2012/01/27

本当はこんな歌、歌いたくないんだ (The Worst Of Progress.... - Magazine)

Sisyphus by Amaury Henderick
Sisyphus, a photo by Amaury Henderick on Flickr.

芸能人とかアーティストという職業は、一発当たればウハウハで楽な生活ができるものと、今でも信じてる人がたくさんいます。芸能界というのは、派手に見せて人に夢を与える商売なので、その幻想を維持しなければならない事情もあるのですが、実際のとこ、ほとんどの人が地味な生活を送っています。

ハワード・ディヴォート(Howard Devoto)さんの場合、マガジン(Maggazine)解散後、会社に勤めて写真ライブラリ管理の仕事をしていたというのはよく知られた話ですが、実は2005年にもメンバーが集まってリハーサルをしていたそうです。会社勤めをしながらマガジンとしての活動を再開できないと、一旦は流れてしまったのですが、その後会社が倒産したためハワードさんは50代半ばで失業者となってしまいました。一方これが「幸いして」2009年の再結成ツアーが実現したわけです。(Pennyblackmusic Magazine : Interview)

アルバム「No Thyself」収録の「The Worst Of Progress....」は「わらの犬」という本に触発されてつくったそうです

中産階級(ブルジョア)は終身雇用、もしくは、生涯、働きつづけることができる制度を生活の基盤としている。それが、今や身を立てる仕事、職業が影をひそめる世の流れである。遠からず、職業の概念は中世の地位や身分と同様、黴の生えた遺物となるだろう。

ブルジョアはヨーロッパと日本にそこはかとなく以前の面影を残している。イギリスとアメリカでは、テーマパークの常設展示となった。中流の暮しはもはや資本主義では賄いきれない贅沢である。

進歩は怠惰を敵視する。人類を救う仕事は並大抵ではない。目標をひとつ達成しても、その先は山また山だから、どこまで行ってもきりがない。もちろん、重畳の山は蜃気楼にすぎないが、何よりも始末が悪いことに、これが永劫の幻影なのである。

古代人にとって、終わりのない労働は奴隷の烙印だった。シジフォスの労働は劫罰である。進歩のために労働に甘んじている現代人は奴隷と大差ない。

- 「わらの犬(Straw Dogs) 2002」ジョン・グレイ(John Gray)

現代の失業者は「うわああ、仕事がないよ、どうしよう」と日々あせりながらも、こうした本を読んでシニカルな思索にふけるのが王道だと思います。

一方、マガジンは昨年10月にアルバム発売、11月にイギリス国内9ヶ所でコンサートを行なった後は、BBC ラジオでスタジオ・ライヴを収録したのを最後にしばらく音沙汰がありません。今後の活動については、次のように語っています。

昼間の仕事はもうしてない。しばらく前にやめたんだ。でも音楽だけをフルタイムの仕事にしたいと思ってのことじゃないよ。あと、これは再結成に動き出した時点から、はっきりしていたことだけど、他のメンバーもそれぞれ自分のプロジェクトを抱えてるから、昔みたいにマガジンとしての活動だけで手一杯にしたくないはずなんだ。

これからのことは、どうなるかわからないな。今できることをやるしかないんだ。曲を作りこのアルバムをレコーディングするために、メンバーみんなの貴重な時間を費したから、どうなるか、やるだけやってみるつもりだよ。みんな経済的にラクじゃない。なにせぼくらはカルトバンドだからさ、続けていくのは容易じゃないんだ。一年、一年少しずつやってくしかない。もちろん続けたいとは思ってるよ。

(No Thyself: Magazine's Howard Devoto Interviewed)

ビデオはマンチェスターでのライヴの模様です。ハワードさんは「こんな歌、歌いたくない」なんて言ってますが、もちろん嘘にきまってます。顔を見ればわかります。

弱みを探って、あちこちうろついてるときだった
ずんぐりとした指をぜんぶ火傷してしまったのは
何より始末が悪いことに、あからさまに言って
聞いていたような価値のあるものは、何ひとつなかった

ぼくは自分自身の進歩に集中していた
人生の成功は電話次第
地図上の色はどうしていつもにじんでいるんだろう?
もしそれが本当なら、そうだな、きみがひとりでやったことじゃないな

きみは、あの素晴しい日に手を伸ばす
遥か彼方の陸地にも手を伸ばす
でも、たった一日で、もう手を伸ばすものが何もなくなる

本当はこんな歌、歌いたくないんだ
それに、きみが笑うことぐらい恐ろしいものはない
宇宙の起源を探るスペクトログラフがどうのこうの
くだらない解釈でぼくの邪魔をしないでほしい

ぼくの予言を聞くがいい
人は暗闇をじっと見つめることなんかできない
そして、それが永遠に続くことはない
それから、ぼくらが月へ行くことも、決してない

それでも、ぼくらは起き上がる...

きみは、あの素晴しい日に手を伸ばす
遥か彼方の陸地にも手を伸ばす
でも、たった一日で、もう手を伸ばすものが何もなくなる