2010/11/29

ジョン・ライドンの「ミスター・ロットンズ・スクラップブック」前書き

https://www.concertlive.co.uk/mrrottensscrapbook/

洋楽に関しては国内音楽サイトの情報はあまりチェックしていないので今頃気付いたんですが、ジョン・ライドン(John Lydon)の750部限定写真集についてRO69に記事が掲載されていました。NME の翻訳記事で「ミスター・ロットンズ・スクラップブック」の前書き部分も訳されているのだけど、ニュアンス無視の事務的な翻訳。あと、写真も最近のじゃなく、32年前のジャケット流用。ひどい手抜き。

そこでオラがジョン・ライドンの気持ちを汲み、前書き部分を訳し直しました。原文は ConcertLive のページ、右脇に写真として掲載されています

これは俺の本だ。
スクラップブックだ。
写真や絵や文章やX線写真が収録されている。
たくさんの人々に関する文章や写真が詰まっている。
俺の人生に影響を及ぼした人々だが、全部ってわけじゃない。
多過ぎて収録し切れないからな。

俺が人生でこれまでに出会ったすべての人に感謝する。
出会っただけで、思い出せない人たちにも。

いやむしろ
このスクラップブックの刊行にあたって
誰でもいいからみんなに感謝したい。

追伸
マハトマ・ガンジー様。
俺はあんたと出会ったことがないが
だからといって気を悪くしないでくれ。
愛を込めて ジョン

2010/11/23

「アリス・クーパー」 by ジョン・ライドン

本日、勤労感謝の日を記念して、ジョン・ライドン氏の「アリス・クーパー」("Alice Cooper" by John Lydon)全文を訳出し、ここに公開させていただきます。

http://www.johnlydon.com/jlbooks.html#coops

原文は 1999年に発売されたアリス・クーパー(Alice Cooper)の CD ボックスセット「The Life & Crimes of Alice Cooper」に同梱のブックレット用に書き下ろされたものですが、アリス・クーパーの魅力だけでなく、ジョニーおじさんの音楽や人生に対する考え方が真摯に述べられたきわめて重要な資料となっています。

せっかくの休日にオラが丸一日かけて訳したものなので、「勤労に感謝しようにも仕事がねえんだよ!」という方も「そういえば、セックス・ピストルズが登場した1976年のイギリスも、ちょうど今の日本のように仕事のない若者が街に溢れていたんだよなあ」などと思いを馳せながらお楽しみください。さもなきゃくたばっちまえ。


アリス・クーパーの曲の歌詞なら全部知っている。

実際、この俺にいわゆる「音楽キャリア」と呼べるようなものがあるとすれば、それはジュークボックスから流れる I'm Eighteen を口パクで演じたことから始まった。およそ音楽とはほど遠い行為がパンクの誕生ってわけだ。最初、マルコム・マクラーレンがバンドに入らないかと声をかけてきたときは、冗談を言っているとしか思えなかった。パブに呼び出されて他のメンバーたちに会った。閉店後の店で、奴らは俺に歌真似でも何でもいいから歌ってみろと言ってきた。真似くらいならできるが、まともに歌えるわけがない。ジュークボックスにある曲の中で唯一何とかできそうだったのが I'm Eighteen だった。曲に合わせてベリーダンサーみたいにクネクネもだえまくるのを見て、マルコムは「よし、こいつしかいない!」と思ったらしい。こうして俺は職にありつき、華麗なるキャリアを歩み出したというわけだ。

俺はセックス・ピストルズを「音楽芸人」とか「悪意に満ちた茶番劇」と呼んでいる。こと俺に関して言えば、明らかにアリス・クーパーの影響を受けていて、もちろんそのことをものすごく誇りに思う。アリスの影響がなければ、若くしてあんな特別なチャンスをモノにすることはできなかった。彼は昔の俺に進むべき方向を示してくれる道しるべだった。

Killer は間違いなくロック史上最高のアルバムだ。もちろんその前には超名作アルバム Love It To Death もある。この2枚は当時の俺みたいな悩める子羊にはヘビー過ぎる代物だった。俺はロック・ミュージックを作ろうと思ったことは一度だってない。なぜなら最高のロックはアリスの手によって作られ、レコードとして既に存在しているんだから。ピストルズでまったく違うアプローチを取ったのはそのためだ。自分がすばらしいと思ったからこそ、そのイミテーションを自分で作りたくはなかった。すばらしい人に影響を受けたのなら、絶対にその模倣をすべきじゃない。

たとえば Luney Tune は俺が長年愛聴している大好きな曲だ。地獄のようにぞっとする気味の悪い曲だ。だが今どきのゴス・ロックの連中はカスだ。アリスがやっていたことに比べたら単なるまがい物。未熟でバランス感覚の欠如した三流コピーだ。

ひとつの真にオリジナルな作品に対して、その安っぽいコピー品が10は出てくる。なさけないのは、人々が注意を払うのはいつもコピー品の方だってことだ。連中は何か新しいものが生み出される過程を、自分で見きわめようという気がないらしい。最悪だ。歴史的な観点を放棄してしまうと、すべてのものに意味がなくなってしまう。俺はあらゆる種類、あらゆるジャンルの音楽に興味を持ち、その中にオリジナルなものを探す。オリジナリティこそ最も重要だ。そしてアリス・クーパーほどオリジナルなものは空前絶後、ほかにない。

数年前、俺はアリス・クーパーのファンクラブに加入した。すると箱いっぱいのニワトリの羽が送られてきた。すばらしい!「おい、これ、アリスが殺したニワトリの羽じゃん」これ以上悪趣味で愉快なものがほかにあるか?

アリスがいれば、ドラキュラなんて用無しだ。ドラキュラはくそ真面目すぎる。一方アリスの I Love the Dead は最高のユーモアに溢れた曲だ。昔、シドのアコースティック・ギター、俺のバイオリンのコンビで地下鉄駅へ行ってよく演奏した。I Love the Dead をくり返し、くり返し、何時間も何時間も歌い続けるんだ。もちろんシドはギターを弾けないし、俺もバイオリンなんか弾けるわけない。でも最高に楽しかったよ。どうかお願いだから歌を止めてくれって、みんな金を出すんだ。

こうしたアリスの曲はどれも時代を越えた存在だ。聴く者を開放する。時代のファッションとは無縁。すべてを超越している。しかもその曲は常にシンプルで、短くて、辛辣で、快楽に満ちていて、もったいぶった言いまわしは一切ない。核心をストレートに突いている。アリス自身そのことを理解していて、常にそれをやってのける。いつも新しくて下品な切り口がある。どの作品も下品さの新境地を切り開いている。あんたも、もうちょっとパンツのゴムを緩めたほうがいい。

野郎ばかりのバンドの名前をアリス・クーパーにするというのは、お堅い人々に嫌悪感を抱かせるなかなか魅力的なアイデアだ。彼はそうやって世界を修復不能な混沌の渦に突き落とした。むさ苦しい男たちが皮のコルセットと奇抜な化粧を身に纏い、ティーンエイジャーの悩みを歌う。これほど感動的なものがほかにあるか?イメージに左右されるのではなく、イメージを逆手にとって遊ぶ。それこそユーモアというものだ。

アリスは素晴しい見世物ショーの座長でもある。完璧なアンチヒーローだ。卓越した舞台センスで演じ、人々を虜にする。誰ひとりがっかりさせたりしない。ドレスを着た服装倒錯のマッチョのイメージは、人の興味を引き、一石二鳥の役割を果たす。

アリスには主張があり、オリジナリティと傲慢さ、大胆さがある。そして恐れずに行動する勇敢さを備えている。20年経って、すっかり人畜無害になったゴス-服装倒錯ファッションで着飾るのとはまるで意味が違う。小手先でアリスの真似するのは簡単だが、明らかに間違いだ。そこには何ひとつ危険なものはない。真似っ子連中のやることといえば、おもしろくもない麻薬がらみの長口舌ををたれるだけだ。アリス・クーパーの曲には、麻薬に頼るようなメンタリティを後押しするものは一曲たりともない。

アリス・クーパーは自己憐憫とは無縁だ。これっぽちも関係ない。天罰が下るときはそれを受け入れる。アリス・クーパーほどパワフルに、ありありとしたイメージでキャラクターを演じられるものはいない。すべてが完璧で、すべてのキャラクターが弱さを持っている。にもかかわらず、自己憐憫はない。「俺は間違いを犯した。そして今、その報いを受ける」

アリス・クーパーには「老い」を思わせる要素もない。生きる喜びだけがある。過ち、欠点など、人生のすべての醜い面はユーモアをもって描き出される。

アリス・クーパーは縄につながれた狂犬をイメージさせる。ワイルドな狂気が、擦り切れてボロボロな縄によってかろうじて繋ぎ止められている様だ。アリスにふわさしいイメージだと思う。制約は逆にパワーをもたらす。社会は個性を持った人間に対し、馬鹿げたルールを押し付け、一方で彼らはその暗黒面を照らし出す。奇妙な話だが、我々には束縛が必要なんだ。四方を強固な壁に囲まれてこそ、カオスはその力を発揮する。

アリスの功績は表面的なレベルでだけ語られるべきものではない。多くの人がその間違いを犯している。もっと深いところに数多くのものがある。アリスの曲のいくつかは大ヒットしたが、多くの人は曲に身を委ねようとしない。だからアリスを見誤る。

アリス・クーパーをロックンロールのどこに位置付けるかって?はるか空の彼方に決まってるだろ。俺はどれだけアリスを尊敬しているか、それを秘密にしようとしたことはない。俺がアリス・クーパーのファンであることを、らしくないと思う奴もいるらしい。ああ、そうかい。

セックス・ピストルズはリアルで、アリス・クーパーはそうじゃないだって?冗談じゃない。俺は今もアリス・クーパーを聴き続けている。アリス・クーパーみたいな奴こそが、世界をマシな場所にしてくれるんだ。

アリス・クーパー... すごい奴だよ。

2010/11/20

Supreme VOL.6 ジョン・ライドン特集

PiL 再始動後もレコード会社のサポートなしにツアーや営業活動をやっているため、日本の音楽雑誌や音楽サイトにジョニーおじさんが登場することは殆どありませんが、突然 Supreme というファッションブランドのムック本の表紙と巻頭インタビューで登場しました。表紙はセックス・ピストルズ時代とか昔のじゃなく現在のジョン・ライドンの写真です。エラいぞ、Supreme。

記事作成はすべてニューヨークの Supreme でおこなわれているようで、インタビューも翻訳です。おもしろかったのは、日本についてちょっと触れていて、こんなこと言ってます。

日本人がオレのことを好きなのには、幾つか理由があると思うよ。オレは日本で、自分の中でもとびきりイカれた曲をプレイしてきた───たとえば『Flowers of Romance』のアルバムに入ってる『Four Enclosed Walls』みたいな曲が、日本では大ヒットした。この惑星上の他のどこでも受け入れられなかったのに。

そう言われてみると、日本ではかなり早い時期に PiL の評価が確立されていたかも。「PiL なんかやめて、セックス・ピストルズ再結成しろー」みたいな声はそんなになかったし。

このインタビューで使った写真をプリントした完全予約限定版ジョニーおじさんTシャツも Supureme から販売されています。あとこの本、翻訳だけでなく英語原文も巻末に掲載しています。エラいねー。

Google と「ジム・モリソンのお告げ」

Google のエリック・シュミットがアリス・クーパーをチューリッヒのオフィスに招き、社をあげての歓迎コスプレ・パーティーを開催したとのニュース。

エリック・シュミットはアリスの熱烈なファンらしい。見直したぞ、エリック。

つまり昔のエリックはこんなルックスのコンピュータ・オタクで、しかもアリス・ファンだったということになる。リアル「ウェインズ・ワールド(Wayne's World)」じゃん。

さては Google に関わるようになったのも「ジム・モリソンのお告げ」だな。

2010/11/18

三人娘のルンバ (スリー・ガール・ルンバ - ワイアー)

Colin Newman by furnstein
Colin Newman, a photo by furnstein on Flickr.

気がつくとハッチの中だった。オラは後ろ手に縛られて、椅子に座らされていた。少し離れたコンソールの前にベン・ライナス(Benjamin Linus)役のコリン・ニューマン(Colin Newman)が立っていて、その横には胸にゼッケンを付けた三人の娘さんたちがこちらを向いて並んでいた。

「気が付いたな」

ベンがオラに言った。

「早速だが、番号を選びたまえ。目は閉じて。」

アナ・ルシアとどちらにしようか一瞬迷って、菊地凛子さんの番号43番を言おうとしたとき、ベンがオラの言葉を遮った。

「考えるだけでいい。」

ベンは何か急いでいる様子だった。

「その数字を2で割る。」

小数点以下まで計算するのかどうかベンに尋ねようとしたとき、また言葉を遮られた。

「存在しないものは存在しない。」

ベンはオラに近づき、何か小さな箱のようなものをオラの膝の上に置いて言った。

「箱を開けて。」

そう言われても手を縛られている。仕方ないので箱を落とさないよう膝の間に挟み、体を折り曲げて口で開けた。思ったより簡単だった。箱は軽い。中に何が入っているのかは分からない。

またベンが言った。

「数字は?」

小数点以下の処理を迷っていたら、ベンが見透したように言った。

「答は考えなくていい。」

考えなくていいって、数字?それとも箱の中身?そのときハッチで警報が鳴り出した。

「目を開けたまえ。」

ベンに言われて目を開けた。ハッチの中は赤い警報ランプが点滅していて、ベンしかいなかった。アナ・ルシアと菊地凛子さんはどこへ行ったのだろう?あともう一人は誰だっけ?

警報の音が大きくなってきた。ベンはかなりあせっている様子だ。

「数字を考えて!」

ハッチ全体が揺れ始めた。やばい。ええい、もう小数点以下は切り捨てだと決心した瞬間、ベンが怒鳴った。

「ごまかすな!!」

突然天井からシャッターが降りてきた。閉じ込められた。番号、番号は何番だっけ?三人目は?誰だっけ?あのムームー着てたの、誰だっけ?揺れがどんどんひどくなる。本棚が倒れた。椅子からずり落ちる。引っくり返ったオラに何かが覆いかぶさってきた。

す、杉田かおる?

解説

という人間の極限的状況を描いたのがアルバム Pink Flag 収録のワイアーの名曲「三人娘のルンバ(Three Girl Rhumba)」(1977)です。シングル曲でもなく、かつてはワイアーの他の曲同様知る人ぞ知る曲だったのですが、この曲のリフをパクったエラスティカのコネクション(1994) がヒット、そのパクりをエラスティカ側があっさりと認めて著作権料が支払われたことで話題になりました。でも相変わらず有名なのはコネクションの方で、Three Girl Rhumba を「コネクションのカバー?」と思っている人が今でもたくさんいるようです。一応、オリジナルの Three Girl Rhumba にも注目が集まりテレビ CM に使われたりして、ワイアー史上「最も稼いだ曲」となっています。

一方、持ち慣れない大金が入ってきたことでワイアーのメンバー間に取り分をめぐり争いが起きるようになり、2004年にブルース・ギルバートが脱退するきっかけにもなってしまいました。

みなさんも、歳をとってからお金でもめないよう、日頃から取り分とか契約とか遺言はきちんとしておきましょう。

MP3ファイルのダウンロード
Three Girl Rhumba (from pinkflag.com)
おまけ
"Maybe I just had LOST's season finale on my mind, but Wire frontman Colin Newman looks more than a little like that show's Benjamin Linus these days."
追記
「ワイアーが取り分をめぐってモメたという話のソースはいったいどこだ?」という問い合わせをいただきました。このへんの経緯と当事者発言は「33 1/3 Wire's Pink Flag」に書かれています。

2010/11/16

UK 音楽サイト I Like Music でジョン・ライドン特集

PiL @ Benicàssim by fiberfib
PiL @ Benicàssim, a photo by fiberfib on Flickr.

イギリスの音楽サイト I Like Music でジョン・ライドン(John Lydon)特集が組まれています。なんだよ、今頃おせーよ、なんでツアーのときにやらないんだよとか思いますが、インタビューの内容を読むと、どうもこのサイト、あまり昔のことを知らない若いスタッフで運営されているようで、今になってジョニーおじさんの素晴しさに気付き、急遽特集を組んだようにも見えます。だったら許してあげます。

ジョニーおじさんは最近、ご幼少時の写真から健康診断のX線写真まで、あんなのやこんなのまで、おじさんの軌跡すべて無修正で収録した750部限定の写真集 Mr.Rotten's scrapbook を発表しました。

昨年末、PiL の ライブ CD ALiFE 2009 を手がけた ConcertLive からの発売です。お値段は449ポンド(約6万円)。事前予約すると安くなるけど、それでも379ポンド(約5万円)。事前予約で全部ハケたら約3,800万円の売上げ、結構な金額になるなあ。もう今さら普通のレコード会社と契約したってろくなことないんだから、今後も Concert Live と組んで色々新しいことやっていくのが良いんでは?

期待の PiL の新作は「今年の年末には出す」と言っていたんですが、ジョンの父親の死をはじめ、マルコム・マクラーレン、義理の娘アリ・アップと身近な人の不幸が重なりかなりまいっていて、アルバム製作は中止しているそうです。

特集記事今週の1曲は 「フォー・エンクローズド・ウォールズ(Four Enclosed Walls)」です。8月末のイスラエル、テルアビブでのコンサートでも、やはりちゃんと歌ったそうです。

政府なんて関係ない。扇動や分断工作に屈したら、俺たちが批判している当の政府と同じ穴のムジナになってしまう。イスラエル政府は俺のイスラエル入りをあまり歓迎していなかったがイスラエルの人々は違った。もちろん、聴衆の中にはイスラム教徒もいた。(ユダヤとイスラム)2つの人々をひとつところに集めるなんてすてきだろ。俺はイスラエルの聴衆に昔の PiL の曲、Four Enclosed Walls を一緒に歌わせたんだ。「アッラー」というリフレインのある曲だよ。「アァァァァァァッラァァァアァァ」ってな。そうさ、俺たちみんなでアッラーを讃えたんだ。イスラエルでさ。ユダヤジョークにしちゃ上出来だろ?ハハ。