John Lydon with Keith and Kent Zimmerman |
タイトルはよくある釣りなのであわてないように。ジョン・ライドンの「No Irish, No Blacks, No Dogs(邦題: Still A Punk - ジョン・ライドン自伝)」、書いたのはジョン・ライドン本人じゃなく別の作家ですが、ゴーストじゃなくて表紙にちゃんと名前が書かれています(上の写真)。ジョン・ライドンや周囲の人たちに取材をしてあの本を書いたのはキース/ケント・ジマーマン兄弟です。
ある人物の生い立ちやらエピソードなど、事実を元に書かれた本のうち、別の第三者が書いたものは伝記(biography)、本人が書いたものが自伝(autobiography)と呼ばれています。だから上記ジョン・ライドンの本は分類上伝記であって、自伝ではありません。
原著のどこにもautobiographyなんて書かれていないのに、わざわざタイトルを「ジョン・ライドン自伝」に変更して、表紙からジマーマン兄弟の名前をはずしてしまったのは日本のロッキング・オン社です。責めたい人はロッキング・オンを責めてください。
少し前、日本でもゴースト・ライター騒動がいくつかありましたが、どうして書いた人の名前の隠すような商習慣があるんですかね?「この本おもしろい。この人が書いた本、ほかも読みたい!」ってなっても、隠してたらわからないじゃない。
一方でロッキング・オンが出した日本語版、翻訳はすごくいいんです。口語が生き生きと訳されています。勉強になります。オラなんか、英語翻訳の教材として今でもよく読み返してます。ところがですね、翻訳者の名前がどこにも書かれていないんです。ひどい。
で、長いこと誰が訳したのかわからなかったんですが、数年前、偶然Amazon のページを見て、竹林正子さんが翻訳したものと判明しました。Amazon は権利関係をデータベースで管理しなければならないため、著者、翻訳者などをちゃんと表示してるみたいです。
今の若い方は知らないでしょうが、昔のロッキング・オンは「俺たちはスターを崇めたりしない。主役はスターじゃなくて、聴き手の俺たちの方だ!」という雑誌だったんですよ。で、英語の歌詞で言ってることもろくに理解しないまま、スタッフが強引な解釈を書きまくってて、逆にそれがおもしろい雑誌だったんです。それがいつから「主役の俺たち」をスターの影に隠すような商売になってしまったかなあ。あ、どれくらい昔かというと、1970年代、ロッキング・オンの値段が280円だった頃の話です。
2014年7月現在、「STILL A PUNK―ジョン・ライドン自伝」は品切れになっていて再版の予定がないみたいなんですが、ロッキング・オンには、諸々の反省を踏まえ、初心に立ち返り、著者名、翻訳者名を正しく表記、さらに大幅にカットした内容を追加して、「No Irish, No Blacks, No Dogs (完全版)」を出版していただきたいと思います。
伝記、自伝の話をもうちょっと続けると、イギリス人ミュージシャンってよく自伝とかバイオグラフィー出しますよね。これ伝統なんだそうです。イギリスでは伝記がよく読まれていて、伝記を書く人の社会的な地位も確立されてるそうです。伝記がイギリスの長編小説に大きな影響を与えてきたそうです。丸谷才一さんがそう言ってるので間違いありません。
ジョン・ライドンの本を書いたジマーマン兄弟はアメリカ人ですが、この本を書いたことで実力が認められて、ミュージシャンの伝記だけじゃなく、色々な本を書くようになったそうです。あ、アリス・クーパーの「Golf Monster」もこの二人が書いたものです。
あと何だったかな。そうだ、ジョン・ライドンはホンモノの自伝をこの10月に出します。今回はちゃんとautobiographyって言ってるので本人が書いてることは間違いありません。ただしひとりじゃ無理なので、Andrew Perryって音楽ジャーナリストとの共著になるって正直に言ってます。Amazon UKにはもう載ってます。タイトルは「Anger is an Energy: My Life Uncensored」。
(追記)
よく調べてみると、No Irish... 初版の表紙にはThe Autobiographyってサブタイトルが書かれていたことが判明。つまりジョン・ライドン自身も執筆してたんだね。ごめん、ロッキング・オン、「ジョン・ライドン自伝」で間違ってなかったのな。それから竹林正子さんの名前も奥付に書いてあった。許してください。ということで、この文章自体が単にロッキング・オンに難癖つけただけみたいになってしまいましたが、それでももちろん完全版は出すべきだぞ。