2011/10/30

さあ世界へ飛び立とう (The Burden Of A Song - マガジン)

And this is my quizzical face... by tortipede
And this is my quizzical face..., a photo by tortipede on Flickr.

マガジン30年ぶりのニューアルバム「No Thyself」、日本やイギリスは予定通り先週発売になりました。iTunes Store でのダウンロード販売も始まってます。具体的にどれくらい売れているのかはわかりませんがレーベルの予想を上回る売れ行きの様子で、Amazon UK や Amazon Japan では一時的な品切れとなっており、予約したのにまだ入手できてない人も結構いるようです。マガジンのポップでキャッチーなメロディ、陰鬱できもちわるく、わけのわかんないユーモアに溢れたサウンドと歌をみんな待ちわびていたんですね。

肝心の内容のほうですが、デジタル・レコーディング技術を駆使した現代的な音の肌触りでありながらも、古くからのファンが聴けばすぐに「ああ、マガジンだ!マガジンに間違いない!これがマガジンでなくて何がマガジンだ!」と感じられる仕上がりなってます。たとえば「Other Thematic Material」は「The Correct Use of Soap!」を連想させる軽快でダンサブルなナンバーで、踊りながら一緒に歌いたくなってしまうのですが、歌詞は人前で歌うとかなり差し支えのある内容になっています。また「Physics」は本アルバムの目玉といえる曲ですが、なぜか突然 Booker T. & the MG's なサウンドです。思わず「きみらはいつから忌野清志郎になったんだ?」とツッコミを入れたくなります。

さて、30年経っても変わらないマガジンのきもちわるさは、ヴォーカルを担当するハワード・ディヴォート(Howard Devoto)の声、歌詞、そしてルックスやしぐさによるところが、かなり大きなウェートを占めます。年をとって髪が完全になくなり、顔が丸くなったことでさらにその迫力が増しています。彼の大きくてぐりんとした目は、いつも笑っているようにも見えるし、ぜんぜん笑っていないようにも見えます。無表情かと思えば、この上なく表情豊かにも見えます。

怒ってるんだか、悲しんでるんだか、笑ってるんだかわからない。聴くほうも深刻な顔をすればいいのか、笑っていいのかよくわからないんだけど、何だかすごくきもちわるくて、きもちいい。それがマガジンの歌です。

ぼくのいやみなところが光ってる
ぼくの優しさが悲鳴をあげている
あんたもそうなりそう?
本当に家に帰るつもり?

ぼくの優しさといやみなんて、この程度
歌のリフレインなんて、そんなもの
何か音を鳴らして、ぼくが歌えるようにしてくれ

お願いだから、ぼくに近寄らないで
清潔な拘束衣の中で、ぼくに歌わせて
すばらしい作曲家だけど、残念賞しかもらったことがない
でもあんたは誘惑の眼差しを向ける
ぼくらが逃げ出すのを望んでる?
あんたはぼくの邪魔ばかりしているのに

ぼくの優しさといやみなんて、この程度
歌のコーラスなんて、そんなもの
何か音を鳴らして、ぼくが歌えるようにしてくれ

さあ世界へ飛び立とう
感動的な真実に圧力をかけよう
あらゆるところから未来へ向けて
性器から脳みそへ向けて
ぼくらが元いたところへ

さあ世界へ飛び立とう
感動的な真実に圧力をかけよう
ぼくらはあらゆるところから未来へ向かう
膨らませ、けば立たせるんだ
ぼくのいやみなところが光ってる
ぼくの優しさが悲鳴をあげてる
ぼくらが逃げ出すのを望んでる?
あんたはぼくの邪魔ばかりしているのに

ぼくの優しさといやみなんて、この程度
歌のコーラスなんて、そんなもの
何か音を鳴らして、ぼくが歌えるようにしてくれ

2011/10/22

U.S.L.S. 1 - パブリック・イメージ・リミテッド

Lockerbie Memorial by Mr Ush
Lockerbie Memorial, a photo by Mr Ush on Flickr.

1988年12月21日夜、ニューヨークへ向けてヒースロー空港を飛び立ったパンアメリカン航空103便がスコットランドのロッカビー(Lockerbie)上空を飛行中に貨物室の荷物に隠されてていた爆弾が爆発、バラバラになった機体が住宅地に落下炎上し、ロッカビーの住人11名を含む270名が死亡する大惨事となりました。ジョン・ライドン(John Lydon)は妻のノーラと共にニューヨークへ行くためヒースロー空港からこの飛行機便に乗る予定だったのですが、この日に限ってなぜかノーラが荷造りに手間取って乗り遅れたため、幸いにも事故を逃れています

事件はリビアが関与したテロと言われており、2001年に容疑者の一人がスコットランドで終身刑に処せられ服役、2003年にはリビアが国としての責任を一部認めて遺族に対する補償金の支払いに応じています。

リビアという国は人口570万人くらいで北海道と変わらない規模なんですが、石油資源を持っているため数字上はアフリカ大陸の中で1人当たりの所得が最も高い国です。16世紀以降長らくヨーロッパ、イタリアの支配下にあったのですが、第二次世界大戦後に独立を果たしました。石油採掘が本格化したのも独立後のことです。

石油を掘るには莫大な設備投資、資金を必要です。このため当時の国王らは資金を求めて親欧米路線を取ったのですが、その利益を王家一族で独占したため国民の間では反王家、反欧米、反キリスト教感情が高まる結果となりました。そこに登場したのがカダフィです。1969年、カダフィの率いる軍がクーデターを起こして政権奪取に成功しました。当時の彼は若干27歳、イギリスへの留学経験もあるエリート将校でした。つまりこの時点の彼は、王家と欧米による圧政に敢然と反旗を翻し、無血革命を達成した若きヒーローだったわけです。

その後彼はアフリカにおける反欧米、汎アラブ(反イスラエル)の急先鋒となり欧米諸国と対立します。反イスラエルのテロ、ゲリラ勢力を支援しているという理由により、リビアは度々空爆や経済制裁にさらされることになります。先のパンナム機爆破事件は、アメリカがリビアを空爆したことに対する報復テロだと言われています。そんな中カダフィは、国内政治には直接民主制という高邁な理想を掲げる一方で、独裁体制を強固なものにしていったようです。

とここまでは表向きの話ですが、いくら石油がたくさんあったって買ってくれる国がなければリビアの利益は生まれません。カダフィとアメリカやイギリスをはじめ欧米各国との間にたくさんの裏取引があったと言われてます。カダフィの独裁体制がここまで強固なものになったのは、表向きは敵対関係にある欧米各国がカダフィを支持していたためというわけです。欧米からすれば、カダフィとうまくやれば利益も得られるし、反イスラエル勢力への牽制も効くので一石二鳥です。空爆やテロは本気でやっているわけでなく、お互いの国民感情を抑えるためのデモンストレーションというわけです。実際、パンナム機事件は270名の犠牲者を生んだ大犯罪にもかかわらず、なぜか犯人は2009年に病気で余命僅かという理由により突然釈放されリビアに帰国しています(そして2011年現在も存命)。またカダフィが今回、裁判にかけられることもなく殺されてしまったのはなぜでしょう?

カダフィの住む邸宅が空爆されることはなかったし、大統領が乗る旅客機エアフォースワンも爆破されませんでした。犠牲になったのはいつも何も知らない一般の人たちです。正義感に燃えていたはずの若者がやがて独裁者や裏取引をする政治家になってしまうのはなぜでしょう?何を間違えたのでしょう?何かそうなってしまう力が働いているんでしょうか?わたしたちはどうしたらいいんでしょう?

そんなこと俺に聞くなよ。自分の頭で考えな。

U.S.L.S. 1
またの名を US エアフォースワン
無用の存在

砂漠の夜空に月が輝くころ
澄んだ陽光の裏の顔、隠されていた人格が姿を現わし
夜が明けぬうちに騒ぎを起こす

やつらは自らの計画を遂行する
自分ですべきことを持たないやつのために、良からぬ仕事を作り出す
厳重に閉じ込めていたやつが脱走する

やつらは自分の利益のためなら骨身を惜しまない

U.S.L.S. 1
無用の存在

雲が何もない空を引き裂き
この航空機に挨拶をする
貨物室に仕掛けられた爆弾

やつらは自分の利益のためなら骨身を惜しまない

U.S.L.S. 1
無用の存在

2011/10/19

PiLのライブCD「Live At The Isle Of Wight Festival 2011」で曲の収録順が違ってる!

P.I.L. - Public Image Limited by Joao Friezas
P.I.L. - Public Image Limited, a photo by Joao Friezas on Flickr.

PiLのライブCD「Live At The Isle Of Wight Festival 2011」が先日やっと国内でも発売されたのですが、Twitter などで「曲順が間違って収録されている!」という報告が多数上がってます。2枚組のCDなんですが、それぞれ最後の曲の「Religion」と「Open Up」が1曲目になってしまっているもよう。

私が7月に ConcertLive から直接購入したものは問題なかったので、レコード店や Amazon の販売用に最近出荷された分でだけ発生している問題みたいです。また Amazon UK に曲順が違うことに気づかないままレビューを書いてる人がいたので、日本販売分だけの問題でもないようです。

「苦情言って返品してもちゃんとしたのがいつ届くかわからないし、リッピングして聴くから...」と我慢してる人が多いみたいなんですが、ちゃんとクレーム言ったほうがいいと思うな。せっかくの素晴らしいライブ作品をこんなんしちゃって、発売元の ConcertLive にはちゃんと反省してもらわないと。

2011/10/12

Wild Man - ケイト・ブッシュ

Wild Man Single - released 11 October

こないだ「早くてもあと3年は出ないぞ!」と書いたばかりですが、ケイト・ブッシュ(Kate Bush)のニューアルバム「50 Words For Snow」が来月21日にリリースされます。先行リリースのシングル「Wild Man」はダウンロード版のみですが既に発売されています。

オラの名誉のために言っておくと、これ絶対「ディレクターズ・カット」出すときにはもうほとんど出来上がってたんだと思うぞ。そうじゃなければケイトが年に2枚のアルバムなんてあり得ない。きっとケイトが「新作と昔の曲を録り直したのでアルバム2枚分あるのだけど、また2枚組で出すのがいいかしら?」なんて言うのを聞いた EMI の担当者が「いやいや、そんなもったいないことを!ダメです!分けて別々に出しましょう。新作のほうは雪とか冬のイメージだから、リリースを遅らせてクリスマスにしましょう。今年のクリスマス前に一大キャンペーンを打ちます!これで私の暮れのボーナスも安泰です!」なんて言ったんだと思う。絶対そうに決まってる。

ということで2005年以来の待望の新曲「Wild Man」は雪男へのラブソングです。YouTube にアップされている Radio Edit は途中で唐突にちょん切れてるような印象を受けますが、その通りです。フルバージョンを聴きたい人はアルバムのリリースを待つなんて呑気なことをしていてはいけません。日本の iTunes Store でも DRM なしで売ってます

もうすぐ手稲山にも雪が降ります。

人は、あなたをケモノと呼んでいる。カンチェンジュンガの悪魔。ワイルド・マン。忌わしき雪男。

テントの中に横たわっていると、あなたの泣く声が聞こえてくる。山中にこだまする孤独な声。

ラクパ峠を通ったとき、何かが岩の上から飛び降りた。遠い昔、ガロ丘陵地帯でディプ・マラクが、雪の上に足あとをみつけた。

ダージリンの学校の校長が、タボチェ修道院の近くであなたを見かけた。雪の上で遊んでいるところを。ドアをドンドンと叩いた後、あなたは屋根の上にのぼっていった。世界の屋根の上に。それからツツジの木を引き抜いて、走り去っていった。

あなたのことを知りたがっている人たちがいる。あなたを捕まえ、そして殺してしまうでしょう。

逃げて。逃げて。逃げて。

ラクパ峠を通ったとき、何かが岩の上から飛び降りた。遠い昔、ガロ丘陵地帯でディプ・マラクが、雪の上に足あとをみつけた。

わたしたちは、雪の上にあなたの足あとをみつけた。そして、すべて掃き消した。

アンナプルナのシェルパからチンハイのリンポシェに至るまで誰もが、カイラス山からヒマーチャル・プラデーシュまでのすべての羊飼いが、雪の上の足跡を見ている。

あなたはラングールなんかじゃなく、大きなヒグマでもない。あなたはワイルド・マン。

ロンブク氷河で、溺死したあなたを見たという人がいる。あなたを捕らえたがってる人たちがいる。あなたはケモノなんかじゃない。ラマ僧たちの言う通り、あなたはケモノなんかじゃない。

2011/10/08

世界から談合がなくなりますように (Sweetheart Contract - マガジン)

Magazine at Manchester Academy - 17th February 2009 by Kerry Burnout
Magazine at Manchester Academy - 17th February 2009, a photo by Kerry Burnout on Flickr.

ハワード・ディヴォート(Howard Devoto)さんは類まれな注意力をそなえていて、一般のソングライターなら気づかないようなことも見逃さず、曲の題材として積極的に取り上げます。1980年リリースのアルバム「正しい石けんの使い方 (The Correct Use of Soap)」に収録され、シングルカットされた「Sweetheart Contract」もそのひとつです。この曲で彼は談合の問題に真っ正面から取り組んでいます。

2009年のマガジン(Magazine)再結成ツアーでは、ダークでお洒落な4人組おねえさんバンド、イプソ・ファクト(Ipso Facto)のロウザリー・カニンガム(Rosalie Cunningham)さんがバッキング・ヴォーカルとして起用されました。この曲の冒頭でハワードさんは一旦舞台の袖に下がり、ロウザリーさんと手をつないで再登場します。曲の間も手はしっかり握ったまま離さず、1本のマイクで頬を寄せ合って歌います。談合というものがいかに逆らい難く、淫靡かつ邪悪な魅力で人を惹きつけるのか、これでよおくわかると思います。

ぼくらは工事現場の足場の下で、ソファに座ってコップ酒を飲んでいた
情報筋によると、ぼくらは監視されてるらしい - これが会議の内容

ぼくには学歴がある
ずっと長い時間、ぼくが仕切っていた

ぼくはたくさんの武器を手に入れた、しこたま手に入れた
「何より健康が一番」とだけ書かれた馴れ合い契約のおかげ

ぼくが優位だった
ずっと長い時間、ぼくが仕切っていた

ぼくは行きたいんだ、間違いの向こう側へ
ぼくはずっと、自分自身に苦痛を強いて、破滅を待ちのぞんできた

ぼくは保険金を手に入れた
ずっと長い時間、ぼくが仕切っていた

ぼくの特技は、自分の身とまわりで起きたこと、すべて忘れてしまえること
新聞が売れるようなものには、いつでも何でも賛成するのがぼくの流儀

ぼくには学歴がある
ずっと長い時間、ぼくが仕切っていた

ぼくが優位だった
ずっと長い時間、ぼくが仕切っていた

ぼくは保険金を手に入れた
ずっと長い時間、ぼくが仕切っていた

でもあれは返したほうがいいな
ぼくらのものじゃないから

2011/10/06

ハワード・ディヴォート氏(59)による老いと死への心構え (Holy Dotage - マガジン)

And then Brer Rabbit said... by tortipede
And then Brer Rabbit said..., a photo by tortipede on Flickr.

年寄りなら誰でも知ってるのに、若者は誰ひとり知らないこと。それは、人は誰でもあっという間に年老いるということです。年寄りが若者の姿を見るとき、実は同時にその年老いた姿も見ているのですが、若者に見えるのは今の姿だけです。

ただしここ数年 YouTube が一般に普及してきたため、ちょっと事情が変わってきました。現在も活躍しているロックスターや俳優が30年、40年前、どんな恰好をして、どんな風に話し、どんな風に歌い、どんな風に動いていたのか、誰にでも手軽に見られるようになったからです。人類史上、きわめて重要な出来事だと思います。

30年前と今の姿を比較して、30年前の姿の中に30年後の現在の姿を見つけられるようになります。あるいは現在の姿の中に30年前の姿を見出すようになります。その結果、年寄りや若者はどのように変化するのか、それはまだこれからのことなので、よくわかりません。でも年寄りも若者も、ほんのちょっとマシになるんじゃないかと思います。

先日紹介したマガジンのシングル「Hello Mister Curtis (With Apologies)」の B 面がこの曲「Holy Dotage」です。テーマはずばり「老いと死」です。ぜんぜんそんな風に聴こえないとは思いますけど。

ぼくは、自分のたましいに不要なものを
ハエみたいに叩き落とした
後は好きなようにさせた
何もそれを妨げるものはなかったから

ぼくはおそろしく老いぼれて
死が今までになく、ますます確実になった
ぼくはおそろしく老いぼれて
死が今までになく、ますます確実になった

ぼくはゆっくり、たくさんのニュースをむさぼる
だけどやり方を間違ったので
だんだん弱っていくはずが
逆にたくましくなってしまった

歴史はけっしてくり返さないというが
いつもほとんど同じ韻を踏んでいる

さあ来たぞ
宇宙の物語から到着したばかり
パリパリの新デザイン

ぼくのディミニッシュ・セブンスなところ
大口をたたきだすと止まらない
ぼくのたましいに不要なもの
ぼくはそれを、ひとつだけ残した

ぼくはおそろしく老いぼれて
死が今までになく、ますます確実になった
ぼくはおそろしく老いぼれて
死が今までになく、ますます確実になった

さあ来たぞ
宇宙の物語から到着したばかり
パリパリの新デザイン

ぼくはおそろしく老いぼれて
死が今までになく、ますます確実になった
ぼくはおそろしく老いぼれて
死が今までになく、ますます確実になった

2011/10/05

歌う前にあらかじめ、心からおわび申しあげます Hello Mister Curtis (With Apologies) - マガジン

Hello Mister Curtis (With Apologies)

今月24日発売、マガジン(Magazine)のニューアルバム「No Thyself」からのシングル第一弾は「Hello Mister Curtis (with apologies)」です。ジャケットはなんと、デビューシングル「Shot by Both Sides (1978)」とまったく同じ、ルドン(Odilon Redon)が描いたキメラです。彼らのこの曲に賭ける意気込みがうかがえます。

ただしシングルといってもリリースされるのは10インチのレコードだけです。CD の発売予定はありません。アナログレコードのプレイヤーを持っていない人はジャケットを眺めながら念力で曲を聴かなければならないのかというと、そんなことはありません。アナログレコードを買うともれなく MP3 データのダウンロード権も付いてきます。とても親切で良い販売方法だと思いますが、ヒットチャート入りは難しそうです。

さて人生には、言うと人を傷つける、人の気分を害するとわかっていても、どうしても言わなきゃならないこと、言わずにいられないことがあります。そんなとき、どうしたらいいか。昔、モンティ・パイソンの人たちが良い方法を思いつきました。先に謝ってしまえばいいのです。

ハワード・ディヴォート、1976年芸能界デビュー、当年とって59歳、歌う前にあらかじめ、心からおわび申しあげます。

こんにちは、カーティスさん
ご機嫌いかが、コベインさん
きみたちの傷口はいったいどこですか?
ちゃんとおしえてください
どこが痛むんですか?

きみたちの苦痛
きみたちの苦痛
きみたちの苦痛
この苦痛から、ぼくを解放してください

こんにちは、カーティスさん
ご機嫌いかが、コベインさん
きみたちは、ぼくよりずっと勇気があります
だから、また同じことをやってくれますよね
後悔してませんよね
もう一度やってくれますよね

きみたちの苦痛
きみたちの苦痛
きみたちの苦痛
この苦痛から、ぼくを解放してください

こんにちは、カーティスさん
ぼくらがきみのことを、忘れてしまわないようお祈りします
だけどぼくは決めたんです
ぼくはキングみたいに死ぬんです
エルヴィスみたいに死ぬんです

人里離れた便所の中で

ぼくは、年老いてしまう前に死にたいんです
ぼくは、年老いてしまう前に死にたいんです

2011/10/03

Bitches Brew - マイルス・デイヴィス

Miles Davis' Bitches Brew Dogfish Head Brewery by walknboston
Miles Davis' Bitches Brew Dogfish Head Brewery, a photo by walknboston on Flickr.

マイルス・デイヴィス(Miles Davis)はこわい顔をしてわかりにくいギャクを言うおじさんです。いつもこわい顔をしてるので周りの人たちはギャグに気がつきません。でも言った本人は自分のギャグのおもしろさに耐えられなくなって、ひとり「ヒッ、ヒッ、ヒッ」とか「クッ、クッ、クッ」とやります。それでやっと周りの人は、ああ、ギャグを言ったんだなと気づくのですが、こわいので笑えません。

マイルスは時期によってまったく違う音楽をやってますが、アルバム「Kind Of Blue(1959)」の時期のものが特に人気が高く、日本では居酒屋さんの定番 BGM となっています。一方「電気マイルス」と呼ばれる1970年前後の作品群はここ30年ほど無視されてきたのですが、ここへ来てもう一度「電気マイルス」と彼のギャグを見直そうという動きが出てきているようです。

昨年 The Quietus でジョン・ライドン(John Lydon)が、PiL のレコーディングにマイルスが乱入してお茶目をやらかしたときのことを話してます。

俺が「Album」をレコーディングしてるときに、マイルスがスタジオに来たことがあるんだ。あのアルバムの曲は意図的にかっちりとした作りになってる。俺がポップな感覚やポップなアレンジなどの完璧な枠組みを追求していた時期だったからさ。で、俺がスタジオで雄叫びを上げていたら、誰かがトランペットを吹きはじめた。マイルスが俺の後ろに立っていたんだ。その音はうつくしかったよ。だけど完全にヴォーカルの邪魔をしていた。俺が歌う部分をトランペットで吹いてるんだ。同じメロディラインでさ。だから彼の演奏を使うことはできなかった。すごくおもしろいよ、だが申し訳ないがこれは俺のレコードで「偉大なるジャズ・ミュージシャン」のものじゃないんだ。

で、結局彼は「Album」の製作からはずされた。だけど、俺のやってる曲を彼が気に入ったことがわかってすっごく興奮したよ。なんたって俺はマイルス・デイヴィスのファンなんだからさ。

「Bitches Brew」は俺の大好きなアルバムだ。何よりドラムが驚異的で、カンの「Tago Mago」で聴けるヤキ・リーベツァイトのドラミングに通じるものがある。マイルスのアルバムの中でもベストなメンバーが揃ってると思う。ほかのアルバムは、日本人なら簡単にコピーして完璧な演奏をしてしまいそうだからな(笑)。だが「Bitches Brew」だとそうはいかない。マイルスのギグは何度か観たことがあるんだけど、彼がステージでやってるアイデアが気に入ってさ、俺も同じようにしてるんだ。彼はステージで聴衆に背を向けるんだ。ときどきそうすることで、自分の気持ちを高めるんだよ。手を振ったり投げキッスをしたり、ファックオフ!と叫んでる聴衆の反対側を向くんだ。そうやってある種の中断状態をつくることで、自分が望む音楽的な状態を保つんだよ。

My Favourite Miles Davis Album By Lydon, Nick Cave, Wayne Coyne, Iggy & More

たぶん「Bitches Brew」発表当時より、今の人たちの方がこのアルバムを楽しめるんじゃないかな。結構踊れそうでしょ。