2011/12/31

May the road rise with you (Rise - パブリック・イメージ・リミテッド)

fifty-one by athene.noctua
fifty-one, a photo by athene.noctua on Flickr.

PiL の代表曲「Rise」については以前も書いたんですが、間も無く2011年も終わろうとしてるんで、また書きます。

この曲には二つの印象的なフレーズが出てきます。ひとつは「Anger is an energy」です。これはそのまんまですから、特に説明の必要はないですよね。

もうひとつの重要フレーズは曲のタイトルにもなっている「May the road rise with you」です。アイルランドの伝統的な祝福の言葉に「May the roads rise to meet you」というのがあって、これが元になっているようです。でもちょっと待ってください。道というのはふつう rise したりしないもんです。

じゃあ道と同じように長く続くもので rise するものが何かないのかといえば、あります。川です。

if a river rises somewhere, it begins there

地下にたまった雨や雪解け水がある場所に突然 rise して流れ出したもの、それが川です。これでイメージがわきましたよね。ジョニーおじさんが歌う「道」は突然 rise するんです。

歩むべき道が
きみの前に立ち現れんことを
きみ自身が
道の源とならんことを

八木の野郎さんなんかは、この曲を聴くと急にヤクザに優しくされた情婦みたいにヨロッとなってしまうそうです。

それではみなさん良いお年を。May the road rise with you.

2011/12/29

帽子の中からウサギを取り出して見せましょう (Pulling Rabbits Out of a Hat - スパークス)

sparks9 by The Untrained Eye
sparks9, a photo by The Untrained Eye on Flickr.

切ない気持というのが洋の東西を問わず、偉大なポップソング、ラブソングを生み出す大切な要素であることは、多くの人が認める事実です。

ですが先日ふと「切ないって、英語でどういえばいいんだっけ?」と思って調べてみたんですが、なんかぴったりくる言葉がないんですよ。辞書には heartrending とか disconsolate という単語が載っているんですが、なんか大柄なハリウッド女優が号泣しながらハンカチで鼻水をチーン、ズズーッとやってる姿を想像してしまって、どうもしっくりきません。

かといって英語圏の人たちが「切ない気持」というものを理解していないのかといえば、そんなことはありません。なぜならスパークス(Sparks)という世界最高に切ないバンドが、絶大な人気といえないまでも、40年という長い間支持され続けているからです。

「切ない」という単語が存在しないからこそ、存在しない言葉を伝えようとして、ラッセル・メイル(Russell Mael)の声はあんなにも切ないのかもしれません。

「Pulling Rabbits Out of a Hat」はこれまで二度レコーディングされていて、同名のアルバム(1984)に収録されてるオリジナルのほか、セルフカバー・アルバム「Plagiarism (1997)」に入ってるオーケストラ・バージョンもあります。ビデオは2008年におこなわれた21夜におよぶキャリア総括ライブ Sparks Spectacular 第17夜のもので、オーケストラ付きの「Plagiarism」アレンジです。

ラッセル・メイルはどうしてこんな歌を泣かずに最後まで歌えるんだろう。

ぼくは太陽と月をつかんで
世界を手のひらに収めることだってできる
何だってぼくにはたやすいこと
だけどきみには、わかってもらえない

帽子の中からウサギを取り出して見せる
帽子の中からウサギを取り出して見せても
返ってくるのは、礼儀正しい拍手だけ
ただ拍手、拍手、拍手、拍手だけ

天国と地獄の驚愕の光景を目前に見せ
シャンゼリゼの光景にうっとりさせた後
タイタニック号を引き上げたとき
客席のきみが、帰ってしまうのが見えた

帽子の中からウサギを取り出して見せる
帽子の中からウサギを取り出して見せても
返ってくるのは、礼儀正しい拍手だけ
ただ拍手、拍手、拍手、拍手だけ

「おもしろいわね」きみが言ったのはそれだけ
「おもしろいわね」そしてきみは去っていった

ぼくは貧乏人を王様にすることもできる
水をワインに変えることだってできる
どれもぼくにはたやすいこと
だけどどうして、きみの心を変えられないんだろう

帽子の中からウサギを取り出して見せる
帽子の中からウサギを取り出して見せても
返ってくるのは、礼儀正しい拍手だけ
ただ拍手、拍手、拍手、拍手だけ

2011/12/25

晴れて今、我々は落ち目だ! (Father Christmas - ザ・キンクス)

46 - Kinks, The - Father Christmas - UK - 1977 by Affendaddy
46 - Kinks, The - Father Christmas - UK - 1977, a photo by Affendaddy on Flickr.

キンクス(The Kinks)は長いキャリアを持ち、数多くの優れた作品を世に出した有名なロックバンドでありますが、同時期に登場したビートルズやストーンズ、あるいはザ・フーなんかに比べて今ひとつ人気がありません。それはなぜかと言えば、ソングライターであるレイ・デイヴィス(Ray Davies)の曲が常に「自分たちが落ち目であること」を意識して書かれているからだと思います。

「落ち目」というのは誰でもなろうと思ってなれるものではありません。なぜなら落ち目になるためには「過去の栄光」が必要だからです。イギリスというのはかつて大英帝国として栄華を極め世界を支配した、今は落ち目の国です。そしてレイ・デイヴィスはこの落ち目の国での人々の生活心情を、その天才的才能を持ってポップソングに結実させてきた人です。世界の中で落ち目というものを経験した国がまだ数少ないことを考慮すれば、キンクスの曲を共感を持って受け入れられる人の絶対数がまだ少ないということですから、イギリス国内ほどには世界で売れなかったとしても不思議ではありません。

落ち目になるにはまず栄光をつかまねばなりません。多くの国が競い合う中で栄光を勝ち取るには、もちろん国民の長年に渡る努力だけではなく、多くの偶然、幸運を必要とします。そして勝ち取った栄光もやがてその勢いが尽きる時がきます。下り坂になるのですが、最初はみんな気が付きません。なんか変だな、調子悪いな、でもまたがんばれば何とかなると考えて、下り坂であることを自覚しません。そのうち下向きの加速度が増して、みんなが「これはひょっとして落ち目というやつ?」と気が付いたときはもう後の祭りです。下向きの勢いがついているので、再び上昇に転じるには、前に上ったときとは比べものにならないほどの努力と幸運が必要となるからです。ほとんど無理といって過言ではありません。

でもまあ過去の栄光とはいえ、何もないよりましです。場合によっては過去の栄光に敬意をはらってくれる人もいるし、過去の栄光の残り物が全部すぐになくなってしまうわけでもないからです。

イギリスに比べるときわめて短いものでしたが、かつて日本にも栄光の日々と呼べるものがありました。そしてわたしたちは今、誰の目にも明らかな落ち目です。だからやっと日本でも、多くの人がキンクスの歌に共感できる日が来たんじゃないかなと思います。

イギリスは日本より先に、はるかに長く大規模な落ち目を経験しています。その中で様々な失敗をして、今もまだ落ち目から抜け出すどころか、さらに状況が悪化しているようです。だからこそ、わたしたちは今、キンクスを聴いて学ばなければならないのです。

キンクスのアルバムを全部揃えなさいとは申しません。せめてベスト・アルバムくらいは一家に一枚購入して、いざというときのために、代表曲はすべて歌えるようにしておきましょう。

メリー・クリスマス。

子供の頃、ぼくはサンタを信じていた
サンタの正体はパパだって知ってたけど
クリスマスの夜には靴下をつるして
翌朝プレゼントを開けてよろこんだもの

だけどこの前、ぼくは自分でサンタをやることになった
サンタの格好でデパートの前に立っていたら
チンピラのガキどもがやって来て、ぼくはいきなり襲われた
となりに立ってたトナカイもぶちのめされた

それから奴らは言った

おいサンタ、金をよこしな
ガキのおもちゃなんかに用はない
よこさないとぶち殺すぞ
俺を怒らせるなよ、俺たちは金が欲しいんだ
おもちゃなんか金持ちのガキにくれてやれ

弟はスーパーヒーローのコスチュームなんか欲しがらない
妹もぬいぐるみなんかには興味がない
ジグソーパズルやおもちゃの金なんかくそくらえ
俺たちが欲しいのは現金だけだ

おいサンタ、金をよこしな
よこさないとぶち殺すぞ
おいサンタ、金をよこしな
ガキのおもちゃなんかに用はないんだ

だけどもし仕事があるなら、ひとつ俺の親父にくれないか
食わせなきゃならない家族がたくさんいるんだ
もし仕事をくれるなら、俺はマシンガンを手に入れて
あんたを町のチンピラどもから守ってやる

おいサンタ、金をよこしな
ガキのおもちゃなんかに用はないんだ
よこさないとぶち殺すぞ
俺を怒らせるなよ、俺たちは金が欲しいんだ
おもちゃなんか金持ちのガキにくれてやれ

ありがとうな、メリー・クリスマス
いいクリスマスを過ごせよ
だがいいか、ワインを飲むときも
何ももらえないガキが、たくさんいるってことを忘れんなよ

2011/12/03

今年のクリスマス・シングル決定版 (It's A Christmas, Single - ヴィヴ・アルバーティン)

Viv Albertine by Man Alive!
Viv Albertine, a photo by Man Alive! on Flickr.

今年始めに紹介したヴィヴ・アルバーティン(Viv Albertine)のアルバム制作費用の Pledge がつい先日終了しました。最初はレコーディングは完了していて、マスタリング費用が必要なんだって話だったのですが、なんだかんだで結局新たに全部レコーディングし直したみたいです。デニス・ボーヴェル(Dennis Bovell)やブルース・スミス(Bruce Smith)などスリッツ時代からのメンツのほか、どこをどう間違ったのかジャック・ブルース(Jack Bruce)なども参加してるそうです。

3年前、再びギターを手に取って弾き始めたときのわたしには時間がたくさんあったけど、誰もわたしのやることに関心なんか持ってなかった。わたしはパンク・アイコンでも伝説でもないのよ。ヘースティングズのちっぽけな家の中でたくさん曲を書いてギターを弾いていただけ。でも今は逆に忙しくて時間がなくなってしまったことがすごく残念。

VIV ALBERTINE: NO SUN, NO SUGAR, NO ALCOHOL INTERVIEW BY PHIL KING

アルバムは来年春のリリース予定ですが、昨年の「Home Sweet Home (...at Christmas)」に引き続き、今年もクリスマスソングを発表しました。その名も「It's A Christmas, Single」です。ニューヨークのアート系ゴス娘二人組トーク・ノーマル(Talk Normal)との共演です。

ヴィヴ・アルバーティン、56歳、日焼けには注意しています。スポーツジムにも通っています。アルコールも砂糖も控えています。娘が一人いますが、夫とは離婚しました。クリスマス・シングルです。

クリスマス・シングルって好き、すごく楽しいもの
クリスマス・シングルって好き、ママもそう言ってた
シングルでいたいの、もう終わったんだもの
シングルでいたいの、もう精液は飲みたくないの

シングルでいたいの、わたしはシングル・ガールだもの
シングルでいたいの、恋人たちって臭いもの
シングルでいたいの、ひょっとしたら身体の調子が悪いのかも
クリスマス・シングルって好き、さあ一緒に歌いましょう

シングルでいたいの、わたし間違ったりしないんだから
シングルでいたいの、だからって夜中いびきをかいたりしないわよ
クリスマス・シングルって好き、悲しいことなんて何もないもの
クリスマス・シングルって好き、でもミンスパイって大ッ嫌い

曲の MP3 データは SoundCloud でダウンロードできるようになっています