2013/02/28

靴は脱いでってば! (Confessions of a MILF - ヴィヴ・アルバーティン)

The Vermilion Border - Viv Albertine

ジャガイモの皮をむきおえたから、もうすぐできあがり。おいしいレモン・ドリズル・ケーキも焼けてる。フォンデュのチーズをあたためなきゃね。ズッキーニのキッシュは表面がカリカリ、おいしそうに焼けた。それとおしゃれな箱に入ったビスケットが100グラム。

人に指図しないでよ。魅力的でいい匂いのする奥さんがいなくなっちゃってもいいの?あなたも相手がだれだろうと、自分の言うことを聞かせようとしてくどくど言っちゃダメ。神様のつもり?余計なお世話。

幸せな家庭、幸せな家庭、幸せな家庭。

性欲ならあるし、友だちだっている。だけどロマンチックな恋なんて大昔のことよ、20世紀の遺物。そんなに素晴しいもんじゃないのよ、結婚だって同じこと。すごくいびつな関係。

いよいよ耐えられなくなったら、そこで考え直すかもしれないわね。でも貧乏な生活を送ることになるとしても、未亡人なんかになるよりマシ。わたしのロマンチックなママみたいに夫を捨てて、どこかの変人と駆け落ちしたっていいのよ(その変人がわたしのパパ)。

幸せな家庭、幸せな家庭、幸せな家庭。

自分のことなんだからよく考えなさい。我慢できなくなったら出て行ってもいいわよ。そりゃこう言う人もいるでしょうね。運命で一緒になった二人なんだから白鳥やタツノオトシゴみたいに一生添い遂げるべきなんだって。あいにくわたしたち、それほどすてきな間柄じゃないの。ナイスじゃないの。

ナイス、ナイス、ナイス。ナイス、ナイス、ナイス。

ニュース見てて腹が立ったら、テレビを消してペディキュアを塗るの。あっ、冷蔵庫の霜取りを忘れてた。子どもたち、悪いけどお母さんこれから犬の散歩に行かなくちゃ。やだ、台所で何か焦げてる。

男の人は家に自分専用のメイドさんが欲しいのね。家に自分専用のメイドさんが欲しいのね。だけどそのメイドさんは、家にひとり考えごとができる自分だけの部屋が必要なの。家に自分だけの部屋が必要なの。それでわたしは主婦のくせにアーティストになることにしたの。

この先すごく孤独な生活を送ることになるんだわ。わたしは主婦のくせにアーティストになることにしたんだから。この先すごく孤独な生活を送ることになるんだわ。わたしは主婦のくせにアーティストになることにしたんだから。

ライフ、ライフ、ライフ。ワイフ、ワイフ、ワイフ。

家庭にまさるものはないのよね。だけどわたしは家庭なんて信じてないの。家庭なんてつまらない。家庭に愛着なんて感じない。わたしを家庭に連れ戻さないで。家庭なんて大嫌い。連れ戻さないで。家なんて大嫌い。連れ戻さないで。大ッ嫌い。

わたしはね、大嫌いなの、きれいで、清潔で、白くて、ピカピカで、整理整頓がゆきとどいてて、ござっぱりしてて、品のいいインテリアと、感じのいい建物の、こじんまりした...

靴は脱いでってば!

料理して、掃除して、ご飯炊いて、洗濯して、掃除して、お買い物行って、ご飯炊いて、自分をごまかして、セックスして、料理して、洗濯して、お買い物行って...

幸せな家庭、幸せな家庭、幸せな家庭。

2013/02/23

リメイク、リモデル (The Jazz Age - ザ・ブライアン・フェリー・オーケストラ)

The Jazz Age - The Bryan Ferry Orchestra

あなたはサミュエル・クレイマーのことをお聞きになったことがあるかもしれません。詩人のようなジャーナリストのような人物で、ファンファルロというダンサーとわけのあった人ですけれど。でも、お聞きになったことがなくても、これからお話しすることにはさしつかえありません。彼は19世紀の初めパリでなかなか威勢がよかったのですが、わたしが1946年に会ったときは、まだその威勢は衰えていませんでした。が、今度はちがう方面ででした。彼は同じ人でしたが、変わっていました。たとえば、当時すなわち百年以上も前には、数十年にわたって、なんのてらいもなく25歳くらいだとうそぶいていましたが、わたしが彼と知りあった頃は明らかに42歳の中年男でした。

熾天使(セラフ)とザンベジ河」ミューリエル・スパーク (小辻梅子 訳)

初めてロキシー・ミュージック(Roxy Music)、ブライアン・フェリー(Bryan Ferry)の歌を聴いたときのことはよくおぼえています。1975年のことです。ある日、買ってもらったばかりのラジオ・カセットプレイヤーでどこの国だかわからない短波放送のラジオ局を聴いていたらその曲が流れてきたのです。ノイズがひどく途切れ途切れにしか聞こえなかったのですが、メロディーがはっきりと印象に残りました。当時まだ小学生だったのに、なんだかすごく懐しい、前にも聴いたことがあるような気がしました。言葉はわかりませんでしたが、何かとても大切なことを歌っているんだなとわかりました。それがロキシーの「Love is the Drug」だとわかったのは、少し後になって国内の FM ラジオで同じ曲がかかったからです。

それから雑誌でブライアン・フェリーの写真も見つけました。タキシードを着たおじさんでした。当時タキシードを着て歌う歌手というのは大昔のフランク・シナトラや演歌歌手だけでしたから、なぜロックバンドでタキシードを着たおじさんが歌っているのだろうと不思議に思いました。タキシードを着るような歌手の音楽は年寄り向けって感じで好みじゃなかったのですが、ブライアン・フェリーだけは違うと思いました。ブライアン・フェリーやロキシー・ミュージックの曲がラジオでかかることはめったになかったのですが、数少ないオンエアの機会を見つけてはカセットテープに録音して繰り返し聴いていました。

ブライアン・フェリーは昔からよく他人の曲をカバーしています。1970年代前半のソロアルバムはカバー曲ばかりでした。有名な曲もあれば、ほとんどの人が知らないような曲もあります。ロキシー・ミュージックとして出した自分の曲をソロでリメイクしたアルバムまであります。

人と同様、音楽作品にも寿命があります。たいていの曲はやがて人々の記憶から忘れ去られてしまいます。ある時代にたくさんの人が共感した大ヒット曲も、時代が変わればその意味が失なわれ、後から聴き直しても「どうしてこんな曲がヒットしたのだろう?」と感じるものが少なくありません。曲が時代を越えて生き長らえるには、常に新たな生命を吹き込む作業が欠かせないのです。優れたアーティストによるリメイクはオリジナル曲が持っていた価値と意味の再発見を促すとともに、新たな価値と意味を付与します。カバー曲だけが注目されるのではなく、それをきっかけにオリジナルにも脚光を与えることにもつながります。

ブライアン・フェリーの最新作「The Jazz Age」は奇妙な作品です。ザ・ブライアン・フェリー・オーケストラ名義のこのアルバムで、彼自身は歌っておらず演奏にすら参加していません。一般にはロキシー・ミュージックおよびソロとして発表した彼自身の曲を1920年代風のジャズにリメイクした作品と紹介されていますが、もちろん違います。

なぜなら1920年代のパリやベルリンにこれらの曲は「既に存在していた」からです。その証拠がこの「The Jazz Age」です。つまり後にロキシー・ミュージック、ブライアン・フェリーがリメイクすることになる数々の曲のオリジナルがこの「The Jazz Age」に収録されているのです。ロキシー・ミュージック、ブライアン・フェリーのヒット曲は「The Jazz Age」をリメイクしたものです。

言ってることがわけわかんない?わかんなくないよ。だって俺、1926年にパリだったかベルリンだったか忘れちゃったけど、どっかのキャバレーでこの曲で踊ってたもん。

2013/02/16

お父さん、ぼくをハイムの一員にしてください! (Haim - Falling)

Haim - Falling

LA のバンドなのになぜかイギリスのレーベル、ポリドールと契約したハイム(Haim)、作戦大成功です。初めてイギリスで演奏したのはわずか半年前、昨年の夏のことなんですがあっという間に人気に火がついて NME の表紙になったと思ったら、1月には並み居るイギリスのバンドを抑えてBBC の Sound of 2013 に選ばれるほどになってしまいました。

ダニエル: イギリスのオーディエンスはすごくアツいのよ。「Forever」の歌詞を知ってる人たちを相手に演奏したのは今回のツアーが初めてだったんだけど、みんなまだリリースしていない「The Wire」や「Let Me Go」みたいな曲の歌詞まで知ってるの。わたしがベッドルームで書いた曲をみんなが歌ってくれるなんてもう最高の気分。どのライヴでもみんな熱狂的に迎えてくれるの。

Interview: Haim (HTF Exclusive)

イギリスでの盛り上がりに刺激されて本国アメリカのレコード会社も動き始め、どうやらコロンビアと契約になったもようです。順風満帆です。こんな風にトントン拍子にコトが進み、急にまわりにチヤホヤされるようになるとつい舞い上がってしまうというのは若いバンドにありがちなことですが、ハイムの場合その心配はなさそうです。大きな会場のコンサートでも小さなライブハウスで演ってるときと変わっていません。

ツアーにはちゃんとパパ・ハイムとママ・ハイムが同行してるみたいだし、ステージには出てない両親の後ろ盾がすごく大きいと思うんですよ。余計なことに惑わされず音楽やステージに集中できる環境をしっかり作ってるようです。レコードのジャケットや iTunes Store のクレジットをよく見てください。Haim Productions Inc. って書かれてるでしょう。メジャーデビューしたばかりの新人バンドなのにちゃんと法人設立して権利、契約、お金の出入り管理してるんです。もちろん社長はパパ・ハイムです。

ということで快進撃のハイム、シングル第3弾「Falling」がつい先日リリースされました。例によって iTunes Store でのダウンロード販売とアナログ・レコードだけで CD の発売はありません。YouTube でライヴ映像を追っかけしてるファンには前からお馴染みの曲なんですが、このシングルはこれまで以上にダンス・チューンなアレンジが施されているので、んー、ライヴのアレンジのほうが絶対いいと思うなー。

Sound of 2013 の受賞に合わせて BBC のスタジオで収録された映像があるので、こっちと聴き比べてみてください。ねー、こっちの方がずっといいと思わない?

このビデオ観てハイム三姉妹のほかに「このドラマー、すごくいいんじゃない?」って思った方、多いんじゃないでしょうか。ダッシュ・ハットン(Dash Hutton)君です。れっきとしたハイムのメンバーです。

聴いての通り、しっかりとした技術とセンスの持ち主です。曲全体の中でドラムが果すべき役割をよく承知してます。がんばってます。バンドとしてのハイムには欠かせない存在です。だけどジャケット写真にもプロモーション・ビデオにも出してもらえません。インタビューや取材にも呼ばれません。曲のクレジットにも名前が載ってません。つまりメンバーではあるけれどハイム・ファミリーの一員ではないのです。とってもつらい立場です。

ドラムは元々パパ・ハイムの担当でした。ダッシュ・ハットン君はパパ・ハイムの後釜としてドラム・チェアーに座ったのです。三姉妹とパパ・ハイムの厳しいチェックに耐え、彼はドラマーとして認められました。だけどハイム・ファミリーとしては認められていません。彼はハイム家の家族じゃないんです。

ダッシュ・ハットン君がファミリーの一員として認められる道はただひとつ、三姉妹の誰かと結婚する、これしかありません。がんばれ、ダッシュ・ハットン君。みんな応援してるぞ!