2012/09/30

それは地理的な場所じゃない、俺たちの心の中にある場所なんだ (Reggie Song - パブリック・イメージ・リミテッド)

明日10月1日、イギリスで PiL の新しいシングル「Reggie Song」が発売になります。今回取り上げているテーマはずばりエデンの園です。「Religion」の続編ともいえる曲で、いよいよ旧約聖書、創世記との対決です。

「The Room I Am In」の記事でも紹介した通り、ジョン・ライドンはここ数年インタビューで度々「この地上こそが天国なんだ (Heaven is on earth)」という言葉を口にしていますが、これがアルバム「This is PiL」を通じて共通するテーマにもなっています。

俺たちが経験できる唯一のものが、この現実なんだ。馬鹿野郎なのは、俺たちをエデンの園から追い出した神の方だ。だから俺たちにはエデンの園に帰る権利がある。そうすべきだ、そうしようぜ! そういう歌です。

俺たちの親友、特にランボーと仲のいいレジナルドって奴のことを歌った曲だ。もうずっと昔からの友達でさ、フィンズベリーパークで生まれ育ったアーセナル国の住民さ。どんな困難なことがあっても、決っしてあきらめない奴なんだ。あいつはジャマイカ人の血をひいてるんだけど、まあそんなことは俺たちにとって重要じゃない。俺たちはフィンズベリーパークの仲間なんだ。あいつは自分の子どもたちの面倒をみてやりたいんだけど、それが許されていない。政治システムのせいさ。そのシステムが彼からありとあらゆるチャンスを奪い、苦しめてるんだ。同じような問題はあちこちにあって、しばしば悪循環を引き起こしている。だけどあいつはそんな制度ともうまくつき合っていく方法を身に付けている。うまく操るんだよ。すごくイカれた奴さ。俺と同じくらいイカれてる。

俺たちはみんなイカれてるんだ。だがお互い愛しあってる。お互い真摯に、誠実につき合ってるからさ。レジナルドは賞賛に値する奴なんだ。ある日あいつが言ったんだよ。「灯火のように光れ」って。そして「ジョニー、おまえは灯火のように光らなくちゃならない」って言ったんだ。その言葉に俺が「エデンの園で」って付け加えたわけさ。すげえ!素晴しいリフレインだ。まさに真理だよ。俺たちはみんなエデンの園に帰りたいんだ。俺たちにとってのエデンの園がフィンズベリーパークなんだよ。だがそれは地理的な場所じゃない、俺たちの心の中にある場所なんだ。

JOHN LYDON: I AM FOLK MUSIC

この Reggie Song には4月のロンドン Heven でのライヴ映像をフィーチャーしたオフィシャルなビデオもあるんですが、もっと観ていただきたいのは9月25日にイギリス BBC テレビ音楽番組「Later... with Jools Holland」に出演したときのスタジオ・ライヴ映像です。PiL としてのテレビ出演は20年ぶりで、ジョニーはホームレス風ディナー・ファッションで登場します。この日のジョニー、風邪をひいていて声がちゃんと出ていないんですけど、それを補って余りある迫力が伝わってくるはずです。

レジナルドを知ってるかい?
分別をわきまえた奴でさ
あいつはちょっとしたアイディアを持ってる
それで穏やかな気持になれるんだ
あいつはヤバいものには近付かない
エデンの園アダムとイヴみたいに
すごく純真な奴なんだ

あいつは夢見てる
俺たちはみんな夢見てる
俺たちがここを出ていかなければならない理由なんてない
俺たちは、エデンの園で灯火のように光るんだ
悪いことなんて何もない、ここを出ていく理由もない

だから俺たちは光るんだ
光っているんだ

エデンの園で灯火のように光るんだ
出て行く理由なんて、どこにも、何ひとつもない
エデンの園で、俺を光らせてくれ
出て行く理由なんて、何ひとつない

あいつはロンドンで生まれた
俺もロンドンで生まれた
俺たちの多くはロンドンの生まれだ
だがどこの生まれだろうと関係ない
あんたもあの園に帰れば、まっとうな人間でいられる

俺はずっと夢見ている
悪いことも、出て行く理由も、何ひとつないんだ
エデンの園で灯火のように光るんだ
出て行く理由なんてどこにもない

上等なウィードから
七本の楡の木(セヴン・シスターズ)まで
何でも揃ってる
俺はそのフィンズベリーパークの生まれなんだ
こきげんだぜ
きっとあんたにもわかる日が来る
神の言葉をあれこれ考えたところで
大したことは何もわかりゃしない
あいつは女好きでさ
純真なやつなんだ
エデンの園にいるみたいに

エデンの園で灯火のように光れ
出て行く理由なんてどこにもない
エデンの園で灯火のように光るんだ
出て行く理由なんてどこにもない

俺はずっと夢見てる
出て行く理由なんてない
俺は今でもエデンの園に住んでいる

俺はずっと夢見てる
出て行く理由なんてない
俺は今も住んでいる
みんな住んでいるんだ
エデンの園に

2012/09/08

ハイム(Haim)、ポリドール・レコードと契約、ヨーロッパ・ツアー開始!

Haim 4
Haim 4, a photo by alansheaven on Flickr.

LA の三姉妹バンドのハイム、バンド側から正式のアナウンスはまだないのですが、どうやらポリドールと契約して、アルバムのレコーディングに取りかかっているようです。アラナがこんなツイートをしてました。

ポリドール・レコード 「さて君たちの中で誰かぼくらのために新しい音楽を作ってくれる人はいるかな?」
アラナ 「只今作業中」

ポリドールのサイトを見るとちゃんとハイムの名前が載ってました。遂にアルバムがリリースされるようですね。そのほかも活動が活発で色々動きがあるので、まとめてご紹介します。

まず数量限定でリリースされたアナログ EP「Foever」ですが、追加のプレスで白いレコードやTシャツ付きのパッケージが販売されています。ほかに「Just Tell Me That You Want Me」というフリートウッド・マック(Fleetwood Mac)のトリビュート・アルバムにも参加、これは一曲だけですが「Hold Me」をカバーしています。CD、ダウンロードで既に販売中です。

ライヴの方は、地元 LA での小さなフェス等への参加のほか、8月はマムフォード & サンズ(Mumford & Sons)主催の移動フェス(?) Gentleman of the Road に加わり北米4ヶ所でのコンサートを行いました。そして11月からは、ハイム初の本格的なヨーロッパ・ツアーが予定されていて、イギリスを中心にオランダ、ドイツ、フランスなどをまわります。

あと7月19日にサンタモニカ埠頭で開催された無料コンサートでのライヴの模様が YouTube にアップされていたのでご紹介します。曲は以下の8曲です。客席からの撮影ですが、音質、画質共にきれいに撮れていて、ハイムのパワフルなライヴの雰囲気が充分に堪能できます。やっぱハイム、ライヴが最高にかっこいい!

  1. Better Off
  2. The Wire
  3. Honey & I
  4. Forever
  5. Go Slow
  6. Oh Well (Fleetwood Mac cover)
  7. Falling
  8. Let Me Go

えっと、あと何か忘れてなかったかな。そうだ、「Forever」の公式カラオケ・ビデオも公開されてます。

2012/09/06

あんたがいるそこはずっと、まぎれもない天国なんだ (The Room I Am In - パブリック・イメージ・リミテッド)

Snow at Finsbury Park
Snow at Finsbury Park, a photo by Xenoc on Flickr.

ジョン・ライドンのロリポップ・ブログ(Lollipop Blog)、ブログと言ってもジョンが文章を書いて公開してるわけじゃありません。インタビューのビデオです。普段着のジョンが居間の椅子に座って話す様子を撮影、そのビデオを YouTube で公開するだけという、きわめて21世紀の PiL らしい低予算のプロモーション活動です。そのロリポップ・ブログ第4回のビデオが先日公開されました。今回のテーマは、ニューアルバム「This is PiL」収録の曲「The Room I Am In」についてです。

この曲は明確なビートやメロディーのない、いわゆるアンビエントな感じのサウンドで、従来の PiL にはなかったタイプの曲です。ジョンもほとんどメロディらしきものは歌わず詩を朗読しています。重苦しい一方でどこか美しいムードの漂う曲なんですが、曲の途中でなぜかジョンは笑っています。なぜでしょう。その理由は「ここが天国だから」です。

この曲はルー・エドモンズがスタジオで録ったものを編集したことから始まったんだ。メンバーの誰ひとりモノになるとは思ってなかった曲さ。テクノロジーの力で作り上げた音楽だな(笑)。みんなびっくりしたよ。彼は素晴しいものにしてくれたんだ。アンビエントで調子外れなサウンドで、心地良くて美しく、それでいて皮肉な感じも漂ってる。彼の心の底から生まれたサウンドだよ。

だから俺は、それに負けない相応(ふさわ)しい歌を入れようと思ったんだ。最終的に「絶望の中での生活」を心を込めて語るのがいいってわかったんだ。公営住宅の部屋、タールで汚れた壁、俺たちが育った場所の諸々についてさ。

だが地獄に思えるようなこの場所が、実は天国なんだってことを理解しなくちゃならない。俺たちが生きてるこの現実こそが天国なんだ。だから精一杯生きなくちゃならない。俺たちが経験できる唯一のものが、この現実なんだ。

宗教が広めてる最も有害な考えが「死後の救済」ってやつさ。宗教が言ってるのは今生きてることを無駄にしろってことじゃないか。

ここが天国なんだ。この部屋にいるみんな、世界中のみんなが今いるのが天国なんだ。今あんたがしている呼吸のひとつひとつ、それが天国なんだ。

あんたも自分の母親が癌になって、最後に息をひきとる場に立ち会えば、ああここが天国だったんだなってわかるはずだよ。

いつもだとここでライヴのビデオをご紹介するんですが、今のところ「The Room I Am In」はライヴで演奏されていないため、ビデオもありません。「へえ、ジョン・ライドンって、こんなこと歌う人なんだ」と興味を持った方はぜひ PiL のアルバム「This is Pil」をお買い求めください。

この窓からは、大した希望など見えた試しがない
このちっぽけな建物の外では
どんよりと曇った朝から始まり、晴れた空が広がり
夕暮れの色はやがて、漆黒と星だけの空になる
窓格子ごしにそれを眺めるだけ
汚物だらけの公営住宅
そこの部屋に俺はいる

わかっている
そんな中に
俺がいるちっぽけな部屋がある
俺の地獄
それが俺の居場所
それが俺の居場所

あんたがいるのはほかのどこでもない
あんたがいるそこはずっと
まぎれもない
天国なんだ

2012/09/01

みんなアメリカを探しに来たんだ (America - ファースト・エイド・キット)

Long Live Liberty
Long Live Liberty, a photo by Wallflower83 on Flickr.

ポーラー音楽賞(Polar Music Prize)、日本での知名度はいまひとつなんですが、ABBA のマネージャーだった Stig Anderson がスウェーデン王立音楽アカデミーの援助を受けて1989年に創設した賞で、音楽界のノーベル賞とも呼ばれています。今年はポール・サイモン(Paul Simon)とヨーヨー・マ(Yo-Yo Ma)が受賞し、授賞式が8月28日にストックホルムで開催されました。

受賞者を差し置いて、昨年に引き続きステージに立って歌ったのはスウェーデンが誇るおぼこ姉妹デュオ、ファースト・エイド・キット(First Aid Kit)です。去年は「Dancing Barefoot」を歌って受賞者のパティ・スミス(Patti Smith)を泣かせてしまったんですが、今年もまたやってくれました。

歌ったのはポール・サイモンのサイモン & ガーファンクル(Simon & Garfunkel)時代の曲「America」です。客席で聴いてるポール、うるうるしてます。なんだかこの授賞式、もはやファースト・エイド・キットの実力をベテラン・アーティストにアピールする場になってませんかね。

「America」は探していたものが、あるはずの場所に見つからなかった。いったい何を探していたのか、わからなくなってしまったという青春の歌です。そこで探すのを止めてしまうと単なる昔を懐しむ歌にしかなりませんが、そこが始まりだと気付けば希望の歌になります。

「ぼくら恋人同士にならないか。お互いの財産目当てに結婚を企むんだ」
「あら、わたしカバンの中に少しばかり土地を持ってるのよ」
それからぼくらは煙草を1箱とミセス・ワグナーのパイを買い、アメリカを探して歩き出した

「キャシー」
ピッツバーグでグレイハウンドの長距離バスに乗るとき、ぼくは言った
「ミシガンにいた頃のことが、今じゃもう夢みたいに思えるよ」
サギノーからはヒッチハイクで4日もかかった。
ぼくはアメリカを探しに来たんだ

バスの中ではゲームをしてふざけ合った
彼女が「あのギャバジンのスーツを着た男の人はきっとスパイね」と言えば
ぼくは「気を付けろよ、あの蝶ネクタイは隠しカメラだから」と応えた

「煙草を取ってくれないかな。レインコートのポケットに残っているはずなんだけど」
「1時間前に吸ったのが最後の一本よ。」
仕方ないのでぼくは景色を眺め、彼女は雑誌をめくった
広々とした平原に月が昇っていた

「キャシー、ぼくは道に迷ってしまったみたいだ」
彼女が眠っているのを知りながらぼくは言った
「どうしてだかわからないけど、虚しくて、苦しいんだ。」
ニュージャージーの高速道路ですれ違う車の数を数えた
彼らもみんなアメリカを探しに来たんだ
みんなアメリカを探しに来たんだ

ファースト・エイド・キット、来年の授賞式では誰の歌を歌うんでしょう。今から楽しみです。

2012/08/29

アナログ・レコードに手を出すな!

Record Slow motion with needle
Record Slow motion with needle, a photo by kingdesmond1337 on Flickr.

「CD の音はダメだよ。MP3 とか iPod なんてもってのほか。やっぱ音楽はレコードで聴かなくちゃ。音の質感というかツヤが違うんだよねえ。それに何といってもあの大きなジャケット。」

中高年の音楽ファンがこんなセリフをほざくのを聞いたことはありませんか?何だか「お前が聴いてるのは質の低い音楽なんだ」って言われてるみたいで、すごくムカつきますよね。だいたいレコードなんてそのへんの店に行っても売ってない過去の遺物です。じじい共と一緒にさっさと滅びてほしい。レコードにこだわっていた人種といえば DJ がいるけど、あいつらでさえ最近はレコードはおろか CD すら使わなくなっています。

だいたいさあ、レコードって直径30センチもあるでかい円盤なのに、1枚50分くらいしか曲が入らないんですよ。しかも表と裏、別々に25分だって。25分経ったら続きを聴くのに円盤をひっくり返さなきゃ聴けないんだって。信じられる?

レコードってあれ、ただのビニールの円盤に溝を刻んでるだけでしょう。それをダイヤモンドでできた小さな針で引っかいて振動させて、それを電気で増幅して音を鳴らすだけなんだって。あまりにも原始的というか、それって安土桃山時代あたりの技術ですよね。それに針でビニールをこするわけだから、レコードは聴くたびにだんだん磨り減ってくんだって。「磨り減るほど聴き込んだ音楽」って、あれ例えじゃないんだって、本当に磨り減るんですって。アタマ悪過ぎ。

もそもさあ、あんなでかいレコードとレコードプレイヤーなんて持ち歩けないでしょう。電車やスタバで聴きたいときどうするんですか。聴けないでしょう。いや、そう思って「外で音楽聴きたいときはどうするんですか?」って尋ねたことがあるんですよ。そしたら「頭の中にしっかり音が刻まれた脳内ジュークボックスがあるから大丈夫。どんな場所でもすぐに好きな曲が聴けるよ」だって。アタマおかしい。

普通は iPod や iPhone で好きなときに好きな場所で音楽聴きますよね。連中違うんですって。新しいレコードが手に入ってもどこでもすぐに聴けるわけじゃないから「今日は真っ直ぐ家に帰って、ご飯食べて、あのレコード聴くぞ。今日は家に帰ったら、絶対あのレコード聴くぞ」って一日中考えながら、ずっと我慢して過ごすんですって。間違いなく変態。

AMP Magazine のサイト見ていたら、PiL のジョン・ライドンっておっさんのインタビューが載ってて、例によってレコードについて熱く語っていたんですよ。このおっさんはレコード・マニアで、20年くらい借金で首がまわらなくて座敷牢状態で新作を発表できなかったらしいんだけど、それでも自分で集めたレコードは手離さなくて、今はロンドンとロスの2箇所に大量のレコード・コレクション保管してるんですって。話を聞いてる若いインタビュアーがまた世間知らずで「ぼくもレコード・プレイヤー買います!」なんて言い出す始末。みんな、気を確かに持って!

Q: ここ数年、アナログ・レコードがまた盛り返してきていることをどう思いますか?あなたがアナログ・レコードの熱狂的支持者である理由も教えてください。

音楽を理解し満喫したいなら、アナログ・レコードを聴くべきだだよ。CD も高い技術レベルで製造すればいいものになるかもしれないが、今のところアナログ・レコードの質感には及ばない。あと何といっても大きさなんだよ。12インチのビニールの円盤は、アーティストが聞き手とその世界を分かち合うため、招き入れるために必要な大きさなんだよ。レコードの溝に指が触れないように注意しながら、真ん中のラベルに書かれた情報を見て、自分が今聴こうとしてるものを確認するんだ。俺が今までに買った一番高価なものはレコード・プレイヤーなんだよ。

Q: レコード・プレイヤーは今まで持ってなかったんですけど、そんな話を聞くと1台欲しくなりますね。

こういうジェネレーション・ギャップが生じた原因は、レコード会社の経営的な判断によるものなんだ。レコードを聴いてきた俺とレコードを知らないあんたは、聴いてきたものがまるで違うんだよ。レコード会社は CD というより安く音楽を製造する手段を得て、レコードを作るのを止めてしまった。安くなった一方で質が落ちた。で、知っての通りダウンロード音楽になるとさらにまた質が落ちたんだ。何か変わる度にすぐそれと分かるほど質が落ちる。ひどい話だよ。

PiL としての俺の立場から言えば、俺たちみたいな低音のぶ厚い音楽を聴くときは、インターネット経由で、しかもヘッドフォンを使って聴いたりすべきじゃない。自分の好みの音楽かどうかを確かめるにはそれでも用は足りるかもしれないが、大きな音で、ちゃんとした音の感触を楽しみたいのなら CD を買ってほしい。もっといい音で聴きたいならアナログ・レコードを買ってくれ。レコード・プレイヤーを置く場所が必要になるけどな。

Q: もうひとつ私が持ってないものが...

ああ、コンピューターを一式買うのに似てるよ。レコードで音楽を聴くには色々用意しなくちゃならない物があって、それが揃って始めて音が聴けるようになる。いずれにせよ、俺がやってるような聴き方は快適だぜ。大きなスピーカーのコーン紙が振動して部屋の中に響き渡る、これ以上のものはないよ。静電気のパチパチいう音がターンテーブルで鳴って、細かな音の隅々まで聴こえてくる。俺たちはでっかい部屋でレコーディングしたんだ。それを再現したいなら、部屋の中を音で満たすしかないんだよ。

Q: レコード・プレイヤーを買ってきます!

それがいい。世界が一変するぜ。

JOHN LYDON talks about the new album, the Occupy movement, Pete Townsend’s unsavory remarks about age, and Kickstarter

ああ、それからグルーヴ(groove)って言葉あるでしょう。「イェー、このグルーヴ、感じるかい?」のグルーヴ。グルーヴってレコードの溝のことなんですって。

2012/08/27

ジョニー・ロットンはアメリカを愛してる (Johnny Rotten Loves America)

An old Black Confederate Solider and his Grandson
An old Black Confederate Solider and his Grandson, a photo by J. Stephen Conn on Flickr.

PiL の北米ツアーに合わせて10月1日にシングル「Out of the Woods」がリリースされる件、先日はさらっと書きましたけど、これアメリカ人にとっては大変な問題作なんですよ。「Anarchy in the UK」や「God Save the Queen」なんかより、はるかにインパクト大きいはず。これがもし大手レコード会社からのリリースだったら、絶対に発売が認められない内容の曲です。

この曲はアメリカ南北戦争でのチャンセラーズヴィルの戦いについて歌っている。南北戦争にすごく興味があって調べたんだが、アメリカの真の歴史が独善的な見方によって無視されてることがわかって、ものすごい憤りをおぼえたんだ。そこから生まれた曲なんだよ。

アフリカ系アメリカ人は、アメリカの歴史のその部分において完全に無視されているのさ。俺はフロリダで教師をしているネルソン・ウィンブッシュ(Nelson W. Winbush)という人物に会った。彼の曽祖父は黒人の南軍兵士(black confederate soldier)だったんだ。自由な身分にあり、ボランティアとして志願し、南軍の兵士になった人物さ。

アメリカの歴史における黒人の本当の歴史なんだが、これは今でもうかつに会話に持ち出すと大問題になってしまう内容なんだ。この曲はそうした事実すべてと関連している。すごく興味深い話だろ。

John Lydon's Guide To 'This Is PiL'

これだけじゃ何のことだかピンと来ない人が多いと思うので、ちょっと解説します。まずアメリカの南北戦争、学校の世界史の時間に習いましたよね、150年ほど前にアメリカで起きた内戦です。南部11州が合衆国からの独立を宣言して結成したアメリカ連合国(Confederate States of America)と北部の合衆国との間で起きた戦争で、アメリカ史上最大の62万人という(第二次世界大戦よりも多い)犠牲者をもたらした戦争でもあります。

北軍は奴隷制を否定(正義)、南軍は奴隷制を擁護(悪)、結果は正義の北軍が勝利し、リンカーンが奴隷の解放を宣言して平和が訪れました。こんなイメージで把えてる人が大半だと思います。ですが Two sides to every story、人間の起こす戦争というものはそう単純なものではありません。戦争の原因自体は奴隷制とは直接関係がなく、貿易政策や州の自治権をめぐる、産業構造の違いからくる利害の対立です。奴隷の解放は副次的な結果に過ぎない、仮に南軍が勝利したとしてもやはり世の流れによって、奴隷は解放されていただろうという見方もできるのです。

北軍に黒人の兵士がいたことは、映画「グローリー (Glory)」に描かれたこともあり、知っている人も多いでしょう。ところが北軍だけじゃなく、南軍にも黒人の兵士がいたんです。しかも奴隷ではなく自由な身分の黒人で、自ら志願して兵士になった人々が。

この曲は黒人の南軍兵士の視点で歌っているんだ。

Public Image Ltd live at Heaven: Lock up your children

この記事の最初にある古い写真に写っているのがその兵士のひとり、Louis Napoleon Nelsonです。彼の隣で軍服を着てポーズをとっている子どもは曾孫(ひまご)のネルソン・ウィンブッシュです。戦争から70年ほど後、1932年に撮られた写真です。ジョン・ライドンが会って話を聞いてきたというのは、このウィンブッシュ氏です。

「北軍 = 奴隷解放 = 正義」説ひいては合衆国の大義を揺がしかねない黒人南軍兵士の存在は、公式の記録が残っていないことから長らくアメリカ国内で否定され続け、認められるようになってきたのは、つい最近のことです

ジョン・ライドンがウィンブッシュ氏に会いに行ったのは2007年のことで、当時のジョンはレコードを出したくても出せない状況にあったため、テレビに活路を見出そうとしていました。そこで彼が作ったのが、ランボーと共にハリケーン・カトリーナの被災地や民兵の集会などを訪れ、アメリカ南部の歴史を探るというドキュメンタリー番組「Johnny Rotten Loves America」です。その取材のひとつでウィンブッシュ氏に出会ったわけです。

ところがこの番組、放送してくれるテレビ局が現われず、結局お蔵入りになってしまいました。番組のトレーラーだけは YouTube に上がっているので観ていただくとすぐにわかりますが、This is Jonny Rotten なアプローチです。アメリカのテレビ局が逃げ腰になるのも無理はありません。

スティーヴン・フライ(Stephen Frye)はアメリカ南部のことを何も理解しちゃいない。そこに暮してるのが人の良い人間ばかりだってことは知ってるかもしれないが、あの土地の歴史について何もわかっちゃいないんだ。彼が南北戦争に関する番組をつくったことがあったが、南北戦争は奴隷解放のためだったなんていう安易な考えに基いたものだった。そんなの嘘っぱちだ。事実じゃない。だったらリンカーンの妻がアメリカ最大の奴隷所有者だったという事実をどう説明するんだ?戦争が終わっても長いこと黒人たちが解放されなかったのはなぜなのか説明してくれよ。

南軍旗(Confederate flag)を人種差別主義者の旗のように言うのも止めるべきだ。そもそも黒人たちは合衆国の旗の(もと)で奴隷としてアフリカから連れて来られたんだぜ。俺は真実が知りたいだけなんだ。もちろん南部ではひどいことが行われていたろう。だが南北両方でひどいことが行われていたんだ。だが嘘をつき続けてる限り、国の問題は何ひとつ解決できやしない。特に歴史というやつは、嘘つきどもがあれこれ好んで操作するもんだからな。

この件は、真実がどうであったのか厳しく検証すべき問題なんだ。じゃないと俺たちは、虚空の中で無意味な空想上の議論をしてるだけに終わってしまう。

PiL's John Lydon on appearing in butter commercials and being on Judge Judy

つまりシングル「Out of the Woods」は5年越し、「Johnny Rotten Loves America」で果せなかったことに対するリターン・マッチなんです。10月からこのシングルを携えて PiL の仲間と共にジョン・ライドンが再びアメリカへ乗り込みます。

2012/08/24

PiL のニューシングル「Reggie Song」と「Out Of The Woods」は10月1日発売

Pil Bournemouth 2012 Nokia N8
Pil Bournemouth 2012 Nokia N8, a photo by wheelzwheeler on Flickr.

8月19日の Summer Sundae フェスティバルでイギリス・ツアーを終えたジョニー・アンド・ザ・ボーイズは、1ヶ月ちょっとの休憩を挟んで10月2日のフロリダからツアーを再開します。去年は北米をまわらなかったので、2年ぶりの北米ツアーということになります。一日も早く日本に来て欲しいんですが、今年はちょっと無理そうですね。11月にルー・エドモンズがレ・トリアボリーク(Les Triaboliques)のライヴ予定を入れちゃってるんで、年内の PiL ツアーは北米で終わりだと思います。残念ですが、来年に期待しましょう。

でもね、ジョニーは日本を贔屓(ひいき)にしてて、かなり頻繁に来てるんだよ。ツアーのアーカイブを見るとわかるけど、ブラジルやアルゼンチンなど南米には再始動してからまだ一度も行ってないし、オーストラリアにも89年以来行ってない。ドイツなんて去年一度計画が出たのに中止になっちゃったから、最後のライヴはなんと87年、もう25年も PiL で行ってないんだぜ、ドイツ。

コンサートのプロモーターも商売ですから、観客動員の見込めないバンドは呼んでくれません。PiL の来日を実現するためにファンができることといえば結局、CD などを買って「コンサートに人の集まる証拠」をつくるしかありません。ということで、みなさんニューアルバム「This is PiL」はもう購入しましたか?DVD 付きの限定盤は既に品薄になってるようなので、まだの人は早めに買っといた方が良いですよ。

「アルバムも全部持ってるし、もう買うものないよ」という人も安心してください。昨日 PiL の新しいシングル「Reggie Song」と「Out Of The Woods」のリリースが発表されました。10月1日の発売です。4月にも「One Drop」が発売されているのですが、あれはレコード・ストア・デイ限定という扱いだったので、今回のシングルが「This is PiL」からの初めてのシングル・カット、1992年の「Acid Drops」以来30年ぶりのシングルということになります。

ただし今回のリリース、変則的でちょっとわかりにくいので説明しときます。基本は12インチのアナログ・レコードで、イギリスとアメリカ向け、次の通り、それぞれ別内容のものが発売されます。

イギリス向け
  1. Reggie Song
  2. Enclosed Walls - Live from NYC 2010
  3. Disappointed - Live from NYC 2010
アメリカ向け
  1. Out of the Woods
  2. USLS1 - Live from NYC 2010
  3. Warrior - Live from NYC 2010

「なんで国によって別内容のシングルをリリースすんの?」と疑問を持つ人がいるかも知れませんが、昔はよくあったんですよ。その国でアピールしそうな曲を選んでシングル・カットするというのが、ごく普通におこなわれていました。ケイト・ブッシュのデビュー・シングルなんかイギリスは「嵐が丘(Wuthering Heights)」だったんですけど、日本のシングルは「Moving」で「嵐が丘」は B 面だったんだよ。

「Reggie Song」はロンドン、フィンズベリーパークに住むジョンの友人レジナルドの言葉を、「Out of the Woods」はアメリカ南北戦争で南軍の軍人だったストーンウォール・ジャクソンのことを歌っていて、イギリスとアメリカ、それぞれの国の人によおく聴いてもらいたいってことなんだと思います。

シングルのおまけとして収録されるライヴ曲は2010年の5月18日、ニューヨークの Terminal 5 で収録されたもので、レコード化されるのは初めてです。

「イギリスとアメリカだけ?日本は?それにまたアナログなの?レコードプレイヤー持ってないから、アナログ・レコードは聴けないよ!」という人も大丈夫、両方のシングル内容をひとまとめにしたお徳用 CD とダウンロード販売もちゃんと予定されています。

CD/ダウンロード版
  1. Reggie Song
  2. Out of the Woods
  3. Psychopath - Live from NYC 2010
  4. USLS1 - Live from NYC 2010
  5. Warrior - Live from NYC 2010
  6. Enclosed Walls - Live from NYC 2010
  7. Disappointed - Live from NYC 2010

国内盤の発売は?うーん、わかんないけど、また EMI Music Japan の中の人ががんばってくれるんじゃないかな?そういえば、最近になって気付いたんだけど、アナログ限定盤 EP 「One Drop」は EMI Music Japan のネットショップで売ってるんだよ。こちらも買い損ねた人はお早目に。