2013/01/26

きみの妄想力が試されるとき (NPR Music Tiny Desk Concert - テリ・ジェンダー・ベンダー)

Le Butcherettes: NPR Music Tiny Desk Concert

みなさんご存知の通り、芸能界というのは夢を売る商売です。夢を提供する側はいい種を蒔いて、あとはそれがでっかく膨らむのをじっと待つというのが理想のやり方です。夢を提供する側は基本、種だけ蒔けばいいんです。それを育てるのは夢を見る側、見たい側の仕事です。ここでポイントとなるのは、全部ありのまま曝け出したりしないことです。見えない部分、わからない部分をしっかり残すということです。見えない部分、わからない部分が肥やしとなって、妄想が大きく育つからです。

ただしこのようなやり方が通用したのは前世紀までで、最近は通用しなくなってきました。インターネットが一般に普及し、普通の人が安価に入手できる情報量が飛躍的に増えたためです。昔、妄想を膨らませていた人たちが何でそんなことをしていたのかといえば、情報に対する飢えを満たすにはそれしか方法がなかったからです。別にやりたくてやっていたわけじゃないんです。簡単に情報が手に入れば、それに越したことはありません。

ということで、夢を売る商売が困難な時代となってきました。ちょっと情報を抑えて妄想が育つのを待ちたいと思っていても、競合する相手がどんどん情報を出したらそれに追随せざるを得ないからです。こうして情報が供給過剰となり、相対的に人々の妄想力が低下するインフレ状態が発生するに至ったのです。

芸能人のステージ、あれは一見たくさん色々なものを見せているような印象を受けますが、実体は違います。仰々しいステージセット、燦びやかな衣装や照明、大音響などを駆使して実体を曖昧に見えにくく、聴こえにくくしているのがステージというものです。

今回ご紹介する NPR Music の Tiny Desk Concert は、この妄想力インフレ時代の最右翼ともいえるコンサートです。コンサートの舞台となるのは NPR Music の事務所です。真っ昼間、事務所の机の脇に立ってアーティストが演奏するんです。特別な音響装置や照明など、何もありません。アーティストが使えるのは原則アコースティック・ギターなどのアンプラグドな楽器だけ、歌はマイク使わなくても聴こえる広さしかないのでマイクも使いません。あるのはビデオカメラでの撮影に支障が出ない程度の照明と録音用のマイクだけです。

アーティストの歌声と演奏、それだけのコンサートです。つまり、きみの妄想力が試されるのがこの Tiny Desk Concert です。

ボウズニアン・レインボウズ(Bosnian Rainbows)での活躍で、日本でも最近になって話題急上昇のテリ・ジェンダー・ベンダー(Teri Gender Bender)も昨年この Tiny Desk Concert に出演しました。

いつもの古風なワンピース姿ですが、コンサートの趣旨に合わせて(?)ほとんどすっぴんで登場します。冒頭、ギターの音を聴くとチューニングが甘く弾き方も何だか素人の女の子みたいです。しかし歌い出した瞬間に表情が変わり、世界が一変します。彼女もまた「Army of One」なんです。

12月のボウズニアン・レインボウズのライブを観た人たちの間で話題になった「照れるテリ」がここでも見られます。何かに取り憑かれたような表情が曲が終わった瞬間に崩れ「いやっ、ども、グラシャス、お恥ずかしい」って感じで一々マジで照れるんです。テリ・ジェンダー・ベンダー、すっげえかあいい!

Tiny Desk Concert はほかにも色んなアーティストが出演していて、探すとびっくりするような人が見つかります。もうひとつのお勧めはブッカー・T・ジョーンズ(Booker T. Jones)のハモンド教室

2013/01/25

ボウズニアン・レインボウズ(Bosnian Rainbows)のデビュー・シングル「Torn Maps」リリース!

Bosnian Rainbows - Torn Maps

オマー・ロドリゲス・ロペス(Omar Rodríguez-López)率いるニュー・バンド、ボウズニアン・レインボウズ(Bosnian Rainbows)のデビュー・シングル「Torn Maps」がリリースされました。ただしダウンロード販売のみ、Bandcamp で販売しています。値段は「1ドル+このバンドに期待するあなたの気持ち」です。ファイルのフォーマットは MP3 のほかにも AAC、Ogg Vorbis、ALAC、FLAC と各種取り揃えてございます。

昨年12月に東京と大阪でおこなわれたライヴは観客はあまり多く集まらなかったみたいですが、観に行った人たちの間では「オマー、ノリノリ、見違えるよう」「あのヴォーカルの女の子すごい、一体何者?」と大評判になってます。

奇しくもボウズニアン・レインボウズのシングル発表と前後して、セドリック(Cedric Bixler-Zavala)がマーズ・ヴォルタ(The Mars Volta)からの脱退を Twitter 上で表明、ファンが悲鳴を上げることになりました。

セドリックの発言は傍から見ると、マーズ・ヴォルタの活動再開のためオマーが戻ってくるのを待ってたのに、待ち惚けくらってブチ切れたって感じです。この件に関してオマー側からの声明は現時点でまだありませんが、昨年10月におこなわれたオマーのインタビューを読むと、今の彼が求めているのは「今までとはまったく違うバンドのカタチ」なんだというのがよくわかります。

テリには間違いなく彼女自身のオリジナリティがあり、優れた曲を作る才能がある。ぼくがやりたかったのはそうした才能を一つのバンドに結集させることなんだ。メンバーの全員、誰もが作曲し、曲作りに貢献するバンドだよ。誰もが作曲できて、誰もがプロデュースできて、誰もがエンジニアとしての技術も持っていることが基本。レコーディングの流れも知っていて、スタジオやプロダクションに関する知識も必要になる。ぼくがボウズニアン・レインボウズにこの3人を選んだ理由はそれだよ。3人ともバンド・リーダーとしてやってきた経験があるからね。

ぼくはディアントニに言ったんだ「なあ、一緒にやらないか。自分の好きなようにやっていいからさ。ただシンバルは必要ないんだ」って。普通のドラマーならビビるところだけど、ディアントニはぼくに向かってこう返事したんだ。「シンバル無しで俺にタムだけ叩けってこと?でも俺、もうタムも叩きたくないんだ。」って。シンバルもタムも無し、ぼくはそりゃいいねって答えた。ほとんどの人は知らないことだけど、ディアントニは世界最高のドラマーであるだけじゃなく、実は素晴しいキーボード・プレイヤーであり、コンポーザーでもあるんだ。ぼくは彼にメロディを弾いてもらいたかったんだ。すると彼の方から「俺がタムや打楽器的なパートをメロディと一緒にキーボードで弾くってのはどうかな?」って提案してきたんだ。自分ひとりで考えていたんじゃ思いつかないような素晴しいアイディアが、こうやってグループでやってるときには生まれるもんなんだよ。

ぼくらは絶えることのないイマジネーションを生み出す力を生まれながらに持ち備えているんだけど、それを常に生かすよう努力し続けなくちゃならないんだ。だって近い将来その想像力を奪われ、個性のないインターネット・スターバックス文化に征服されてしまうかもしれない、ぼくらはそんな時代に生きてるんだからさ。

Omar Rodriguez Lopez Group Feat. Teri Gender Bender: London - Live Review

上記発言のディアントニ(Deantoni Parks)に関するくだり、何を言ってるのかわからない人はビデオをご覧ください。ディアントニはボウズニアン・レインボウズでドラムを叩きながらキーボードを弾いてるんです。

マーズ・ヴォルタのファンには申し訳ないけど、オラは今ボウズニアン・レインボウズが聴きたい! アルバムの発売はまだしばらく先になるみたいだけど。

2013/01/14

おばさんを甘く見るとウィッカーマンで焼かれるぞ The Vermilion Border - ヴィヴ・アルバーティン (Viv Albertine)

Viv is leaving a middle class row of houses in Camden

ヴィヴ・アルバーティン(Viv Albertine)という名前、知ってる人はそんなに多くないと思います。1970年代後半、アリ・アップ(Ari Up)、テッサ・ポリット(Tessa Pollitt)らと共にスリッツ(The Slits)を結成した元祖パンクのひとりで、クラッシュ(The Clash)の曲「Train in Vain」に歌われた伝説の女性でもあります。彼女はスリッツ解散後どうしていたかというと、音楽の世界とは完全に縁を切り、普通に働いて結婚して子どもを育てていました。

その伝説のヴィヴが突如子連れで音楽の世界に復帰したのは2010年のことです。その後 PledgeMusicでアルバム制作の資金集めを開始してレコーディングをしていたのですが、昨年末ついにそのアルバム「The Vermilion Border」が発売になりました。

ヴィヴ・アルバーティン、57歳にしてついに復活、ソロ・デビューです。

キッチン・テーブルの椅子に座って、初歩的なギターの練習から始めたの。25年間まったくギターに触れていなかったからもう弾けなくなっていたのよ。ギターのコードとかスケールにはこだわらないの。頭の中に浮かんだように弾くだけ。初めてギターを手にしたときの気持ちが蘇ったわ。あのときと同じ、自分ひとりで始めたのよ。

カムバックしようって気持ちになった理由のひとつはインターネットなの。ネットがあれば、レコード会社や組織に頼らなくても自分の音楽が聴いてもらえるんだって分かったからよ。ああ神様、素敵!

もしわたしが昔ながらのやり方でカムバックしようとしたら「きみはもう若くないんだよ。おまけにブランクが長過ぎた。卓越した演奏技術や美しい声を持ってるわけじゃないしね」なんて言われるに決まってる。昔、わたしがプレイし始めたときにも同じように言われたわ。同じことをまた聞かされるなんてたくさん。だから昔と同じようにそういう連中の話は無視することにしたの。もしまた同じことを言われても前の経験があるから、自分があきらめずに情熱を注ぎ続けさえすれば、連中が言うようなことには絶対にならないって確信があったしね。

もうミュージシャンは誰ともつき合いがなかったから、昔と同じように仲間を探したの。その人を見て、その演奏を聴いて、気に入ったら直接その人にレコーディングに参加してほしいって頼むのよ。直感を信じて自分が何かを感じた人を選ぶと、それは驚くほどうまくいくのよ。ホント、昔経験したことをまた見てるみたいに感じた。

30年も後になってスリッツの重要さが評価されるようになったときはびっくりしたわ。もちろんそれはわたしたちがやったことなんだけど、決して人に評価されることはないんだってあきらめていたから。スリッツをやっていた当時、わたしたちは自分たちがやっているのはすごく重要なことなんだって分かってた。自分たちはとんでもなく画期的なことをやってるんだって信じてた。だけどやがて「こんちくしょう、誰もわかってくれないんだ!」って思うようになってしまったのよ。

スリッツをやめてからはすっかりあきらめて、誰にもそのことを話さなくなったの。自分がスリッツの一員だったなんて誰にも話さなかったわ。そうすると誰もわたしに興味を示さなくなってまるで透明人間になったみたいで、逆にそれがおもしろかったけどね。みんなわたしをただの中年のおばさんとしか見てなかった。

わたし、一度はスリッツのヴィヴを葬ったのよ。決して再び地上に姿を現さないように。だけどそれが4年前に大爆発を引き起こしたの。もしわたしがこの20年間、自分の反抗的な面を無理に抑え込んだりしていなかったら、子どもを育てるためにつらい仕事をムキになってまでやっていなかったら、娘に自分のイカレた面を見せまいと偽っていなかったら、そうしたものみんな無理に我慢していなかったら、離婚をするほどの大爆発をしてまで自分を主張する必要はなかったはずなの。葛藤の末に自分を否定していたのよ。でもそんなことをしたっていつまでも続くはずがない。わたしはスリッツのヴィヴを自分自身で(ないがし)ろにしていたの。

「きみは伝説の人だから」なんて言う人もいるけど、そんなのわたしの日常生活には何の意味もない。だってわたしは大量のファンがいるわけでなければ、大金を稼げるわけでもないし。何もアドヴァンテージなんてないのよ。若い新人アーティストと何も変わりない。実際みんなと同じようにレコードからは何の実入りもないしね。

わたしは安心して暮らせる家庭生活というものを捨ててしまったの。17歳の小娘がよくやるみたいにね。年をとって、子どももいる身になってまた未知の世界への境界線を踏み越えた。透明人間みたいな生活から創造性に満ちた世界への境界線を踏み越えたのよ。たとえレコードがたくさんの人に評価されなくたってかまわない。自分がやるべきことをやったという確信を得るために、どうしても必要なことだったのよ。レコードのジャケット写真はカムデンの中流階級の住宅街を出ていくところを撮ったものなの(笑)。

Viv Albertine interview "I buried Viv from The Slits, I absolutely squashed her"

ヴィヴは決まったメンバーのバンドは持ってなくて、ライヴはほどんど弾き語りでやってるんですが、アルバムには豪華なゲストが参加しています。昔スリッツで一緒に活動していたブルース・スミスやデニス・ボーヴェルを始め、ミック・ジョーンズ(The Clash)、グレン・マトロック(The Sex Pistols)、ティナ・ウェイマス(Talking Heads)、若いところでは Warpaint のジェニー・リー・リンドバーグなんかも弾いています。ジャー・ウォブルやチャールズ・ヘイワードがプレイしたトラックに至っては、アルバムに採用されずボツになっています。

ちょっと待て、「何もアドヴァンテージがない」どころか、昔のコネ、バリバリじゃんと言いたいところですが、ティナ・ウェイマスなんかは本当にそれまで一度も会ったこがなく、Facebook を通じて連絡を取ったのだとアルバムのライナーに書いてありました。

あと極めつけがジャック・ブルース(Jack Bruce)です。どのジャック・ブルースかというと、もちろんクリームのジャック・ブルースです。彼が参加してベースを弾いてるんです。当然ジャックはスリッツなんて聴いたことがなく、ヴィヴの名前なんて知るはずありません。どうやってアプローチしたのか分かりませんが、とにかくジャックはベースを持ってスタジオに来てくれたそうです。

以下ジャックとヴィヴの会話。スタジオに着いたジャックがじゃあまず何をしたらいいのかと尋ねると、ヴィヴはすぐにスタジオで曲を演奏してくださいと言います。

ジャック: えっ、デモも聴かずに?
ヴィヴ: わたしたちも今、曲をおぼえたばかりなんで
ジャック: うわぁ、昔みたいなやり方だね
ヴィヴ: 昔の人間なんで
ジャック: オッケー、わかった
ジャック: 曲のキーは何?
ヴィヴ: わかんないんです
ジャック: どのキーでプレイしてもいいってこと?
ヴィヴ: ええ、好きなキーで弾いてください
ジャック: オッケー、わかった

Viv records with Jack Bruce! 13:37 03 November, 2011

こうしてできたのがヴィヴのアルバム「The Vermilioin Border」です。ヴィヴが囁くように歌い、ギターを弾いています。スリッツとは似ても似つかないサウンドですが、ギターの音色は間違えようもない、あのヴィヴのギターです。それにスリッツが持っていたあのわけのわからない呪術的な雰囲気、ウィッカーマンの島に住む女の子たちのような雰囲気はヴィヴのギターが醸し出していたものだと、今になってよくわかります。テーマは21世紀にふさわしく、ずばり「愛とセックス」です。多くの曲はそのままラジオでかけられません。

自主制作のアルバムですし、ヴィヴはどう見てもプロモーションをうまくできるタイプではありませんから、このアルバムが大量に売れるなんてことはあり得ないでしょう。でもこういうのは後からジワジワ効いてくるんです。スリッツだってヴィヴが言ってる通り、当時は大して売れなかったんです。

あと世のダンナさんたちは、奥さんが突然ギターを弾き始めたりしたら CD の棚にヴィヴのアルバムがないか、よおく注意したほうがいい。

2013/01/09

寄付活動に対するヴィニ・ライリー本人からのコメント

XFM Session 2006

先週からヴィニ・ライリーへの寄付活動に関して書いてますが、昨日 BBC がこの件で直接ヴィニにインタビューした記事が公開されたので、締めくくりとしてヴィニの発言部分を抜粋してご紹介します。

甥っ子のひとりが何とかしなくちゃと思ってやったんだと思うよ。何しろぼくは病気のせいでひとりじゃ何もできない状態だったから。

いろんな人がぼくを助けるためにお金を寄付してるって知ったときは、何だかすごくいたたまれないみじめな気持ちになったよ。だって、今まで人にお金を借りなきゃならない状況になったことなんてなかったからさ。お金はぼくがまるで知らない人たちから送られてきものだった。きっとぼくの音楽のファンたちだね。

だけどこういうやり方は特権の濫用だと思う。ぼくと同じような境遇にいる人はいくらでもいるけど、彼らは誰からも援助してもらえないんだよ。自分が何かやったことの対価でない限り、人からおいそれとお金を受け取る気持にはなれないんだ。寄付してくれた人たちに対して、何か特別なアルバムを作って送るべきなんじゃないかと思ってる。寄付してくれた人にはそれを受け取る権利があるよ。

正直どうしたらいいか分からない。ぼくがお金に困った原因は、障害者と認定されるまでに18ヶ月もかかったからなんだ。その間、一銭の収入もなかったんだよ。認定を受けるために提出する書類は、30ページもあってものすごく大変な仕事だった。ぼくは字を書くのもやっとで、ペンすらちゃんと持てないんだから。

審査の手続きもひどく厳しいものだった。ぼくが障害者のふりをしているだけなんじゃないかと、何度もしつこく調べるんだ。障害者のふりをしてるんだったらどんなにいいだろう、そう思ったよ。

今回の出来事で、却ってぼくの方が人々のために何かしてあげたいという気持になったんだ。そのことの方がお金よりもずっとぼくにとって意味がある。広告もなければ、プロモーションもない、ただ音楽があるだけ。それだけなのに、ぼくを助けてくれる素晴しい人たちがいたるところにたくさんいる。そのことがぼくにとってこの上なく大切なものなんだ。

今のぼくは、8歳の子どもが初めてギターを練習したときみたいなありさまなんだよ。苛立たしくてたまらない。ぼくの頭の中では音が鳴っててそれをどう演奏すればいいのか、すべて分かってるんだ。だけどそれは頭の中だけのことで、実際に弾くことができないんだ。

Durutti Column guitarist Vini Reilly 'embarrassed' by appeal

(2014/11/09追記) 一時、音楽活動の再開は絶望的と見られていたヴィニですが、徐々に活動を再開しつつあります。2014年現在の状況については「「私たちは今もトニー・ウィルソンの子供たちなんです」ドゥルッティ・コラム Chronicle XL」を読んでください。

2013/01/05

「ヴィニ・ライリーの病状と彼への寄付について」の続報

The Durutti Column
The Durutti Column, a photo by djenvert on Flickr.

ヴィニ・ライリーの病状と彼への寄付について」の続報です。

ヴィニ・ライリー(Vini Reilly)の甥マット・ライリー(Matt Reilly)さんから寄付活動の終了と感謝の意を述べたメッセージが Facebookドゥルッティ・コラムの公式サイトに投稿されました。

まず最初に、ヴィニへの暖かいメッセージ、提案、寄付などをくださったみなさんに心からお礼を申し上げます。

世界中の音楽ファンから寄せられた金額について先ほどヴィニに伝えたところ、大変感激し喜んでいました。また彼は、家賃などたまっていた支払いを(まかな)うのに充分な金額が既に集まっているので、みんなへの感謝と共にもうこれ以上の寄付は必要ない、そう伝えてほしいと言っていました。また彼は、三回の脳梗塞発作を起こしてから、身体障害者と認定され手当の支給対象となる期間までに発生した家賃の支払いができなかったのだと説明していました。たまった家賃が支払えないためいつ追い出されるかもしれないと、彼はずっと頭を悩ませていたのです。ぼくがしょっていいた大きな荷物をみんなが肩代りしてくれたみたいな気分だ、そう彼は言っていました。今まで誰ももたらすことのできなかった最高の新年のスタートをぼくに与えてくれた、みんなのことを心から愛している、そう伝えてほしいと彼は言っていました。

彼は身体の健康と再びギターを弾くための力を手に取り戻そうと、困難に立ち向かう決心をしています。もちろんそれは容易なことではありませんが、みなさんが明るい光をもたらしてくれたのです。私の叔父に対するみなさんの力添えに深く感謝します。

2013年がみなさんにとって良い年でありますように。

マット・ライリー

https://www.facebook.com/groups/58125881422/permalink/10151161534121423/

この件は昨日から The Quietus など音楽サイトだけでなく、BBCGuardiain など一般ニュース・サイトでも報じられています。BBC のニュースによると3,000英ポンドの寄付が集まったそうです。

当面の危機は脱したようなので、今後のヴィニ復活を応援したい人は CD や iTunes などでぜひドゥルッティ・コラム(The Durutti Colunn)の作品を買ってあげてください。

ドゥルッティ・コラムのアルバムは制作とリリースの時期がズレてるものが多くてちょっとややこしいのですが、現時点で最新のスタジオ・アルバムは「A Paean to Wilson (2010)」です。

次のビデオは脳梗塞で倒れる前の2010年1月、BBC 2 の The Review Show という番組に出演したときの模様で、同アルバムの曲「Duet with Piano」をスタジオで演奏しています。ピアノを弾いている女性が Poppy Morgan です。

(2013/01/09 追記) BBC の取材を受けて、ヴィニ本人がこの件に関して語っています。

2013/01/03

ヴィニ・ライリーの病状と彼への寄付について

Vini Reilly
Vini Reilly, a photo by Eifion on Flickr.

ドルッティ・コラム(The Durutti Column)のヴィニ・ライリー(Vini Reilly)が金銭的な危機に瀕しており、彼を助けるための寄付を募る記事が昨日Facebook に投稿され、日本の Facebook や Twitter なんかでもちらほら話題になっています。

ホントはあまり気がすすまないんですが、以前書いた「ヴィニ・ライリーと貧困問題」がシャレにならなくなってきてるのにも関わらず、ヴィニの情報を求めて検索エンジンから飛んでくる人がたくさんいるみたいなので、彼の近況についてネットを通じて私が把握している限りのことを書くことにします。

ヴィニの甥にあたる Matt Reilly さんが昨日 Facebook に投稿したのは以下の内容です。

ヴィニへの援助を...

以前もこの(Facebook)ページに書いた通り、私の叔父、ザ・ドルッティ・コラムのヴィニ・ライリーは金銭的な危機に瀕しており、家賃や食料、電気代など基本的な生活費の支払いにさえ苦労しています。親切にもヴィニに寄付をしてくれる人たちのためにいい方法がないか、私たちは探してきました。

ヴィニはインターネットにアクセスする手段を持っていないため、寄付は一旦私の PayPal アカウントに入金してもらい、それを私があらためて彼の銀行口座に振り込むというのがその方法です。最初は Paypal の「寄付(Donation)」ボタンを設置するのが良いのではないかと思ってジョン・クーパー(John Cooper)に調べてもらったのですが、たとえ個人による寄付であっても Paypal の手数料が発生することが分かりました。結局、私の Paypal アカウントに私のメールアドレス mattreilly@hotmail.co.uk を使って振り込んでもらい、個人間の送金としてお金を受け取るのが(余計な手数料が発生しない)最善の方法だと判断しました。

銀行口座やクレジットカードを使って振り込んでもらった場合、振り込み手数料がかかってしまうので、それよりは良い方法だと思います。しかしそれでもみなさんからいただいた金額の5パーセントほどを手数料として Paypal に支払わなければならないようです。

この方法を理解し、寄付をしていただける方は PayPal のリンクをクリックしてください。

寄付に対しては金額の多寡を問わず、心から感謝いたします。

https://www.facebook.com/groups/58125881422/permalink/10151156944541423/

ここで念の為注意、上記訳文からはあえて PayPal 送金ページへのリンクをはずしてあります。寄付をしたいという人は必ず Facebook の原文を確認した上で、自分自身の責任において行ってください。

さて、これだけじゃヴィニ・ライリーがなぜそんなにお金に困っているのか分からない人が大半だと思います。2010年の9月、彼は脳梗塞の発作に襲われ、その後遺症により左手が自由に動かなくなってしまったのです。そのときの様子は2012年2月のインタビューでヴィニ自身が語っています。

その日の朝目覚めると、彼は自分の身体の異変に気付きました。言葉がちゃんと話せなくなっていたのです。彼はすぐに NHS(National Health Service) の担当医師に電話しました。電話でヴィニの様子を知った医師は脳梗塞に間違いないと判断します。救急車を手配する一方でヴィニに「一階へ下りて玄関を開けられるか?」と尋ねました。ヴィニが這ったままどうにか玄関へ辿り着いたときには既に救急隊員が到着していました。救急車の中でヴィニは二度目の発作に襲われたのですが、医師が的確な指示を出していたたため一命を取り留めることができたのです。診断の結果、心臓や肺には影響がなく、動脈血栓も見つからなかったのですが、神経の損傷によりヴィニは左手が自由に動かせなくなっていました。

もうギターを弾いたり歌ったりはできないかもしれないと聞かされたときは絶望的な気分になったよ。それまでは自殺する人間になんて共感できなかった。残された人にとてつもない苦しみを残すだけだからね。だけどそのときは、もう死んでしまいたいって思ったよ。ぼくは音楽のために生きてきたんだ。ぼくの生きる意味は音楽にあるんだ。なのにそれがもう終わってしまったように思えたんだ。

左手はまったく感覚がなかった。ギターの弦にさわっても分からないほどだった。リハビリの一環としてずっとギターは弾き続けていたんだけど、しばらくしても感覚は戻らなかった。

その上声もうまく発せなくなってしまった。ときに話すことさえ困難になってイライラすることもあるんだ。傍から見れば何か変だなってすぐに気付くくらいなんだよ。

ぼくは今、身体障害者に分類される身だけど、たくさんの人たちがそばにいてくれて、ぼくを金銭的、肉体的な面で助けてくれている。同じ病気で苦しむほかの人たちと同様、日が経つに連れて現状を受け入れられるようになってきたんだ。今はもう死にたいなんて思っちゃいないよ。

もうヴィニは以前と同じようにはギターを弾くことができません。それでも周囲の人たちや友人に支えられてニューアルバム「Chronicle」を完成させ、2011年の4月にはアルバムのプレ・リリース・ギグをマンチェスターとヨークで開催するまでに回復しました。このときのライヴの様子が YouTube にアップされているのですが、自分のイメージ通りの演奏ができないヴィニの苛立ちが伝わってくるようで、なかなか見ていて辛いものがあります。

ドゥルッティ・コラムとしての公式ステージは現時点ではこれが最後なのですが、ほかにもリハビリの一環として友人のカバー・バンドにも参加していて、2012年1月にパブで「Jumpin' Jack Flash」を演奏している姿が YouTube にアップされています。これを見る限りはずいぶん回復してきているように見えます。

このカバー・バンドでの活動はぼくにとってきわめて大切なリハビリ活動なんだ。希望を失いかけてたのをこのバンドが救ってくれたんだよ。ぼくの希望の(ともしび)なんだ。ひとりで演奏して歌うんじゃなく、バンドのメンバーとして演奏する楽しさを思い出させてくれたんだ。すばらしいバンドの一員として活動すること、それがすごく重要なんだよ。

ただしその後も病状は一進一退を繰り返しているようで、2012年の春には三度目の発作に襲われ、再びギターを弾けない状態に陥ったという報せが入っています。

ヴィニがこのような状態にあるため、Twitter の Durutti Column アカウントFacebook のファンページは彼の甥にあたる Matt Reilly さんが運営しています。冒頭の内容はヴィニの窮状を少しでも改善したいと思った彼が投稿したものです。

PayPal の個人間での送金には(おそらくマネー・ロンダリングを防止するための各国の法律がからみ)色々制約があるのですが、試してみたところ「日本→イギリス」の送金は問題なくできるようです。ただこのやり方はあまり良いとは思えないなあ。

当然寄付でヴィニの生活をずっと賄っていくことなんてできません。また PayPal で寄付(Donation)扱いにすることで発生する手数料を回避するために個人間の送金という手段を取っているんですが、これがトラブルの元になる可能性もあります。特定個人に一時的な送金が集中すれば、運営してる PayPal は当然調べるはずです。そこでアカウントが凍結されたりすると、せっかくの厚意を無駄にしてしまうことにもなりかねません。さらに寄付を騙ったネット上の詐欺というのはたくさんありますから、そういうものに利用されないとも限りません。ヴィニの音楽活動を支援するなら、時間や手数料がかかったとしても、もうちょっとちゃんとした形にすべきだと思います。

ということで、今すぐヴィニに支援をしたいという人はこうしたリスクを承知の上、自らの判断と責任の元で行ってください。PayPal にアカウントを持ってない人は無理しないで CD やダウンロード販売でドゥルッティ・コラムの曲を買った方が良いと思います。その方がヴィニ自身の発奮材料にもなると思うし。

それから、まだはっきりとした日程は発表されていませんが、ドゥルッティ・コラムのニューアルバム「Chronicle」はもうすぐ発売にされるそうです

(2013/01/05追記) 「ヴィニ・ライリーの病状と彼への寄付について」の続報があります。