オラが子供の頃を過ごしたのは旭川市の郊外です。延々と続く田んぼの中にできた新興住宅地です。田んぼの灌漑用水路に沿って立ち並んだ長屋式の市営住宅で育ちました。
雪が降ると、近所の空き地や公園で雪ダルマを作りました。雪の少ない地方の人は知らないと思いますけど、どんな雪でも雪ダルマを作れるわけじゃないんです。気温の低い日に降るいわゆるパウダースノーだと雪は固めてもすぐに崩れてしまいます。比較的暖かい日に降る、湿り気を帯びたボタ雪じゃないと雪ダルマは作れません。
まだ誰も雪に足を踏み入れていない公園などで、まず手で小さな雪玉を作って地面を転がします。雪玉のまわりに地面の雪がくっついて、ちょっと転がしただけで子供の腕では持ち上げられないほど重くて大きな雪玉になります。雪があまり深くない時期だと泥や枯れ草が雪玉にまじって、けっこうダーティな作業になります。
そんな雪玉をふたつ作って重ねると雪ダルマになるのですが、いつも少しでも大きな雪ダルマを作ろうとして雪玉を大きくし過ぎてしまうため、頭の部分を胴体に載せるのは大変な作業で、ひとつ作るともう汗びっしょりでした。
でき上がった後はわずかの間、雪の上に座って雪ダルマ完成の感慨にふけった後、おもむろに立ち上がりドロップキックで一撃のもと雪ダルマを破壊するのが楽しみでした。
ケイト・ブッシュ(Kate Bush)の新作「50 Words For Snow」は「雪」がテーマです。2011年の今どき「雪をテーマに1枚作ってみました」なんて言って、そのアルバムが一気にチャートの上位に入ってしまうような人は、世界広しといえどもケイト・ブッシュをおいてほかにいません。
たぶん最初は冬のような寒さを感じられるアルバムを作ろうとしたはずなんだけど、曲を書き始めてみるとすぐに全部の曲が雪に関するものになってしまったの。
雪の結晶ってひとつひとつがすべて違っていて、考えるだけですごく楽しい。何百万という雪の結晶があっても、中にどれひとつとして同じものはないんだから。
雪には人が忘れていた記憶を呼び起こすような、とても強い力が秘められていると思うの。イギリスにはあまり多くの雪は降らないのだけど、だからこそとても大切なもののように思えるのかもしれない。雪のある風景を目にしたとき感じるような雰囲気、それをアルバムを通じて実現したかったのよ。
50
Words For Snow: A Conversation With Kate Bush
世界が経済危機に瀕し、貧富の差が拡大、若者の多くは仕事を得られず都市部の出生率は低下、多くの先進国で高齢化が進む一方、アフリカや中東を中心にデモや戦争が続き、炭素ガス排出と気候変動に対する有効な対策は何も取らていないまま、地震や津波などの災害の末、原子力発電所で大事故が起きている今、ケイト・ブッシュが選んだテーマは「雪」です。
ほとんどの曲はピアノを中心に据えたシンプルなアレンジで、静かに、ささやくように、ゆっくりと「雪」の風景が歌われます。彼女が今歌うべきものが「雪」だからです。
アルバム・タイトル曲の「50 Words For Snow」は、俳優のスティーヴン・フライ(Stephen Fry)が、雪を表現する様々な言葉を50個、ゆっくりと読み上げるだけの曲です。ケイトは「ひとつ目」「ふたつ目」..「27個目」という具合に番号を読み上げ、合間に「その調子よ、ジョー、あと44個!」「がんばって、あと22個、雪をあらわす言葉を50聞かせてちょうだい!、エスキモーに負けるんじゃないわよ!」と力強く歌います。
これを聴くとオラなんか、どうしてもがんばらなくちゃなって思って涙が出てきてしまいます。
変?変じゃないよ。