2012/08/29

アナログ・レコードに手を出すな!

Record Slow motion with needle
Record Slow motion with needle, a photo by kingdesmond1337 on Flickr.

「CD の音はダメだよ。MP3 とか iPod なんてもってのほか。やっぱ音楽はレコードで聴かなくちゃ。音の質感というかツヤが違うんだよねえ。それに何といってもあの大きなジャケット。」

中高年の音楽ファンがこんなセリフをほざくのを聞いたことはありませんか?何だか「お前が聴いてるのは質の低い音楽なんだ」って言われてるみたいで、すごくムカつきますよね。だいたいレコードなんてそのへんの店に行っても売ってない過去の遺物です。じじい共と一緒にさっさと滅びてほしい。レコードにこだわっていた人種といえば DJ がいるけど、あいつらでさえ最近はレコードはおろか CD すら使わなくなっています。

だいたいさあ、レコードって直径30センチもあるでかい円盤なのに、1枚50分くらいしか曲が入らないんですよ。しかも表と裏、別々に25分だって。25分経ったら続きを聴くのに円盤をひっくり返さなきゃ聴けないんだって。信じられる?

レコードってあれ、ただのビニールの円盤に溝を刻んでるだけでしょう。それをダイヤモンドでできた小さな針で引っかいて振動させて、それを電気で増幅して音を鳴らすだけなんだって。あまりにも原始的というか、それって安土桃山時代あたりの技術ですよね。それに針でビニールをこするわけだから、レコードは聴くたびにだんだん磨り減ってくんだって。「磨り減るほど聴き込んだ音楽」って、あれ例えじゃないんだって、本当に磨り減るんですって。アタマ悪過ぎ。

もそもさあ、あんなでかいレコードとレコードプレイヤーなんて持ち歩けないでしょう。電車やスタバで聴きたいときどうするんですか。聴けないでしょう。いや、そう思って「外で音楽聴きたいときはどうするんですか?」って尋ねたことがあるんですよ。そしたら「頭の中にしっかり音が刻まれた脳内ジュークボックスがあるから大丈夫。どんな場所でもすぐに好きな曲が聴けるよ」だって。アタマおかしい。

普通は iPod や iPhone で好きなときに好きな場所で音楽聴きますよね。連中違うんですって。新しいレコードが手に入ってもどこでもすぐに聴けるわけじゃないから「今日は真っ直ぐ家に帰って、ご飯食べて、あのレコード聴くぞ。今日は家に帰ったら、絶対あのレコード聴くぞ」って一日中考えながら、ずっと我慢して過ごすんですって。間違いなく変態。

AMP Magazine のサイト見ていたら、PiL のジョン・ライドンっておっさんのインタビューが載ってて、例によってレコードについて熱く語っていたんですよ。このおっさんはレコード・マニアで、20年くらい借金で首がまわらなくて座敷牢状態で新作を発表できなかったらしいんだけど、それでも自分で集めたレコードは手離さなくて、今はロンドンとロスの2箇所に大量のレコード・コレクション保管してるんですって。話を聞いてる若いインタビュアーがまた世間知らずで「ぼくもレコード・プレイヤー買います!」なんて言い出す始末。みんな、気を確かに持って!

Q: ここ数年、アナログ・レコードがまた盛り返してきていることをどう思いますか?あなたがアナログ・レコードの熱狂的支持者である理由も教えてください。

音楽を理解し満喫したいなら、アナログ・レコードを聴くべきだだよ。CD も高い技術レベルで製造すればいいものになるかもしれないが、今のところアナログ・レコードの質感には及ばない。あと何といっても大きさなんだよ。12インチのビニールの円盤は、アーティストが聞き手とその世界を分かち合うため、招き入れるために必要な大きさなんだよ。レコードの溝に指が触れないように注意しながら、真ん中のラベルに書かれた情報を見て、自分が今聴こうとしてるものを確認するんだ。俺が今までに買った一番高価なものはレコード・プレイヤーなんだよ。

Q: レコード・プレイヤーは今まで持ってなかったんですけど、そんな話を聞くと1台欲しくなりますね。

こういうジェネレーション・ギャップが生じた原因は、レコード会社の経営的な判断によるものなんだ。レコードを聴いてきた俺とレコードを知らないあんたは、聴いてきたものがまるで違うんだよ。レコード会社は CD というより安く音楽を製造する手段を得て、レコードを作るのを止めてしまった。安くなった一方で質が落ちた。で、知っての通りダウンロード音楽になるとさらにまた質が落ちたんだ。何か変わる度にすぐそれと分かるほど質が落ちる。ひどい話だよ。

PiL としての俺の立場から言えば、俺たちみたいな低音のぶ厚い音楽を聴くときは、インターネット経由で、しかもヘッドフォンを使って聴いたりすべきじゃない。自分の好みの音楽かどうかを確かめるにはそれでも用は足りるかもしれないが、大きな音で、ちゃんとした音の感触を楽しみたいのなら CD を買ってほしい。もっといい音で聴きたいならアナログ・レコードを買ってくれ。レコード・プレイヤーを置く場所が必要になるけどな。

Q: もうひとつ私が持ってないものが...

ああ、コンピューターを一式買うのに似てるよ。レコードで音楽を聴くには色々用意しなくちゃならない物があって、それが揃って始めて音が聴けるようになる。いずれにせよ、俺がやってるような聴き方は快適だぜ。大きなスピーカーのコーン紙が振動して部屋の中に響き渡る、これ以上のものはないよ。静電気のパチパチいう音がターンテーブルで鳴って、細かな音の隅々まで聴こえてくる。俺たちはでっかい部屋でレコーディングしたんだ。それを再現したいなら、部屋の中を音で満たすしかないんだよ。

Q: レコード・プレイヤーを買ってきます!

それがいい。世界が一変するぜ。

JOHN LYDON talks about the new album, the Occupy movement, Pete Townsend’s unsavory remarks about age, and Kickstarter

ああ、それからグルーヴ(groove)って言葉あるでしょう。「イェー、このグルーヴ、感じるかい?」のグルーヴ。グルーヴってレコードの溝のことなんですって。

2012/08/27

ジョニー・ロットンはアメリカを愛してる (Johnny Rotten Loves America)

An old Black Confederate Solider and his Grandson
An old Black Confederate Solider and his Grandson, a photo by J. Stephen Conn on Flickr.

PiL の北米ツアーに合わせて10月1日にシングル「Out of the Woods」がリリースされる件、先日はさらっと書きましたけど、これアメリカ人にとっては大変な問題作なんですよ。「Anarchy in the UK」や「God Save the Queen」なんかより、はるかにインパクト大きいはず。これがもし大手レコード会社からのリリースだったら、絶対に発売が認められない内容の曲です。

この曲はアメリカ南北戦争でのチャンセラーズヴィルの戦いについて歌っている。南北戦争にすごく興味があって調べたんだが、アメリカの真の歴史が独善的な見方によって無視されてることがわかって、ものすごい憤りをおぼえたんだ。そこから生まれた曲なんだよ。

アフリカ系アメリカ人は、アメリカの歴史のその部分において完全に無視されているのさ。俺はフロリダで教師をしているネルソン・ウィンブッシュ(Nelson W. Winbush)という人物に会った。彼の曽祖父は黒人の南軍兵士(black confederate soldier)だったんだ。自由な身分にあり、ボランティアとして志願し、南軍の兵士になった人物さ。

アメリカの歴史における黒人の本当の歴史なんだが、これは今でもうかつに会話に持ち出すと大問題になってしまう内容なんだ。この曲はそうした事実すべてと関連している。すごく興味深い話だろ。

John Lydon's Guide To 'This Is PiL'

これだけじゃ何のことだかピンと来ない人が多いと思うので、ちょっと解説します。まずアメリカの南北戦争、学校の世界史の時間に習いましたよね、150年ほど前にアメリカで起きた内戦です。南部11州が合衆国からの独立を宣言して結成したアメリカ連合国(Confederate States of America)と北部の合衆国との間で起きた戦争で、アメリカ史上最大の62万人という(第二次世界大戦よりも多い)犠牲者をもたらした戦争でもあります。

北軍は奴隷制を否定(正義)、南軍は奴隷制を擁護(悪)、結果は正義の北軍が勝利し、リンカーンが奴隷の解放を宣言して平和が訪れました。こんなイメージで把えてる人が大半だと思います。ですが Two sides to every story、人間の起こす戦争というものはそう単純なものではありません。戦争の原因自体は奴隷制とは直接関係がなく、貿易政策や州の自治権をめぐる、産業構造の違いからくる利害の対立です。奴隷の解放は副次的な結果に過ぎない、仮に南軍が勝利したとしてもやはり世の流れによって、奴隷は解放されていただろうという見方もできるのです。

北軍に黒人の兵士がいたことは、映画「グローリー (Glory)」に描かれたこともあり、知っている人も多いでしょう。ところが北軍だけじゃなく、南軍にも黒人の兵士がいたんです。しかも奴隷ではなく自由な身分の黒人で、自ら志願して兵士になった人々が。

この曲は黒人の南軍兵士の視点で歌っているんだ。

Public Image Ltd live at Heaven: Lock up your children

この記事の最初にある古い写真に写っているのがその兵士のひとり、Louis Napoleon Nelsonです。彼の隣で軍服を着てポーズをとっている子どもは曾孫(ひまご)のネルソン・ウィンブッシュです。戦争から70年ほど後、1932年に撮られた写真です。ジョン・ライドンが会って話を聞いてきたというのは、このウィンブッシュ氏です。

「北軍 = 奴隷解放 = 正義」説ひいては合衆国の大義を揺がしかねない黒人南軍兵士の存在は、公式の記録が残っていないことから長らくアメリカ国内で否定され続け、認められるようになってきたのは、つい最近のことです

ジョン・ライドンがウィンブッシュ氏に会いに行ったのは2007年のことで、当時のジョンはレコードを出したくても出せない状況にあったため、テレビに活路を見出そうとしていました。そこで彼が作ったのが、ランボーと共にハリケーン・カトリーナの被災地や民兵の集会などを訪れ、アメリカ南部の歴史を探るというドキュメンタリー番組「Johnny Rotten Loves America」です。その取材のひとつでウィンブッシュ氏に出会ったわけです。

ところがこの番組、放送してくれるテレビ局が現われず、結局お蔵入りになってしまいました。番組のトレーラーだけは YouTube に上がっているので観ていただくとすぐにわかりますが、This is Jonny Rotten なアプローチです。アメリカのテレビ局が逃げ腰になるのも無理はありません。

スティーヴン・フライ(Stephen Frye)はアメリカ南部のことを何も理解しちゃいない。そこに暮してるのが人の良い人間ばかりだってことは知ってるかもしれないが、あの土地の歴史について何もわかっちゃいないんだ。彼が南北戦争に関する番組をつくったことがあったが、南北戦争は奴隷解放のためだったなんていう安易な考えに基いたものだった。そんなの嘘っぱちだ。事実じゃない。だったらリンカーンの妻がアメリカ最大の奴隷所有者だったという事実をどう説明するんだ?戦争が終わっても長いこと黒人たちが解放されなかったのはなぜなのか説明してくれよ。

南軍旗(Confederate flag)を人種差別主義者の旗のように言うのも止めるべきだ。そもそも黒人たちは合衆国の旗の(もと)で奴隷としてアフリカから連れて来られたんだぜ。俺は真実が知りたいだけなんだ。もちろん南部ではひどいことが行われていたろう。だが南北両方でひどいことが行われていたんだ。だが嘘をつき続けてる限り、国の問題は何ひとつ解決できやしない。特に歴史というやつは、嘘つきどもがあれこれ好んで操作するもんだからな。

この件は、真実がどうであったのか厳しく検証すべき問題なんだ。じゃないと俺たちは、虚空の中で無意味な空想上の議論をしてるだけに終わってしまう。

PiL's John Lydon on appearing in butter commercials and being on Judge Judy

つまりシングル「Out of the Woods」は5年越し、「Johnny Rotten Loves America」で果せなかったことに対するリターン・マッチなんです。10月からこのシングルを携えて PiL の仲間と共にジョン・ライドンが再びアメリカへ乗り込みます。

2012/08/24

PiL のニューシングル「Reggie Song」と「Out Of The Woods」は10月1日発売

Pil Bournemouth 2012 Nokia N8
Pil Bournemouth 2012 Nokia N8, a photo by wheelzwheeler on Flickr.

8月19日の Summer Sundae フェスティバルでイギリス・ツアーを終えたジョニー・アンド・ザ・ボーイズは、1ヶ月ちょっとの休憩を挟んで10月2日のフロリダからツアーを再開します。去年は北米をまわらなかったので、2年ぶりの北米ツアーということになります。一日も早く日本に来て欲しいんですが、今年はちょっと無理そうですね。11月にルー・エドモンズがレ・トリアボリーク(Les Triaboliques)のライヴ予定を入れちゃってるんで、年内の PiL ツアーは北米で終わりだと思います。残念ですが、来年に期待しましょう。

でもね、ジョニーは日本を贔屓(ひいき)にしてて、かなり頻繁に来てるんだよ。ツアーのアーカイブを見るとわかるけど、ブラジルやアルゼンチンなど南米には再始動してからまだ一度も行ってないし、オーストラリアにも89年以来行ってない。ドイツなんて去年一度計画が出たのに中止になっちゃったから、最後のライヴはなんと87年、もう25年も PiL で行ってないんだぜ、ドイツ。

コンサートのプロモーターも商売ですから、観客動員の見込めないバンドは呼んでくれません。PiL の来日を実現するためにファンができることといえば結局、CD などを買って「コンサートに人の集まる証拠」をつくるしかありません。ということで、みなさんニューアルバム「This is PiL」はもう購入しましたか?DVD 付きの限定盤は既に品薄になってるようなので、まだの人は早めに買っといた方が良いですよ。

「アルバムも全部持ってるし、もう買うものないよ」という人も安心してください。昨日 PiL の新しいシングル「Reggie Song」と「Out Of The Woods」のリリースが発表されました。10月1日の発売です。4月にも「One Drop」が発売されているのですが、あれはレコード・ストア・デイ限定という扱いだったので、今回のシングルが「This is PiL」からの初めてのシングル・カット、1992年の「Acid Drops」以来30年ぶりのシングルということになります。

ただし今回のリリース、変則的でちょっとわかりにくいので説明しときます。基本は12インチのアナログ・レコードで、イギリスとアメリカ向け、次の通り、それぞれ別内容のものが発売されます。

イギリス向け
  1. Reggie Song
  2. Enclosed Walls - Live from NYC 2010
  3. Disappointed - Live from NYC 2010
アメリカ向け
  1. Out of the Woods
  2. USLS1 - Live from NYC 2010
  3. Warrior - Live from NYC 2010

「なんで国によって別内容のシングルをリリースすんの?」と疑問を持つ人がいるかも知れませんが、昔はよくあったんですよ。その国でアピールしそうな曲を選んでシングル・カットするというのが、ごく普通におこなわれていました。ケイト・ブッシュのデビュー・シングルなんかイギリスは「嵐が丘(Wuthering Heights)」だったんですけど、日本のシングルは「Moving」で「嵐が丘」は B 面だったんだよ。

「Reggie Song」はロンドン、フィンズベリーパークに住むジョンの友人レジナルドの言葉を、「Out of the Woods」はアメリカ南北戦争で南軍の軍人だったストーンウォール・ジャクソンのことを歌っていて、イギリスとアメリカ、それぞれの国の人によおく聴いてもらいたいってことなんだと思います。

シングルのおまけとして収録されるライヴ曲は2010年の5月18日、ニューヨークの Terminal 5 で収録されたもので、レコード化されるのは初めてです。

「イギリスとアメリカだけ?日本は?それにまたアナログなの?レコードプレイヤー持ってないから、アナログ・レコードは聴けないよ!」という人も大丈夫、両方のシングル内容をひとまとめにしたお徳用 CD とダウンロード販売もちゃんと予定されています。

CD/ダウンロード版
  1. Reggie Song
  2. Out of the Woods
  3. Psychopath - Live from NYC 2010
  4. USLS1 - Live from NYC 2010
  5. Warrior - Live from NYC 2010
  6. Enclosed Walls - Live from NYC 2010
  7. Disappointed - Live from NYC 2010

国内盤の発売は?うーん、わかんないけど、また EMI Music Japan の中の人ががんばってくれるんじゃないかな?そういえば、最近になって気付いたんだけど、アナログ限定盤 EP 「One Drop」は EMI Music Japan のネットショップで売ってるんだよ。こちらも買い損ねた人はお早目に。

2012/08/18

俺はバリーの生まれだ (Bury Pts. 1 + 3 - ザ・フォール)

Untitled
Mark E Smith, a photo by Dan's Photo on Flickr.

現在イギリスの音楽シーンには、一筋縄ではいかない二大偏屈じじいがいます。一人はご存知、ロンドンはフィンズベリーパーク出身、PiL のジョン・ライドンです。もう一人、今回ご紹介するのがグレーター・マンチェスターはサルフォードの出身、ザ・フォール(The Fall)のマーク・E・スミス(Mark E. Smith)です。

マークがザ・フォールでデビューしたのはセックス・ピストルズ登場のすぐ後、1977年ですから、芸能生活35年の大ベテランです。ザ・フォール名義のアルバムだけで、もう29枚も出しています。見た目すごく老けていて、もう70近いんじゃないかという感じですが、ジョン・ライドンと同じ、現在56歳です。

次のビデオで演奏されているのは「Bury(バリー)」という曲で、グレーター・マンチェスター北部の町の名前がそのまま曲名になっています。2010年リリースのアルバム「Your Future Our Clutter」に収録されています。内容的にはマークの出自らしきものが歌われていて、PiL の「One Drop」や「Lollipop Opera」に相当する曲とも言えますが、前述の通り、マークはサルフォードの出身でバリー生まれではありません。このへんがマークのマークたる所以(ゆえん)です。

ビデオを観ていただければ、誰でもすぐにわかるでしょう。これが偏屈じじいじゃなければ、一体誰が偏屈じじいなんだって言うくらい偏屈じじいです。ステージ上を徘徊して、時々思い付いたようにわけのわからないことをマイクでがなり立てます。かと思えばマイクを放り出し、ベース・アンプのボリュームを勝手に上げたり、キーボードの女性にちょっかいを出したりします。あきれ果てるほどのじじいぶりですが、実は若いころからずっとこんなんです。あまり変わってません。最初は何じゃこれ、と思うかもしれませんが、繰り返し聴いていると強力なバックのサウンドと相俟ってだんだんクセになってきます。

ちなみにキーボードの女性はエレーナ・ポーローという名前で、マークの2番目か3番目の奥さんです。この人もなかなか変わった人で、コートをステージに持ってきてキーボードの下に押し込んだり、演奏中も肩から下げたバッグを手離しません。バッグにはマークがステージ上で何か発作を起こしたときのための薬が入ってるんじゃないかともっぱらの噂です

あとビデオの最後の方で上半身、衣服を着用していない女性が登場しますが、あれは一般のファンの方でメンバーではありません。

俺はバリーの生まれじゃない。俺はバリーの生まれじゃないんだ。俺はバリーの生まれじゃない。俺はバリーの生まれじゃないんだ。

ふざけんな、俺はミシガンの生まれだ。俺はバリー出身だ。フランスの王子なんだ。言っただろ。

この歌には意味があるんだ。どんな歌にだって意味がある。自動的にまた入れ替わる。

支払いある。支払いがあるんだ。支払いを俺の両肘が支えてるんだ。それで二人の子どもを食わせていかなくちゃならない。

今やってる。今やってるだろ。

道という道はすべて戦いだ。戦略だ。俺はバリーの生まれだ。ブーレでも同じだ。フルートみたいな音色のフランスの小品だ。俺にはできる。俺にはできる。

市役所のビルの横で、あんたはどの季節でも苦痛を感じるようになる。それから、ガラス張りの洒落た家の中で、よく隙間風を防いでいた。

やがてある日スペインの王が、できの悪い召使いの一群を引き連れて、バリーへやって来ようとする。

新しいレコーディングの手法。首に鎖を巻き付けて、ジャーン、彼が小走りで出て行く。俺がバリーの生まれだと言えば、あんたはもう何も言えない。

ふざけんな、俺はミシガンの生まれだ。俺はバリー出身だ。フランスの王子なんだ。言っただろ。

この歌には意味があるんだ。どんな歌にだって意味がある。自動的にまた入れ替わる。プレイ開始だ!

それで二人の子どもを食わせていかなくちゃならない。

俺はバリーの生まれじゃない。俺はバリーの生まれじゃないんだ。俺はバリーの生まれじゃない。俺はバリーの生まれじゃないんだ。

芸術家のマークは実際、灰色のリスみたいにクズどもの中から逃げ出した。ベン・マーシャルの記事を、大声で読み上げることで。あるいは下品な製造業界のユーザーが録音したものを使うことで。

俺はバリーの生まれだ。

2012/08/16

そんなもので俺を倒すことなどできない (Running Up That Hill - プラシーボ)

Brian singing
Brian singing, a photo by iko on Flickr.

ケイト・ブッシュの「Running Up That Hill」については昨日書いたばかりですけど、もうひとネタ。

有名な曲なので多くのアーティストやバンドがカバーしてるんですが、そのひとつに5年ほど前にプラシーボ(Placebo)がカバーしてシングル・ヒットしたバージョンがあります。若い人だとケイトのオリジナルは知らないけど、プラシーボのやつは聴いたことがあるという人が結構多いかもしれません。

英語ってのは日本語ほど男言葉、女言葉というのが明確ではないので、歌詞はほとんど変えなくても、歌い手によって男女の立場を入れ替えることが可能です。「Running Up That Hill」の場合、男性であるブライアン・モルコ(Brian Molko)がを歌うことで、立場が入れ替わりました。歌詞にある通り「お互いの身体を入れ替える(swap our places)」ことが実現したとも言えるでしょう。

先日オリンピック閉会式の「Running Up That Hill」を YouTube で探していたところ、もうひとつ面白いものを見つけました。プラシーボのバージョンがレッスルマニアというアメリカのプロレス・イベントで2010年版プロモーション・ビデオに使われていたんです。

最初はこの曲が、なんでこんなところに使われるんだろうと思っていたんですが、ビデオの冒頭、二人のレスラーがリング上で衝突するシーンのバックで"It doesnt't hurt me..." と歌が流れたところで理由がわかりました。ずっぱまりの曲です、これ。

アメリカのプロレスなどほとんど観たことないので知らなかったのですが、調べてみるとこの年のレッスルマニアのメインイベントはアンダーテイカー対ショーン・マイケルズという過去様々な因縁を持つ二人の対決で、ショーン・マイケルズは現役引退を賭けてリングに上がり、後世に語り継がれる名勝負となったそうです。

まあ、ビデオを観ていただければわかります。ここで「Running Up That Hill」は、リング上で戦い、傷付け合うという形でしか出会うことのできなかった二人の男の歌になっています。

そんなもので俺を倒すことなどできない
俺がどう感じてるのか、知りたいか?
俺が本当に痛みを感じていないのか、知りたいか?
俺が考えている取り引きについて、聞きたいか?
そうだ、おまえと俺のことだ

もし神と取り引きできるなら
二人、お互いの身体を入れ替えてもらえたら
一緒にあの道を駆けのぼって
一緒にあの丘を駆けのぼって
あの館に駆け上がれるのかもしれない

俺を傷付ける気はなかったんだろう
だが弾丸は、身体の奥深く突きささっている
俺もいつの間にか、おまえを引き裂こうとしている
お互いの心の中に怒りが渦巻いている

愛するものへの憎しみでいっぱいか?
なあ、俺たち両方に問題があるのかな?
そうだ、おまえと俺のことだ
もう二人は決して不幸にはならない

もし神と取り引きできるなら
二人、お互いの身体を入れ替えてもらえたら
一緒にあの道を駆けのぼり
一緒にあの丘を駆けのぼり
あの館に駆け上がるなんて
わけもないことなのにな

2012/08/15

もし神様と取り引きできるなら (Running Up That Hill - ケイト・ブッシュ)

帰省ラッシュやお墓参り、大雨、あるいはただ単にすごく暑いということで、みなさんすっかりお忘れかもしれませんが、ついこの間までロンドンでオリンピックが開かれていました。

そのオリンピック期間の終盤、8月6日にケイト・ブッシュのファン・サイト KateBushNews.com で 「Running Up That Hill (A Deal with God) 2012 Remix 発売のニュースが報じられたんですが、その発売日がオリンピック最終日の8月12日となっていたため「閉会式にケイトが出演するのでは?」と大きな話題になりました。結果的にケイトの出演は実現しなかったのですが、閉会式パフォーマンスのひとつでこの曲が大々的に使われました。

この「Running Up That Hill」は1985年のアルバム「Hounds of Love」からシングルカットされ、当時イギリスを始めヨーロッパでチャートの上位に入っただけでなく、それまでヒットのなかったアメリカでもトップ30に入り、世界的な大ヒットとなったケイトの代表曲です。

この曲で歌われているのは、お互いの無理解から破綻してしまった男女の関係です。愛し合っていたはずなのに、いつの間にかお互いを憎むようにまでなってしまった二人。でも神様と取り引きして二人の身体を入れ替えてもらったら、お互いをちゃんと理解し合えるのに、あの丘を二人で駆けあがっていけるのに、そんなある種妄想じみた願望が歌われています。明確なキーワードは何も出てきませんが、この曲を聞いて誰もが思い起こすのが「嵐ヶ丘」であり、キャシーとヒースクリフの二人の物語です。「嵐ヶ丘 パート2」とも言える内容の曲です。

閉会式に使われ、同日発売されたリミックス・ヴァージョンは iTunes StoreやAmazon MP3 などダウンロード限定のリリースです。昔のオリジナル・ヴァージョンを聴き込んだ人なら「あれっ?」と気付いたんじゃないでしょうか。そう、バックトラックのミックスが変えられているだけじゃなく、キーが低くなっているんです。メインのヴォーカルはオリジナルと明らかに違っていて、最近のケイトを思わせるやわらかな声になっています。公式には何も発表されていないんですが、おそらく「ディレクターズ・カット」レコーディングの際、一緒に録り直したヴォーカルじゃないかと思います。

この曲を使った閉会式のパフォーマンスは大きな白い箱を303個、男女たくさんのダンサーが小高くなったステージ中央に運び、その箱でピラミッドの形を組み上げるというものでした。303というのは今回のオリンピンクで競われた種目の数です。パフォーマンスと並行して、競技の様々なシーンがビデオで挿入されています。If I only could、もし叶うことなら身体を入れ替えてお互いの経験を交換したいのは、勝者と敗者?出場できた者と出場できなかった者?競技者とテレビを観ていただけのあなた?オリンピックに大騒ぎしていた人とそんなこととは無縁で生きていた人?そんな歌に聴こえます。

わたしは傷付いたりしないわ
わたしがどんな気持ちでいるのか、知りたくない?
本当に傷付いていないのか、知りなくない?
私が考えている取り引きについて、聞きたくない?
そうよ、あなたとわたしのこと

もし神様と取り引きできたら
二人、お互いの身体を入れ替えてもらえたら
二人であの道を駆けのぼって
二人であの丘を駆けのぼって
あの館に駆け上がれるのに

私を傷付ける気はなかったんでしょう
でも弾丸は、身体の奥深く突きささっている
私もいつの間にか、あなたを引き裂こうとしている
お互いの心の中に怒りが渦巻いている

愛するものへの憎しみでいっぱい?
ねえ、わたしたち両方が悪いんじゃない?
そうよ、あなたとわたしのこと
もう二人は決して不幸にはならない

もし神様と取り引きできるなら
二人の身体を入れ替えてもらえたら
二人であの道を駆けのぼり
二人であの丘を駆けのぼり
あの館に駆け上がるなんて
わけもないことなのに

2012/08/04

Metal Box とジョン・ライドンの借金

PiL のニューアルバム「This is PiL」が発売されて2ヶ月が過ぎました。自前のレーベル PiL Official からの発売なので、派手なお金をかけた宣伝は一切ありませんが、ジョン・ライドンはテレビ、ラジオ、雑誌、新聞、音楽サイトの取材、インタビューなどのプロモーション活動にを大量にこなしていて、発売直後の一時的なものにとどまらず、アルバムはコンスタントに売れているようです。Amazon UK を見ると、先日から始まったイギリス・ツアーに連動して、またチャートを上昇しています。

さて、前作「That What is Not」から今回の「This is PiL」まで、PiL としては20年ものブランクがあったわけですが、その理由はレコード会社との契約と借金で身動きが取れず、20年間いくら活動したくても、レコードを出したくても出せない状態だったからです。ツアーをやるにしろ、レコードを出すにしろ、それを実現するにはある程度まとまったお金が必要です。レコード会社が投資してくれないことには、何もできません。また契約に縛られているため、他のレコード会社に移ることもできません。

本当にひどい状況だった。頭が変になりそうだったよ。それでも俺は何とか切り抜けたが、俺だけじゃなく、レコード会社と契約してるアーティストにはホラー映画みたいな状況に陥ってるやつがたくさんいるんだ。彼らがうまく切り抜けてくれることを祈るよ。

ひどい馬鹿げた話は山ほどある。レコード会社は俺の独特のやり方が気に入らなくて、費用を俺に負担させるようになった。PiL が最初の2枚のアルバムを出したときなんか、連中は目の敵にしてたんだ。

PiL の移籍金を拠出してアルバムを出そうという別のレコード会社は、結局現れなかった。だから契約期間が切れるまで待つしかなかったんだ。不幸なことがもうひとつ、レコード会社への借金も残っていた。だから俺たちはまた別のレコード会社と契約して同じようなハメに陥らないように、自分たちでレーベルを立ち上げることにした。その金を稼ぐために約2年間、ずっとツアーし続ける必要があったんだ。

PiL singer John Lydon on record company battles

その2年間のツアーを始めるための資金を出したのは、もちろんレコード会社ではありません。ジョンにお金を出したのはバターの会社でした

それにしても、ジョンが借金漬けで20年も身動きが取れなくなったそもそものきっかけというのは何だったんでしょう?PiL を始めたときは無一文だったにしても、デビューシングルの「Public Image」はイギリスでベスト10入りするほどのヒットとなりました。その後も「This Is Not A Love Song」や「Rise」などのヒットを飛ばし、最もセールス的に振るわなかった80年代後半から92年にかけての時期も、ビルボードのロックチャートの上位に上がってくる程度には売れていたのに、です。

借金地獄の発端となったのはおそらく1979年リリースのセカンド・アルバム「Metal Box」でしょう。今でこそ PiLの名作として評価が確立しているアルバムですが、先のインタビューでジョンが言ってる通り、当時レコード会社はリリースを嫌がりました。内容的にレコード会社から見て歓迎できるものでなかっただけでなく、ジョンたちが特殊なパッケージでのリリースを要求したからです。

当時の一般的なアルバムの形は、30cm、33回転のアナログレコードでした。2枚組のレコードというのもありましたが、値段が高くなるのでそれが出せるのは実績があり、売り上げの期待できるビッグネームに限られていました。

またレコードの回転数には33回転と45回転の2種類あります。単位時間当りの回転が早い45回転の方が音質はだんぜん良いのですが、その分1枚のレコードに収録できる時間が短かくなります。つまり33回転なら1枚に納まる内容が、45回転だともう1枚増やさないと収録できなくなってしまうのです。ですから当時は「45回転はシングル・レコード用」と誰もが思い込んでいて、アルバムを45回転のレコードで出そうなんてバンドは皆無でした。

そんな時代に、音質を重視したジョンたちがレコード会社に要求したのは「Metal Box」を45回転の3枚組として出すことでした。しかもそれだけではなく、レコードをその名の通り金属製の缶に入れて発売すること求めたのです。前代未聞のことでした。

レコード会社は当然こんな要求をそのまま受け入れたりしません。交渉の末、最終的には6万セット限定でリリース、しかも高価な缶の代金はバンド側が負担するということで決着が付きました。こうして缶入り高音質レコード「Metal Box」は世に出たのです。当時、イギリスでは15ポンド前後の値段で販売されました

さて、問題はここでバンド側が負担した缶の代金はいくらだったのかということです。ジョンは2年前のインタビューで「あのパッケージに使った金を払い終えるのに18年もかかった」と言ってますから、相当な金額です。

一体いくらだったのか、探してみたらリリース直後、1980年の雑誌インタビューに Metal Box の製造費用27,000ポンドの内、缶の代金として20,000ポンドを負担したと書いてあるのが見つかりました。

あれ?だけどこの金額少な過ぎない?だって1セット15ポンドで販売すると6万セットで90万ポンドだよ。製造原価が3パーセント(27,000 / 900,0000 = 0.03)なんて安過ぎ、あり得ない。そんなんだったら、そもそもレコード会社も問題にしない。これは桁ひとつ間違ってるでしょう。製造原価30パーセントの27万ポンドだと思う。その内20万ポンドがバンド側の持ち出し。

当時の日本円にすると(今じゃ信じられないと思うけど、当時のレートは1英ポンドが450円なので)なんと9千万円! うん、これなら辻褄合う。20代前半の生意気なロックスターの若造に借金として背負わせて、がんじがらめにするには高過ぎず、安過ぎず最適な金額。レコードがヒットしても儲けはみんな借金の返済に消えいき、取り戻すまで18年もかかったというのも理解できる。単なる全体金額からの推測だけど、大きくは外れてないはず。

普通の大人が考えれば「なんて馬鹿なことを!どうしてそこまでしてパッケージや音質にこだわるんだ?自分で金出してレコードを配ってるようなもんじゃないか!」って感じだと思います。

でもだからこそ「Metal Box」は世に出て、たくさんの人に大きな影響を与え、現在の PiL やジョン・ライドンがあるんです。そういう馬鹿がいるからこそ、世の中ほんの少しずつだけど、マシになってきてるんだよ。