2012/06/21

そうだ、子どもたちと一緒にバンドをやればいいじゃないか! (Forever - Haim)

Haim
Haim, a photo by hobogirl923 on Flickr.

先日の話の続きです。

えっと、前回の話で何を書こうとしたかというと、ミュージシャンというのが以前みたいに儲かる商売じゃなくなってきた今、ライヴを中心に食っていこうとすれば、伝統的な家族を中心にした旅芸人の一座みたいのに戻っていくのがひとつのテじゃないかと思うんですよ。

コンスタントにライヴを続けてくってことは、要するに年中旅してるってことです。ステージをやって、車や飛行機に乗って、ステージをやって、また移動してという生活が延々続きます。バンドのメンバーがずっと顔をつき合わせてると、お互いの嫌なところも色々見えてきます。気候や食べ物がコロコロ変わる環境では、健康管理も難しくなってきます。実際、ツアーに明け暮れる毎日が嫌でバンドを脱退したとか、メンバー間のムードが険悪になって解散したという話はいくらでもあります。

一方、伝統的な旅芸人というのは、生活の前提が旅であり家族が基本構成になっています。旅が生活であり、旅の中でお互いの芸を長期的な視点で伸ばしていく人たちです。血を分けあった家族なら、お互いの性格や良いところ、悪いところも最初からよくわかっています。喧嘩したいときには思いっきり喧嘩できます。また身のまわりのことを分担したり、具合が悪くなればお互い面倒を見たり、ステージ以外の生活でお互いを助け合うことも当たり前です。赤の他人同士が集まって作ったバンドで、こうした関係を築くのは、そう簡単なことではありません。

またレコードや CD が音楽産業の中心となっていたここ数十年忘れられがちだったことですが、音楽ライヴのパフォーマーに必要なのは、音楽的才能や演奏テクニックだけではなく、ステージ上で観る人を魅き付ける技術も必要です。それは話し方や声の出し方や、時間的、空間的、人的な押したり引いたりの間合いです。こうしたものは、もちろん個人の才能も必要としますが、ステージの場数をこなすことで獲得する技術でもあります。伝統芸能では年端もいかない子どものうちからステージに立たせることが珍しくありません。それは「パフォーマーは観客によって鍛えられる」ことの重要さを長年の経験から知っているからです。ステージの繰り返しの中で、次の世代の才能を育てていくのが旅芸人のやり方です。

ということで、21世紀、これからのライヴ音楽は再び旅芸人一座の時代が来る。そんな気配を感じさせる家族バンドが色々登場しています。たとえば Kitty, Daisy & Lewis、あるいは First Aid Kit などがありますが、最近一番の注目のバンドは以前もここで紹介した Haim です。

LA 出身のハイム家三姉妹のバンドなんですが、元々はRockinhaim という家族バンドだったんですよ。

ギターを弾き始めたのは7歳くらいのとき。ママはアコースティック・ギターが弾けたので、ビートルズやジョニ・ミッチェルの曲をたくさん教えてくれたの。ママはずっとジョニ・ミッチェルみたいになりたかったの。でも生活のためにその夢をあきらめなくちゃならなかったみたい。だからその夢を私たちにかなえてほしかったんだと思う。私たち小さな頃からパパとママと一緒に家族でバンドを組んでいたのよ。その前に両親は別の夫婦と一緒に Boomerang という名前のバンドをやっていたんだけど、解散しちゃったの。パパはよほどショックだったらしく、一時はもう誰ともバンドをやりたくないと思ってたみたいなんだけど、ある日「そうだ、子どもたちと一緒にバンドをやればいいじゃない か!」って思い付いたみたい。それで私たちは町のチャリティや子ども病院、お祭りなんかで古いポップスやロックを演奏するようになったわけ。

DISCOVERY: HAIM

家族バンドとしての活動は10年にも及んだそうですが、姉妹は成長するに連れ て、単なるアマチュアのコピーバンドとしての自分たちに飽き足らなくなって きました。

私たちは自分たちでオリジナルの曲を書き始め、新しいドラマーを入れようって決めたの。「パパ、ごめんなさい。私たちは、同じ年頃のドラマーと一緒にやるべきだと思うの」って。パパはわかってくれたわ。だけど今でもすごく申し訳なく思ってる。

Haim, the hot new folk/R&B trio

こうして三姉妹は新たなドラマーを加え、4年ほど前に Haim が誕生しました。ハイムの現在のメンバーを紹介しておきましょう。ベース担当の長女エスティは24歳、ギターの次女ダニエルは22歳、キーボードやギターを担当する三女のアラナは19歳です。唯一の男性で家族外のメンバーはドラムのダッシュ・ハットン君です。

Haim の音を聴いてまず驚くのは、そのライヴでのしっかりした演奏力とコンビネーションの素晴らしさです。さすが子どもの頃からステージに立ってきただけあります。ライヴならではのエネルギッシュな歌や演奏をしながらも、「バンドとしての音」を聴かせる、観客を楽しませることを忘れません。またひとつの曲の中でリードヴォーカルがダニエルからアラナに、さらにエスティへと入れ替わったりするんですが、その呼吸、間合いが絶妙なんです。赤の他人が集まって数年一緒にやっただけでは、なかなか実現できるものではありません。

Haim は SXSW でのステージが話題になり、イギリスなど他の国からも声がかかるようになって、現在はイギリスでミニツアーを行っています。デビュー EP 「Forever」は iTunes などでダウンロード販売されている(UK のストアのみ)ほか、7月初めに限定盤のアナログ10インチが発売されることになっています。

全国の音楽好きのお父さん、お母さんたち、どう?子どもたちと一緒にバンドをやってみては?旅芸人になりませんか?

Haim にはオフィシャルなプロモーションビデオもあるんですが、やっぱライヴの方がお勧め。圧倒的にかっこいい。

(さらに「ロックのステージが伝統芸能になる日」へつづく)

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