帰省ラッシュやお墓参り、大雨、あるいはただ単にすごく暑いということで、みなさんすっかりお忘れかもしれませんが、ついこの間までロンドンでオリンピックが開かれていました。
そのオリンピック期間の終盤、8月6日にケイト・ブッシュのファン・サイト KateBushNews.com で 「Running Up That Hill (A Deal with God) 2012 Remix 発売のニュースが報じられたんですが、その発売日がオリンピック最終日の8月12日となっていたため「閉会式にケイトが出演するのでは?」と大きな話題になりました。結果的にケイトの出演は実現しなかったのですが、閉会式パフォーマンスのひとつでこの曲が大々的に使われました。
この「Running Up That Hill」は1985年のアルバム「Hounds of Love」からシングルカットされ、当時イギリスを始めヨーロッパでチャートの上位に入っただけでなく、それまでヒットのなかったアメリカでもトップ30に入り、世界的な大ヒットとなったケイトの代表曲です。
この曲で歌われているのは、お互いの無理解から破綻してしまった男女の関係です。愛し合っていたはずなのに、いつの間にかお互いを憎むようにまでなってしまった二人。でも神様と取り引きして二人の身体を入れ替えてもらったら、お互いをちゃんと理解し合えるのに、あの丘を二人で駆けあがっていけるのに、そんなある種妄想じみた願望が歌われています。明確なキーワードは何も出てきませんが、この曲を聞いて誰もが思い起こすのが「嵐ヶ丘」であり、キャシーとヒースクリフの二人の物語です。「嵐ヶ丘 パート2」とも言える内容の曲です。
閉会式に使われ、同日発売されたリミックス・ヴァージョンは iTunes StoreやAmazon MP3 などダウンロード限定のリリースです。昔のオリジナル・ヴァージョンを聴き込んだ人なら「あれっ?」と気付いたんじゃないでしょうか。そう、バックトラックのミックスが変えられているだけじゃなく、キーが低くなっているんです。メインのヴォーカルはオリジナルと明らかに違っていて、最近のケイトを思わせるやわらかな声になっています。公式には何も発表されていないんですが、おそらく「ディレクターズ・カット」レコーディングの際、一緒に録り直したヴォーカルじゃないかと思います。
この曲を使った閉会式のパフォーマンスは大きな白い箱を303個、男女たくさんのダンサーが小高くなったステージ中央に運び、その箱でピラミッドの形を組み上げるというものでした。303というのは今回のオリンピンクで競われた種目の数です。パフォーマンスと並行して、競技の様々なシーンがビデオで挿入されています。If I only could、もし叶うことなら身体を入れ替えてお互いの経験を交換したいのは、勝者と敗者?出場できた者と出場できなかった者?競技者とテレビを観ていただけのあなた?オリンピックに大騒ぎしていた人とそんなこととは無縁で生きていた人?そんな歌に聴こえます。
わたしは傷付いたりしないわ
わたしがどんな気持ちでいるのか、知りたくない?
本当に傷付いていないのか、知りなくない?
私が考えている取り引きについて、聞きたくない?
そうよ、あなたとわたしのこともし神様と取り引きできたら
二人、お互いの身体を入れ替えてもらえたら
二人であの道を駆けのぼって
二人であの丘を駆けのぼって
あの館に駆け上がれるのに私を傷付ける気はなかったんでしょう
でも弾丸は、身体の奥深く突きささっている
私もいつの間にか、あなたを引き裂こうとしている
お互いの心の中に怒りが渦巻いている愛するものへの憎しみでいっぱい?
ねえ、わたしたち両方が悪いんじゃない?
そうよ、あなたとわたしのこと
もう二人は決して不幸にはならないもし神様と取り引きできるなら
二人の身体を入れ替えてもらえたら
二人であの道を駆けのぼり
二人であの丘を駆けのぼり
あの館に駆け上がるなんて
わけもないことなのに