2012/07/13

イギー・ポップと野菜畑とニューアルバム Après

ちょっと遅くなっちゃったんですが、イギー・ポップのニューアルバムAprès(アプレ)をご紹介します。

前作 Préliminaires (2009)から3年ぶりとなるソロ作品で、5月下旬に発売されてるんですが、知らない人も多いと思います。というのもこのアルバム、所属レコード会社(EMI)から「こんなもん売れねえ!」とリリースを拒否されてしまったため、通常と異なるルートで販売されることになり、日本ではまったく宣伝されていないからなんです。

このアルバムに限り Believe Digital という会社が販売を担当しています。基本はダウンロード販売で、物理的な CD はフランスのオンライン・オークション・サイト Vente Privée を通じてのみ販売されるという、きわめて変則的な形でのリリースとなりました。

そんなんじゃ売れないと思うでしょう。ところが売れたんですよ。販売直後にフランスのアルバム・チャートで何と3位、ダウンロード・チャートでも11位になったんです。イギー史上、初の快挙!もう従来のレコード会社というものが、完全に役立たずで、いらない存在になってるということが、ここでもまた証明される結果となりました。

日本でも iTunes Store や Amazon MP3 で購入できます。そのほか、CD の販売もその後拡大されたらしく、国内のショップにも輸入盤がぼちぼち入荷しています。

さて肝心の内容なんですが、前作のタイトルが「準備」を意味するフランス語 Préliminaires で、今度もまたフランス語、「後」を意味する Après です。二部作の後編と考えて差し支えないでしょう。ただし今回オリジナル曲はなし、スタンダード曲中心のカヴァーで、エディット・ピアフやハリー・ニルソン、ビートルズの曲などを歌っています。また「死」をテーマにした厭世的なトーンの前作に対し、今回はずいぶんやわらかな、明るい雰囲気の作品に仕上がっています。

ここは俺のやる気を保つための家なんだ。2500人しかいない小さな村の中さ。マイアミの最も危険な地域のすぐ隣りなんだけど、ここはまったく別の場所みたいに感じられる。

ここは俺の野菜畑。ミシェル・オバマがホワイトハウスで野菜を作ってるって話を聞いて、これを思いついたんだ(笑)。すごくいいアイディアだろ。ここへ帰って来たらまず野菜を収穫して、それを切ってパテに混ぜて食べるんだ。

20年くらい前、ひどく体調を崩したときに韓国人の武道家に出会ったんだ。彼は俺に太極拳とその基礎となってる気功を教えてくれた。それ以来毎日かかさず実行してる。ある決まったの型の組み合わせによって心を落ち着かせ、エネルギーを作り出すんだ。

俺はここ15年か20年くらい、オフステージの生活を少しずつ、静かでゆっくりしたものにしてきた。俺に必要なことだった。そうすると、次第に声の出が良くなり、情熱を感じる対象が変わってきた。俺が子どもの頃に聴いてたような、静かな曲が歌いたくなってきたんだ。

ストゥージズのツアーで2ヶ月ずっとウワー oowUG! ファック・ユー uuQ!fw%^n$ ファッキン・ヘル !wwDgjki=#B!! ヘイ werQ!! ウワゥ vv%#oOO !ウワゥ!!とやった後、家に帰って考えたんだ。よし、スタジオでそんな曲を歌ってみようって。

そんなわけで俺は穏やかで地味な生活を送ってる。静かな生活だよ。ただしときにまだ、悪魔が俺に語りかけるんだよ。セラヴィ、ま、人生なんてそんなもんさ。

このアルバムで私が一番気に入ったのは、エディット・ピアフ(Édith Piaf)の曲、La Vie en Rose です。「エディット・ピアフ?誰それ?」という人でも聴けば必ず「ああ、これ聴いたことある」というくらい有名な曲です。イギーはフランス語でオリジナルの歌詞を歌っているのですが、曲のアレンジはなぜかシャンソンじゃなく、スローなジャズ・アレンジになっています。

イントロは空に向かって小さなしゃぼん玉をたくさん、ふーって吹いたときみたいな、印象的なピアノ・フレーズで始まります。続いて古いニューオリンズ・ジャズ風のトランペット(コルネット?)がメロディを奏でます。ああ、何だかルイ・アームストロングみたいでいいな、ルイ....っていうか、これ、そのまんまじゃん。

La Vie en Rose はルイ・アームストロング(Louis Armstrong)による、これまた有名なカヴァー・ヴァージョンがあるんですが、アレンジはこのアームストロング・ヴァージョンがほとんどそのまま使われているんです。つまり、イギーはエディット・ピアフとルイ・アームストロング、二人の曲をいっぺんにカヴァーしてることになるの、かな?