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2014/09/04

あなたたち、今までどこに隠れてたの?(Before The Dawn - ケイト・ブッシュ)

a sky of honey, a photo by Sheldon Wood on Flickr.

かつてポップコンサートにおいて、これほど好意的で、爆発のような轟音の喝采を受けた者があっただろうか。その大歓声に彼女が何と応えたのかよく聞き取れなかったが、おどけてこう言ったのだけは、はっきり聞こえた。
「あなたたち、今までどこに隠れてたの?」

An Ultrahuman: Kate Bush Reviewed Live, By Simon Price

こんなのを読んだだけで「ど、ど、どの口が言うかぁ!」とその場で号泣し始めてしまう長年のファンが後を絶ちません。ケイト・ブッシュ、35年ぶりのフルコンサートが8月26日、ロンドンのハマースミス・アポロ(旧ハマースミス・オデオン)で開幕になりました。一部ニュース・サイトなどでツアーと表現されていますが、正確に言えばツアーではありません。劇場は同じアポロ1ヶ所だけの連続公演です。10月1日まで、1ヶ月あまりの短期間に22回の公演が予定されています。チケットは発売から30分と経たないうちにすべて売り切れてしまいました。

いやね、ロンドンまで観に行くことができなかったんで、初日の成功がTwitter やニュースで報じられるまで、もう心配で心配でならなかったんですよ。だって、前にちゃんとしたコンサートをやったのって1979年だよ、ケイトがデビューして間もない二十歳のときだよ。そのときだってまともなステージ経験もないのに、いきなりイギリス、ヨーロッパで29回のコンサートをやってみんなをびっくりさせたんだけどさ。それが最後、あとはテレビショーで歌ったり、他のアーティストのコンサートにゲストとして出演したりというのが何度かあっただけ。ライヴ活動をまったくしてなかったの。しかもここ20年くらいはニューアルバム出してもキャンペーンで人前に出ることすらほとんどなかったんだから。

ケイトは今、56歳です。同世代のヴィヴ・アルバーティンみたいな例もあることだし、この歳になってステージ・カムバックというのも2014年的には有りでしょう。だけどさ、それならそれで普通は小規模なライブやテレビ出演で肩慣らししてから始めるよね。いきなり3時間におよぶステージを短期間に22回連続でやるなんて馬鹿なこと、誰も言い出したりしないよね。

35年前の自分の経験なんて、赤の他人の経験とさほど変わりありません。そんな長丁場で声は持つんだろうか、体力は持つんだろうか。それより何より、今の自分にステージで人を魅了する力なんてあるんだろうか。みんなをがっかりさせてしまうんじゃないだろうか。長年のブランクで雪だるま式に膨れ上がったファンたちの妄想を受け止める力なんてあるんだろうか。いかなる大スターであっても尻込みせずにいられない状況です。

でもファンならみんな知ってます。ケイトに常識は通用しません。今までもずっとそうだったし、これからも間違いなくそうです。世の中の状況とか流行とか、35年経ってるとか、他人はどうやるとか、常識的にどうだとかそんなの全部ケイトの前では意味を成しません。本人に尋ねたらきっと「あら、そんなに変かしら」ぐらい言うに決まってます。

公演日程も序盤を過ぎました。あとは事故なくすべての公演を終え、観に行くことのできなかった世界中のファンのために、コンサートのビデオが発売されることを祈るのみです。

コンサートの内容についてはtangerineさんという方が初日の様子を詳しくレポートしてくれてるので、以下をご覧ください。

あとね、Twitterなどで「なんだ、初期の曲はやらなかったのかあ」みたいなのをよく見かけますが、ケイト・ブッシュは「今なお前進し続ける常識はずれのアーティスト」です。ケイトは「今が」全盛期です。まだ聴いてない方は最近の三作「Aerial」、「Director's Cut」、「50 Words for Snow」を聴くことを強くお勧めします。

コンサートの1曲目は「Lily」です。アルバム「The Red Shoes」のバージョンしか知らない人も多いと思いますが、近作「Director's Cut」ではこのように変貌を遂げています。このテンションで始まるんだよ。びっくりするよ。

ケイト・ブッシュはなぜ何十年も沈黙し、これをもっと早くやらなかったのだろう。それは彼女が生きて過ごす時間こそがこのショーを実現するために必要だったからなのだと思う。

Tracey Thorn on Kate Bush at the Hammersmith Apollo: the ecstatic triumph of a life’s work

2012/08/16

そんなもので俺を倒すことなどできない (Running Up That Hill - プラシーボ)

Brian singing
Brian singing, a photo by iko on Flickr.

ケイト・ブッシュの「Running Up That Hill」については昨日書いたばかりですけど、もうひとネタ。

有名な曲なので多くのアーティストやバンドがカバーしてるんですが、そのひとつに5年ほど前にプラシーボ(Placebo)がカバーしてシングル・ヒットしたバージョンがあります。若い人だとケイトのオリジナルは知らないけど、プラシーボのやつは聴いたことがあるという人が結構多いかもしれません。

英語ってのは日本語ほど男言葉、女言葉というのが明確ではないので、歌詞はほとんど変えなくても、歌い手によって男女の立場を入れ替えることが可能です。「Running Up That Hill」の場合、男性であるブライアン・モルコ(Brian Molko)がを歌うことで、立場が入れ替わりました。歌詞にある通り「お互いの身体を入れ替える(swap our places)」ことが実現したとも言えるでしょう。

先日オリンピック閉会式の「Running Up That Hill」を YouTube で探していたところ、もうひとつ面白いものを見つけました。プラシーボのバージョンがレッスルマニアというアメリカのプロレス・イベントで2010年版プロモーション・ビデオに使われていたんです。

最初はこの曲が、なんでこんなところに使われるんだろうと思っていたんですが、ビデオの冒頭、二人のレスラーがリング上で衝突するシーンのバックで"It doesnt't hurt me..." と歌が流れたところで理由がわかりました。ずっぱまりの曲です、これ。

アメリカのプロレスなどほとんど観たことないので知らなかったのですが、調べてみるとこの年のレッスルマニアのメインイベントはアンダーテイカー対ショーン・マイケルズという過去様々な因縁を持つ二人の対決で、ショーン・マイケルズは現役引退を賭けてリングに上がり、後世に語り継がれる名勝負となったそうです。

まあ、ビデオを観ていただければわかります。ここで「Running Up That Hill」は、リング上で戦い、傷付け合うという形でしか出会うことのできなかった二人の男の歌になっています。

そんなもので俺を倒すことなどできない
俺がどう感じてるのか、知りたいか?
俺が本当に痛みを感じていないのか、知りたいか?
俺が考えている取り引きについて、聞きたいか?
そうだ、おまえと俺のことだ

もし神と取り引きできるなら
二人、お互いの身体を入れ替えてもらえたら
一緒にあの道を駆けのぼって
一緒にあの丘を駆けのぼって
あの館に駆け上がれるのかもしれない

俺を傷付ける気はなかったんだろう
だが弾丸は、身体の奥深く突きささっている
俺もいつの間にか、おまえを引き裂こうとしている
お互いの心の中に怒りが渦巻いている

愛するものへの憎しみでいっぱいか?
なあ、俺たち両方に問題があるのかな?
そうだ、おまえと俺のことだ
もう二人は決して不幸にはならない

もし神と取り引きできるなら
二人、お互いの身体を入れ替えてもらえたら
一緒にあの道を駆けのぼり
一緒にあの丘を駆けのぼり
あの館に駆け上がるなんて
わけもないことなのにな

2012/08/15

もし神様と取り引きできるなら (Running Up That Hill - ケイト・ブッシュ)

帰省ラッシュやお墓参り、大雨、あるいはただ単にすごく暑いということで、みなさんすっかりお忘れかもしれませんが、ついこの間までロンドンでオリンピックが開かれていました。

そのオリンピック期間の終盤、8月6日にケイト・ブッシュのファン・サイト KateBushNews.com で 「Running Up That Hill (A Deal with God) 2012 Remix 発売のニュースが報じられたんですが、その発売日がオリンピック最終日の8月12日となっていたため「閉会式にケイトが出演するのでは?」と大きな話題になりました。結果的にケイトの出演は実現しなかったのですが、閉会式パフォーマンスのひとつでこの曲が大々的に使われました。

この「Running Up That Hill」は1985年のアルバム「Hounds of Love」からシングルカットされ、当時イギリスを始めヨーロッパでチャートの上位に入っただけでなく、それまでヒットのなかったアメリカでもトップ30に入り、世界的な大ヒットとなったケイトの代表曲です。

この曲で歌われているのは、お互いの無理解から破綻してしまった男女の関係です。愛し合っていたはずなのに、いつの間にかお互いを憎むようにまでなってしまった二人。でも神様と取り引きして二人の身体を入れ替えてもらったら、お互いをちゃんと理解し合えるのに、あの丘を二人で駆けあがっていけるのに、そんなある種妄想じみた願望が歌われています。明確なキーワードは何も出てきませんが、この曲を聞いて誰もが思い起こすのが「嵐ヶ丘」であり、キャシーとヒースクリフの二人の物語です。「嵐ヶ丘 パート2」とも言える内容の曲です。

閉会式に使われ、同日発売されたリミックス・ヴァージョンは iTunes StoreやAmazon MP3 などダウンロード限定のリリースです。昔のオリジナル・ヴァージョンを聴き込んだ人なら「あれっ?」と気付いたんじゃないでしょうか。そう、バックトラックのミックスが変えられているだけじゃなく、キーが低くなっているんです。メインのヴォーカルはオリジナルと明らかに違っていて、最近のケイトを思わせるやわらかな声になっています。公式には何も発表されていないんですが、おそらく「ディレクターズ・カット」レコーディングの際、一緒に録り直したヴォーカルじゃないかと思います。

この曲を使った閉会式のパフォーマンスは大きな白い箱を303個、男女たくさんのダンサーが小高くなったステージ中央に運び、その箱でピラミッドの形を組み上げるというものでした。303というのは今回のオリンピンクで競われた種目の数です。パフォーマンスと並行して、競技の様々なシーンがビデオで挿入されています。If I only could、もし叶うことなら身体を入れ替えてお互いの経験を交換したいのは、勝者と敗者?出場できた者と出場できなかった者?競技者とテレビを観ていただけのあなた?オリンピックに大騒ぎしていた人とそんなこととは無縁で生きていた人?そんな歌に聴こえます。

わたしは傷付いたりしないわ
わたしがどんな気持ちでいるのか、知りたくない?
本当に傷付いていないのか、知りなくない?
私が考えている取り引きについて、聞きたくない?
そうよ、あなたとわたしのこと

もし神様と取り引きできたら
二人、お互いの身体を入れ替えてもらえたら
二人であの道を駆けのぼって
二人であの丘を駆けのぼって
あの館に駆け上がれるのに

私を傷付ける気はなかったんでしょう
でも弾丸は、身体の奥深く突きささっている
私もいつの間にか、あなたを引き裂こうとしている
お互いの心の中に怒りが渦巻いている

愛するものへの憎しみでいっぱい?
ねえ、わたしたち両方が悪いんじゃない?
そうよ、あなたとわたしのこと
もう二人は決して不幸にはならない

もし神様と取り引きできるなら
二人の身体を入れ替えてもらえたら
二人であの道を駆けのぼり
二人であの丘を駆けのぼり
あの館に駆け上がるなんて
わけもないことなのに

2012/02/12

おかえりなさい (タホ湖 - ケイト・ブッシュ)

Lake Tahoe by wili_hybrid
Lake Tahoe, a photo by wili_hybrid on Flickr.

山の水は冷たく、泳ぐなんてとても無理。ただ岸に立って、眺めることしかできません。でもひょっとしたら、湖の底に沈んだ女性を見ることがあるかもしれません。言い伝えでは、いつの日か突然彼女が浮び上がって、現れると言われているのです。

ヴィクトリア調のドレスを身に纏った彼女は、迷子になった飼い犬を「スノーフレーク、スノーフレーク!」と名前を呼びながら探していたのですが、その途中、誤って湖に転落し溺れてしまいました。かわいそうに、陶器の人形のように、湖の底に沈んでいったのです。

彼女が目を覚ますと、家には誰もいませんでした。長らく留守にしている間に時計は止まってしまったのです。家には誰もいませんでした。

彼女が飼ってる年老いた犬は眠っていました。もう足が弱っていて、満足に歩けなかったのです。でも犬は夢の中で立ち上がり、走っていました。岸に沿って、ぬかるんだ野原を走りました。お化けの出そうな怖い森を通り抜け、彼女を探して走りました。

家のベッドは整えられ、食事のテーブルも準備ができていました。玄関のドアが開いて、誰かが呼んでます。彼女です。

こっちよ、こっちよ! おかえりなさい!あなたの大好きな骨やビスケットが用意してあるわよ。待ってたのよ。

さびしかった?私のこと、恋しかった?ほら、キッチンよ。あなたが眠るカゴがあるでしょう。ここは玄関ホール、いつもここで私を待ってるのよね。こっちは寝室だけど、ここは入っちゃだめよ。そしてここが私の膝、枕にして眠っていいのよ。

おいで、いい子ね。おかえりなさい。

おかえりなさい。

ケイト・ブッシュ(Kate Bush)の曲の評価で「癒される」「落ち着く」「おやすみの音楽にぴったり」なんてのをよく見かけるんですが、えーっ、みんなホントにそうなの?

オラなんか、この曲聴くと涙と鼻水で寝るどころじゃないんですけど。ケイト・ブッシュに「おかえりなさい」なんて歌われたら、ジョン・ライドンだって涙がこみ上げてきて、洟かみながらじゃないと聴けないと思うぞ。

2011/11/26

雪をあらわすことばを50聞かせて (50 Words For Snow - ケイト・ブッシュ)

オラが子供の頃を過ごしたのは旭川市の郊外です。延々と続く田んぼの中にできた新興住宅地です。田んぼの灌漑用水路に沿って立ち並んだ長屋式の市営住宅で育ちました。

雪が降ると、近所の空き地や公園で雪ダルマを作りました。雪の少ない地方の人は知らないと思いますけど、どんな雪でも雪ダルマを作れるわけじゃないんです。気温の低い日に降るいわゆるパウダースノーだと雪は固めてもすぐに崩れてしまいます。比較的暖かい日に降る、湿り気を帯びたボタ雪じゃないと雪ダルマは作れません。

まだ誰も雪に足を踏み入れていない公園などで、まず手で小さな雪玉を作って地面を転がします。雪玉のまわりに地面の雪がくっついて、ちょっと転がしただけで子供の腕では持ち上げられないほど重くて大きな雪玉になります。雪があまり深くない時期だと泥や枯れ草が雪玉にまじって、けっこうダーティな作業になります。

そんな雪玉をふたつ作って重ねると雪ダルマになるのですが、いつも少しでも大きな雪ダルマを作ろうとして雪玉を大きくし過ぎてしまうため、頭の部分を胴体に載せるのは大変な作業で、ひとつ作るともう汗びっしょりでした。

でき上がった後はわずかの間、雪の上に座って雪ダルマ完成の感慨にふけった後、おもむろに立ち上がりドロップキックで一撃のもと雪ダルマを破壊するのが楽しみでした。

ケイト・ブッシュ(Kate Bush)の新作「50 Words For Snow」は「雪」がテーマです。2011年の今どき「雪をテーマに1枚作ってみました」なんて言って、そのアルバムが一気にチャートの上位に入ってしまうような人は、世界広しといえどもケイト・ブッシュをおいてほかにいません。

たぶん最初は冬のような寒さを感じられるアルバムを作ろうとしたはずなんだけど、曲を書き始めてみるとすぐに全部の曲が雪に関するものになってしまったの。

雪の結晶ってひとつひとつがすべて違っていて、考えるだけですごく楽しい。何百万という雪の結晶があっても、中にどれひとつとして同じものはないんだから。

雪には人が忘れていた記憶を呼び起こすような、とても強い力が秘められていると思うの。イギリスにはあまり多くの雪は降らないのだけど、だからこそとても大切なもののように思えるのかもしれない。雪のある風景を目にしたとき感じるような雰囲気、それをアルバムを通じて実現したかったのよ。

50 Words For Snow: A Conversation With Kate Bush

世界が経済危機に瀕し、貧富の差が拡大、若者の多くは仕事を得られず都市部の出生率は低下、多くの先進国で高齢化が進む一方、アフリカや中東を中心にデモや戦争が続き、炭素ガス排出と気候変動に対する有効な対策は何も取らていないまま、地震や津波などの災害の末、原子力発電所で大事故が起きている今、ケイト・ブッシュが選んだテーマは「雪」です。

ほとんどの曲はピアノを中心に据えたシンプルなアレンジで、静かに、ささやくように、ゆっくりと「雪」の風景が歌われます。彼女が今歌うべきものが「雪」だからです。

アルバム・タイトル曲の「50 Words For Snow」は、俳優のスティーヴン・フライ(Stephen Fry)が、雪を表現する様々な言葉を50個、ゆっくりと読み上げるだけの曲です。ケイトは「ひとつ目」「ふたつ目」..「27個目」という具合に番号を読み上げ、合間に「その調子よ、ジョー、あと44個!」「がんばって、あと22個、雪をあらわす言葉を50聞かせてちょうだい!、エスキモーに負けるんじゃないわよ!」と力強く歌います。

これを聴くとオラなんか、どうしてもがんばらなくちゃなって思って涙が出てきてしまいます。

変?変じゃないよ。

2011/10/12

Wild Man - ケイト・ブッシュ

Wild Man Single - released 11 October

こないだ「早くてもあと3年は出ないぞ!」と書いたばかりですが、ケイト・ブッシュ(Kate Bush)のニューアルバム「50 Words For Snow」が来月21日にリリースされます。先行リリースのシングル「Wild Man」はダウンロード版のみですが既に発売されています。

オラの名誉のために言っておくと、これ絶対「ディレクターズ・カット」出すときにはもうほとんど出来上がってたんだと思うぞ。そうじゃなければケイトが年に2枚のアルバムなんてあり得ない。きっとケイトが「新作と昔の曲を録り直したのでアルバム2枚分あるのだけど、また2枚組で出すのがいいかしら?」なんて言うのを聞いた EMI の担当者が「いやいや、そんなもったいないことを!ダメです!分けて別々に出しましょう。新作のほうは雪とか冬のイメージだから、リリースを遅らせてクリスマスにしましょう。今年のクリスマス前に一大キャンペーンを打ちます!これで私の暮れのボーナスも安泰です!」なんて言ったんだと思う。絶対そうに決まってる。

ということで2005年以来の待望の新曲「Wild Man」は雪男へのラブソングです。YouTube にアップされている Radio Edit は途中で唐突にちょん切れてるような印象を受けますが、その通りです。フルバージョンを聴きたい人はアルバムのリリースを待つなんて呑気なことをしていてはいけません。日本の iTunes Store でも DRM なしで売ってます

もうすぐ手稲山にも雪が降ります。

人は、あなたをケモノと呼んでいる。カンチェンジュンガの悪魔。ワイルド・マン。忌わしき雪男。

テントの中に横たわっていると、あなたの泣く声が聞こえてくる。山中にこだまする孤独な声。

ラクパ峠を通ったとき、何かが岩の上から飛び降りた。遠い昔、ガロ丘陵地帯でディプ・マラクが、雪の上に足あとをみつけた。

ダージリンの学校の校長が、タボチェ修道院の近くであなたを見かけた。雪の上で遊んでいるところを。ドアをドンドンと叩いた後、あなたは屋根の上にのぼっていった。世界の屋根の上に。それからツツジの木を引き抜いて、走り去っていった。

あなたのことを知りたがっている人たちがいる。あなたを捕まえ、そして殺してしまうでしょう。

逃げて。逃げて。逃げて。

ラクパ峠を通ったとき、何かが岩の上から飛び降りた。遠い昔、ガロ丘陵地帯でディプ・マラクが、雪の上に足あとをみつけた。

わたしたちは、雪の上にあなたの足あとをみつけた。そして、すべて掃き消した。

アンナプルナのシェルパからチンハイのリンポシェに至るまで誰もが、カイラス山からヒマーチャル・プラデーシュまでのすべての羊飼いが、雪の上の足跡を見ている。

あなたはラングールなんかじゃなく、大きなヒグマでもない。あなたはワイルド・マン。

ロンブク氷河で、溺死したあなたを見たという人がいる。あなたを捕らえたがってる人たちがいる。あなたはケモノなんかじゃない。ラマ僧たちの言う通り、あなたはケモノなんかじゃない。

2011/05/30

昔々、ヒース生い茂る荒涼たる国からケイト・ブッシュというお嬢さんが日本へやってきて... (Moving - ケイト・ブッシュ)

On the moors by zootle
On the moors, a photo by zootle on Flickr.

最近「ケイト・ブッシュ ディレクターズ・カット」の検索キーワードで先日書いた句読点のない記事に飛んでくる人がずいぶんいるなあと思って調べてみたら、Google で今この記事がトップにランクされてんの。ええーっ、いいのかなあ。商業音楽サイトとかでもっとちゃんと紹介した記事があるでしょう?とか思ってまた調べてみたら、ない。日本語のアルバム紹介やインタビューの記事ぜんぜんない。

で、さらに調べてびっくりしたんだけど「ディレクターズ・カット」の日本版 CD の発売ってなんと2ヶ月後、7月まで出ないの。うっそお。今回のアルバムはケイト自身のレーベル Fish People からのリリースなので契約でモタついたのかなあ?まあそんなことでレコード会社からの広告で収入を得ている日本の商業音楽サイトはケイト・ブッシュの記事を自粛、ケイト・ブッシュの新作は存在しないことになってるらしい。

ロッキングオンなんかは今年の1月に「ケイト・ブッシュ、今年中になにかしらのリリース?」って記事が出て、その後は先週の「『ディレクターズ・カット』が UK チャートで初登場2位」って記事だけ。なんかライターの人たち、書きたいときに書きたいことが書けなくて可哀想。オラが代わりに書いてあげます。ケイト・ブッシュの新作はすでに出ています。素晴らしいです。iTunes Store とか輸入盤で入手できます。

そういえばロッキングオンで思い出した。ケイトは昔々の1978年に一度だけ来日して歌ったことがあるんです。東京音楽祭というのに出演するためだったのですが、このときロッキングオンがインタビューしてるんですよ。ロッキングオンにとって初めての本物のインタビュー記事だったのかもしれない。インタビュアーは松村雄策さん。編集後記のオマケみたいな扱いで半ページくらいの小さな記事だったように記憶しています。

東京音楽祭でのケイトのパフォーマンスはテレビで放送されたんですよ。もちろんオラは見ました。びっくりしました。そのときの様子、うれしいことに YouTube で見られます。1曲だけです。この1曲歌うためだけにデビューして間もないケイトがイギリスからはるばるやって来てくれました。そしてこの1曲で充分という最高のパフォーマンスを見せてくれました。

言っとくけど、これ口パクじゃないからね。歌も演奏も生の一発勝負。この頃はまだワイヤレスマイクというものが普及してなかったので、胸にぶら下げた花飾りみたいなのにマイクを隠して歌っています。よく見るとわかるはず。

2011/05/21

戦うゴム紐娘 (ラバーバンド・ガール - ケイト・ブッシュ)

えっとケイト・ブッシュ(Kate Bush)の「ディレクターズ・カット(Director's Cut)」については先日も書いたばかりですが、どうも世間では古い曲の単なるリミックスと受け取っている人が少なくないようです。いや違うんだってば。新作なんだってば。アルバム付属のブックレット冒頭でご本人もこのように語っています。

何年かの間私は「The Sensual World」と「The Red Shoes」の曲をいくつか選んでやり直したいと思っていました。オリジナルの録音からミュージシャンのベストなパフォーマンスを保ちつつそのトラックを取り出して、それをまた縫い合わせる際に新たなシーンとテクスチャーを加えてみたかったのです。つまり映画のディレクターズ・カットのようなことを音楽でやろうとしたわけです。ですがこれらの歌をもう一度歌ってみると自分が間違った(キー)でドアを開けようとしていることに気づきました。だから私は別な(キー)を用意しました。そしてドアを開けてみると...。」

まあインタビューで「次のアルバムの曲はもうでき上がってて...」なんてことを言ってるので知らない人が「ディレクターズ・カットは本当の新作が出るまでのつなぎ?」と勘違いするのも無理ないとは思いますが、長年ケイトのファンやっていると分かるんです。そんなに簡単に次は出ないんです。時間感覚が普通のミュージシャンとは違うんです。おまけに大切な一人息子はもう12歳です。そろそろ思春期で「うるせえ、ババア!」とか言い出す年頃です。そんなんなったらもうケイトが大変なことになってアルバムどころでなくなるのは目に見えてます。個人的にはケイトみたいな母親を持った息子の方が大変だなと思います。同情します。

今回のアルバムには完全な新録音が3曲収録されています。中でもハイライトはアルバム最終曲「ラバーバンド・ガール(Rubberband Girl)」です。サウンドがなぜか突然ストーンズのベガーズ・バンケットです。ブルース・ハープまで入ってます。「ストリート・ファイティング・マン(Street Fighting Man)」になってます。

「もうガールってトシじゃないだろ。ばあさんはさっさと引退しな!」とか言う元気な娘さんがいたら、ぜひぜひ挑戦してください。ケイトはいつでも受けて立ちます。どこからでもかかってきなさい。

木々が揺れているのを見ると
ゆらゆら揺れているのを見ると
逆らってばかりの私より
ずっと分別があるみたい

ゴム紐は勢いよくはね返る
ゴム紐はビートをはね返す
私がゴム紐みたいに柔軟なら
すぐに立ち直れるのに

ゴム紐は勢いよくはね返る
ゴム紐でポニーテールを束ねて
ゴム紐みたいにピーンと響けたら
ゴム紐娘になれるのに

私はゴム紐娘
私はゴム紐娘
ゴム紐娘になりたい

たとえカタパルトから発射されたって
地面にしっかり着地して
またすぐに立ち直る

ゴム紐は勢いよくはね返る
ゴム紐はビートをはね返す
私がゴム紐みたいに柔軟なら
すぐに立ち直れるのに

ゴム紐でズボンをとめて
ゴム紐でポニーテールを束ねて
ゴム紐みたいにピーンと響けたら
ゴム紐娘になれるのに

私はゴム紐娘
私はゴム紐娘
ゴム紐娘になりたい

ゴム紐はビートをはね返す
ゴム紐はビートをはね返す
ゴム紐みたいにパチンとはじけたい
ゴム紐みたいにピーンと響きたい
私はゴム紐娘

2011/05/16

ディレクターズ・カット - ケイト・ブッシュ

イエスそうよまずあたしがシードケーキのかけらを口移しで彼に食べさせたのちょうど今年と同じうるう年で16年前のことだったわすごく長いキスで息が止まってしまいそうだったのイエスそうよ彼はあたしを山に咲く花みたいだって言ったのイエスそうよあたしたちはみんな花なの女の身体はイエスそうよこうやって句読点がないと息が続かなくてすごく苦しいでしょうでも仕方ないのだってジェイムズ・ジョイスが悪いのよユリシーズの最終章ペネロペイアはこうやってお尻の穴をなめたり彼をしゃぶったりとかいう話がてんこ盛りのモリー・ブルームのおしゃべりが句読点抜きでえんえん書かれているんですものイエスそうよこの章だけでも読むのに二時間じゃ足りないのよその間ずっと句読点なしなのよ信じられるイエスそうよもっと信じられないのはそんな話をそのまま歌にしようとしたケイト・ブッシュ(Kate Bush)よ1989年のアルバム「センシュアル・ワールド(The Sensual World)」のアルバム・タイトル曲はペネロペイアの一節をそのまま使って歌にしたものだったのだけどジョイスの孫に使用の許可を求めたら断られてしまったのもっともだと思うわイエスそうよだってこんなの歌にしようなんて普通の人間が思いつくはずないものジョイスの孫は頭のへんな女がへんなこと言ってきたまあじいさんのファンには元々へんなのが多いからなと片付けてしまったのかもしれないけど仕方なくケイトは歌詞を変えてリリースしたのだけどケイトのことだからあんのじょうずっと根に持っててそれだけじゃなくその後の1993年のアルバム「レッド・シューズ(The Red Shoes)」の出来もいまひとつ納得がいってなくてこの二つのアルバムにはすごく大切な曲があるのにそれを充分に表現しきれなかったと後悔していてというかこの二つのアルバムに収録したいくつかの曲は本来ひとつの作品としてあるべきものじゃないかとずっとずっと考えていて最近になって昔のトラックを再構成してヴォーカルを録り直してダメもとでもう一度ジョイスのユリシーズから使っていいかきいてみたらなんとオーケーの返事が出てケイトはうれしくて月まで飛んでいきそうなくらい喜んでできたのが今日発売になったばかりの「ディレクターズ・カット(Director's Cut)」なのよだからこれは断じて古い曲のリメイクなんかじゃなくてまったく新しいアルバムなのだからイエスそうよ件の「センシュアル・ワールド」も歌詞を元々のジョイスの一節を使ったものにしてタイトルも「フラワー・オブ・ザ・マウンテン(Flower of the Moutain)」になってるのだけどそんなケイトも普段は歴とした主婦で前作「エアリアル(Aerial)」で披露した親バカぶりも健在なの「Deeper Understanding」でコンピュータの声をやっているのが実は12歳になる息子です元々作品を作るのに時間がかかるというか自分が納得いくまで作り込まないと気が済まない人な上家事と音楽の両立で作品の間隔が数年空いてしまうのはどうしようもないケイトは次のアルバム製作に取りかかっていて来年にも次を出したいとか言っていますでもイエスそうよ昔からケイトを聴き続けているあたしたちは知っているのよそんなに早くできるはずがない早くても三年後まあ五年後あたりが良いところかなイエスそうよあたしはすべての匂いとあたしの胸を感じられるように彼を引き寄せイエスそうよ彼の心臓は狂ったように高鳴っていてイエスそうよ止まんなくなるわねこれしばらくこれでいこうかしら

2011/04/27

ケイト・ブッシュとフリーソフトウェア革命 (Deeper Understanding - ケイト・ブッシュ)

今から20年前の秋、C Magazine という雑誌の付録として、あのプログラムがオラの手元に届いた。5インチのフロッピーディスクに収められたそのプログラムは djgcc という名の C コンパイラだった。人類に深遠なる叡智をもたらすソースコード付きのソフトウェアだった。

オラは「グニュー、グニュー、グニュー」と3回唱えてパソコンにフロッピーをセットした。だけどコンパイラは動かなかった。当時最先端の32ビット CPU 80386が必要だったのだ。オラのパソコンは16ビットのやつだった。


前作「Aerial」から5年、ケイト・ブッシュ(Kate Bush)の新作「ディレクターズ・カット(Director's Cut)」はその名の通り既発表曲の新編集バージョンを収録したアルバムです。「The Sensual World(1989)」と「The Red Shoes(1993)」から選ばれた11曲で構成され、3曲は完全な新録音、そのほかの曲もヴォーカルとドラムがすべて録り直されています。リリースは5月中旬の予定です。

このアルバムからシングルとして「Deeper Understanding」が先行発売されています。パーソナルコンピュータをテーマに歌ったこの曲が最初にリリースされたのは1989年。一般にはまださほどコンピュータが普及していなかった時期です。もちろんインターネットなどはなく、普通の電話回線を使ったパソコン通信がごく一部の人の趣味として行われていた時代に作られた曲です。

今ではパソコンだけなくスマートフォンやタブレットなどを使ったネットアクセスがごく普通の人たちにも普及し、このケイトの新作の情報を得たり、ビデオを見たりしています。そのネットは djgcc で育ったプログラマや数多くのフリーソフトウェアによって支えられています。1989年にティーンエイジャーとしてこの曲を聴いていた少年、少女たちは、30代あるいは40代のおじさん、おばさんになっています。

さて、2011年の現在、この曲はどんな意味を持つのでしょう。

人がみんなよそよそしくなり
毎日夕暮れになるとぼくは
コンピュータの電源を入れ、一緒に過ごすようになった

ぼくは、雑誌を通じて手に入れた新しいプログラムを起動した

画面にメッセージが表示される
「寂しいの?それとも道に迷った?まず音声入出力装置を用意して」
ぼくは実行キーを押した

すると声が聞こえた
「こんにちは、ようこそ。あなた何もかもすべてにうんざりしてるのね。じゃあ私があなたに本当の愛と深い叡智を与えてあげましょう。」

2005/11/04

I feel I gotta get up on the roof! (Aerial - ケイト・ブッシュ)

ゴスといえばこの人を差し置いて語ることはできませんのだ。12年ぶりの復活です。ケイト・ブッシュ(Kate Bush)が立派なおばさんになって帰ってきました。ヒースクリフ、あたしよ!窓を開けてちょうだい!

日本でゴスといえばなんかナル入った顔色悪いのが練炭で集団自殺するみたいなイメージがあるのですが、本場のゴスはそんなんちゃうぞ!パワーあり過ぎて、あり余ったパワーに肉体が耐えられなくなって、結果的に死に至ったりしちゃうこともあるのがゴスだぞ!とりあえず「嵐が丘」くらい読め。読んだことないだろ?ゴスの聖書だ。

んでその正統派ゴスの血筋をひくケイト・ブッシュ、かつては王女様くらいだったのが偉大な女王様になって帰ってまいりました。息子もいます。もちろん巻き添えになっています。以前だと何ヶ月も朝から晩までスタジオに籠もってないとアルバム作れなかったのが、今では家事の合間にやってのけます。

ケイト・ブッシュにかかれば円周率もゴスです。洗濯機もゴスです。今さらながらジャンヌ・ダルクも登場します。12年の間に鳥語もマスターしたので、鳥語の歌もあります。アルバムタイトル曲では屋根の上で鳥と一緒になって笑い転げてます。

おまけ
ライドンおじさんと睦まじく談笑するブッシュおばさん