2011/04/27

ケイト・ブッシュとフリーソフトウェア革命 (Deeper Understanding - ケイト・ブッシュ)

今から20年前の秋、C Magazine という雑誌の付録として、あのプログラムがオラの手元に届いた。5インチのフロッピーディスクに収められたそのプログラムは djgcc という名の C コンパイラだった。人類に深遠なる叡智をもたらすソースコード付きのソフトウェアだった。

オラは「グニュー、グニュー、グニュー」と3回唱えてパソコンにフロッピーをセットした。だけどコンパイラは動かなかった。当時最先端の32ビット CPU 80386が必要だったのだ。オラのパソコンは16ビットのやつだった。


前作「Aerial」から5年、ケイト・ブッシュ(Kate Bush)の新作「ディレクターズ・カット(Director's Cut)」はその名の通り既発表曲の新編集バージョンを収録したアルバムです。「The Sensual World(1989)」と「The Red Shoes(1993)」から選ばれた11曲で構成され、3曲は完全な新録音、そのほかの曲もヴォーカルとドラムがすべて録り直されています。リリースは5月中旬の予定です。

このアルバムからシングルとして「Deeper Understanding」が先行発売されています。パーソナルコンピュータをテーマに歌ったこの曲が最初にリリースされたのは1989年。一般にはまださほどコンピュータが普及していなかった時期です。もちろんインターネットなどはなく、普通の電話回線を使ったパソコン通信がごく一部の人の趣味として行われていた時代に作られた曲です。

今ではパソコンだけなくスマートフォンやタブレットなどを使ったネットアクセスがごく普通の人たちにも普及し、このケイトの新作の情報を得たり、ビデオを見たりしています。そのネットは djgcc で育ったプログラマや数多くのフリーソフトウェアによって支えられています。1989年にティーンエイジャーとしてこの曲を聴いていた少年、少女たちは、30代あるいは40代のおじさん、おばさんになっています。

さて、2011年の現在、この曲はどんな意味を持つのでしょう。

人がみんなよそよそしくなり
毎日夕暮れになるとぼくは
コンピュータの電源を入れ、一緒に過ごすようになった

ぼくは、雑誌を通じて手に入れた新しいプログラムを起動した

画面にメッセージが表示される
「寂しいの?それとも道に迷った?まず音声入出力装置を用意して」
ぼくは実行キーを押した

すると声が聞こえた
「こんにちは、ようこそ。あなた何もかもすべてにうんざりしてるのね。じゃあ私があなたに本当の愛と深い叡智を与えてあげましょう。」

2011/04/13

俺の最高傑作はまだ存在しない - ジョン・ライドン

Public Image LTD-4 by benzpics63
Public Image LTD-4, a photo by benzpics63 on Flickr.

昨年10月に義理の娘アリ・アップ(Ari Up)が病死して以来、「(妻の)ノーラのそばにいてやらなくちゃならない」と音楽活動を休止していたジョン・ライドン(John Lydon)ですが、5月からの PiL ツアー再開をひかえてエンジンがかかり始めたようです。ニューアルバムについてのインタビューが Yahoo! UK に掲載されています

俺の最高傑作はもうすぐ出る次のアルバムだ。間違いない。作り上げたことに満足し誇りを感じる作品になる。

だが最新作に大興奮したとしても、やがてまた、別のやり方、アイデアやアプローチを使って新たな曲を書き始めることになる。自分の過去を振り返って満足しているようなアーティストにろくな奴はいない。

人間ってのは、自分がそれまでできなかったことを達成したときにはじめて大きな喜びを感じるもんなんだ。

俺も21歳のときは、自分がもし50歳になんてなったら恥ずかしさのあまり死んでしまうだろうと思っていたよ。ワカモノの特権さ。無知という名のね。せいぜい楽しむことだ、ワカモノ。

だが自分が正しいことやっていて、それを成し遂げようと思い続けてるなら、たとえいくつになろうとも毎朝目覚める価値があるってもんさ。

2011/04/10

それまでとはまったく違う世界 (ファイヴ・イヤーズ - デイヴィッド・ボウイ)

David Bowie - The Rise And Fall Of Ziggy Stardust And The Spiders From Mars (1972) by luna715
David Bowie - The Rise And Fall Of Ziggy Stardust And The Spiders From Mars (1972), a photo by luna715 on Flickr.

「ジギー・スターダスト・アンド・ザ・スパイダース・フロム・マーズの栄華と没落 (The Rise and Fall of Ziggy Stardust and the Spiders from Mars)」というデイヴィッド・ボウイ(David Bowie)のアルバムがあります。1972年、今から40年近く前に発表された作品です。

アルバムはひとつのストーリーに沿って展開するいわゆるコンセプト・アルバムになっていて、人類の滅亡まであと5年という世界が描かれています。デイヴィッド・ボウイはその世界に突如彗星のように現れたロックスター、ジギー・スターダストを演じています。

今回紹介する「ファイヴ・イヤーズ(Five Years)」はこのアルバム冒頭を飾る曲です。あと5年しかないとニュースで報じられた直後の町の様子と、それを目にした青年(後のジギー・スターダスト)の心象風景が歌われています。

自分たちにはあと5年しか残されていない、それを知ったとき人はどうなるのか?世界はどうなるのか?日本に住む人の多くは今、これをかなり明確にイメージできる状態にあるのではないでしょうか?

絶望し途方に暮れる人がいます。お祈りをする人がいます。何を根拠に滅亡すると言うんだ、ちゃんとしたデータを示せ!と主張する人もいます。何とか対策を講じて滅亡を防ごうとがんばる人もいます。今がチャンスと株を買ったり売ったりに忙しい人もいます。今現在苦しみの真っただ中にいる人や5年を待たずに死んでしまう人もいます。

もしあと5年しか残っていないとしても、多くの人はその5年を生き続けるわけです。仕事をしたり、ごはんを食べたり、子供の面倒を見たりしなくちゃなりません。淡々と生活していくしかない。だけどそれまでとはまったく違う、そんな世界です。

広場を通り抜けると、たくさんの母親たちが泣いていた
ぼくらにはあと5年しか残されていない、そのニュースが報じられたところだった
ニュースキャスターの男は泣きながら、世界は間もなく滅びるのだと言った
その涙に濡れた顔を見て、嘘じゃないとわかった

電話やオペラハウスの音、大好きな曲のメロディーが聴こえた
少年たちや玩具や電気アイロンやテレビが見えた
身の回りのものをすべて覚えておかなくちゃならない気がして
ぜんぶ頭に押し込もうとして、ぼくの頭は破裂しそうになった
太った人、痩せた人、背の高い人、低い人
それからありとあらゆる無名な人、有名な人
ぼくは今まで、これほどたくさんの人を愛おしく感じたことはない

ぼくと同じくらいの年頃の少女が正気を失って、小さな子供たちを殴っていた
もし近くにいた黒人が止めなかったら、殺していたかもしれない
片腕の兵士が車のホイールをじっと見つめていた
ひとりの警官が跪き、牧師の足にキスをした
その光景を見た同性愛者が嘔吐した

ぼくがきみを見たのは、アイスクリームパーラーだったと思う
優雅にミルクセーキを飲みながら、笑い、元気に手を振る姿を
まさか自分がこんな風に歌われるなんて思ってもみなかったはず