この曲の歌詞をただ単に人口中絶をした尻軽女を(さげす)んでいるだけのものと受け取っている人も多いようですがそうではありません。ジョニー自身はこの曲について次のように言ってます。

俺はまだ幼いうちから現実というものを受け入れるしかない環境にいたんだ。俺が住んでいたのは便所が外にある二部屋しかない家だった。その家で母親が流産したんだ。もちろん母親を責めるつもりはないが、生まれていれば俺の弟か妹になって一緒に遊んだかもしれないものを、俺は片付けてトイレに流さなくちゃならなかったんだ。それがどんなにショックなことかわかるだろ。

俺は中絶反対派でも賛成派でもない。だが女性は自分で生むか生まないかを選択できるようにすべきだ。でも当時の生活はテレビドラマの"Steptoe & Son"をさらに醜悪にしたような世界だった。それでもあんたがあの曲を中絶反対の歌だと思うんなら、あんたは哀れなオマン...じゃなくてソーセージ野郎だ。

The Q Interview - I want to take the Sex Pistols to Iraq!

観客のひとりひとりが歌詞の内容を深く考え、感銘を受けて歌っているなんてことはあり得ません。そのサウンドと声と、言葉の断片からある種の悲しさとか怒りが自分の中にも湧き起こってきて、歌わずにいられないんです。

中絶したことがある人も、したことない人も、絶対しない人も、これからするかも知れない人も、恋人に中絶を求めたことがある人も、妻が黙って中絶したのに全然気付かなかった人も、よくわからない人もみんな一緒になって腹の底から歌います。Bodies です。聴いてください。

バーミンガム生まれの彼女は
赤ん坊を堕ろしたばかりで
精神病だった
彼女の名前はポーリン
森林破壊阻止を訴えて木の上に住んでいた

自分の赤ん坊を殺したどこにでもいる女
彼女は田舎から何通も手紙を送りつけてきた
だけどあいつは動物だった
最低の恥さらしだった

死体 - 俺は動物じゃないのに
死体 - 俺はケダモノなんかじゃないのに

工場の作業台の上で掻き出される
違法な堕胎が行われる場所
便所に置き去りにされた小さな包みの中で
小さな赤ん坊が叫びを上げながら死んでいく

死体が叫ぶ - こんなひどい扱いってあるかよ
俺はケダモノじゃないのに
これが中絶というやつなんだ

死体 - 俺はケダモノじゃないのに
ママ - 俺は出来損ないなんかじゃないのに

ピクピクと体を痙攣させ
喉をゴボゴボ鳴らして呪いの言葉を吐く
俺は分泌物なんかじゃない
排泄された蛋白質じゃない
ピクピクの痙攣なんかじゃない

あれもこれも糞くらえ
糞くらえなガキは糞を食え
彼女はあんな子ども欲しくないんだ
俺はあんな子ども欲しくないんだ

死体 - 俺はケダモノじゃない
死体 - ワタシは出来損ないなんかじゃない
死体 - ボクはケダモノじゃない
死体 - 俺は出来損ないじゃないのに

ママ...

2013/10/17

ジョン・ライドンが BMI London Award 2013 の BMI Icon 受賞

「俺はアイコンなんかじゃない、ジョニーキャン、アイキャンだ」

10月15日、ロンドンで2013年 BMI London Awards の授賞式が開催され、我らがジョン・ライドンが BMI Icon 賞を受賞しました

「BMI、何それ?デブの人のベストドレッサー賞?」と思う人がいても無理はないんですが、違うの。BMI ってのは Broadcast Music, Inc. の略で、音楽が放送やコンサートでの使われたときの著作権使用料を徴収するアメリカ本拠の非営利団体です。日本でいえば JASRAC みたいなもんです。

で、BMI Icon 賞ってのは「ある世代の他の音楽家たちに多大な影響を与えた類い稀(たぐいまれ)なソングライターに与えられる」もので、これまでにレイ・デイヴィスやヴァン・モリソン、ブライアン・フェリーなど錚々(そうそう)たる面々が受賞しています。ジョン・ライドンはそのような「ソングライター」のひとりとして選ばれたわけです。

以前 Rock and Roll Hall of Fame にセックス・ピストルズが選ばれたときは「俺たちがロックの殿堂入りを喜んで、2万5千ドルも払ってディナー・パーティに出席すると思ってんのか、バーカ」と言って授賞式に出なかったんですが、今回はたいへん喜んでいて UK ツアーの最中にも関わらず PiL のメンバーや妻のノラと一緒に出席しました。

審査員たちはほかの無難なやつを選んどけばいいものを、あえて俺の業績に注目してくれたんだぜ。俺からすれば、それがすごく大切なことなんだ。

俺は賞なら何でももらうってタイプの人間じゃない。この賞をもらうことにしたのは、それが俺にとってものすごく意味のあるものだったからさ。

あいつら(BMI)は俺たちに金が入るように日夜戦ってくれてるんだぜ。胸がアツくなるよ。

John Lydon honoured at BMI Awards

著作権といえば、普通バンドとして活動している場合でも著作権者としてクレジットするのは直接作詞や作曲に関わったメンバーの名前だけです。これがメンバー間の収入の差となって、後々関係がギクシャクするというのはよくあることです。

セックス・ピストルズやジョン・ライドンがそれまでの常識を破って始めたことは山ほどあるんですが「レコーディングに関わったメンバー全員の名前をソングライターとしてクレジットする」というのもそのひとつです。ピストルズがレコードを出した当時そんな例はほとんどなかったもんだから、みんなレコードを見て「あれ?曲のクレジットにメンバー全員の名前が書かれてる!」って驚いたものです。

後続のパンク・バンドもこぞってこれを真似したんですが、その意味を理解したのはずっと後になってからのはずです。今ではジャンルを問わず、色んなバンドが曲のクレジットにメンバー全員の名前を載せるようになりました。こんなところでも、後のバンドに大きな影響を与えてるんですよ、ジョン・ライドンという人は。

BMI のサイトでは著作権者のクレジットが検索できるようになっていて、たとえばシド・ヴィシャスがベースを弾いている「Bodies」という曲にはちゃんと本名の John Simon Beverleyでソングライターとしてクレジットされていることが分かります。今でもこの曲がラジオなどで流れる度に彼(の遺族)にお金が入るわけです。

ところで BMI 授賞式のニュース、NME を始めイギリスの商業音楽サイトにはなぜかほとんど取り上げられていません。同じイギリスでも先のインタビューを掲載した Evening Telegraph など一般のニュースサイトでは報じられているのに、商業音楽ニュースサイトはほぼ無視です。

理由はよくわかりませんが、どうやら BMI がアメリカ本拠の団体なのでイギリス音楽ギョーカイ的には取り上げたくないみたいですね。アメリカの著作権管理団体なのにロンドンにも拠点を置いて BMI London Award みたいに派手なイベントをやってるわけです。音楽著作権流通のグローバル化を見据えてイギリスでもアピールしたい BMI、「ここは俺の縄張りだぞ、入ってくんな!」というイギリス側、という構図なんじゃないかな。知りませんけど。

一方のアメリカ側は Rolling Stone が BMI Icon 賞、授賞式直前インタビューを掲載しています。

2013/05/11

パンクってのは愛のことだ! (Public Image Ltd Live in Sydney)

PiL Sydney Concert

みなさんお待ちかね、先月4月10日にオーストラリアのシドニー、エンモア・シアターでのパブリック・イメージ・リミテッド(Public Image Ltd)のライヴ映像が Moshcam で公開されました。全17曲、2時間強のライヴすべてがおうちで誰もが無料で観られるんです。しかもその映像と音は、共にこれまでの PiL のライヴ・ヴィデオの中でも最高の品質なんです。これを幸せと呼ばずに何と呼びましょう。

3月末から始まった今年の PiL ツアー、オーストラリアは中国、日本に続いて3カ国目です。PiL が最後にオーストラリアでコンサートをしたのは1989年のことですから、実に24年ぶりのオーストラリアということになりますが、映像を見てわかる通り、前回のコンサートのときにはまだ生まれていなかったような若いファンもたくさん集まっています。

ついでなんでこの Moshcam というサイトについて説明しておきましょう。Moshcam は様々なアーティストのコンサートをインターネット上で配信しているオーストラリアの会社です。2007年の設立で、最初はもっぱらシドニーでのライヴを撮影して配信していたんですが、どんどん勢力を伸ばして最近はロンドンやニューヨークなど他の都市でのライヴまで配信するようになっていて、数百本の高品質ライヴ映像を無料で配信しています。日本にはなかなか来ないようなバンドのライヴもここで観られます。

だけどそんなことしてこの会社はどうやって稼いでるんだろう?すみません、その内情はよく知らないんですけど、どうやら Goole TV や hulu などにコンテンツを販売して利益を得ているみたいです。このためよくある映像サイトみたいにうるさい広告に煩わされることがありません。

しかしちょっと前までは時間帯によって映像や音が途切れたりすることがよくあったんですが、最近コンサート映像を moshcam.com のほか YouTube でも提供するようになって負荷が分散されたためか、ネットワークの回線面も改善されてきたようです。

ということで PiL のライヴは moshcam.com と YouTube、どちらでも好きな方を選んで楽しむことができるのですが、若干使い勝手に違いがあります。moshcam.com の方は広告が入らないし、曲と曲の間の切り替わりがスムーズなのでコンサートを通して楽しみたいときにはお勧めです。ただし Flash が使われているため iPad や iPhone では観られません。一方の YouTube は iPad/iPhone も大丈夫で回線に合わせて映像品質を選べるのがメリットなんですが、曲毎にぶつぶつ途切れることと広告がうるさいのが欠点です。

私はまだ試していないんですが、iPad/iPhone には専用のアプリが用意されているので、そっちを使った方が快適かもしれません。

PiL のコンサート内容については観ていただければわかります。あえて説明はいたしません。お楽しみください。ジョニー・アンド・ザ・ボーイズ、渾身のライヴです。ジョニーの「パンクってのは愛のことだ! (Punk is Love!)」という言葉で幕を開けます。

2013/04/20

常識的に考えれば PiL の曲を聴いて「楽しい」という人はどうかしてます (Public Image Ltd 2013-4-5 東京 SHIBUYA-AX)

この4月5日東京 SHIBUYA-AX で PiL のライヴを観てきました。最新アルバム「This is PiL」のリリース後、初めての日本でのライブです。感想ですか?ええと、細かいことはよくおぼえてないけど、すっごく楽しかったです。

わかってるよ、何だよそれ、その保育園児が遠足行ってきたみたいな感想は、って言いたいんだろ。仕方ないじゃない、本当なんだから。でもさ、保育園で初めて遠足行ったときくらい楽しかったこと、最近あったか?楽しさを甘く見てもらっちゃ困るな、大切なことなんだぜ。

2011年の PiL 復活ライヴの評判は「かっこいい!」「チャーミング!」「すごい声!」でした。今回の来日ではさらに「すっごく楽しい!」が加わったのです。30年以上ずっとメタルボックス聴き続けてるおっさんも、たまたま招待券もらって PiL って何なのかよく知らないのにライヴに来ちゃった女の子も一緒になって「楽しい!」って踊ってました。

常識的に考えれば PiL の曲を聴いて「楽しい」という人はどうかしてます。神の名のもとに行われる殺戮を歌った Four Enclosed Walls、首にまとわりつき振り払えない悪夢を歌った Albatross、くだらない記憶ばかり頭にため込んで年老いていく男の歌 Memories、危篤の母親が苦しみ死を迎える様を歌った Death Disco、お互いの無理解による別離を歌った Flowers of Romance に、アパルトヘイト下での拷問や抵抗を歌った Rise 等々、どれも普通の楽しさとは正反対の歌ばかりです。

でも楽しいんです。信じられませんが、信じられないほど楽しいんです。別に日本人の観客が英語の意味がわからないからじゃないよ。英語圏の観客だっておんなじ反応をしています。理由は簡単です。エネルギーです。悲惨だったり深刻だったりする歌詞の内容とは裏腹にジョン・ライドンの声、PiL のサウンドにそれらをものともしないエネルギーを感じるからです。そして、自分の中からも同じエネルギーがわき起こってくるのが感じられるからです。だからみんな Death Disco でジョン・ライドンが泣き叫ぶように歌う中、涙を流しながら楽しそうに踊るんです。うん、端からはすごく変に見えても仕方ないと思う。

今回の PiL 来日コンサート、行きたくてもどうしても都合がつかず行けなかった。あるいは知らずに見逃してしまったという人も多いことでしょう。そんな人に朗報です。日本でのコンサートの直後に行われたシドニー公演の模様が Moshcam で公開されることになっています。公開の時期はたぶんゴールデンウィーク明けぐらいだと思います。楽しみに待っていてください。そして、来年か再来年、次回の PiL 来日は決して見逃さないように。一緒に「俺たちはここにいるぞ! (Here We are !)」って叫びましょう。

(2013/05/11 追記)
Moshcam で PiL のコンサート・ヴィデオが公開されました

2013/04/08

PiL (Public Image Ltd) JAPAN TOUR 2013 4/6(土)東京 SHIBUYA-AX

PiL (Public Image Ltd) JAPAN TOUR 2013 4/5(金)東京 SHIBUYA-AX

PiL (Public Image Ltd) JAPAN TOUR 2013 4/3(水)大阪 なんばHATCH

PiL (Public Image Ltd) JAPAN TOUR 2013 4/2(火)名古屋 CLUB DIAMOND HALL

2013/03/31

PiL のライヴとアイルランド流の楽しみ方

John Lydon, PIL, The Opera House
John Lydon, PIL, The Opera House, a photo by PJMixer on Flickr.

現代の社会生活、特に学校とか仕事の場において感情をあらわにすることは良くないこととされています。人前で派手に怒ったり、泣いたり、笑ったりは控えなくちゃならないことになっています。感情を抑えて人とつき合ってます。でもじゃあみんな一体どこで感情をあらわにしてるんでしょう。

感情というのはひとりだけじゃ生まれません。少なくとも自分じゃない別の存在を感じて初めて感情というものが生まれます。親しい間柄ならお互い怒って怒鳴り合ったり、一緒に泣いたり笑ったりもできます。お互いが信頼できる間柄じゃないとなかなかできません。さほど親しくない人を相手に怒鳴ったら、簡単にその関係が壊れてしまうからです。涙と鼻水をたらしておいおい泣く姿だって親しい人じゃないと見せられないし、本当に親しくないと一緒に心から笑って楽しむことなんてなかなかできません。

感情というのは人間が生きる上でとっても重要なものなんですが、会社や学校での生活では何だか「抑え込め」「我慢しろ」と言うばかりで「それはとっても大切なものなんだからちゃんと吐き出すべきものなんだよ」という人はあまりいません。

人が幸せかどうかをどうやって測るのかは難しい問題です。衣食住足りて、仕事もお金もあるのに幸せを感じられない人は世界中にごまんといます。ですがひとつ確実に言えるのは感情をあらわにできる、信頼できる誰かが身近にいるかどうかというのは幸せの大きな要素です。人間生きていれば誰にでもつらいことや悲しいことがあります。それがいかに不幸で苦しいことであろうと、そのとき誰かと一緒に心から泣いて悲しむことができるのであれば、それはとっても幸せなことです。

セックス・ピストルズの時代からそうですが、ジョン・ライドンの歌は不思議なかたちで人の感情にはたらきかけます。怒り、喜び、悲しみ、普通はそれぞれ別に分かれているはずの感情がごっちゃになって押し寄せてきます。たとえば PiL の代表曲「Death Disco」、この曲は癌で死を目前にした母親のことを歌った曲です。ジョンは本当に泣き叫ぶようにして歌います。ですが、ライヴでこの曲が始まるとなぜかそうした意味がすべてぶっ飛び観客はみな狂喜乱舞します。

ジョニー自身はこれを結婚式で泣いて、葬式で大笑いするアイルランド流の楽しみ方だと言っています。そう、みんなで悲しめるというのはとても楽しいことなんです。信じられない?だったらぜひ PiL のライヴへ行って実感してみるといいよ。

たとえばイスラエルの人々に「アッラー」と合唱させる、そんなこと普通常識的に考えてできることではありません。不可能です。ところが信じられないことに2010年、現実に彼はにそれをやってのけているんです。理屈ではなく、イスラエル人が一緒に歌わずにいられない感情を彼は引き出したのだと思います。

理屈ばかりじゃなく、みんなもっと感情、エモーションの力を信じた方がいいよ。

俺は動物の声を怖いとかうるさいとか思ったことはない。子どもの声も同じだ。子どもたちが遊んだりはしゃいだりしてる声を煩わしく感じたことは一度もない。不思議なことに子どもの声は PiL が表現してるものと同じだからさ。さらに不思議なことに PiL はなぜか子どもにすごくウケる、それも同じ理由なんだ。

心底誠実であることが素晴しい成果を上げたってことさ。俺は本当のことを率直に伝えること、そして俺を育ててくれた階級や文化、俺が信頼するもの、そして誠実さに対する愛を表現することに力を注いできたんだ。子どもは嘘つきが嫌いだからな。

子どもは大人の嘘をすぐに見抜く。まあ大人も子どもが嘘をついたらすぐにわかるけどな(笑)。だが子どもは嘘をついてるんじゃない、遊んでるだけだ。そうだろ?子どもは障壁を乗り越えるんだ。それが素晴しいんだ。実際俺の心にもそういう子どもっぽいものが残ってる。無知じゃないぜ。純粋なんだ。現実の世界がどうであろうと、惑わされたりしないんだ。

アルバムの中にエデンの園へ帰ろうって歌がある。宗教からいただいてきた言葉だが、友人や近所の人、親戚みんなが話しかけてくれる素晴しい場所を観念的に表現してる。俺が子どもの頃住んでいた場所は実際そんな感じのところだった。だが昔のことを懐しんでるだけじゃなく、今の社会に生きるみんなにもそうあり続けてほしいと願ってる。

PiL のギグは楽しいイベントなんだ。敵は誰もいない。みんなお互い友達になるために集まるんだ。子どもを連れて来るといい。PiL のギグなら安全だ。じいちゃんばあちゃんも連れて来てくれよ。きっとみんな気に入るぜ。

SmartShanghai Interview: John Lydon

PiL の曲をエモーショナルに楽しむというのは、たとえばこんな感じです。

(注) ジョニーは「子どもを連れて来るといい」と言ってるんですが、この4月の PiL 東京ライブの会場 SHIBUYA-AX は「未就学児(6歳未満)のご入場をお断りさせていただきます」だそうです。けしからんです。コンサートって花火大会なんかと同じ娯楽だよ。子どもの入場を断る花火大会なんてあり得ないでしょう。

2013/03/30

PiL の Xfm スタジオ・ライヴがダウンロードできるようになってました

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Lu Edmonds at the Royale, Boston, 10-15-2012, a photo by xrayspx on Flickr.

昨年ロンドンの FM ラジオ局 Xfm で PiL のスタジオ・ライヴが放送され、そのときの演奏が Web で聴けるようになってることは以前紹介した通りなんですが、さっき聴き直そうとしていて各曲のファイルがちゃんとダウンロードできるようになってることに気付きました。

普通 Flash のインストールされた PC の Web ブラウザで Xfm Sessions - Public Image Ltd のページにアクセスして曲の Listen マークをクリックスするとプレイヤーのウィンドウが開いて曲が聴ける仕組みなんですけど、これ実はストリーミングじゃなくてファイルのダウンロード再生なんですよ。たまたま Flash が無効になった状態でこのページにアクセスしたところ、Flash が使えない人用にファイルダウンロードのリンクが表示されることがわかりました。

ファイルは MP3 と M4A の2種類が用意されています。「Flash ってどうやれば無効になるの?やり方わかんない」という人のために、ダウンロード用のリストを作成しておきました。MP3 か M4A、好きな方を右クリックして「リンク先を別名で保存」とやれば PC に保存されます。

  1. One Drop (MP3 / M4A)
  2. Out of the Woods (MP3 / M4A)
  3. Reggie Song (MP3 / M4A)
  4. Deeper Water (MP3 / M4A)

何れも「This is PiL」に収録されている新しい曲です。ラジオのスタジオでの一発録りですが、ジョニーが「アルバム This is PiL のレコーディングはほとんどライヴのようにおこなった」という言葉が嘘じゃないとわかる素晴しい演奏です。特にルー・エドモンズ(Lu Edmonds)のサズの細かなワザがよおく聴こえます。

これを聴きながら来週のコンサートを楽しみに待ちましょう。

英語がわかんないからって気にすることない。俺もよくわかんねえんだから (PiL China 2013)

摩登天空新年钜献 后朋克传奇乐队PUBLIC IMAGE LTD双城记

今年の PiL のツアーが今夜、北京でのコンサートから始まります。来週には日本にやってきます。比較的暖かい日が続くようですが、ぎりぎりになって風邪をひいたりしないよう、お家に帰ってきたら必ずうがい、手洗いを忘れないでください。早寝、早起き、万全の体調でジョニーとその仲間たちを迎えましょう。

さて PiL のツアーの始まりは中国、北京と上海でコンサートをするんですが、日本同様、西洋とは大幅に異なる文化を持ち、つい最近まで文化的な交流が強く制限されていた国でのコンサートということで、現地ニュースサイトの取材を受けたり、ジョニーはすごく張り切ってキャンペーンをしていて、YouTube には PiL Chna 2013 という専用リストまで設けています。だけど中国から YouTube へのアクセスって制限されてるんじゃなかったっけ?

中国の現在の物価水準からすると 普通の人にとって PiL のチケットはものすごく高価なもののようです(日本だと2万円以上するくらいの感じ?)。観に行ける人はかなり限られるんでしょうけど、今回ジョニーのパフォーマンスを観る人の中から将来の中国のキーパーソンが生まれることは間違いありません。

どういうわけか、きわめて不思議なことに俺の歌詞はすべて(中国)政府に承認されたんだ(笑)。きっと俺がすごく正しいことを言ってるって認められたんだな。さすがは西洋の国にはできなかったたくさんのことを成し遂げてきた国だ。こんなにオープンに歓迎されてゾクゾクする。最高におもしろい。人生最高の経験になりそうだ。

西洋の国の人間は中国を自分たちと違う、よそ者として見てる。だが俺はその中国の、政治家じゃない普通の人々に会いに行くんだ。そしてその人々のために演奏する。

俺たちが本当に興味を持っているの今の中国の政治状況なんかじゃなく、中国の文化を築き上げてきた人々の方なんだ。俺は子どもの頃学校で孔子について学んだ。みんな学んでるんだぜ。だから俺たちが中国に対して持ってる印象は、ここ70年くらいの政治状況によるものじゃなく、何百年もの間世界中にポジティブな影響を及ぼしてきた中国の方なのさ。

かつては障壁があり、俺たちは中国に行くことができなかった。だがその障壁は今や崩れ落ちた。だが俺たちにこれからの中国をどうしたらいいかなんて話を期待しないでくれ。俺たちをエルトン・ジョンと一緒にするなよ

あいつはものごとを一方からばかり見て、両面から見ようとしない。そうじゃないか。あいつはいつも同性愛者としての視点からしかものを言ってない。だから狭くて偏狭な見方になるんだ。俺はいかなる人種、宗教的、政治的信条、性的傾向も受け入れる、かまわない。人間の中に俺の敵は誰ひとりいない。なのに政治的勢力というやつは俺に難癖をつけてばかりだ。だが一方で、中国政府は俺の歌詞をチェックして、俺が何を主張し、何のために中国に行くのか認識した上で、見事許可を出した。中国とっていいことじゃないか。

中国はずっと文化的に俺の興味を引いてきた国だし、これからも引き続けるだろう。だがその中国は現代の世界に扉を開き、PiL を受け入れたと同時に西洋の生活様式も受け入れようとしている。だから西洋の考え方に染まらないうちに、それが問題だらけなんだと言っておく。西洋と同じやり方をしていくと、西洋と同じ問題に次々と遭遇する。西洋が提供するものを鵜呑みにするな。おかしなものがたくさん混ざってる。ただし西洋には PiL がいる。こっちはすごくいいものだから素直に受け入れていい。

俺が今の中国について何か見て知ってることと言えばネットの Google マップで見たものくらいさ。ただそれもスモッグで覆われててほとんど見えなかったんだけどな(笑)。

ものすごい楽しみだよ。何も知らないからさ。何も知らない赤ん坊のような状態で中国へ行くんだ。だからやさしくしてくれよ。友達になってくれるよな。中国人は歓迎してくれるよな。素晴しい機会なんだ。俺はこの機会を絶対無駄にしたりしない。だからみんなも無駄にしないでくれ。

SmartShanghai Interview: John Lydon

John Lydon: Message for China - 「英語がわかんないからって気にすることない。俺もよくわかんねえんだから」

2013/03/12

日本のライヴ会場は凶暴なくらいポジティヴなエネルギーに溢れてる - PiL 来日記念盤「レジー・ソング/アウト・オブ・ザ・ウッズ」

Reggie Song / Out of the Woods

ジョニー・アンド・ザ・ボーイズ、PiL の来日がいよいよあと3週間後に迫ってまいりました。みなさんいかがお過ごしでしょうか。コンサート近くになってから風邪をひいたり、お腹をこわしたりしないよう体調には充分気を付けましょう。

さてこの来日タイミングに合わせて EMI Music Japan から来日記念盤「レジー・ソング/アウト・オブ・ザ・ウッズ」がリリースされます。明日、3月13日の発売です。

イギリス、アメリカでは昨年の10月に発売されたシングルというかミニ・アルバムなんですが「This is PiL」からの2曲のほか、2010年ニューヨークのライヴ5曲が収録されています。全部で47分もあるので実質普通のアルバムと変わらないのですが値段は1500円という特別価格です。

PiLの国内盤が出る、出ないはとっても重要なんです。音楽のダウンロード販売や聴き放題サービスがあまり普及していない日本の子供たちはTSUTAYAが頼りです。健全な青少年の育成は近所のTSUTAYAにPiLがあるかないかに大きく左右されます。

現在の PiL は大手レコード会社とは契約せず、自前のレーベル PiL Official から 作品をリリースしています。世界各地での販売はそれぞれの国の販売会社と契約を結んでおこなっているんですが、EMI グループ企業で PiL の CD を販売してるのは唯一日本だけです。

EMI Music Japan の中の人、CD が売れなくて厳しい中がんばってるね。ジョニーも喜んでるよ。つい先日のインタビューでも EMI Japan は特別だって言ってたよ。

日本人は精神的な自由を持ってる。あんな狭い島に住んでるんだから、物理的な面で日本人は社会的に強い制約の中で生きている。物理的な制約と過密状態から生まれる様々な問題の中で何とかやっていかなくちゃならない。それが逆に日本人が頭の中で世界を広げるチャンスになったんだ。

PiL のすごく実験的な面、(1981年の) Flowers of Romance みたいなアルバムだって日本ではちゃんと評価してくれた。ヨーロッパやアメリカのレーベルはリリースさえ嫌がっていたのに、日本では発売翌週になんとチャート入りしたんだぜ。

たしかチャートの8位じゃなかったかな。ものすごい元気付けられたよ。お陰で(ヨーロッパやアメリカの)レーベルの連中に「このアルバムが売れないだって?生憎もう売れてるんだよ!」って言えるようになった。

日本でのショーはこの上ない最高のものにしたいと思ってる。俺はそれが目的でやってるんだ。みんなから金をふんだくるためのショーじゃない、みんなと何かを分かち合うためのショーなんだ。

俺は幸せもんだよ、また日本に行けてものすごくうれしい。日本でやるギグの雰囲気は大好きなんだ。凶暴なくらいポジティヴなエネルギーに溢れてる。それに EMI Japan は俺たちにずっと、ちゃんと敬意を持って接してくれてる数少ないレーベルのひとつがなんだぜ。他の国の EMI ではあり得ない。日本だけのことなんだ。ニホン・イチバン(笑)。

Tokyo Weekender - Q & A: John Lydon

2012/12/22

1977年のクリスマスとセックス・ピストルズ

a cake with Sex Pistols written on it, the size of a car bonnet

最近、アメリカなんかでは「メリー・クリスマス」って言っちゃいけないそうです。世の中にはキリスト教だけじゃなくユダヤ教やらイスラム教やら創価学会やら色んな人がいるので「ハッピー・ホリデイズ」というのが政治的に中立で正しいということになっているそうで、街の看板やらテレビ CM などはみんな「ハッピー・ホリデイズ」になっているそうです。

ずいぶん昔に「宗教とまるで関係のない楽しいクリスマス」を確立してしまったわたしたち日本人からすると「いいじゃない、そんなに目くじら立てなくてもみんなで楽しめれば」って思うのですが、そうもいかないようです。この調子でいくと、2050年頃には「メリー・クリスマス」って言ってるのは日本人だけになっているかもしれません。いや、でもね、色んな宗教とか神様を差別せずに寛容に受け入れられる日本の文化というのは誇るべきものだと思うよ。

なんで日本人は色んな宗教に寛容なんだろう?それはですね、わたしたち日本人が今でも原始的な祖霊信仰の世界に生きてるからなんだと思います。日本人の大半は仏教徒だなんてよく言われていますが、仏教のことを調べてみると現在日本で仏教と呼ばれているものは元のゴータマ・ブッダの仏教とはまったくの別物であることがわかります。日本の仏教は土着の祖霊信仰と合体して日本独自のものに変貌を遂げています。

嘘だと思ったらそのへんのじいちゃん、ばあちゃんに「ホトケ様」と言って何を思い浮かべるか、尋ねてみるといいよ。ほとんどは家の仏壇とかに祀ってる亡くなった家族やご先祖さまのことを思うはずだから。日本人にとってのホトケ様というのは、ゴータマ・ブッダよりもまず自分に近い祖霊のことなんです。この祖霊信仰、現在も色濃く残っているがゆえに「色濃く残っている」ということがあまり意識されていません。

だってそうでしょう、普段「宗教?神様とか仏様とか、俺はそんなの関係ないなあ。考えてみたこともない」って言ってる人が「そういえば、親父の墓参り、もう何年も行ってないなあ」なんて言っても、誰も変に思わないでしょう?むしろそういう人が今の日本人の主流です。この墓参りに行けなくて何となく後ろめたく、申し訳なく感じる気持ち、これを祖霊崇拝と呼ぶのですよ。

だからホトケ様といえばまず死んだ親父とかばあちゃんのこと。もちろん自分ちだけじゃなくよその家にもホトケ様がいて、ホトケ様の世界にも序列とかがあって、そん中で一番エラいのがゴータマ・ブッダ=お釈迦様ってのが日本のごく普通の仏教です。

だからわたしたちにとってキリストというのは西洋のエラいホトケさんで、アッラーといえば「ほう、イランとかイラクではそういう名前のエラいホトケさんがいるんかい」という調子で、だからすべての神様を簡単に受け入れることができるんです。「メリー・クリスマス」だって「たまには西洋のホトケさんのお祝いをしたって別にバチは当たらんだろ」でオッケーなんです。

しかしながら世界には唯一のホトケ様しか信じられないという人が結構な数を占めているため、そういう人たちに対してわたしたち日本人はこれからも「まあまあ、メリークリスマスくらいで、そんなに目くじら立てなくても」と(なだ)めていかなければならない使命を負っているのです。

イギリス人のジョニー・ロットンもわたしたちと同じように「唯一絶対のホトケ様しか認められないなんてナンセンスだ」という考えを持っているようです。彼は「Religion」という曲でキリスト教世界を批判し、「Four Enclosed Walls」という曲をイスラエルで演奏して「アッラー」というフレーズをユダヤ人の聴衆に合唱させるなど数々の偉業を成し遂げてきました。彼はクリスマスをどう思ってるんでしょう?彼の考えは明快です。子どもたちからケーキとサンタを取り上げるな、取り除くべきは宗教の方だ、です。

子どもの頃、クリスマスがどんなに楽しみだったかおぼえてるか?子どもたちはクリスマスが大好きなんだ。だから絶対にクリスマスを厄介なものにしちゃいけない。クリスマスから宗教的な意味を取っぱらえばいいんだ。

John Lydon predicts anarchy in the UK for 2011: "Riots are a good sign"

1977年のクリスマス、イギリス、ウエスト・ヨークシャー州ハダーズフィールドの消防士たちは待遇の改善を求め、約3ヶ月にもおよぶ長期ストライキの真っ最中でした。当時の詳しい状況はよく知らないのですが、そこまでやるからにはよほどのひどい労働環境だったはずです。一方、消防士という仕事の性質上、ストライキに対する社会的な圧力もハンパなものではなかったはずです。

ストライキの間、消防士たちには給料が支払われずその家族は窮乏状態のままクリスマスを迎えることになったのですが、そこに手を差し伸べたのは我らがセックス・ピストルズでした。昼間のナイトクラブを借り切ってクリスマス・パーティーを開催、送迎バスをチャーターして消防士の子どもたちを招待したのです。

当時そのパーティーに招待されたクレイグとリンジーという名の二人がその思い出を語った2004年のインタビューが BBC のサイトに載っていたのでご紹介します。

クレイグ: お金は全部ピストルズが出してくれたんだ。会場へ行くとそこはお菓子やレコードがいっぱいあって、どれでも好きな物がもらえたんだ。10歳くらいの子どもたちが Never Mind The Bollocks (知ったことか、くそったれ!)って書かれたT シャツを着て走り回ってたよ。子どもがいっぱいで大騒ぎだった。

リンジー: 何もかも、本当にびっくりだったわ。テーブルにはザクロやオレンジなんかの果物でいっぱい。彼らはわたしたちのために、本当に夢みたいなものを用意してくれたの。

その年のクリスマスは、わたしたち消防士の子どもがたくさんのプレゼントをもらえるなんて、本当ならあり得ないことだったのよ。すごく大変な時期だったの。クリスマスには家族で集まってプレゼントをもらうのが楽しみだからみんないい子にしてたんだけど、両親は労働争議の真っ最中で、給料も支払われていなかったから...。

クレイグ: ...あれで親父の肩の荷が下りたんだと思うな。「そうだな、(ピストルズのパーティに)行かせた方が、子どもたちは楽しく過ごせるのかもしれないな」って考えたんだと思う。もしあのクリスマスを家で迎えていたらって考えると、やっぱりあそこへ行って良かったんだと思う。

リンジー: それまで見たこともないような光景だったわ!

クレイグ: ピストルズの4人が出てきて「Holidays In The Sun」を演奏したんだ。シド・ヴィシャスが子どもたちに向かって唾を吐いたもんだから、ジョニーは「止せよ、いつものファンとは違うんだぜ。みんな小さな子どもじゃないか」なんて言ってた。ジョニー・ロットンはこういうのが大好きみたいだった。すっごく楽しそうで、ケーキに頭から突っ込んだりしてた。指についたクリームをなめながらみんなにケーキを勧めてたんだけど、終いにはみんなに髪の毛をクリームまみれにされていたよ。

家に帰ったときはバッジやステッカー、T シャツやら LP レコードやら、おみやげでいっぱいだったことを憶えてるよ。でもしばらくするとそれは物置行きになって、やがてそのほとんどを母が捨ててしまったんだ。もし今も取ってあったら、ものすごい値打ち物だったのにな。そういえば同じように消防士の親を持つ小さな女の子がいたんだけど、ジョニー・ロットンは自分たちのゴールド・ディスクを皿代わりにしてケーキを乗っけてそのままその子にあげちゃったんだ。その後その子がどこに行ったのか、あのゴールド・ディスクがどうなったのか、もう誰にもわからないんだよ。

当時は親父がどんな問題に直面していたのか、まるで知らなかった。もちろん今ならわかるよ。俺たちもストライキをするからさ。その間、給料は支払われず、請求書だけが回ってくるんだ。今の俺たちのストライキはせいぜい2日くらいですぐに元の状態に戻るけど、親父たちがやっていたのは12週間から13週間にも及ぶ長期のストライキだった。13週間も収入ゼロだったんだ。ものすごくつらい戦いだったと思うよ。もし自分がそんな立場に置かれたらって考えるとぞっとするよ。

リンジー: あれでみんな気が晴れたの。両親に文句を言いたい気持なんか吹っ飛んだわ。最高のクリスマスを過ごせたんだもの。本当に信じられないほどの。

Happy Punk-mas in Huddersfield!

このパーティの模様はピストルズのドキュメンタリー映画「The Filth And The Fury (邦題: No Future)」にもほんの少しだけ映ってます。奇しくもこの日は(1970年代の)セックス・ピストルズがイギリスで演奏をした最後の日となりました。その聴衆がこの消防士の子どもたちだったのです。

みなさんも良いクリスマスが迎えられますように。メリー・クリスマス!

2012/12/08

2013年4月の PiL 来日決定! ジョニーおじさんがやって来る!!

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Public Image Ltd. at the Royale, Boston, 10-15-2012, a photo by xrayspx on Flickr.

何の前触れもなく突然の発表、驚きのニュースです。来年2013年4月、PiL の来日単独コンサートが決定しました! 名古屋、大阪、東京の3ヶ所、その内東京は2回で計4回の公演です。いやあ、このところいつもツアー日程はギリギリまで発表されなかったので、こんなに早く発表されるなんて。心の準備がまだできてないんですけど。

でもこうやって早く日程が決まるってことは、資金的な余裕もできてプロモーターへの信用も付いたってことですから、大変喜ばしいことです。

公式サイトの発表によると、日本に来る前に北京と上海でもコンサートをやるそうです。ジョン・ライドンがいよいよ中国へ進出します。すごいなあ、中国だとどんなコンサートになるのかなあ。きっと PiL なんか聴いたこともないような人がたくさん来てジョニーのパフォーマンスを観て、そこで人生変わっちゃうような人が続出するんだろうなあ。

日本でのコンサートは去年もやってますけど、メインはフェス(サマソニ)への出演だったし、新木場 Studio Coast での単独公演は直前になって決まったものだったから、知らなかった、スケジュールの都合がつかなかったとかで行けなかった人もたくさんいるはず。今度はスケジュール調整する時間もたっぷりあるから大丈夫。お金、体調、スケジュール、しっかり準備して臨みましょう。

「えーっ、ジョニー・ロットンって昔の人で、今はもうデブのおっさんでしょう?そんなの観ても...。」と思ってる人がまだ多いのかもしれません。確かにデブです。もう56歳です。だけど今が全盛期なんです。信じられないくらいカッコ良くてキュートなデブのおっさんです。嘘だと思ったら去年 PiL を観た人たちの感想を読んでみてください。

まだ信じられない?そりゃ自分の目で確かめるしかないね。

今日集まってるのは恥ずかしがり屋ばかりなのか?今日はドキュメンタリーの撮影をしてるんだぜ。みんな気弱なヘタレなんかじゃないってことを見せてやれよ!

2012/11/21

PiL のギグが終わるとみんな楽しそうに笑顔で帰るんだぜ。本当だよ。

PIL
PIL shot at Fun Fun Fun Fest 2012 by Dj Linda Lovely on Flickr.

PiL の北米ツアーは11月3日の Fun Fun Fun Festival で無事終了しました。1ヶ月足らずの間に20ヶ所、連日2時間前後のライヴという超ハード・スケジュールなのに、ツアー直前にジョン・ライドンが風邪をひくというアクシデントが発生、途中で声が出なくなるんじゃないかとすごく心配したんですが、取り越し苦労でした。

ライヴの合間にインタビュー、テレビ出演やらサイン会の数々をこなした上、日を追うに連れて疲れが出てくるどころか、ますます声の出が良くなるというジョニーの超人ぶりを思い知らされました。何で、どうやって、どこからあんな声出てくるの?

残念ながら今年のツアーはこれで終了。日本へは来られませんでした。でも日本だけじゃなく、ドイツやオーストラリア、南米なんか日本以上に長い間ツアーで行ってないから、また来年すぐに動き出してくれるはずです。

もうしばらくレコードや CD で我慢しましょう。ところで PiL の最新シングル「Reggie Song / Out of the Woods」はもう手に入れた?残念ながら国内盤の発売はないけど、輸入盤ショップや Amazon などで簡単に手に入ります。シングルとは言っても CD だとオマケでライヴが5曲も入ってるから、長さはアルバム並みの46分もあります。

そのほかにもネットで観られる/聴ける公式ライヴ音源がいくつか公開されているのでご紹介します。

Xfm Sessions
7月にロンドンのラジオ局 Xfm で放送されたスタジオ・ライヴ。
PUBLIC IMAGE LTD PERFORMS IN THE CURRENT STUDIO
10月にミネソタのラジオ局 The Current で放送されたスタジオ・ライヴ
PiL Live @ The Knitting Factory Reno
10月27日、ネバダ州レノ The Knitting Factory からリアルタイムでストリーミング放送されたライヴ映像。映像はピンボケですが音はバッチリで約2時間のライブ丸ごと観られます。

それから次の来日ライヴへ向けて、ジョニーからライヴの心得。

20年間休んで何をしてたんだって?何も休んじゃいない。レコード会社に破産状態に追い込まれていたんだよ。連中は俺が唯一、最も得意とすること、曲を書くことと人前でパフォーマンスする機会を俺から奪ったんだ。

ただの偏屈オヤジとしてのカムバックしたって意味はない。俺は自分が心から愛してる人間のために、人間の歌を歌いたかったんだ。俺は憎しみをいつまでも腹に抱えてるようなタイプの人間じゃない。そんな人間になるのはまっぴらだ。

俺はたとえ相手が大嫌いな人間だろうと、良く観察してそいつの良い所を見つけ出せる。それが俺のやり方だ。そうやって生きてきたんだ。たくさんの人間が憎悪で人生を腐らせるのをイヤというほど見てきた。時間とエネルギーを絶えずほかの人間を憎むことに費してると、やがて自分で自分を憎むハメになる。別に説教したいわけじゃない。だが俺はそうやって努力しながら生きてるんだ。

ライヴでは思う存分楽しんでくれ。自分自身を満喫するんだ。サウンドにふさわしい自由なダンスというものを理解して、カラダとアタマを解放するんだ。バンドと観客が一緒になって作り上げる最高の空間、この上ない快感だぜ。

俺は PiL を何よりも愛してる。俺たちは2時間目いっぱい、手抜きなしでプレイする。俺たちはみんなを解放するためにステージに立ってるんだ。アイルランド人の宴会とレイヴ・パーティとトルコ人の結婚式とギリシャ人結婚披露宴、そんなのを全部一緒に開くみたいなもんだ。俺たちの音楽は色んなものの融合物だ。俺はこと音楽に関してはチャレンジ精神が旺盛なんだ。恐れることなく突き進む。インプロヴィゼーションが溢れる一方で、ダンサブルでもある。PiL は常に形を変え続けるんだ。

PiL のギグが終わるとみんな楽しそうに笑顔で帰るんだぜ。本当だよ。

Q&A: John Lydon of Public Image Ltd.