Miles Davis' Bitches Brew Dogfish Head Brewery, a photo by walknboston on Flickr. |
マイルス・デイヴィス(Miles Davis)はこわい顔をしてわかりにくいギャクを言うおじさんです。いつもこわい顔をしてるので周りの人たちはギャグに気がつきません。でも言った本人は自分のギャグのおもしろさに耐えられなくなって、ひとり「ヒッ、ヒッ、ヒッ」とか「クッ、クッ、クッ」とやります。それでやっと周りの人は、ああ、ギャグを言ったんだなと気づくのですが、こわいので笑えません。
マイルスは時期によってまったく違う音楽をやってますが、アルバム「Kind Of Blue(1959)」の時期のものが特に人気が高く、日本では居酒屋さんの定番 BGM となっています。一方「電気マイルス」と呼ばれる1970年前後の作品群はここ30年ほど無視されてきたのですが、ここへ来てもう一度「電気マイルス」と彼のギャグを見直そうという動きが出てきているようです。
昨年 The Quietus でジョン・ライドン(John Lydon)が、PiL のレコーディングにマイルスが乱入してお茶目をやらかしたときのことを話してます。
俺が「Album」をレコーディングしてるときに、マイルスがスタジオに来たことがあるんだ。あのアルバムの曲は意図的にかっちりとした作りになってる。俺がポップな感覚やポップなアレンジなどの完璧な枠組みを追求していた時期だったからさ。で、俺がスタジオで雄叫びを上げていたら、誰かがトランペットを吹きはじめた。マイルスが俺の後ろに立っていたんだ。その音はうつくしかったよ。だけど完全にヴォーカルの邪魔をしていた。俺が歌う部分をトランペットで吹いてるんだ。同じメロディラインでさ。だから彼の演奏を使うことはできなかった。すごくおもしろいよ、だが申し訳ないがこれは俺のレコードで「偉大なるジャズ・ミュージシャン」のものじゃないんだ。
で、結局彼は「Album」の製作からはずされた。だけど、俺のやってる曲を彼が気に入ったことがわかってすっごく興奮したよ。なんたって俺はマイルス・デイヴィスのファンなんだからさ。
「Bitches Brew」は俺の大好きなアルバムだ。何よりドラムが驚異的で、カンの「Tago Mago」で聴けるヤキ・リーベツァイトのドラミングに通じるものがある。マイルスのアルバムの中でもベストなメンバーが揃ってると思う。ほかのアルバムは、日本人なら簡単にコピーして完璧な演奏をしてしまいそうだからな(笑)。だが「Bitches Brew」だとそうはいかない。マイルスのギグは何度か観たことがあるんだけど、彼がステージでやってるアイデアが気に入ってさ、俺も同じようにしてるんだ。彼はステージで聴衆に背を向けるんだ。ときどきそうすることで、自分の気持ちを高めるんだよ。手を振ったり投げキッスをしたり、ファックオフ!と叫んでる聴衆の反対側を向くんだ。そうやってある種の中断状態をつくることで、自分が望む音楽的な状態を保つんだよ。
My Favourite Miles Davis Album By Lydon, Nick Cave, Wayne Coyne, Iggy & More
たぶん「Bitches Brew」発表当時より、今の人たちの方がこのアルバムを楽しめるんじゃないかな。結構踊れそうでしょ。