2012/08/27

ジョニー・ロットンはアメリカを愛してる (Johnny Rotten Loves America)

An old Black Confederate Solider and his Grandson
An old Black Confederate Solider and his Grandson, a photo by J. Stephen Conn on Flickr.

PiL の北米ツアーに合わせて10月1日にシングル「Out of the Woods」がリリースされる件、先日はさらっと書きましたけど、これアメリカ人にとっては大変な問題作なんですよ。「Anarchy in the UK」や「God Save the Queen」なんかより、はるかにインパクト大きいはず。これがもし大手レコード会社からのリリースだったら、絶対に発売が認められない内容の曲です。

この曲はアメリカ南北戦争でのチャンセラーズヴィルの戦いについて歌っている。南北戦争にすごく興味があって調べたんだが、アメリカの真の歴史が独善的な見方によって無視されてることがわかって、ものすごい憤りをおぼえたんだ。そこから生まれた曲なんだよ。

アフリカ系アメリカ人は、アメリカの歴史のその部分において完全に無視されているのさ。俺はフロリダで教師をしているネルソン・ウィンブッシュ(Nelson W. Winbush)という人物に会った。彼の曽祖父は黒人の南軍兵士(black confederate soldier)だったんだ。自由な身分にあり、ボランティアとして志願し、南軍の兵士になった人物さ。

アメリカの歴史における黒人の本当の歴史なんだが、これは今でもうかつに会話に持ち出すと大問題になってしまう内容なんだ。この曲はそうした事実すべてと関連している。すごく興味深い話だろ。

John Lydon's Guide To 'This Is PiL'

これだけじゃ何のことだかピンと来ない人が多いと思うので、ちょっと解説します。まずアメリカの南北戦争、学校の世界史の時間に習いましたよね、150年ほど前にアメリカで起きた内戦です。南部11州が合衆国からの独立を宣言して結成したアメリカ連合国(Confederate States of America)と北部の合衆国との間で起きた戦争で、アメリカ史上最大の62万人という(第二次世界大戦よりも多い)犠牲者をもたらした戦争でもあります。

北軍は奴隷制を否定(正義)、南軍は奴隷制を擁護(悪)、結果は正義の北軍が勝利し、リンカーンが奴隷の解放を宣言して平和が訪れました。こんなイメージで把えてる人が大半だと思います。ですが Two sides to every story、人間の起こす戦争というものはそう単純なものではありません。戦争の原因自体は奴隷制とは直接関係がなく、貿易政策や州の自治権をめぐる、産業構造の違いからくる利害の対立です。奴隷の解放は副次的な結果に過ぎない、仮に南軍が勝利したとしてもやはり世の流れによって、奴隷は解放されていただろうという見方もできるのです。

北軍に黒人の兵士がいたことは、映画「グローリー (Glory)」に描かれたこともあり、知っている人も多いでしょう。ところが北軍だけじゃなく、南軍にも黒人の兵士がいたんです。しかも奴隷ではなく自由な身分の黒人で、自ら志願して兵士になった人々が。

この曲は黒人の南軍兵士の視点で歌っているんだ。

Public Image Ltd live at Heaven: Lock up your children

この記事の最初にある古い写真に写っているのがその兵士のひとり、Louis Napoleon Nelsonです。彼の隣で軍服を着てポーズをとっている子どもは曾孫(ひまご)のネルソン・ウィンブッシュです。戦争から70年ほど後、1932年に撮られた写真です。ジョン・ライドンが会って話を聞いてきたというのは、このウィンブッシュ氏です。

「北軍 = 奴隷解放 = 正義」説ひいては合衆国の大義を揺がしかねない黒人南軍兵士の存在は、公式の記録が残っていないことから長らくアメリカ国内で否定され続け、認められるようになってきたのは、つい最近のことです

ジョン・ライドンがウィンブッシュ氏に会いに行ったのは2007年のことで、当時のジョンはレコードを出したくても出せない状況にあったため、テレビに活路を見出そうとしていました。そこで彼が作ったのが、ランボーと共にハリケーン・カトリーナの被災地や民兵の集会などを訪れ、アメリカ南部の歴史を探るというドキュメンタリー番組「Johnny Rotten Loves America」です。その取材のひとつでウィンブッシュ氏に出会ったわけです。

ところがこの番組、放送してくれるテレビ局が現われず、結局お蔵入りになってしまいました。番組のトレーラーだけは YouTube に上がっているので観ていただくとすぐにわかりますが、This is Jonny Rotten なアプローチです。アメリカのテレビ局が逃げ腰になるのも無理はありません。

スティーヴン・フライ(Stephen Frye)はアメリカ南部のことを何も理解しちゃいない。そこに暮してるのが人の良い人間ばかりだってことは知ってるかもしれないが、あの土地の歴史について何もわかっちゃいないんだ。彼が南北戦争に関する番組をつくったことがあったが、南北戦争は奴隷解放のためだったなんていう安易な考えに基いたものだった。そんなの嘘っぱちだ。事実じゃない。だったらリンカーンの妻がアメリカ最大の奴隷所有者だったという事実をどう説明するんだ?戦争が終わっても長いこと黒人たちが解放されなかったのはなぜなのか説明してくれよ。

南軍旗(Confederate flag)を人種差別主義者の旗のように言うのも止めるべきだ。そもそも黒人たちは合衆国の旗の(もと)で奴隷としてアフリカから連れて来られたんだぜ。俺は真実が知りたいだけなんだ。もちろん南部ではひどいことが行われていたろう。だが南北両方でひどいことが行われていたんだ。だが嘘をつき続けてる限り、国の問題は何ひとつ解決できやしない。特に歴史というやつは、嘘つきどもがあれこれ好んで操作するもんだからな。

この件は、真実がどうであったのか厳しく検証すべき問題なんだ。じゃないと俺たちは、虚空の中で無意味な空想上の議論をしてるだけに終わってしまう。

PiL's John Lydon on appearing in butter commercials and being on Judge Judy

つまりシングル「Out of the Woods」は5年越し、「Johnny Rotten Loves America」で果せなかったことに対するリターン・マッチなんです。10月からこのシングルを携えて PiL の仲間と共にジョン・ライドンが再びアメリカへ乗り込みます。