2011/02/11

犬と愛とイギー・ポップ (Préliminaires – イギー・ポップ)

iggy pop by aleksey.const
iggy pop, a photo by aleksey.const on Flickr.

2009年に発表されたイギー・ポップ(Iggy Pop)の「Préliminaires」はミシェル・ウエルベック(Michel Houellebecq)の小説「ある島の可能性(La Possibilité d'une île)」を題材に作られたアルバムです。アルバムタイトルはフランス語で「準備」や「前戯」を意味します。何の準備かといえば、イギーいわく「死」への準備だそうです。

アルバムに先行してシングルで発売された「King of the Dogs」ではジャズをやっています。古いニューオーリンズ・スタイルのジャズです。ニューオーリンズやルイジアナの伝統的な葬式では、墓場へ向かうときに賑やかなジャズを演奏しながら行進するそうです。どうやらこれがイギーの葬式の曲になるようです。

臭いケツに汚い鼻
靴は履かない、服も着ない

俺は犬の王様のように生きている
肉片を口にくわえ
誰かが近づけば、その喉を喰いちぎる

俺は至高の者
俺は犬の王様

品の良い生活が行きつく先は癌におかされた肉体
ズボンなんか必要ない
俺はダンサー

俺は血に飢えた犬の王様

俺は魂を求めてうろつきまわる
あんたには分からないにおいを嗅ぎつける

俺は血に飢えた犬の王様

アルバムにはもうひとつ「A Machine for Loving」という曲に犬が出てきます。「ある島の可能性」の一部がそのまま歌詞として用いられています。フォックスという名の犬が死ぬと、オリジナルのフォックスの遺伝子を元に作られた次のフォックスが送られてくるというくだりです。

私が到着してから2週間目の日没後、フォックスは死んだ
私がベッドに寝そべっていると、近づいてきて
弱々しく尻尾を振りながらベッドに飛び上がろうともがいた
餌のボウルに口をつけなくなって以来
彼の体重は目に見えて減っていた

膝の上に乗せてやると、ほんの少しの間
疲れたような申し訳なさそうな目で私を見た
そして、静かに目を閉じた
それから2分後に吐いた息が最後だった

私は彼を屋敷の横、防護壁に囲まれた敷地の西端
彼の前任者の隣に埋めた

夜の間にセントラルシティから宅急便が来て、同じ犬を届けていった
連中はバリアの解除方法を知っている
わざわざ起きて出迎える必要はない

白と茶の小さな雑種犬が入ってきて尻尾を振った
手まねきすると、ベッドに飛び上がり私の横に寝そべった

愛とは何か、定義するのは簡単だが
現実の生物の中にそれを見出すのは容易ではない
我々は犬を通じてはじめて
愛とその可能性に対し敬意を払うことができる

犬は、愛する機械にほかならない
犬は誰かに飼われると同時に、その人間を愛する使命を帯びる
いかに醜く、偏屈で、不具の愚かな人間だったとしても
犬は、彼を愛する
犬は、彼を愛する

死への準備が済んだイギーはどうするのか?もちろん再結成したストゥージス(The Stooges)と共にツアーでステージ上を裸で叫び、転げまわる生活に戻ります。また今日も「きみの犬になりたい(I Wanna be Your Dog)」と歌っています。