2010/11/18

三人娘のルンバ (スリー・ガール・ルンバ - ワイアー)

Colin Newman by furnstein
Colin Newman, a photo by furnstein on Flickr.

気がつくとハッチの中だった。オラは後ろ手に縛られて、椅子に座らされていた。少し離れたコンソールの前にベン・ライナス(Benjamin Linus)役のコリン・ニューマン(Colin Newman)が立っていて、その横には胸にゼッケンを付けた三人の娘さんたちがこちらを向いて並んでいた。

「気が付いたな」

ベンがオラに言った。

「早速だが、番号を選びたまえ。目は閉じて。」

アナ・ルシアとどちらにしようか一瞬迷って、菊地凛子さんの番号43番を言おうとしたとき、ベンがオラの言葉を遮った。

「考えるだけでいい。」

ベンは何か急いでいる様子だった。

「その数字を2で割る。」

小数点以下まで計算するのかどうかベンに尋ねようとしたとき、また言葉を遮られた。

「存在しないものは存在しない。」

ベンはオラに近づき、何か小さな箱のようなものをオラの膝の上に置いて言った。

「箱を開けて。」

そう言われても手を縛られている。仕方ないので箱を落とさないよう膝の間に挟み、体を折り曲げて口で開けた。思ったより簡単だった。箱は軽い。中に何が入っているのかは分からない。

またベンが言った。

「数字は?」

小数点以下の処理を迷っていたら、ベンが見透したように言った。

「答は考えなくていい。」

考えなくていいって、数字?それとも箱の中身?そのときハッチで警報が鳴り出した。

「目を開けたまえ。」

ベンに言われて目を開けた。ハッチの中は赤い警報ランプが点滅していて、ベンしかいなかった。アナ・ルシアと菊地凛子さんはどこへ行ったのだろう?あともう一人は誰だっけ?

警報の音が大きくなってきた。ベンはかなりあせっている様子だ。

「数字を考えて!」

ハッチ全体が揺れ始めた。やばい。ええい、もう小数点以下は切り捨てだと決心した瞬間、ベンが怒鳴った。

「ごまかすな!!」

突然天井からシャッターが降りてきた。閉じ込められた。番号、番号は何番だっけ?三人目は?誰だっけ?あのムームー着てたの、誰だっけ?揺れがどんどんひどくなる。本棚が倒れた。椅子からずり落ちる。引っくり返ったオラに何かが覆いかぶさってきた。

す、杉田かおる?

解説

という人間の極限的状況を描いたのがアルバム Pink Flag 収録のワイアーの名曲「三人娘のルンバ(Three Girl Rhumba)」(1977)です。シングル曲でもなく、かつてはワイアーの他の曲同様知る人ぞ知る曲だったのですが、この曲のリフをパクったエラスティカのコネクション(1994) がヒット、そのパクりをエラスティカ側があっさりと認めて著作権料が支払われたことで話題になりました。でも相変わらず有名なのはコネクションの方で、Three Girl Rhumba を「コネクションのカバー?」と思っている人が今でもたくさんいるようです。一応、オリジナルの Three Girl Rhumba にも注目が集まりテレビ CM に使われたりして、ワイアー史上「最も稼いだ曲」となっています。

一方、持ち慣れない大金が入ってきたことでワイアーのメンバー間に取り分をめぐり争いが起きるようになり、2004年にブルース・ギルバートが脱退するきっかけにもなってしまいました。

みなさんも、歳をとってからお金でもめないよう、日頃から取り分とか契約とか遺言はきちんとしておきましょう。

MP3ファイルのダウンロード
Three Girl Rhumba (from pinkflag.com)
おまけ
"Maybe I just had LOST's season finale on my mind, but Wire frontman Colin Newman looks more than a little like that show's Benjamin Linus these days."
追記
「ワイアーが取り分をめぐってモメたという話のソースはいったいどこだ?」という問い合わせをいただきました。このへんの経緯と当事者発言は「33 1/3 Wire's Pink Flag」に書かれています。

2010/11/16

UK 音楽サイト I Like Music でジョン・ライドン特集

PiL @ Benicàssim by fiberfib
PiL @ Benicàssim, a photo by fiberfib on Flickr.

イギリスの音楽サイト I Like Music でジョン・ライドン(John Lydon)特集が組まれています。なんだよ、今頃おせーよ、なんでツアーのときにやらないんだよとか思いますが、インタビューの内容を読むと、どうもこのサイト、あまり昔のことを知らない若いスタッフで運営されているようで、今になってジョニーおじさんの素晴しさに気付き、急遽特集を組んだようにも見えます。だったら許してあげます。

ジョニーおじさんは最近、ご幼少時の写真から健康診断のX線写真まで、あんなのやこんなのまで、おじさんの軌跡すべて無修正で収録した750部限定の写真集 Mr.Rotten's scrapbook を発表しました。

昨年末、PiL の ライブ CD ALiFE 2009 を手がけた ConcertLive からの発売です。お値段は449ポンド(約6万円)。事前予約すると安くなるけど、それでも379ポンド(約5万円)。事前予約で全部ハケたら約3,800万円の売上げ、結構な金額になるなあ。もう今さら普通のレコード会社と契約したってろくなことないんだから、今後も Concert Live と組んで色々新しいことやっていくのが良いんでは?

期待の PiL の新作は「今年の年末には出す」と言っていたんですが、ジョンの父親の死をはじめ、マルコム・マクラーレン、義理の娘アリ・アップと身近な人の不幸が重なりかなりまいっていて、アルバム製作は中止しているそうです。

特集記事今週の1曲は 「フォー・エンクローズド・ウォールズ(Four Enclosed Walls)」です。8月末のイスラエル、テルアビブでのコンサートでも、やはりちゃんと歌ったそうです。

政府なんて関係ない。扇動や分断工作に屈したら、俺たちが批判している当の政府と同じ穴のムジナになってしまう。イスラエル政府は俺のイスラエル入りをあまり歓迎していなかったがイスラエルの人々は違った。もちろん、聴衆の中にはイスラム教徒もいた。(ユダヤとイスラム)2つの人々をひとつところに集めるなんてすてきだろ。俺はイスラエルの聴衆に昔の PiL の曲、Four Enclosed Walls を一緒に歌わせたんだ。「アッラー」というリフレインのある曲だよ。「アァァァァァァッラァァァアァァ」ってな。そうさ、俺たちみんなでアッラーを讃えたんだ。イスラエルでさ。ユダヤジョークにしちゃ上出来だろ?ハハ。

2010/09/02

ライブ・アット 9:30 クラブ・イン・ワシントン D.C - パブリック・イメージ・リミテッド

The Crowd Roars by liquidsunshine49
The Crowd Roars, a photo by liquidsunshine49 on Flickr.

先日の記事に書いたNPRのサイトで公開されているパブリック・イメージ・リミテッド(Public Image Ltd.)のポッドキャストですが、コンサート内容がそのまま1本のMP3ファイルとしてダウンロードできるようになっています。曲目は以下の通りです。

  1. This Is Not A Love Song
  2. Poptones
  3. Memories
  4. Tie Me To The Length Of That
  5. Albatross
  6. Death Disco
  7. Flowers Of Romance
  8. Psycopath
  9. Warrior
  10. U.S.L.S. 1
  11. Disappointed
  12. Sun
  13. Bags
  14. Chant
  15. Religion
  16. Public Image
  17. Rise
  18. Open Up

2時間を越える長さなので、「そんなに一気に聴けねえよ」という人は、適当なツールを使って曲毎にファイルを分割しましょう。でも通常のコンサートはもっと長くて、上記のほかCareering、The Suit、Four Enclosed Walls、Banging The Doorなどの曲がセットリストに入っています。

2010/08/31

ジョニーおじさんの夏

How do I feel about this? by Zoonie
How do I feel about this?, a photo by Zoonie on Flickr.

もう9月になるというのに暑い日が続く毎日ですが、みなさんいかがお過ごしでしょうか?オラはこないだ西町の西友でクーラーを買ってきました。もう大丈夫です。何も心配することはありません。

ところで今年の夏、元気な人といったら何といってもジョン・ライドン(John Lydon)おじさんです。昨年末、パブリック・イメージ・リミテッド(Public Image Ltd.)としての活動を再開、ツアーを始めたジョニーおじさんは、30数年になる芸能生活上、最も忙しく活動的な日々を過ごしているようです。

12月のイギリス7ヶ所での公演から始まり、4、5月は北米24ヶ所、7、8月はイギリスに戻って14ヶ所、この後もまだ各地のロックフェスなどへの出演が予定されています。

ジョニーおじさんとレコード会社(ヴァージン)との契約は一応続いているようなのですが、今回のツアーはレコード会社のサポート一切なし、自己資金でやっています。このため日本国内の音楽系サイトにはほとんどニュースが出ていません。ただマスコミの取材には超積極的に応じていて、今日現在オフィシャルサイトからリンクされている再結成後のインタビュー記事は既に99本にも及びます。

おじさんに対するヴァージンの放置プレイは昨日、今日始まったことじゃなくPILのデビューアルバム以来ずっと続いています。今回のPIL再始動に当たっては、メタルボックスを再発してツアーの資金に充てようと考えヴァージンに電話したそうです。けど案の定、ヴァージンからの返事はなく、悶々としていたところに運良くバターのCMへの出演依頼があり、これが大いウケて(CM放送後、85%の売り上げ増!)、ツアー資金の目処が立ったそうです。また、このツアーで稼いだお金はニューアルバムのレコーディングにつぎ込むと言ってます。

俺はバターという強力な武器を手に入れた。きみがパンにバターを厚く塗れば塗るほど、PILのニューアルバムリリースが近づく

ちなみにツアーが決まり、リハサールを開始して2週後、ジョニーおじさんに連絡もなしに突然ヴァージンからメタルボックスの再発がアナウンスされたそうです。

で、肝心の公演内容のほうですが、以前紹介したALiFE 2009などで聴ける通り、とおっても素晴しい! 毎回2時間以上ぶっ通し、こめかみの血管もぶち切れよとジョニーおじさんが吠え続けます。ルー・エドモンズ、ブルース・スミスに新加入のスコット・ファースが2010年のPILにふさわしいサウンドを作り上げています。YouTubeなどにも色々上がっているんですけど、5月のワシントン D.C.での公演が2時間まるごとMP3でダウンロードできるようになっているので、ぜひ聴いてください。それからニューヨーク公演観た人の感想文がなぜかJTBのブログに載ってます

今日31日、ジョニーおじさんは、イスラエルのテルアビブで開催されるフェスへ出演することになっています。最近ヨーロッパでは対パレスチナ政策を理由にイスラエルでの公演を拒否するミュージシャンが増えているようで、おじさんのところへも「イスラエルになんか行くな」という声がたくさんあったようです。

別に政府の政策云々で呼ばれたわけじゃない。普通にプロモーターからオファーがあったから行くんだ。俺はイスラエルで暮す普通の人のために行って歌うだけだ。制裁なんかで何も解決できやしない。単に人々を苦しめるだけだ。

今回のツアーのセットリストには「レリジョン(Religion)」と一緒にフォー・エンクローズド・ウォールズ(Four Enclose Walls)」も入っていて、毎回観客と一緒に「アァァァァッラァァァァアァァァァァ」と合唱してます。もちろん今日も間違いなく歌います。さすがジョニーおじさん、すげぇ。

2010/06/22

Never Come - ヴィヴ・アルバーティン

「ねぇママ、ママって、昔もバンドやってたの?」

「そうよ。あなたが生まれるずーっと前よ。」

「ママ、あたしね、古いもの大好き!昔の音楽とか昔のお洋服、マイケル・ジャクソンとか昔の人たちも!」

「ママは昔ね、結構ファッションリーダーだったんだから。みんなママの真似をしたのよ。」

「へぇー、どんなファッション?」

「えーっとね、花柄のかわいいワンピースをビリビリに破ってくしゃくしゃにして着たり、フンドシ一丁で体中に泥を塗って走りまわったり...。」

「....ホントにそんなの流行った?」

「ホントよぉ。パリのコレクションなんかにも結構影響与えたんだから。」

「なんてバンド?」

「スリッツって言うの。女の子だけでしかもステージ上で四股踏んだりするバンドは当時、世界中のどこにもなかったんだから。」

「四股?踏んでたの?ママはギターを弾いてたんだよね?」

「歌って、ギターを弾いて曲も作ってたわよ。ママのギターのお師匠さんはキース・レヴィンって人なんだけど、会ったことなかったっけ?」

「会ったことある。キースおじさん。変なおじさん。」

「そう、その変なおじさんがママにギターの弾き方を教えてくれたの。キースは『いいかいヴィヴ、ギターを弾こうなんて考えちゃダメだ。感覚を研ぎ澄ますことでギターに自ずからサウンドが宿るんだ!きみが感じることによって、ギターは鳴るべき音で鳴り出すんだ!』なんて調子だから、ママずいぶん長いことチューニングの方法を知らなかったの。」

「こないだ一緒にステージに出たジーナおばさんも一緒のバンドだったの?」

「活動していたのは同じ頃だけど、ジーナはレインコーツ、別のバンドだったの。」

「ジーナおばさんはママと同じ歳だよね?ママのほうがきれい、勝ってると思う。」

「しーっ、そんなことみんなの前で絶対言っちゃダメ。ぜっっったいにダメよ!」

「はぁい、ごめんなさい。...ママ、ラジオのスタジオに着いたよ。」

「じゃあママ、これから1曲歌うから、おとなしく待っててね。終わったら一緒にアイスクリーム食べに行きましょ。」

(2014/07/20 追記)
ヴィヴ・アルバーティンがキース・レヴィンにギターの弾き方を教わったというのはどこかで読んだ記憶があったので、この小話は勝手な想像で書いたのですが、最近出たヴィヴの自伝「Clothes, Clothes, Clothes. Music, Music, Music. Boys, Boys, Boys」を読んでみたら、なんと、ほぼこの通りの事実でした。以下にその内容をご紹介します。

「ヴィヴ、ギターのコードやスケール、そんなクソみたいなものの練習で時間を無駄にしちゃいけない。ぼくはきみにギターを弾かない方法を教えてあげる。」

ええっ?だって私コードを教えてほしいのよ!コードも知らずにどうやって曲を書けばいいのよ?

キースはギターを弾く上で次の三つのルールを守るように言った。まず最初にチューニングをすること(いつも彼がチューニングしてくれたけど)。次に、弾く前にちゃんと手を洗うこと。それから三日以上、練習をサボって間を空けないこと。

2010/05/25

No One's Little Girl - ザ・レインコーツ

結成後30数年にして、ザ・レインコーツ(The Raincoats)初来日であります。併せてしばらく入手困難だった CD が再発になり、iTunes でもダウンロードできるようになりました。大変喜ばしいことです。

が、問題なのはツアーのポスター。なんで「今の彼女たち」の写真を使わないのさ。Gina Birch は50代半ば、Ana Da Silva はもう60近いはずだぞ。どうして二人が箒にまたがって飛んでる写真を使わないのか、理解に苦しむ。

下の YouTube 映像は去年の London Lesbian and Gay Film Festival に出演したときの様子だけど「おばさん通り越してもうおばあちゃんなの! だけどヒッピーなの! もちろん No One's Little Girl 歌っちゃうの!!」なんて感じで、お姉さま、すてき。

2010/01/07

ヴィニ・ライリーと貧困問題(A Collection of Bonus Tracks From 2001-2009 - ドゥルッティ・コラム)

ヴィニ・ライリー(Vini Reilly)を知らない人も多いと思う。このおじさんです。見ての通りやせっぽちで、そのへんの工事現場を注意して見ると、よく似た人がヘルメットをかぶって、必ず一人はいるはずです。

ヴィニおじさん、仕事はドゥルッティ・コラムというバンドのギター弾きで、芸歴は30年以上、40枚近くのアルバムを出しています。枚数はたくさん出してますが、はっきり言ってどれもあまり売れていません。それでも何とかここまで続いてきたのは、バンドと言っても、実はほとんどおじさんひとりでやってきたからだと思います。

そんなおじさんが昨年の秋、5枚組のボックスセット The Durutti Column 2001-2009 を出しました。2001年から2009年までに出したアルバム5枚をひとまとめにしたお徳用セットで、£13.99 だから日本円にして2,000円くらい、マジですかという値段です。しかもオリジナルには収録されていないボーナストラックが7曲も入っています。

オリジナルのアルバム5枚とも持ってるようなファンでも「ボーナストラック7曲もあるし、まあいっか」で買ってしまうくらいの値段なので、普通は気にしないんですけど、ヴィニおじさんは違うんです。気にするんです。

「オリジナルを全部買ってくれるような熱心なファンに、重複した CD を買ってもらうのは申し訳ない」って気にするんです。そんでわざわざボーナストラックだけを集めて、1枚の EP みたく仕立てて「(A Collection of Bonus Tracks From 2001-2009」としてダウンロード販売してるんです。

「iTunes とかなら、好きな曲だけダウンロードできるんだから、別に変わりないじゃん」とか言う人は、おじさんの気持ちがわかってないと思います。

(2013/01/03 追記) ヴィニ・ライリーの脳梗塞発作とその後の状況については「ヴィニ・ライリーの病状と彼への寄付について」をお読みください。