Elvis Aaron Presley, a photo by Thuany Gabriela on Flickr. |
よく「日本人は裏のリズムを取るのが苦手」と言われます。表の「チャン、チャン、チャン、チャン」というのに対し、「ンチャ、ンチャ、ンチャ、ンチャ」という具合に、表の拍子の隙間にアクセントが来るのが裏のリズムです。この裏のリズムを主体とした音楽の代表がアメリカのゴスペル・ミュージックです。
最近は日本でもゴスペルが人気のようで、街のカルチャーセンターなんかにもゴスペル教室があります。以前そのひとつを聴く機会があったのですが、なんかぜんぜんゴスペルに聴こえないんですよ。たしかにゴスペルの曲を歌ってはいるんですが、歌の巧拙とは別に、あのゴスペル特有の躍動感がぜんぜん感じられない。ようするに裏のリズムがまったく取れていないんです。別にゴスペルの専門家じゃないんですが、思わず「そーじゃねーだろ!」と口を出したくなってしまいました。
もちろんゴスペルのリズムというのは、アフリカ音楽に由来し、何世代にも渡りアメリカ黒人の間で継承されてきた文化的なリズムでもありますから、それとは無縁の日本人が苦手でも仕方ありません。でもゴスペルの曲を聞くと「あれ、いいな。あんな風に歌いたいな」と思う日本人も少なくありません。よろしい、私がゴスペル・リズムの習得方法をお教えしましょう。実はそんなに難しいもんじゃないんです。
まずひとつ、リズムというのは身体全体で取るもんです。ようするに歌いながら一緒に踊るということですね。もうひとつは踊るときの身体の使い方です。こっちの方が重要。最近は YouTube という便利なものがあるので、「Gospel」と検索するだけで、歌っている人たちがどんな風に身体を使っているかすぐ確認できます。いい世の中になったものです。
早速ひとつ観てみましょう。実はこれ、アメリカじゃなくカナダのコーラスグループなんですが、身体の動きがよくわかるので例に取り上げてみました。アメリカ黒人じゃなくても、ゴスペルのグルーヴ感を出せるという良い例にもなっていると思います。正面でリードヴォーカルを取っている人じゃなくて、後ろでコーラスをしている人たちの動きをよく見てください。
肩を左右に大きく揺すりながら歌っているのがわかりますね。見るだけじゃなく、立ち上がって、音楽に合わせてあなたも肩を揺すってみてください。気がつきましたか?こういう風に肩を揺すると腰をくねらせる感じになり、上半身だけじゃなく、腰と、さらに釣られて足も大きく動くんです。慣れてきたら、上半身に合わせて下半身が動くのではなく、下半身の動きに上半身を合わせるように意識してみてください。動きがよりスムーズになるはずです。
合唱隊は足元まである長い服を着ているので見ただけでは気付きにくいのですが、実は腰をくねくねさせて歌っているんです。これがゴスペル・リズムの基本です。踊ってみると「ンチャ、ンチャ、ンチャ、ンチャ」という動きになっているのが分かると思います。あとはひたすら身体がリズムに馴染むまで動かすのみ。
また、これもやってみることで分かると思いますが、見た目よりはるかに体力を使います。1曲やるだけでもう汗ばんでくるはずです。身体全体でリズムを取るとそうなるんです。激しい運動をしている割に合唱団の人たちがみんな太っているのが不思議ではありますが...。
1950年代中頃、腰をくねらせながら歌う史上初の歌手としてテレビに登場したエルヴィス・プレスリー(Elvis Presley)は、当時「いやらしい」「不謹慎」「下品」と批判されたそうです。一方彼はその理由を「ゴスペルの牧師の真似をした」と答えたという話を読んだことがあります。この種のリズム感を出すには腰の動きが不可欠というのを、彼は身をもって知っていたのだと思います。
それから、裏のリズムが身体になじんでいないのは日本人だけではないようです。こちらのイギリス BBC で放送されたゴスペル番組をご覧ください。ステージ上の音楽は裏のリズムで進行しているのに、客席からの手拍子は表のリズムで、チグハグになっているのがわかりますよね。イギリス人もこのリズムが不得意みたいです。
最後にもうひとつご紹介しましょう。ゴスペル音楽をバックグラウンドに持つミュージシャンや歌手はたくさんいますが、その代表といえば何といってもニーナ・シモン(Nina Simone)です。以前もここで取り上げた Sinnerman は裏のリズム難易度最高レベルの名曲です。テンポが早く、10分以上の長い曲ですから、体力も必要です。この曲で最後まで踊り、曲の途中の手拍子なんかもぴったり合うようになれば、裏のリズムの免許皆伝です。健闘を祈ります。