2014/06/07

神様ってのはそういう者を愛するんだろ? - ジョン・ライドン出演のジーザス・クライスト・スーパースター、全公演中止

Bilbao BBK Live 2013 PIL, a photo by Dena Flows on Flickr.

ジョン・ライドンがヘロデ王役で出演、今月9日のニューオリンズを皮切りに、北米54箇所をまわる予定だったミュージカル公演、ジーザス・クライスト・スーパースターの US ツアーは5月末の開始直前になって突然中止が発表されてしまいました。こんな大規模なツアーがぎりぎりになって中止されるなんてよほどのことなんですが、公式サイトには何も理由が書かれていません。出演者やスタッフも同様に、満足な説明なしに突如中止を告げられたようで、Twitter にも出演者らの怒りの声が上がってました。

数日経って、プロモーター Michael Cohl がニュースサイトの取材に応じました。記事によると要するに「チケットがぜんぜん売れなかったので中止にした」ってことです。

アメリカの興業商売のことはよく知りませんが、こうゆうのってよくあるんですかね?なんか素人目には大々的にぶち上げてみたはいいけど資金が思うように集まらなくて、プロモーションにお金かけられなくて、それでもチケット売り上げで自転車操業しながらツアーやろうとしたけど、それもダメで万事休す、みたいに見えるんですけど。この Michael Cohl はミュージカル「スパイダーマン:ターン・オフ・ザ・ダーク」でも失敗してるんで、そっちの負けを取り戻そうとしてあせったんじゃないの?

まあ、一度中止が決定すると、あれこれ言っても再開されることはないので仕方ありません。初のミュージカル出演のため張り切って準備していたジョン・ライドンはこう言ってます。

そのプロモーターとかいう奴とは一度ニューヨークでモメてるんだよ。あいつのことは気に入らなかったし、本能的に信用できない奴だと思ってた。

きっとみんながあっと驚くような中止理由を説明してくれるだろうよ。(プロモーターの)コール君は何で俺に電話しなかったんだ?5ドルくらいなら貸してやったのに。

どんな運命が待ち受けていようと、俺はそれを受け入れ最善を尽くすだけさ。神様ってのはそういう者を愛するんだろ?

次か?次はバレエをやることになってるんだ。

Anger for ‘Jesus Christ Superstar’ Cast, and a Black Eye for Its Promoter

ということで、ジョニーおじさんのヘロデ王は幻に終わってしまいましたが、彼のバレエ、白鳥の湖にご期待ください。

2014/05/01

ハゲで太った中年の人魚がきみに会いにきました (Greens and Blues - ピクシーズ)

昨年、ピクシーズ(Pixies)のおじさんたち三人は、新作のレコーディング直前、長年一緒にやってきたキム・ディール姐さんに突如三行半(みくだりはん)を突き付けられてしまいました。何でなのか分からない。何が悪かったんだろう?三人は途方に暮れました。

それでも新作のレコーディング用にスタジオも予約しちゃっていたし、いつまでもお布団の中で泣いていられない、三人はがんばってレコーディングしました。がんばってちゃんとしたものを作りました。それで新しいベーシスト、キム・シャタックを迎えてツアーにも出ました。ところが半年も経たないうちに新しいキムをクビにしてしまいました。しかもそのことをブラック・フランシスたちは直接キムに伝えず、マネージャーに言わせたというのです。

そりゃあねえ、キム・シャタックがしっくり来なかったというのは傍目(はため)にもわかりますよ。だけどねえ、そうゆうことはやっぱりメンバー自身の口からちゃんと伝えるべきことじゃないの。そうゆうウジウジなとこがキム・ディールに見放される原因だったと思うよ。

それでまた三人はお布団にもぐり込んだのかというとそんなことはなくて、EP、アルバムと立て続けに発表、新作のプロモーションも積極的にこなしました。昨日、今日、ウジウジし始めたわけじゃなくて、デビュー以来一貫してウジウジしてる人たちですから年季が入ってるんです。

そんなウジウジ三人組を天は見放さず、パズ・レンチャンティンという新しい女性ベーシストを授けてくれました。このパズがすごくいいんです。パズがベースのヘッドに赤いお花を付けて「ぱらぱっぱっぱー」と歌うと、ああ、新しいピクシーズが生まれたんだなって実感できます。

アルバム「Indie Cindy」制作の段階ではまだパズは参加しておらず、パズはまだ正式メンバーというわけではないみたいなんですが、今度こそ三人揃ってパズに「ぼくらと一緒になってください」と頭を下げるべきだと思います。

ということで、ハゲで太った中年の人魚がきみに会いにきました。本人はたまたま立ち寄っただけなんて言ってますが、もちろん嘘です。

たしかにぼくはの心は、ここにあらずってやつだね
すぐにバラバラになって森の中を彷徨(さまよ)ってしまうんだ
ちょっと気味悪く感じたとしたら
申し訳ない、許してほしい

ぼくは自分が人間だなんて言ったけど、そう、嘘なんだ
この浜辺にはたまたま立ち寄っただけで
すぐ海の向うへ出発しなくちゃならない
またきみと会えることを祈るよ

ぼくはおしゃべりばかりして、きみの時間をムダにしてるね
もう家に帰りたいのかもしれないのに
でもすぐにぼくはここを離れる、そしたらきみはぼくのことなんて忘れてしまう
ぼくは翠(みどり)と碧(あお)の中に、すっと消えてしまう

ぼくは自分が人間だなんて言ったけど、そう、嘘なんだ
この浜辺にはたまたま立ち寄っただけで
すぐ海の向うへ出発しなくちゃならない
またきみと会えることを祈るよ

ぼくはおしゃべりばかりして、きみの時間をムダにしてるね
もう家に帰りたいのかもしれないのに
でもすぐにぼくはここを離れる、そしたらきみはぼくのことなんて忘れてしまう
ぼくは翠と碧の中に、すっと消えてしまう

翠と碧の中に
翠と碧の中に

2014/04/05

「この俺がイエス様と一緒に歌うんだぜ。これ以上のことをいったい誰が何を望むっていうんだよ」ジョン・ライドン、ミュージカル「ジーザス・クライスト・スーパースター」にヘロデ王役で出演

PIL @ Atlantico Live, Roma - 27 ottobre 2013, a photo by GoldSoundzIt on Flickr.

2010年以降、毎年春になるとライヴツアーを開始している PiL が、なぜか今年は何の音沙汰もありません。ジョン・ライドン、せっかく調子出てきたのに今年はお休み?と思っていたところ、昨日、驚きのニュースが発表されました。

ジョン・ライドンがミュージカル「ジーザス・クライスト・スーパースター」にヘロデ王役で出演。6月9日から北米54都市をツアーします。

ファンとして2009年に復活してからのはジョンの活躍ぶりを見て、そろそろ映画やドラマから出演の声がかかるんじゃないかなって思っていたんですが、まさかの舞台ミュージカル、あろうことか「ジーザス・クライスト・スーパースター」、これはまったく予想してませんでした。

この俺がイエス様と一緒に歌うんだぜ。これ以上のことをいったい誰が何を望むっていうんだよ

さて、このミュージカル「ジーザス・クライスト・スーパースター」、舞台や映画の DVD が発売されていて、国内では劇団四季の演目にもなってるので観たことある人も多いかと思います。一方で「キリスト教礼賛ミュージカルでしょ?何でそんなのにジョン・ライドンが出演?興味ないね。」という人が結構いるかもしれません。別にキリスト教やミュージカルに詳しいわけじゃありませんが、そんな人たちのためにオラの生半可な知識で簡単にご紹介しておきます。

まずこのミュージカル、最初からミュージカルだったわけではありません。最初はレコードだったんです。アンドリュー・ロイド・ウェバーというイギリス人の作曲家が曲を作り、ロック・ミュージシャン達を雇い、キリストが処刑されるまでの7日間の話を元に演劇仕立てのレコードを作ったんです。このレコードが大ヒットしたためその後で舞台化が実現しました。ミュージカルの初演は1971年ですが、40年以上を経た今もウェバーが立ち上げた劇団 The Really Useful Group を中心に世界中で上演が続いている作品です。

で、中身はですね、イスカリオテのユダとキリストのお話です。

時代は現代なのか大昔なのかよくわからないようになっています。とにかくユダヤ人の国イスラエルがあります。形式的にイスラエルは独立した国でヘロデ王というのが統治してるんですけど、実質的にはローマ帝国の支配下にあります。民衆たちは貧困や圧政に苦しんでいます。

そこに「神の子」を名乗るひとりの青年キリストが現われ、病気の人を治したり、パンのかけらを籠いっぱいに増やしたりの奇跡をおこなったため「彼こそユダヤの王だ」と大評判となり、彼を慕う人々が大勢集ってきます。一方、権力者たちはキリストに集まる人々の動きを警戒します。これ以上騒ぎが大きくなってはローマから反乱の動きと捉えられかねないからです。ローマと戦争になったのではイスラエルはひとたまりもありません。

その気配をいち早く察知し、キリストやその支持者たちに危害が及びかねないと心配した友人のユダは、キリストに警告します。「もう神の子を名乗るのはよせ。普通に大工として生きればいいじゃないか」。しかしキリストはユダの言葉に耳を貸そうとしません。キリストは自信たっぷりで、娼婦マグダラのマリアに膝枕でナデナデされて喜んだりしています。ユダは思い悩んだ末、キリストや人々を守るため、権力者たちによるキリストの逮捕に手を貸します。

キリストは逮捕されたといっても別に盗みや殺人を犯したわけではありません。「神の子」を名乗ってるだけです。普通なら「おかしなことを言って人々を惑わせるな」でムチ打ちとかで済むはずだったのですが、権力者間の責任の押し付け合い、責任転嫁のせいであれよあれよという間に十字架にはりつけられることに。そして思い余ったユダは...。

何だかいつの時代も世界中のどこでも変わんないねえ、というお話です。ユダとキリストの間に同性愛的な雰囲気が漂い、見方によってはマグダラのマリアを加えての三角関係のお話とも取れます。

今でこそ「ジーザス・クライスト・スーパースター」はミュージカルの名作としての評価を確立していますが、発表当時は「神への冒涜だ!」と大変なバッシングを受けた作品です。だから「俺はアンチ・キリストだ」「教会は犬(Dog)をさかさまにしただけの God に祈りを捧げる場所」と歌ったジョン・ライドンを選んだのも、当然といえば当然の成り行きです。

今回、我らがジョン・ライドンが演ずるのは傀儡(かいらい)のユダヤ王、ヘロデです。出番は少ないのですが、このミュージカル一番の憎まれ役です。ビデオは2000年の映画版、リック・メイオールのヘロデ王ですが、これをジョン・ライドンが演じるとどんなことになるのか、すごく楽しみ。

(2014-06-07追記)このミュージカルは残念なことに中止になってしまいました。
神様ってのはそういう者を愛するんだろ? - ジョン・ライドン出演のジーザス・クライスト・スーパースター、全公演中止

2014/01/20

真実と伝説なら伝説を選べ - 映画「24 Hour Party People」

The man who put latex gloves on

先日 Chromecast を入手しました。テレビの HDMI 端子に差して YouTube なんかの動画をテレビ画面で表示する装置なんですけど、なかなか便利です。PC だって最近のディスプレイは大きいし、大して変わらないんじゃね?と思ってる人がまだ多いんじゃないかと思いますが、違うんですよ。テレビだと「ね、ね、おもしろいの見つけた、見て、見て!」ってすぐ家族に見せられるし、スマホ使って寝転がって操作できるんです。それに Google Play で映画をレンタルしてすぐにテレビで観ることもできます。

ということで、見損ねていた映画を色々借りて観たりしてるんですが、その中のひとつが「24 Hour Party People」です。イギリス、マンチェスターの音楽レーベル「ファクトリー」そしてクラブ「ハシェンダ」の栄枯盛衰を経営者のトニー・ウィルソンを中心に描いた映画です。ファクトリーの音楽同様、一部に熱狂的なファンのいるカルト的な映画です。10年以上前の映画ですいません、今まで観たことなかったんです。

10年遅れて観た奴が偉そうに言うのも何ですが、字幕の誤訳を発見してしまいました。字幕の誤訳なんて珍しくも何ともありませんが、ちょっとこれは映画のテーマにも関わる部分だと思うので、ファンのみなさんのためにも書いておきます。

映画の前半、セックス・ピストルズのライヴを観て新しい音楽文化の誕生を感じたトニー・ウィルソンはライヴ・ハウス商売に乗り出します。マンチェスターのライヴハウスを週1日だけ借り切って、そこに毎週自分が目を付けたバンドを出演させるという企みです。初日の盛況ぶりに気を良くしたライヴハウスのオーナーは、駐車場に停めたワゴン車に娼婦を呼んでそこにトニーを誘います。トニーは最初こそ遠慮したものの、ちゃっかりご相伴にあずかります。

その駐車場にトニーを探して彼の妻リンジーがやってきます。何やら怪しい物音のするワゴン車のドアをリンジーが開けると、娼婦の頭を股間に当てがったトニーの姿がありました。怒りに震えるリンジーはライヴハウス店内に戻り、トニーへの当て付けとしてハワード・デヴォートを誘います。

一方、コトが済んだトニーは店内に戻って妻を探しますが、今度はリンジーが見つかりません。トニーがトイレへ行くと奥の個室で怪しい物音がします。近づいてみると、ドアを開け放したままリンジーとハワードがフン、フン、フン、アン、アン、アンと行為の真っ最中でした。それでもトニーは冷静を装ったままリンジーに「失礼、車のキーは?」と尋ねます。リンジーもまた体勢はそのままで「バッグの中」と答えます。バッグから鍵を取り出したトニーは「ぼくは口だけだったけど、君はフルじゃないか」と捨てゼリフを残してその場を立ち去ります。それと同時にフン、フン、フン、アン、アン、アンの声が再開します。

さて問題のシーンはここからです。まずは日本語字幕版の通りに紹介します。

トニーが立ち去るトイレにゴム手袋をして洗面台を清掃している男がいます。黒ぶちメガネにスキンヘッドの男です。彼はおもむろに顔を上げてこう言います。

忘れたい出来事だった

その瞬間映像は停止してトニーのナレーションが入ります。

これはハワードの実話だ。僕らは水に流すことで同意したらしい。僕は賛成する。ジョン・フォード監督の「真実と伝説なら伝説を選べ」に

何となくわかったような、わかんないような、ちょっと変なセリフだと思いませんか?実はここの訳が変なんですよ。

この映画、登場するのはみな実在、あるいはかつて実在していた人ばかりなんですが、トニー・ウィルソンを始めすべての人物(ただしマーク・E・スミスを除く)を俳優が演じています。ですが、何人か本人がエキストラで出演していて、トイレ掃除をしていたのがハワード・ディヴォート本人なんです。

もう一度問題のシーンに戻りましょう。今度は英語原文と一緒に私の訳でいきます。ハワード・ディヴォート役の俳優がリンジー役と奥の個室でフン、フン、フン、アン、アン、アンとやっています。そこでトイレ掃除夫役のハワード・ディヴォート本人が顔を上げてこう言います。

これはまったく身に覚えのないことなんだ

I definitely don't remember this happening

この瞬間映像が停止してトニーのナレーションが入ります。

こちらがホンモノのハワード・ディヴォートだ。彼とリンジーは、これは事実じゃないと言い張っている。だが僕はジョン・フォード監督の言葉を支持する。「真実と伝説なら伝説を選べ」だ。

This is the real Howard Devoto. He and Lindsay insist we make clear that this never happened. But I agree with John Ford. When you have to choose between the truth and the legend, print the legend.

これならちゃんと意味が通りますよね。この映画がどんな映画であるかを登場人物自身が宣言しているシーンです。虚実ない交ぜの映画だよってバラしちゃってる重要なシーンです。

人間ねえ、これは真実だ、これが事実だって強く主張すると却って疑いの目で見る一方で、こんなの伝説だよ、虚構だよって言うとなぜかそこに真実を見い出そうとする変な癖があるんです。

前述の字幕はどうしてこんな間違いしちゃったかなあ。たぶんトイレの掃除夫がハワード・ディヴォートだと分からなくて「なんでこんなところで掃除夫がセリフを言うんだろう」って疑問を感じながら雰囲気で適当に訳しちゃったんだろうな。

あ、ハワード・ディヴォートって誰だか知らない?マガジンのヴォーカリストのハワード・ディヴォートです。次の映像は1977年、ちょうど映画のシーンと同じ頃にマガジンがトニー・ウィルソンの番組「So It Goes」に出演したときのものです。冒頭ちらっと映っているのがホンモノのトニー・ウィルソンです。

(2014/01/21 追記)

「"print the legend" が何で "伝説を選べ" になるの?」という質問をいだだきましたので捕捉します。

そうだよねぇ、今どきみんなジョン・フォードとかジョン・ウェインなんて知らないもんねぇ。これはですね、ジョン・フォード監督の映画「リバティ・バランスを射った男 (The Man Who Shot Liberty Valance)」に出てくる新聞記者の有名なセリフなんです。トニー・ウィルソンのセリフとはちょっと違います。

ここは西部です。事実が明らかになっても伝説のほうを記事にするんです

This is the West, sir. When the legend becomes fact, print the legend

新聞記事にして発行するから print なんです。あまり色々書くとこっちの映画のネタバレになってしまうので、興味ある人はジョン・フォードの映画をご覽ください。

2013/12/06

マニホールド氏の決断 (The Book - Magazine)

Where now? Staffordshire (Manifold Trail)
Where now? Staffordshire (Manifold Trail), a photo by Eamon Curry on Flickr.

男は地獄の扉の前に立っていた。彼をマニホールド氏と呼ぶことにしよう。マニホールド氏は地獄の扉の前に立っていた。それはなぜか、巧妙に頑固さを通した彼の一生の終着点にふさわしく思えた。彼は常々言っていた。「夢から覚めることなんて望まない。」「自分の頬をつねって目覚めるなんて、現実に戻る気なんてない。」実際、そんな考えが浮かぶたびによく笑っていたのだ。顔にこそ出さなかったが、自分が地獄の扉の前にいることを知って彼は驚いていた。

親切そうな老人がひとりいた(ひょっとしたら彼の父親に似ていたかもしれない)。どうやら門番らしい。老人は座って本を読んでいたのだが、素早く立ち上がると、形式張った挨拶などする間もなくこう言った。「少しの間この本を持っていてくださらんか。わしは扉を開けねばならんのでの。」(そう、ご存じの通り扉を開けるには二つの手が必要だ)その老人は何か訳があって、本を椅子に置かなかったのだ。

あっという間のできごとだった。だがマニホールド氏は自分がある決断を下してしまったことに気付いた。老人から本を受け取ってしまったのだ。ほとんど他人ごとのように。いささか奇妙にも思えた。些細なことだと思おうとしたが、それが自分の地獄行きを後押ししてしまったように感じた。彼にとって最も安易な道を選んでしまったように思えた。結局は本をしっかりつかんだままだったが、当然彼は突然ひらめいた。「きっとこれは猶予をもらうチャンスなんだ。最終テストなんだ。良い行いをすべて悪いものにしてしまう最後のどんでん返しなんだ。」

次に彼が気付いたのは、以前老人とその本について議論を交わし、本を老人に返したことがある、ということだった。彼は地獄へ通されたのだ。

2013/11/23

俺は分泌物なんかじゃない (セックス・ピストルズ - Bodies)

A photo by sparkleplen_t on Flickr.

ちょっと遅くなってしまいましたけど、ジョン・ライドンの BMI Icon 受賞を祝して、セックス・ピストルズ時代の曲についてひとつ書きます。

セックス・ピストルズ(Sex Pistols)のコンサートで一番の大合唱になる曲はどれでしょう?God Save The Queen?Anarchy in the UK?それともPrettyVacant?うん、どれも一緒に歌う人はたくさんいるけどね、違います。曲が始まるやいなや会場を揺るがす怒涛のような大合唱が起きる曲は Bodies です。

どれほどの大合唱なのかというと、観客が歌ってるバージョンがピストルズの公式ライヴ・レコーディングになるほどです。日本ではライヴ・アルバム「FilthyLucre Live」に Buddies(相棒ども)というタイトルで収録されており、イギリスの場合はシングルのB面としてリリースされています。

Bodies は生きてる人間の体じゃなくて死体という意味です。何の死体かというと胎児の死体です。そして曲のテーマとして取り上げられているのは中絶、堕胎、abortionです。この曲を書いた当時のジョニー・ロットン(Johnny Rotten)はまだハタチかそこらでした。

ハタチかそこらの若いあんちゃんが堕胎をテーマに歌をつくった?しかもそれが何十年も歌い継がれるようなアンセムになった?そんなどう考えてもあり得ないようなことを現実のものにしたのがセックス・ピストルズであり、ジョニー・ロットンという人です。

一方この曲の歌詞をただ単に人口中絶をした尻軽女を蔑(さげす)んでいるだけのものと受け取っている人も多いようですがそうではありません。ジョニー自身はこの曲について次のように言ってます。

俺はまだ幼いうちから現実というものを受け入れるしかない環境にいたんだ。俺が住んでいたのは便所が外にある二部屋しかない家だった。その家で母親が流産したんだ。もちろん母親を責めるつもりはないが、生まれていれば俺の弟か妹になって一緒に遊んだかもしれないものを、俺は片付けてトイレに流さなくちゃならなかったんだ。それがどんなにショックなことかわかるだろ。

俺は中絶反対派でも賛成派でもない。だが女性は自分で生むか生まないかを選択できるようにすべきだ。でも当時の生活はテレビドラマの"Steptoe & Son"をさらに醜悪にしたような世界だった。それでもあんたがあの曲を中絶反対の歌だと思うんなら、あんたは哀れなオマン...じゃなくてソーセージ野郎だ。

The Q Interview - I want to take the Sex Pistols to Iraq!

観客のひとりひとりが歌詞の内容を深く考え、感銘を受けて歌っているなんてことはあり得ません。そのサウンドと声と、言葉の断片からある種の悲しさとか怒りが自分の中にも湧き起こってきて、歌わずにいられないんです。

中絶したことがある人も、したことない人も、絶対しない人も、これからするかも知れない人も、恋人に中絶を求めたことがある人も、妻が黙って中絶したのに全然気付かなかった人も、よくわからない人もみんな一緒になって腹の底から歌います。Bodies です。聴いてください。

バーミンガム生まれの彼女は
赤ん坊を堕ろしたばかりで
精神病だった
彼女の名前はポーリン
森林破壊阻止を訴えて木の上に住んでいた

自分の赤ん坊を殺したどこにでもいる女
彼女は田舎から何通も手紙を送りつけてきた
だけどあいつは動物だった
最低の恥さらしだった

死体 - 俺は動物じゃないのに
死体 - 俺はケダモノなんかじゃないのに

工場の作業台の上で掻き出される
違法な堕胎が行われる場所
便所に置き去りにされた小さな包みの中で
小さな赤ん坊が叫びを上げながら死んでいく

死体が叫ぶ - こんなひどい扱いってあるかよ
俺はケダモノじゃないのに
これが中絶というやつなんだ

死体 - 俺はケダモノじゃないのに
ママ - 俺は出来損ないなんかじゃないのに

ピクピクと体を痙攣させ
喉をゴボゴボ鳴らして呪いの言葉を吐く
俺は分泌物なんかじゃない
排泄された蛋白質じゃない
ピクピクの痙攣なんかじゃない

あれもこれも糞くらえ
糞くらえなガキは糞を食え
彼女はあんな子ども欲しくないんだ
俺はあんな子ども欲しくないんだ

死体 - 俺はケダモノじゃない
死体 - ワタシは出来損ないなんかじゃない
死体 - ボクはケダモノじゃない
死体 - 俺は出来損ないじゃないのに

ママ...

2013/10/17

ジョン・ライドンが BMI London Award 2013 の BMI Icon 受賞

「俺はアイコンなんかじゃない、ジョニーキャン、アイキャンだ」

10月15日、ロンドンで2013年 BMI London Awards の授賞式が開催され、我らがジョン・ライドンが BMI Icon 賞を受賞しました。

「BMI、何それ?デブの人のベストドレッサー賞?」と思う人がいても無理はないんですが、違うの。BMI ってのは Broadcast Music, Inc. の略で、音楽が放送やコンサートでの使われたときの著作権使用料を徴収するアメリカ本拠の非営利団体です。日本でいえば JASRAC みたいなもんです。

で、BMI Icon 賞ってのは「ある世代の他の音楽家たちに多大な影響を与えた類い稀(たぐいまれ)なソングライターに与えられる」もので、これまでにレイ・デイヴィスやヴァン・モリソン、ブライアン・フェリーなど錚々(そうそう)たる面々が受賞しています。ジョン・ライドンはそのような「ソングライター」のひとりとして選ばれたわけです。

以前 Rock and Roll Hall of Fame にセックス・ピストルズが選ばれたときは「俺たちがロックの殿堂入りを喜んで、2万5千ドルも払ってディナー・パーティに出席すると思ってんのか、バーカ」と言って授賞式に出なかったんですが、今回はたいへん喜んでいて UK ツアーの最中にも関わらず PiL のメンバーや妻のノラと一緒に出席しました。

審査員たちはほかの無難なやつを選んどけばいいものを、あえて俺の業績に注目してくれたんだぜ。俺からすれば、それがすごく大切なことなんだ。

俺は賞なら何でももらうってタイプの人間じゃない。この賞をもらうことにしたのは、それが俺にとってものすごく意味のあるものだったからさ。

あいつら(BMI)は俺たちに金が入るように日夜戦ってくれてるんだぜ。胸がアツくなるよ。

John Lydon honoured at BMI Awards

著作権といえば、普通バンドとして活動している場合でも著作権者としてクレジットするのは直接作詞や作曲に関わったメンバーの名前だけです。これがメンバー間の収入の差となって、後々関係がギクシャクするというのはよくあることです。

セックス・ピストルズやジョン・ライドンがそれまでの常識を破って始めたことは山ほどあるんですが「レコーディングに関わったメンバー全員の名前をソングライターとしてクレジットする」というのもそのひとつです。ピストルズがレコードを出した当時そんな例はほとんどなかったもんだから、みんなレコードを見て「あれ?曲のクレジットにメンバー全員の名前が書かれてる!」って驚いたものです。

後続のパンク・バンドもこぞってこれを真似したんですが、その意味を理解したのはずっと後になってからのはずです。今ではジャンルを問わず、色んなバンドが曲のクレジットにメンバー全員の名前を載せるようになりました。こんなところでも、後のバンドに大きな影響を与えてるんですよ、ジョン・ライドンという人は。

BMI のサイトでは著作権者のクレジットが検索できるようになっていて、たとえばシド・ヴィシャスがベースを弾いている「Bodies」という曲にはちゃんと本名の John Simon Beverleyでソングライターとしてクレジットされていることが分かります。今でもこの曲がラジオなどで流れる度に彼(の遺族)にお金が入るわけです。

ところで BMI 授賞式のニュース、NME を始めイギリスの商業音楽サイトにはなぜかほとんど取り上げられていません。同じイギリスでも先のインタビューを掲載した Evening Telegraph など一般のニュースサイトでは報じられているのに、商業音楽ニュースサイトはほぼ無視です。

理由はよくわかりませんが、どうやら BMI がアメリカ本拠の団体なのでイギリス音楽ギョーカイ的には取り上げたくないみたいですね。アメリカの著作権管理団体なのにロンドンにも拠点を置いて BMI London Award みたいに派手なイベントをやってるわけです。音楽著作権流通のグローバル化を見据えてイギリスでもアピールしたい BMI、「ここは俺の縄張りだぞ、入ってくんな!」というイギリス側、という構図なんじゃないかな。知りませんけど。

一方のアメリカ側は Rolling Stone が BMI Icon 賞、授賞式直前インタビューを掲載しています。