2012/05/13

[母の日特別企画] みんなに安らかな死がもたらされんことを (Death Disco - パブリック・イメージ・リミテッド)

Death Disco - 「母ちゃんと俺」 絵: ジョン・ライドン

ニューアルバム「This Is PiL」の発売があと2週間ちょっとに迫ってまいりましたがみなさんいかがお過ごしでしょうか?そんな時期に何で「Death Disco」みたいな古い曲を持ち出すんだよ、と思う方も多いと思いますが、いや母の日なんだからさ、書きたいことがあるんだよ、だから書かせてくれよ。ニューアルバムや新曲のことはまた後で色々書くからさ。

「Death Disco」は1979年6月に PiL 2枚目のシングルとして発表された曲で、同じ曲のミックス違いは後に「Swan Lake」というタイトルで「Metal Box/Second Editon」にも収録されています。家を揺らすようなぶんぶん超低音ベースと70年代末のディスコビートの上で、ギターが執拗に「白鳥の湖」のフレーズを繰り返す中、ジョン・ライドンが泣き叫ぶように歌う曲です。この曲は当時、癌で死を目前にした母親のためにジョンが書いた曲として知られています。

癌になった母ちゃんがさ、自分のために曲を何か書いてくれって言ったんだ。それで書いた曲が「Death Disco」なんだ。母ちゃんはすごくおもしろい曲だって言ってくれた。うちの家族ってそんな感じなんだよ。母ちゃんはどんな深刻な状況でもユーモアを忘れないんだ。

(「Plastic Box」ライナーノーツ)

この母親にして、この子あり。死を目前にした母ちゃんを前にこうゆう曲を作る息子も息子なら、おそらくそれを心から喜んでいたであろう母ちゃんも母ちゃんです。

発表当時、この曲はイギリスのシングルチャートで20位まで上がりました。何せ内容が内容ですから拍手喝采で迎えられたわけではなく、みんな部屋に籠って暗い顔して聴いてたはずです。またこの当時の PiL はライヴ自体数えるほどしかやってませんから、人前で演奏されることがあまりなかったわけです。

2009年、ジョンが活動を停止していた PiL を復活させるにあたり、その大きな動機となったのはこの曲を歌うことでした。

俺は様々な感情を声にして吐き出すことができる。俺たちが演奏する「Death Disco」のような曲は、いんちきくさい絵空事でもなければ、他愛のないポップソングでもない。両親が死んだときに感じた心の底からの怒りであり、悲しみなんだ。俺の母親はずっと前に死んだ。あの曲は癌で死を前にした母親のために頼まれて作った曲だ。親父も去年死んだ。俺には今、ステージの上で吐き出さなきゃならないものがあるんだ。あの曲が今でも俺の胸をめちゃめちゃに掻きむしっているんだ。

John Lydon - Red Terror

「Death Disco」は弔いのディスコ・ソングです。もちろん人は普通、葬式で騒いで踊ったりしません。でも亡くなったのが本当にあなたにとってかけがえのない人だったら?同じ思いを抱く人たちが集まったなら、それぞれの感情を吐き出して一緒に踊ることも許されるのでは?

再始動した PiL を迎えたのはそんな光景でした。観客たちはジョンと一緒になって感情を吐き出し、踊りまくります。「Death Disco」が作られてから30年、やっとこの曲が演奏されるにふさわしい場所が地上に現れたわけです。

力を貸してくれてお前らにはすごく感謝してるよ。こんな風に楽しめるなんて変だよな、これは死を歌った曲なのにさ。でもこれこそがアイルランド風の楽しみ方ってやつかもしれないな。ありがとう、感謝する。みんなに安らかな死がもたらされんことを!

Public Image Ltd live at Heaven: 'Lock up your children'

目を見つめる
言葉で言えることなんて何もない
目がそう言っていた
最後の力が尽きようとしている

もう望みはない
最後の力が尽きようとしている
目を見つめる
目を見つめる
どうしてなのか
決っしてわからない

沈黙して何も語らない目
沈黙して何も語らない目
どうしてなのか、わからない
これが過去のこととなってしまうまでは
決っしてわからない
沈黙して何も語らない目

目の中に見えたもの
目の中に見えたもの
もう望みはない
最後の力が尽きようとしている
彼女がゆっくりと死んでいくのを見つめているだけ
ベッドの上で息を詰まらせ
花が朽ち果てていく
目の中に見えたもの
ある一日の終わり
できることは沈黙だけ

目を見つめる
目を見つめる
目を見つめる
俺の目で見つめる
言葉でなんか、何も言い表わせない
言葉でなんか、何も言い表わせない

2012/05/07

「This Is PiL」のリリース情報&がんばれ EMI Music Japan (の PiL 担当者)!

PiL のニューアルバム「This Is PiL」リリースに関する詳細が公式サイトで発表されましたので、今まで断片的に書いてきた内容を改めて整理してお知らせします。

まずリリースの日ですが、イギリスでは5月28日となっています。日本での輸入盤発売は Amazon Japan の場合、現時点で5月29日と記載されているので、イギリスとほぼ変わりないタイミングで入手できる見通しです。なお EMI Music Japan から国内盤の発売がアナウンスされていますが、こちらは7月4日と発表されています。

リリースの媒体は CD、レコード、ダウンロード販売の3種類です。レコードは2枚組となります。ダウンロード販売は iTunes Store と Amazon MP3 で提供されるということなので、日本でも購入できるのは間違いないと思いますが、国内盤の発売に合わせて7月になってしまう可能性もあります。

「PiL 聴くならアナログしかないだろ! アナログで決まり!!」と既に予約を済ませた方が少なくないと思いますが、ちょっと注意、CD には通常盤のほかに DVD 付きの限定盤があるんです。4月2日にロンドンのクラブ Heaven でおこなわれた2時間半に渡るライブの模様を丸々収録した DVD で、その名も「There Is A PiL In Heaven」です。収録されるのは以下の16曲です。

  1. Deeper Water
  2. This Is Not A Love Song
  3. Albatross
  4. Reggie Song
  5. Disappointed
  6. Warrior
  7. Religion
  8. USLS1
  9. Death Disco
  10. Flowers of Romance
  11. Lollipop Opera
  12. Bags / Chant
  13. Out of the Woods
  14. One Drop
  15. Rise
  16. Open Up

コアな PiL ファンならアナログだけでなく、DVD 付きの CD も買わざるを得ません。仕方ないので余った CD は近所の PiL を聴いたことない少年、少女に渡して無理矢理聴かせましょう。

ただしこの DVD はイギリス向けのため PAL 方式なんです。パソコンの DVD プレイヤーで再生する分には問題ありませんが、テレビにつなぐタイプの国産 DVD プレイヤーの大半では再生できないので注意してください。PAL から NTSC への変換機能を備えたプレイヤーを別途用意する必要があります。

(2012/07/16 追記) UK 盤の DVD もリージョン・フリー NTSC で再生可能なものと判明しました。

ひょっとしたら国内盤でも DVD 付きの限定盤がリリースされるかもしれないのですが、今のところまだ EMI Music Japan からの発表はなく何とも言えません。ファンからすると「国内盤の発表を待った挙句、結局 DVD 付きの発売はなし、イギリス盤も売り切れなんてことになったらどうしよう」なのでつらいところです。

昨年の PiL 来日のときは、EMI Music Japan の人がんばってくれたんですよ。世界中で PiL のバックカタログの大半が廃盤となっていた中、来日に合わせて日本独自に全アルバムをリマスターして一斉再発売するという快挙を成し遂げてくれました。さらにこれがきっかけで、同じリマスター音源を元にイギリスを始め世界各国でもバックカタログの再発が実現しました。

普通だと絶対通らない企画だったと思います。担当者のただならぬ熱意があってこそ実現できたんだと思います。日本中の PiL ファンをオラが勝手に代表して、ここでお礼を述べさせていただきます。どうもありがとうございました。8月14日にサマソニの会場からツイートしてたのだって、ちゃあんと知ってます。

ここで「あれっ?PiL って EMI/Virgin から独立して自前のレーベルを立ち上げたんじゃなかったっけ?なのに日本だけまた EMI からの発売なの?」と疑問を抱く人がいるかもしれません。ジョン・ライドンとレコード会社の対立は有名な話で、PiL スタート以来30数年間ずっと、ジョンはインタビューの度に必ずレコード会社の対応がいかにひどいかを話題にしてきました。2009年に PiL 再始動を計画したときもEMI/Virgin からは無視され、バター CM のお陰でやっとツアーに必要な人や会場、機材などを押さえる資金が調達できたわけですから。

約2年に渡るツアーでレコーディング資金を貯めながら、同時に移籍先を探してきたのですが、結果的に移籍金を出してくれるレコード会社は現れず、自分達で資金を拠出、EMI/Virgin との契約切れを待って自らのレーベル PiL Official を設立することになりました。おそらくはジョンだけでなく、他のメンバーも PiL に投資することに同意してくれたからこそ、元々は計画していなかったレーベルの設立が可能になったのだと思います。最終的には最も望ましい結果となりました。

晴れて PiL は EMI グループとは縁が切れ、自ら権利を管理して音源を制作、販売は各国の会社と個別に契約する形になりました。オフィシャルサイトにはその販売会社一覧が掲載されています。見てわかる通り、EMI グループの中で販売会社として残って残っているのは EMI Music Japan だけです。これも想像ですが、前述のような実績により「ジャパンの EMI はほかの国と違う」と PiL サイドに認められて、新たな契約に至ったのではないでしょうか。

ということで、PiL の国内盤は今までと同じ EMI Music Japan から発売されることになっています。面倒な契約交渉がギリギリまで続いたのでしょうから、国内発売が約1ヶ月遅れることには目をつぶりましょう。でも EMI の担当者にはまたひとつがんばっていただきたい。DVD 付きの限定盤、ぜひ国内でも発売していただきたい。現在のジョン・ライドンと PiL の姿をできるだけたくさんの人に見てもらえるようにすることが、PiL を担当した人間としての使命だと思うのですよ。何だったら日本独自に DVD だけ別売でもかまいません。

(2012/05/24追記) EMI Music Japan からも DVD 付き限定盤が発売されることになりました。邦題は「This Is PiL: 伝説をぶっとばせ」(笑)です。担当者の人、Well Done!

それからアナログ盤。現在 EMI Music Japan ではほとんどレコードを販売してないようですが、これもぜひ国内盤で販売していただきたい。ご存知ですよね、CD とレコードでは PiL のサウンド、特にベースの音が全然違うんです。「今、レコードを扱ってくれる販売店がほとんどなくて...」というのなら、直販という手もあります。アナログで最新の PiL を音を聴く機会を少しでも多く作って欲しいんです。よろしくお願いします!

「レコードなんて一部のマニアだけのもんで、そんな音にこだわってるわけじゃないし」なんて思ってるそこのきみ、いや全然違うんだよ、ホント。別にマニアじゃなくても「あれぇ?レコードの音って、ホントにこんなに CD と違うの?」ってくらい違います。特に PiL の場合、その差は歴然です。

嘘だと思ったら聴いてみるのが一番です。最近はレコードプレイヤーも安くなってるので、1万数千円で国産のちゃんとした製品が買えます。「This Is PiL」はアナログで聴きましょう。じゃないと絶対後悔します。

すべてが音楽なんだ。心と魂で感じ取ったことを伝えようとしている人間そのもの、それが音楽なんだ。だから音楽にはレコードという形こそふさわしい。