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2014/01/20

真実と伝説なら伝説を選べ - 映画「24 Hour Party People」

The man who put latex gloves on

先日 Chromecast を入手しました。テレビの HDMI 端子に差して YouTube なんかの動画をテレビ画面で表示する装置なんですけど、なかなか便利です。PC だって最近のディスプレイは大きいし、大して変わらないんじゃね?と思ってる人がまだ多いんじゃないかと思いますが、違うんですよ。テレビだと「ね、ね、おもしろいの見つけた、見て、見て!」ってすぐ家族に見せられるし、スマホ使って寝転がって操作できるんです。それに Google Play で映画をレンタルしてすぐにテレビで観ることもできます。

ということで、見損ねていた映画を色々借りて観たりしてるんですが、その中のひとつが「24 Hour Party People」です。イギリス、マンチェスターの音楽レーベル「ファクトリー」そしてクラブ「ハシェンダ」の栄枯盛衰を経営者のトニー・ウィルソンを中心に描いた映画です。ファクトリーの音楽同様、一部に熱狂的なファンのいるカルト的な映画です。10年以上前の映画ですいません、今まで観たことなかったんです。

10年遅れて観た奴が偉そうに言うのも何ですが、字幕の誤訳を発見してしまいました。字幕の誤訳なんて珍しくも何ともありませんが、ちょっとこれは映画のテーマにも関わる部分だと思うので、ファンのみなさんのためにも書いておきます。

映画の前半、セックス・ピストルズのライヴを観て新しい音楽文化の誕生を感じたトニー・ウィルソンはライヴ・ハウス商売に乗り出します。マンチェスターのライヴハウスを週1日だけ借り切って、そこに毎週自分が目を付けたバンドを出演させるという企みです。初日の盛況ぶりに気を良くしたライヴハウスのオーナーは、駐車場に停めたワゴン車に娼婦を呼んでそこにトニーを誘います。トニーは最初こそ遠慮したものの、ちゃっかりご相伴にあずかります。

その駐車場にトニーを探して彼の妻リンジーがやってきます。何やら怪しい物音のするワゴン車のドアをリンジーが開けると、娼婦の頭を股間に当てがったトニーの姿がありました。怒りに震えるリンジーはライヴハウス店内に戻り、トニーへの当て付けとしてハワード・デヴォートを誘います。

一方、コトが済んだトニーは店内に戻って妻を探しますが、今度はリンジーが見つかりません。トニーがトイレへ行くと奥の個室で怪しい物音がします。近づいてみると、ドアを開け放したままリンジーとハワードがフン、フン、フン、アン、アン、アンと行為の真っ最中でした。それでもトニーは冷静を装ったままリンジーに「失礼、車のキーは?」と尋ねます。リンジーもまた体勢はそのままで「バッグの中」と答えます。バッグから鍵を取り出したトニーは「ぼくは口だけだったけど、君はフルじゃないか」と捨てゼリフを残してその場を立ち去ります。それと同時にフン、フン、フン、アン、アン、アンの声が再開します。

さて問題のシーンはここからです。まずは日本語字幕版の通りに紹介します。

トニーが立ち去るトイレにゴム手袋をして洗面台を清掃している男がいます。黒ぶちメガネにスキンヘッドの男です。彼はおもむろに顔を上げてこう言います。

忘れたい出来事だった

その瞬間映像は停止してトニーのナレーションが入ります。

これはハワードの実話だ。僕らは水に流すことで同意したらしい。僕は賛成する。ジョン・フォード監督の「真実と伝説なら伝説を選べ」に

何となくわかったような、わかんないような、ちょっと変なセリフだと思いませんか?実はここの訳が変なんですよ。

この映画、登場するのはみな実在、あるいはかつて実在していた人ばかりなんですが、トニー・ウィルソンを始めすべての人物(ただしマーク・E・スミスを除く)を俳優が演じています。ですが、何人か本人がエキストラで出演していて、トイレ掃除をしていたのがハワード・ディヴォート本人なんです。

もう一度問題のシーンに戻りましょう。今度は英語原文と一緒に私の訳でいきます。ハワード・ディヴォート役の俳優がリンジー役と奥の個室でフン、フン、フン、アン、アン、アンとやっています。そこでトイレ掃除夫役のハワード・ディヴォート本人が顔を上げてこう言います。

これはまったく身に覚えのないことなんだ

I definitely don't remember this happening

この瞬間映像が停止してトニーのナレーションが入ります。

こちらがホンモノのハワード・ディヴォートだ。彼とリンジーは、これは事実じゃないと言い張っている。だが僕はジョン・フォード監督の言葉を支持する。「真実と伝説なら伝説を選べ」だ。

This is the real Howard Devoto. He and Lindsay insist we make clear that this never happened. But I agree with John Ford. When you have to choose between the truth and the legend, print the legend.

これならちゃんと意味が通りますよね。この映画がどんな映画であるかを登場人物自身が宣言しているシーンです。虚実ない交ぜの映画だよってバラしちゃってる重要なシーンです。

人間ねえ、これは真実だ、これが事実だって強く主張すると却って疑いの目で見る一方で、こんなの伝説だよ、虚構だよって言うとなぜかそこに真実を見い出そうとする変な癖があるんです。

前述の字幕はどうしてこんな間違いしちゃったかなあ。たぶんトイレの掃除夫がハワード・ディヴォートだと分からなくて「なんでこんなところで掃除夫がセリフを言うんだろう」って疑問を感じながら雰囲気で適当に訳しちゃったんだろうな。

あ、ハワード・ディヴォートって誰だか知らない?マガジンのヴォーカリストのハワード・ディヴォートです。次の映像は1977年、ちょうど映画のシーンと同じ頃にマガジンがトニー・ウィルソンの番組「So It Goes」に出演したときのものです。冒頭ちらっと映っているのがホンモノのトニー・ウィルソンです。

(2014/01/21 追記)

「"print the legend" が何で "伝説を選べ" になるの?」という質問をいだだきましたので捕捉します。

そうだよねぇ、今どきみんなジョン・フォードとかジョン・ウェインなんて知らないもんねぇ。これはですね、ジョン・フォード監督の映画「リバティ・バランスを射った男 (The Man Who Shot Liberty Valance)」に出てくる新聞記者の有名なセリフなんです。トニー・ウィルソンのセリフとはちょっと違います。

ここは西部です。事実が明らかになっても伝説のほうを記事にするんです

This is the West, sir. When the legend becomes fact, print the legend

新聞記事にして発行するから print なんです。あまり色々書くとこっちの映画のネタバレになってしまうので、興味ある人はジョン・フォードの映画をご覽ください。

2013/12/06

マニホールド氏の決断 (The Book - Magazine)

Where now? Staffordshire (Manifold Trail)
Where now? Staffordshire (Manifold Trail), a photo by Eamon Curry on Flickr.

男は地獄の扉の前に立っていた。彼をマニホールド氏と呼ぶことにしよう。マニホールド氏は地獄の扉の前に立っていた。それはなぜか、巧妙に頑固さを通した彼の一生の終着点にふさわしく思えた。彼は常々言っていた。「夢から覚めることなんて望まない。」「自分の頬をつねって目覚めるなんて、現実に戻る気なんてない。」実際、そんな考えが浮かぶたびによく笑っていたのだ。顔にこそ出さなかったが、自分が地獄の扉の前にいることを知って彼は驚いていた。

親切そうな老人がひとりいた(ひょっとしたら彼の父親に似ていたかもしれない)。どうやら門番らしい。老人は座って本を読んでいたのだが、素早く立ち上がると、形式張った挨拶などする間もなくこう言った。「少しの間この本を持っていてくださらんか。わしは扉を開けねばならんのでの。」(そう、ご存じの通り扉を開けるには二つの手が必要だ)その老人は何か訳があって、本を椅子に置かなかったのだ。

あっという間のできごとだった。だがマニホールド氏は自分がある決断を下してしまったことに気付いた。老人から本を受け取ってしまったのだ。ほとんど他人ごとのように。いささか奇妙にも思えた。些細なことだと思おうとしたが、それが自分の地獄行きを後押ししてしまったように感じた。彼にとって最も安易な道を選んでしまったように思えた。結局は本をしっかりつかんだままだったが、当然彼は突然ひらめいた。「きっとこれは猶予をもらうチャンスなんだ。最終テストなんだ。良い行いをすべて悪いものにしてしまう最後のどんでん返しなんだ。」

次に彼が気付いたのは、以前老人とその本について議論を交わし、本を老人に返したことがある、ということだった。彼は地獄へ通されたのだ。

2012/02/11

きもちわるいですか? (The Light Pours Out of Me - Magazine)

Little insect on the wall by drkaos86
Little insect on the wall, a photo by drkaos86 on Flickr.

あなたがある音楽を聴いて「すばらしい!最高だ!!」と感じたとしても、ほかの人が同じように感じるとは限りません。たとえ「すばらしい!」と感じる人が数多くいたととしても、「こんなのどこがいいの?」という人が必ずいます。ほとんどの場合、音楽の好き嫌いはその人の感じた結果であって、意識的な選択によって生じるものではありません。

意識が高度に発達した生物においても、知覚や思考は無意識に生じるのがふつうである。なかでも、人間はその最たるものにちがいない。はっきりと意識される知覚は五感を介して受容することのごく一部であって、それよりもはるかに多くを人間は閾下知覚によって感じ取る。意識に上るのはすでに知っていることの薄れかけた影でしかない。

現に知っていることと、意識を介して学習することを同等に置くのは致命的な誤りである。精神の寿命と肉体の寿命は表裏している。覚醒した意識にばかりすがって制御しようとすれば、精神は機能しない。

- 「わらの犬(Straw Dogs) 2002」ジョン・グレイ(John Gray)

もちろんオラは、マガジン(Magazine)のサウンドやハワード・ディヴォート(Howard Devoto)の声がすばらしいと感じます。子どもの頃は「このすばらしさが、どうしてみんな分からないのだろう?」と思っていたのですが、今は大人になったので、分かんない人には分かんないんだと分かります。どっちかと言うとハワード・ディヴォートの声やルックスは「あー、あたしこのタイプ、絶対ダメ!」という人が多いことも、今は経験で知ってます。

好きな人も嫌いな人も、選択した結果じゃないんだから、仕方ないんです。最初っからそうなんです。なんでか知らないけど、人間はそうゆう風になってるんです。

でもね、今まですごくイヤだったものが、ある日突然好きになることもあるんです。だからもう一度聴いてみてください、マガジン。

時は
飛ぶように過ぎ去るかと思えば
のろのろと這いまわる
壁の表面を上に、下に
虫けらのように

光がぼくの中から溢れ出す
光がぼくの中から溢れ出す

沈黙の陰謀は
どうしてもぼくを洗脳したいようだ

光がぼくの中から溢れ出す
光がぼくの中から溢れ出す

つめたい日の光が
ぼくの中から溢れ出す
ぼく自身は照らさず
そのままにして

光がぼくの中から溢れ出す

この静止した世界で
まるで血が吹き出すように
一気に溢れ出す
心臓の鼓動で
愛が叩きのめされる

光がぼくの中から溢れ出す

2012/01/27

本当はこんな歌、歌いたくないんだ (The Worst Of Progress.... - Magazine)

Sisyphus by Amaury Henderick
Sisyphus, a photo by Amaury Henderick on Flickr.

芸能人とかアーティストという職業は、一発当たればウハウハで楽な生活ができるものと、今でも信じてる人がたくさんいます。芸能界というのは、派手に見せて人に夢を与える商売なので、その幻想を維持しなければならない事情もあるのですが、実際のとこ、ほとんどの人が地味な生活を送っています。

ハワード・ディヴォート(Howard Devoto)さんの場合、マガジン(Maggazine)解散後、会社に勤めて写真ライブラリ管理の仕事をしていたというのはよく知られた話ですが、実は2005年にもメンバーが集まってリハーサルをしていたそうです。会社勤めをしながらマガジンとしての活動を再開できないと、一旦は流れてしまったのですが、その後会社が倒産したためハワードさんは50代半ばで失業者となってしまいました。一方これが「幸いして」2009年の再結成ツアーが実現したわけです。(Pennyblackmusic Magazine : Interview)

アルバム「No Thyself」収録の「The Worst Of Progress....」は「わらの犬」という本に触発されてつくったそうです

中産階級(ブルジョア)は終身雇用、もしくは、生涯、働きつづけることができる制度を生活の基盤としている。それが、今や身を立てる仕事、職業が影をひそめる世の流れである。遠からず、職業の概念は中世の地位や身分と同様、黴の生えた遺物となるだろう。

ブルジョアはヨーロッパと日本にそこはかとなく以前の面影を残している。イギリスとアメリカでは、テーマパークの常設展示となった。中流の暮しはもはや資本主義では賄いきれない贅沢である。

進歩は怠惰を敵視する。人類を救う仕事は並大抵ではない。目標をひとつ達成しても、その先は山また山だから、どこまで行ってもきりがない。もちろん、重畳の山は蜃気楼にすぎないが、何よりも始末が悪いことに、これが永劫の幻影なのである。

古代人にとって、終わりのない労働は奴隷の烙印だった。シジフォスの労働は劫罰である。進歩のために労働に甘んじている現代人は奴隷と大差ない。

- 「わらの犬(Straw Dogs) 2002」ジョン・グレイ(John Gray)

現代の失業者は「うわああ、仕事がないよ、どうしよう」と日々あせりながらも、こうした本を読んでシニカルな思索にふけるのが王道だと思います。

一方、マガジンは昨年10月にアルバム発売、11月にイギリス国内9ヶ所でコンサートを行なった後は、BBC ラジオでスタジオ・ライヴを収録したのを最後にしばらく音沙汰がありません。今後の活動については、次のように語っています。

昼間の仕事はもうしてない。しばらく前にやめたんだ。でも音楽だけをフルタイムの仕事にしたいと思ってのことじゃないよ。あと、これは再結成に動き出した時点から、はっきりしていたことだけど、他のメンバーもそれぞれ自分のプロジェクトを抱えてるから、昔みたいにマガジンとしての活動だけで手一杯にしたくないはずなんだ。

これからのことは、どうなるかわからないな。今できることをやるしかないんだ。曲を作りこのアルバムをレコーディングするために、メンバーみんなの貴重な時間を費したから、どうなるか、やるだけやってみるつもりだよ。みんな経済的にラクじゃない。なにせぼくらはカルトバンドだからさ、続けていくのは容易じゃないんだ。一年、一年少しずつやってくしかない。もちろん続けたいとは思ってるよ。

(No Thyself: Magazine's Howard Devoto Interviewed)

ビデオはマンチェスターでのライヴの模様です。ハワードさんは「こんな歌、歌いたくない」なんて言ってますが、もちろん嘘にきまってます。顔を見ればわかります。

弱みを探って、あちこちうろついてるときだった
ずんぐりとした指をぜんぶ火傷してしまったのは
何より始末が悪いことに、あからさまに言って
聞いていたような価値のあるものは、何ひとつなかった

ぼくは自分自身の進歩に集中していた
人生の成功は電話次第
地図上の色はどうしていつもにじんでいるんだろう?
もしそれが本当なら、そうだな、きみがひとりでやったことじゃないな

きみは、あの素晴しい日に手を伸ばす
遥か彼方の陸地にも手を伸ばす
でも、たった一日で、もう手を伸ばすものが何もなくなる

本当はこんな歌、歌いたくないんだ
それに、きみが笑うことぐらい恐ろしいものはない
宇宙の起源を探るスペクトログラフがどうのこうの
くだらない解釈でぼくの邪魔をしないでほしい

ぼくの予言を聞くがいい
人は暗闇をじっと見つめることなんかできない
そして、それが永遠に続くことはない
それから、ぼくらが月へ行くことも、決してない

それでも、ぼくらは起き上がる...

きみは、あの素晴しい日に手を伸ばす
遥か彼方の陸地にも手を伸ばす
でも、たった一日で、もう手を伸ばすものが何もなくなる

2011/10/30

さあ世界へ飛び立とう (The Burden Of A Song - マガジン)

And this is my quizzical face... by tortipede
And this is my quizzical face..., a photo by tortipede on Flickr.

マガジン30年ぶりのニューアルバム「No Thyself」、日本やイギリスは予定通り先週発売になりました。iTunes Store でのダウンロード販売も始まってます。具体的にどれくらい売れているのかはわかりませんがレーベルの予想を上回る売れ行きの様子で、Amazon UK や Amazon Japan では一時的な品切れとなっており、予約したのにまだ入手できてない人も結構いるようです。マガジンのポップでキャッチーなメロディ、陰鬱できもちわるく、わけのわかんないユーモアに溢れたサウンドと歌をみんな待ちわびていたんですね。

肝心の内容のほうですが、デジタル・レコーディング技術を駆使した現代的な音の肌触りでありながらも、古くからのファンが聴けばすぐに「ああ、マガジンだ!マガジンに間違いない!これがマガジンでなくて何がマガジンだ!」と感じられる仕上がりなってます。たとえば「Other Thematic Material」は「The Correct Use of Soap!」を連想させる軽快でダンサブルなナンバーで、踊りながら一緒に歌いたくなってしまうのですが、歌詞は人前で歌うとかなり差し支えのある内容になっています。また「Physics」は本アルバムの目玉といえる曲ですが、なぜか突然 Booker T. & the MG's なサウンドです。思わず「きみらはいつから忌野清志郎になったんだ?」とツッコミを入れたくなります。

さて、30年経っても変わらないマガジンのきもちわるさは、ヴォーカルを担当するハワード・ディヴォート(Howard Devoto)の声、歌詞、そしてルックスやしぐさによるところが、かなり大きなウェートを占めます。年をとって髪が完全になくなり、顔が丸くなったことでさらにその迫力が増しています。彼の大きくてぐりんとした目は、いつも笑っているようにも見えるし、ぜんぜん笑っていないようにも見えます。無表情かと思えば、この上なく表情豊かにも見えます。

怒ってるんだか、悲しんでるんだか、笑ってるんだかわからない。聴くほうも深刻な顔をすればいいのか、笑っていいのかよくわからないんだけど、何だかすごくきもちわるくて、きもちいい。それがマガジンの歌です。

ぼくのいやみなところが光ってる
ぼくの優しさが悲鳴をあげている
あんたもそうなりそう?
本当に家に帰るつもり?

ぼくの優しさといやみなんて、この程度
歌のリフレインなんて、そんなもの
何か音を鳴らして、ぼくが歌えるようにしてくれ

お願いだから、ぼくに近寄らないで
清潔な拘束衣の中で、ぼくに歌わせて
すばらしい作曲家だけど、残念賞しかもらったことがない
でもあんたは誘惑の眼差しを向ける
ぼくらが逃げ出すのを望んでる?
あんたはぼくの邪魔ばかりしているのに

ぼくの優しさといやみなんて、この程度
歌のコーラスなんて、そんなもの
何か音を鳴らして、ぼくが歌えるようにしてくれ

さあ世界へ飛び立とう
感動的な真実に圧力をかけよう
あらゆるところから未来へ向けて
性器から脳みそへ向けて
ぼくらが元いたところへ

さあ世界へ飛び立とう
感動的な真実に圧力をかけよう
ぼくらはあらゆるところから未来へ向かう
膨らませ、けば立たせるんだ
ぼくのいやみなところが光ってる
ぼくの優しさが悲鳴をあげてる
ぼくらが逃げ出すのを望んでる?
あんたはぼくの邪魔ばかりしているのに

ぼくの優しさといやみなんて、この程度
歌のコーラスなんて、そんなもの
何か音を鳴らして、ぼくが歌えるようにしてくれ

2011/10/08

世界から談合がなくなりますように (Sweetheart Contract - マガジン)

Magazine at Manchester Academy - 17th February 2009 by Kerry Burnout
Magazine at Manchester Academy - 17th February 2009, a photo by Kerry Burnout on Flickr.

ハワード・ディヴォート(Howard Devoto)さんは類まれな注意力をそなえていて、一般のソングライターなら気づかないようなことも見逃さず、曲の題材として積極的に取り上げます。1980年リリースのアルバム「正しい石けんの使い方 (The Correct Use of Soap)」に収録され、シングルカットされた「Sweetheart Contract」もそのひとつです。この曲で彼は談合の問題に真っ正面から取り組んでいます。

2009年のマガジン(Magazine)再結成ツアーでは、ダークでお洒落な4人組おねえさんバンド、イプソ・ファクト(Ipso Facto)のロウザリー・カニンガム(Rosalie Cunningham)さんがバッキング・ヴォーカルとして起用されました。この曲の冒頭でハワードさんは一旦舞台の袖に下がり、ロウザリーさんと手をつないで再登場します。曲の間も手はしっかり握ったまま離さず、1本のマイクで頬を寄せ合って歌います。談合というものがいかに逆らい難く、淫靡かつ邪悪な魅力で人を惹きつけるのか、これでよおくわかると思います。

ぼくらは工事現場の足場の下で、ソファに座ってコップ酒を飲んでいた
情報筋によると、ぼくらは監視されてるらしい - これが会議の内容

ぼくには学歴がある
ずっと長い時間、ぼくが仕切っていた

ぼくはたくさんの武器を手に入れた、しこたま手に入れた
「何より健康が一番」とだけ書かれた馴れ合い契約のおかげ

ぼくが優位だった
ずっと長い時間、ぼくが仕切っていた

ぼくは行きたいんだ、間違いの向こう側へ
ぼくはずっと、自分自身に苦痛を強いて、破滅を待ちのぞんできた

ぼくは保険金を手に入れた
ずっと長い時間、ぼくが仕切っていた

ぼくの特技は、自分の身とまわりで起きたこと、すべて忘れてしまえること
新聞が売れるようなものには、いつでも何でも賛成するのがぼくの流儀

ぼくには学歴がある
ずっと長い時間、ぼくが仕切っていた

ぼくが優位だった
ずっと長い時間、ぼくが仕切っていた

ぼくは保険金を手に入れた
ずっと長い時間、ぼくが仕切っていた

でもあれは返したほうがいいな
ぼくらのものじゃないから

2011/10/06

ハワード・ディヴォート氏(59)による老いと死への心構え (Holy Dotage - マガジン)

And then Brer Rabbit said... by tortipede
And then Brer Rabbit said..., a photo by tortipede on Flickr.

年寄りなら誰でも知ってるのに、若者は誰ひとり知らないこと。それは、人は誰でもあっという間に年老いるということです。年寄りが若者の姿を見るとき、実は同時にその年老いた姿も見ているのですが、若者に見えるのは今の姿だけです。

ただしここ数年 YouTube が一般に普及してきたため、ちょっと事情が変わってきました。現在も活躍しているロックスターや俳優が30年、40年前、どんな恰好をして、どんな風に話し、どんな風に歌い、どんな風に動いていたのか、誰にでも手軽に見られるようになったからです。人類史上、きわめて重要な出来事だと思います。

30年前と今の姿を比較して、30年前の姿の中に30年後の現在の姿を見つけられるようになります。あるいは現在の姿の中に30年前の姿を見出すようになります。その結果、年寄りや若者はどのように変化するのか、それはまだこれからのことなので、よくわかりません。でも年寄りも若者も、ほんのちょっとマシになるんじゃないかと思います。

先日紹介したマガジンのシングル「Hello Mister Curtis (With Apologies)」の B 面がこの曲「Holy Dotage」です。テーマはずばり「老いと死」です。ぜんぜんそんな風に聴こえないとは思いますけど。

ぼくは、自分のたましいに不要なものを
ハエみたいに叩き落とした
後は好きなようにさせた
何もそれを妨げるものはなかったから

ぼくはおそろしく老いぼれて
死が今までになく、ますます確実になった
ぼくはおそろしく老いぼれて
死が今までになく、ますます確実になった

ぼくはゆっくり、たくさんのニュースをむさぼる
だけどやり方を間違ったので
だんだん弱っていくはずが
逆にたくましくなってしまった

歴史はけっしてくり返さないというが
いつもほとんど同じ韻を踏んでいる

さあ来たぞ
宇宙の物語から到着したばかり
パリパリの新デザイン

ぼくのディミニッシュ・セブンスなところ
大口をたたきだすと止まらない
ぼくのたましいに不要なもの
ぼくはそれを、ひとつだけ残した

ぼくはおそろしく老いぼれて
死が今までになく、ますます確実になった
ぼくはおそろしく老いぼれて
死が今までになく、ますます確実になった

さあ来たぞ
宇宙の物語から到着したばかり
パリパリの新デザイン

ぼくはおそろしく老いぼれて
死が今までになく、ますます確実になった
ぼくはおそろしく老いぼれて
死が今までになく、ますます確実になった

2011/10/05

歌う前にあらかじめ、心からおわび申しあげます Hello Mister Curtis (With Apologies) - マガジン

Hello Mister Curtis (With Apologies)

今月24日発売、マガジン(Magazine)のニューアルバム「No Thyself」からのシングル第一弾は「Hello Mister Curtis (with apologies)」です。ジャケットはなんと、デビューシングル「Shot by Both Sides (1978)」とまったく同じ、ルドン(Odilon Redon)が描いたキメラです。彼らのこの曲に賭ける意気込みがうかがえます。

ただしシングルといってもリリースされるのは10インチのレコードだけです。CD の発売予定はありません。アナログレコードのプレイヤーを持っていない人はジャケットを眺めながら念力で曲を聴かなければならないのかというと、そんなことはありません。アナログレコードを買うともれなく MP3 データのダウンロード権も付いてきます。とても親切で良い販売方法だと思いますが、ヒットチャート入りは難しそうです。

さて人生には、言うと人を傷つける、人の気分を害するとわかっていても、どうしても言わなきゃならないこと、言わずにいられないことがあります。そんなとき、どうしたらいいか。昔、モンティ・パイソンの人たちが良い方法を思いつきました。先に謝ってしまえばいいのです。

ハワード・ディヴォート、1976年芸能界デビュー、当年とって59歳、歌う前にあらかじめ、心からおわび申しあげます。

こんにちは、カーティスさん
ご機嫌いかが、コベインさん
きみたちの傷口はいったいどこですか?
ちゃんとおしえてください
どこが痛むんですか?

きみたちの苦痛
きみたちの苦痛
きみたちの苦痛
この苦痛から、ぼくを解放してください

こんにちは、カーティスさん
ご機嫌いかが、コベインさん
きみたちは、ぼくよりずっと勇気があります
だから、また同じことをやってくれますよね
後悔してませんよね
もう一度やってくれますよね

きみたちの苦痛
きみたちの苦痛
きみたちの苦痛
この苦痛から、ぼくを解放してください

こんにちは、カーティスさん
ぼくらがきみのことを、忘れてしまわないようお祈りします
だけどぼくは決めたんです
ぼくはキングみたいに死ぬんです
エルヴィスみたいに死ぬんです

人里離れた便所の中で

ぼくは、年老いてしまう前に死にたいんです
ぼくは、年老いてしまう前に死にたいんです

2011/09/08

マガジンのニューアルバム「No Thyself」、間もなくリリース

Magazine : "No Thyself"

2009年に再結成を果たしたきもちわるいバンド、マガジン(Magazine)がレコーディング中という話は春に報じられていたのですが、ついにニューアルバム「No Thyself」が完成し10月下旬に発売されます。Wire-Sound のサイトで予約受付中です。国内盤 CD の発売は未定ですが、2009年のライブアルバム「Real Life and Thereafter」同様、Amazon や iTunes Storeで MP3 のダウンロード販売はされるんじゃないかと思います。

「Magic, Murder and the Weather (1981)」以来、実に30年ぶりです。ジャケットはご存知ルドン(Odilon Redon)が描いた一つ目の巨人、キュクロープス(サイクロプス)です。きもちわるいです。

今回のレコーディングのメンバーですが、ずっとマガジンできもちわるいベースを弾いていたバリー・アダムソン(Barry Adamson)は残念なことに昨年脱退し、代わってジョン "スタン" ホワイト(Jon "Stan" White)という人がベーシストとして参加しています。フェイスレス(Faithless)やグルーヴ・アルマダ(Groove Armada)のツアー・メンバーとして活躍していた人だそうです。「Holy Dotage」という曲が Sound Cloud にアップされていたので聴いてみると、けっこうきもちわるいベースを弾いてます。

11月にはイギリス10ヶ所でのきもちわるいツアーも予定されています。

2011/07/20

John McGeoch の発音

前のエントリーで John McGeoch の読み仮名を「ジョン・マッギーオ」と書いたところ「違うんじゃないの?Wikipedia にはこう書いてあるよ」というお便りをいただきました。いいえ、日本語で表記するなら「ジョン・マッギーオ」以外ありません。昔と違って今はインターネットとか YouTube があるんだからさあ、みんな自分の耳で確認しようぜ。

くだんの Wikipedia ページに書かれている「Real Life & Thereafter」の映像というのはたぶんこれですね。頭から25秒のところではっきり「ジョン・マッギーオ」と発音されています。「ギー」にアクセントです。

まだ納得いかない?じゃあもうひとつ。こっちは BBC Radio 2 の John McGeoch 追悼番組のようです。1分56秒のところでちゃんと「ザ・ストーリー・オブ・ジョン・マッギーオ」と発音されています。

わかった?じゃあこれからはみんなちゃんと「ジョン・マッギーオ」って書こうな。

あと関係ないけど Led Zeppelin を英語圏では「レッド・ゼップリン」(「ゼ」にアクセント)と発音するんだよ。「ツェッペリン」と発音するのはドイツ人。FORVO で確認できます

2011/03/05

カタギの生活(A Song From Under The Floorboards - マガジン)

Magazine at Manchester Academy - 17th February 2009 by Kerry Burnout
Magazine at Manchester Academy - 17th February 2009, a photo by Kerry Burnout on Flickr.

このサイトの記事で取り上げるミュージシャンは1970年代に登場した人が中心なので、ハゲてる人、スキンヘッドの人がたくさんいます。ブライアン・イーノを筆頭に、ワイヤーのグレアム・ルイスやロバート・グレイ、PiL ベーシストのスコット・ファースなど、みんなハゲてます。コリン・ニューマンは正面から見るとまだけっこう髪が残っているように見えますが、てっぺんの方はかなり寂しい状態になっています。

近頃は、ハゲてきたら中途半端に残しといても鬱陶しいから全部剃ってしまうという人が少なくありません。イギリスでの元パンクスの中年男性はスキンヘッドにヒゲとピアスというのが標準スタイルになっているようです。

かくいう私は額がかなり後退してきたものの、まだハゲというほどハゲてはいません。でもかなり昔、スキンヘッドにしていたことはあります。今でこそスキンヘッドというのはひとつのファッションスタイルとして定着していますが、当時日本でスキンヘッドにしていたのは、私とお坊さんとおじいさんと夏目雅子さんだけでした。

スキンヘッドにしてみて分かったのは、むき出しの頭皮は暑さ、寒さを非常に敏感に感じるということです。たとえば家の普通の照明の下へ行くと蛍光灯の熱を感じるくらい敏感なのです。スキンヘッドな人にとって、真夏や真冬に帽子をかぶらずに外を歩くなど自殺に等しい行為なのです。

あと髪はすぐに伸びるということもわかりました。床屋さんでカミソリを使ってツルツルに剃っても、翌日頭皮に触ると、もうジャリジャリしてます。きれいなスキンヘッドを保つため、私は毎日電気髭剃りで頭を剃っていました。でもそうすると、頭皮がカミソリ負けしてボロボロになってくるんです。お坊さんなどは、毎日米ぬかを布にくるんで、頭を磨いているんだという話を聞きました。見た目よりはるかに手間がかかるんですよ、スキンヘッド。

ええとなんだっけ?そうだ、そこで本日はまたスキンヘッドな人たちをご紹介します。ハワード・デヴォート(Howard Devoto)さんとマガジン(Magazine)のみなさんです。マガジンはバズコックス(Buzzcocks)のオリジナルメンバーであったハワードさんを中心に1977年に結成、1981年まで活動していたバンドです。

ヴォーカルのハワードさんはマガジン解散後もソロなどでしばらく音楽活動を続けていたのですが、やがてそれも止めて写真の代理店に就職し、カタギの生活を送るようになりました。2001年に ShelleyDevoto というユニットでちょっとだけ復活したのですが、基本的にはステージと無縁の生活です。

ところが2009年に突如マガジンを復活させ、ツアーを行い、ライブアルバムをリリースしました。次の映像は地元マンチェスターでのライブなんですが見てください、このステージでの立ち居振る舞いと顔つき。

絶対カタギじゃねえよ。

ぼくはいつも怒っているし、病んでいる
そしてものすごく醜い
苛立ちは、ぼくの元気の源
生きる意味なら知っているが、いったいそれが何の役にたつ
美しいものや良いものが、分からないわけじゃない

この歌は、床下から聴こえてくる歌
この歌は、壁の割れ目から聴こえてくる歌
ぼくの惰性が引き起こす出来ごと
ぼくは単なる虫けら
そして、ぼくはそれをすごく誇りに思う

高貴なものや最上のものも知っている
そうしたものにはちゃんと相応の敬意を払う
だけど最も美しい宝石はぼくの中にあって
ぼく自身の愚かさへの喜びで輝いている

この歌は、床下から聴こえてくる歌
この歌は、壁の割れ目から聴こえてくる歌
ぼくの惰性が引き起こす出来ごと
ぼくは単なる虫けら
そして、ぼくはそれをすごく誇りに思う

以前は幻影を自分でつくり出し、それを追いかけていた
考えつく限りの、ありとあらゆるまぼろしを
でも、そうした恩恵にあやかるのにも飽きてしまった
そう、ただ飽きてしまった

この歌は、床下から聴こえてくる歌
この歌は、壁の割れ目から聴こえてくる歌
ぼくの惰性が引き起こす出来ごと
ぼくは単なる虫けら
そして、ぼくはそれをすごく誇りに思う

この曲はモリッシー(Morrissey)のちょっと歌詞を変えてコブシを効かせたバージョンがあるんですが、こちらもなかなか泣かせる仕上がりです。

2007/07/28

Shot by Both Sides - マガジン

http://en.wikipedia.org/wiki/File:Magazine_-_Shot_By_Both_Sides_single_picture_cover.jpg

ルドンといえば思い出すのはたどん。でもたどんを使って絵を書くとあんな細かい線は引けないのだ。ルドンはカラーの作品も色々残していて、実はカラーのやつのほうがずっと不気味。昔買ったマガジン(Magazine)のシングル「Shot By Both Sides」はジャケットがルドンの絵だったのだ。

今改めて見ると、酒飲んでスクーター運転してつかまって、昨日泣きべそかいて謝罪会見していたフィギュアスケートの選手にちょっと似てる。

2004/03/10

John McGeoch が死んじゃった

ギタリスト John McGeoch (日本では多くの場合ジョン・マクガフと表記されるのですが、ホントはジョン・マッギーオと発音)が3月5日に亡くなったそうです。49歳。早すぎるんじゃないの。だってまだギタリスト John McGeoch のこと知らない人たくさんいるじゃない。次はそろそろ John McGeoch の番だなって思ってたのに。

ギタリスト John McGeoch を言葉で表現するのはとても難しいな。基本的には「うた」をバックアップするタイプのギターを弾く人で、パンク時代のスティーブ・クロッパーと言えなくもない。後に引きすぎないし、前に出過ぎもしない。うっかりすると聴き流してしまうのだけど、あるときふと「あのギターを聴きたい!」と思い出す音。

1970年代後半から マガジン、スージー・アンド・ザ・バンシーズ(Siouxsie & The Banshees)、パブリック・イメージ・リミテッド(Public Image Ltd.)などのバンドにギタリスト、サックス奏者として参加、ここ10年くらいは看護師の仕事をしていたそうです。

John McGeoch のギターを聴いたことない人には アルバム「Happy?」をおすすめします。