2012/07/28

どんなに深くても、俺は溺れたりしない (Deeper Water - パブリック・イメージ・リミテッド)

Johnny Rotten PIL
Johnny Rotten PIL, a photo by .noir photographer on Flickr.

ロンドン・オリンピックが始まり、世の新聞やテレビ、ネットのニュースはオリンピック一色となりました。なんだが開会式ではセックス・ピストルズやPiL の曲がかかったようですが、そんな騒ぎを尻目にジョン・ライドンと PiL のおじさんたちは本日ロチェスターで開かれる Music Event One でのステージを皮切りに、ニューアルバム「This is PiL」を引っ提げての本格的なイギリス・ツアーを開始します。

もちろんコンサート動員的には無茶苦茶不利な状況ですから、普通のアーティストやバンドなら、オリンピックとのタイアップ企画でもない限り、こんな時期にイギリスでツアーをやったりしません。それを(あえ)てやるのがジョン・ライドンであり、PiL というバンドです。なぜなら、この時期だからこそイギリスで歌わなければならない歌があり、鳴らさなければならない音があるからです。PiL がオリンピック期間中のイギリスの一角を占拠するわけです。「ロンドン・オリンピック対ジョン・ライドン」です。

オリンピックの開催に当たり、国や自治体はオリンピック開催に向けて競技やその付随施設建設や通信、交通機関の整備、国内外へ向けての大々的なプロモーションなどに莫大な額の税金を投入します。問題はその投資に見合う経済的な効果が得られるかどうかです。1948年のイギリスや1964年の日本には、間違いなく、それを上回る見返りがありました。オリンピックをきっかけに諸々の社会インフラを整備することで、多くの産業がその恩恵を受けられたからです。大規模施設、設備建設などの技術的な経験、蓄積も得られました。国内企業だけでなく、他の国との協力によって準備をすることで、海外との経済的な交流も活発化し、その後の貿易を飛躍的に促進するきっかけにもなりました。

でも世界上位レベルの高度なインフラを持ち、企業がグローバル化し、しかも工業が既に主産業ではなくなっている今のイギリスや日本のような国において、投入した税金に見合う恩恵を得られるのでしょうか?普通に考えて絶対無理です。

いや、そんなことはない。今でも投資に見合う大きな見返りが国全体にもたらされると主張する政治家や財界人はたくさんいます。巨大イベント事業であるオリンピックの開催を決めるのは、そういう政治家やそれを後押しする経済界の人たちです。お抱えの経済学者はオリンピックの経済効果について、わけのわからない数字を大量に並べて正当化します。

「今のイギリスにはオリンピックの費用を賄う余裕なんてないんだ。自滅行為だ。選手のサポートすらろくにできないんだぜ。連中は金もないのにアホな建物を建てたかっただけさ。地主たちにとっては、とんでもないゴールドラッシュだ。だが土地代がたんまり入ってくる奴がいる一方で、そこの住民たちは追い出される...」

「オリンピックはギリシャで生まれたんだろ?だったらギリシャでやればいい。」

「だけど水泳だけは好きなんだよ。水泳は得意なんだぜ。俺が幸せを感じるのは水の中、深い水の中(Deeper Water)なんだ。数年前、ダイビングの免許も取った。」

John Lydon talks PiL, Sex Pistols, Green Day and the Olympic Games

大企業から見れば、オリンピックというのは短期間に大きな収益を見込める、ものすごくおいしい事業です。もちろん短期的には確実に国内の仕事が増えます。だけどその話が本当なら、去年の夏、ロンドンでの大暴動はなぜ起きたんだ?去年の夏は、オリンピック準備の諸々の事業がピークで、仕事もたくさんあったはず。本当にたくさんのイギリス国民が恩恵を受けていたのなら、なんであんな暴動が起きるんだ?

少なくとも日本では、多くの人が去年の暴動のことなんか忘れてます。たぶんイギリスにもそういう人がたくさんいるはずです。でもジョニーは忘れてません。ニューアルバム「This is PiL」リリースに際してのインタビューやコンサートでの口上で、繰り返しあの暴動について言及しています。

「地に足を着けて、ちゃんとした価値観を持たなきゃならない。俺はそうした価値観をニューアルバムの曲に込めたつもりだ。俺は誰も傷付けたくないし、人の物を奪いたくもない。俺はこの世界をみんなと共有したい。俺は自分のスペースを主張する一方で、他の人間のスペースも尊重する。俺の足を踏みつけるな。だが俺にできることがあれば何か言ってほしい。」

「ちょうど(This is PiL の)レコーディングに入る頃、イングランドで暴動が起きて多くの人が死んだ。ひどい話だ。警察の署長、ロンドン市長、政治家たち、いわゆるリーダー連中はみな休暇中で、誰もコントロールできなかったらしい。責任者不在で明確な対応策もなく、何をすればいいのか分からないままの警官隊をあちこちうろうろさせただけだった。やがてガキどもがテレビやスーニカーを盗み出した。略奪の始まりさ。『このチャンスを逃す手はない』ってやつだ。」

「だがこのことはよく覚えておいたほうがいい。こんなことが起きるのはイギリスだけなんだ。ほかの国ではこんな事態にならない。あのガキどもは、夜どこにも行くところがないんだ。ソーシャルセンターは全部閉鎖されてしまい、ボールを蹴って遊べる芝生さえ、どこにもないんだ。」

John Lydon Ages (Sorta) Gracefully

今年に入ってからのコンサートではこの「Deeper Water」という曲が一番最初に演奏されています。阿呆どもの戯言(たわごと)を信用して岸に向かうな、深い沖を目指せ、深い水の中で生き抜けという内容の曲です。そこは権力者やリーダーがもはや存在しない、だけど足がつかなくて不安だらけ、自分の力で泳ぎ続けるしかない場所です。

「アイルランドに住んでたじいちゃんと一緒に釣りに行ったことがある。手漕ぎのちっぽけなボートで、海のうんと沖まで連れてかれたんだ。俺はまだすごく小さくて身体も弱かった頃なんで、ものすごく怖かった。だけど今にして思えば、すごくいい経験だったと思う。だからその後、泳ぎを覚えたときはプールの一番深いところで練習したんだ。いつでも足が付くような浅いところで練習しても、泳ぎは覚えられないってわかっていたからだよ。」

「ニューアルバムのレコーディングは、(あえ)て何のアイディアもまとめずにいきなり始めた。それぞれの機材をセットして、お互いの顔を見つめる。『よし、じゃあ俺たちこれからどうするんだ?』ってさ。例によって足の付かない一番深いところから始めたってわけさ。」

「パンクの本質は立ち止まらず、前に進み続けることだ。」

「それでも実際にはみんな進歩してるんだぜ。(ピストルズでデビューした)俺の若い頃は、国を動かしている権力を持った連中は何だかんだ言ってもやっぱり普通の人間より頭が良くて、様々な問題を解決する知見を持ち、自分のすべきことがわかってると、多くの人が信じていたんだ。だけどそうじゃない! 今じゃそんなことを信じる奴は誰もいないだろ?」

Stiff upper lippy - John Lydon Interview
The Sunday Times, 6 May 2012

海は荒れ狂い、どんどんせり上がる
入江の中で、俺の頭の中で

波に逆らい、涙の風を受けて船は進む
何年もの長い間、理由があって俺はここにいる

怒りを(あら)わにした阿呆どもは
軽はずみな判断を俺に(くだ)して
俺を岸に叩き付け
岩に激突させようとする
過去は水に沈み
(とどろ)く波が襲いかかる
俺は、より深い水を目指して飛び込む

より深い沖の水を
より深い水を
より深い水を
より深い水を

生気のない、無知で得体(えたい)のしれない奴らが
あんたを酔わせ、危険を隠して岸へ(みちび)
やがてあんたは岩に叩き付けられる

海は荒れ狂い、どんどんせり上がる
入江の中で、俺の頭の中で

危険を(かえり)みず、涙の海を船は進む
何年もの長い間ずっと、理由があって俺はここにいる
来る年も、来る年も

だが俺の船は決して沈まない
俺は溺れたりしない
俺はより深い沖の水を目指す

より深い水を
より深い水を
より深い水を目指す
より深い水を

俺は溺れたりしない、絶対に
俺はより深い沖の水を目指す
帆を()げ、ボイラーに燃料をくべて
水へ飛び込む
どんなに深くても、俺は溺れたりしない

より深い水を
より深い水を
より深い水を目指す
より深い水を

より深い水を
荒れ狂う海の中を
俺は溺れたりしない
より深い水を目指す
より深い水を

2012/07/13

イギー・ポップと野菜畑とニューアルバム Après

ちょっと遅くなっちゃったんですが、イギー・ポップのニューアルバムAprès(アプレ)をご紹介します。

前作 Préliminaires (2009)から3年ぶりとなるソロ作品で、5月下旬に発売されてるんですが、知らない人も多いと思います。というのもこのアルバム、所属レコード会社(EMI)から「こんなもん売れねえ!」とリリースを拒否されてしまったため、通常と異なるルートで販売されることになり、日本ではまったく宣伝されていないからなんです。

このアルバムに限り Believe Digital という会社が販売を担当しています。基本はダウンロード販売で、物理的な CD はフランスのオンライン・オークション・サイト Vente Privée を通じてのみ販売されるという、きわめて変則的な形でのリリースとなりました。

そんなんじゃ売れないと思うでしょう。ところが売れたんですよ。販売直後にフランスのアルバム・チャートで何と3位、ダウンロード・チャートでも11位になったんです。イギー史上、初の快挙!もう従来のレコード会社というものが、完全に役立たずで、いらない存在になってるということが、ここでもまた証明される結果となりました。

日本でも iTunes Store や Amazon MP3 で購入できます。そのほか、CD の販売もその後拡大されたらしく、国内のショップにも輸入盤がぼちぼち入荷しています。

さて肝心の内容なんですが、前作のタイトルが「準備」を意味するフランス語 Préliminaires で、今度もまたフランス語、「後」を意味する Après です。二部作の後編と考えて差し支えないでしょう。ただし今回オリジナル曲はなし、スタンダード曲中心のカヴァーで、エディット・ピアフやハリー・ニルソン、ビートルズの曲などを歌っています。また「死」をテーマにした厭世的なトーンの前作に対し、今回はずいぶんやわらかな、明るい雰囲気の作品に仕上がっています。

ここは俺のやる気を保つための家なんだ。2500人しかいない小さな村の中さ。マイアミの最も危険な地域のすぐ隣りなんだけど、ここはまったく別の場所みたいに感じられる。

ここは俺の野菜畑。ミシェル・オバマがホワイトハウスで野菜を作ってるって話を聞いて、これを思いついたんだ(笑)。すごくいいアイディアだろ。ここへ帰って来たらまず野菜を収穫して、それを切ってパテに混ぜて食べるんだ。

20年くらい前、ひどく体調を崩したときに韓国人の武道家に出会ったんだ。彼は俺に太極拳とその基礎となってる気功を教えてくれた。それ以来毎日かかさず実行してる。ある決まったの型の組み合わせによって心を落ち着かせ、エネルギーを作り出すんだ。

俺はここ15年か20年くらい、オフステージの生活を少しずつ、静かでゆっくりしたものにしてきた。俺に必要なことだった。そうすると、次第に声の出が良くなり、情熱を感じる対象が変わってきた。俺が子どもの頃に聴いてたような、静かな曲が歌いたくなってきたんだ。

ストゥージズのツアーで2ヶ月ずっとウワー oowUG! ファック・ユー uuQ!fw%^n$ ファッキン・ヘル !wwDgjki=#B!! ヘイ werQ!! ウワゥ vv%#oOO !ウワゥ!!とやった後、家に帰って考えたんだ。よし、スタジオでそんな曲を歌ってみようって。

そんなわけで俺は穏やかで地味な生活を送ってる。静かな生活だよ。ただしときにまだ、悪魔が俺に語りかけるんだよ。セラヴィ、ま、人生なんてそんなもんさ。

このアルバムで私が一番気に入ったのは、エディット・ピアフ(Édith Piaf)の曲、La Vie en Rose です。「エディット・ピアフ?誰それ?」という人でも聴けば必ず「ああ、これ聴いたことある」というくらい有名な曲です。イギーはフランス語でオリジナルの歌詞を歌っているのですが、曲のアレンジはなぜかシャンソンじゃなく、スローなジャズ・アレンジになっています。

イントロは空に向かって小さなしゃぼん玉をたくさん、ふーって吹いたときみたいな、印象的なピアノ・フレーズで始まります。続いて古いニューオリンズ・ジャズ風のトランペット(コルネット?)がメロディを奏でます。ああ、何だかルイ・アームストロングみたいでいいな、ルイ....っていうか、これ、そのまんまじゃん。

La Vie en Rose はルイ・アームストロング(Louis Armstrong)による、これまた有名なカヴァー・ヴァージョンがあるんですが、アレンジはこのアームストロング・ヴァージョンがほとんどそのまま使われているんです。つまり、イギーはエディット・ピアフとルイ・アームストロング、二人の曲をいっぺんにカヴァーしてることになるの、かな?

2012/07/06

Daytrotter で Haim のスタジオ・ライヴ公開

枚数限定リリースのアナログ盤 EP 「Forever」はみなさんお手元に届きましたでしょうか?Rough Trade の方は既に売り切れ、National Anthem の方も在庫僅かとなっています。「えっ、知らなかった。そんなのあったの?」という方は、今すぐ注文することをお勧めします。

ハイム(Haim)、音はプロフェッショナルだし、ちゃんとしたプロモーションビデオも作ってるし、ジャケット写真なんかもお洒落なんで、普通にレコード会社と契約してるバンドと勘違いされそうですが、今のところまだ独立系家族経営バンドです。

なので、手がまわんないんでしょうか。色々やってる割には宣伝が行き届いてない感じです。公式サイトのほか、FacebookTwitter のアカウントもあるんですが、ライヴや EP の販売さえちゃんとアナウンスされていない状況です。

つい先日 Daytrotter で4曲のスタジオ・ライヴが公開されたのですが、これも公式アナウンスが何もありません。しょうがないなあ。えー、今回 Daytorotter で録音されたのは以下の4曲です。

  1. Honey & I
  2. The Wire
  3. Go Slow
  4. Let Me Go

Honey & I が(たぶん)新曲。Go Slow は EP にも収録されてますね。The Wire と Let Me Go はライヴでお馴染の曲です。ライヴでのワイルドな演奏がハイムの魅力のひとつなんですが、観客のいないスタジオ・ライヴってことで、ちょっと抑えた感じになっています。恒例となっている Let Me Go エンディングの全員ドラム乱れ打ちも入ってませんが、ハイムのちょっと違う面が聴けます。

(2012/07/12 追記)Honey & I は SXSW でも演奏していました。YouTube でそのときの演奏が見られます

Daytrotter は有料の音楽サイトで登録が必要なんですが、7日間の無料お試しができるので、アカウントを持ってない人はこの機会にお試しください。ほかにも First Aid Kit とか Anaïs Mitchell などのスタジオ・ライヴもあります。

もうひとつ、チャイルディッシュ・ガンビーノ(Childish Gambino)が、Royalty というミックステープを無料公開しており、その中の Won't Stop という曲に次女のダニエルが参加してます。Foever のプロデューサー Ludwig Göransson はチャイルディッシュ・ガンビーノのアルバムもプロデュースしてるので、そのつながりで参加したものと思われます。

最後はこのブログで紹介してなかったヴィデオ、今年の SXSW で撮影されたもので、Go Slow のピクニック・バージョンです。3人揃ってかけ慣れない感じのサングラスをしているのは、通販メガネ・ブランドの Warby Parker がスポンサーになってるからです。

「俺たち」が生まれたところ (One Drop - パブリック・イメージ・リミテッド)

Johnny Rotten PIL
Johnny Rotten PIL, a photo by .noir photographer on Flickr.

35年前、ジョニー・ロットンはセックス・ピストルズの曲「God Save The Queen」で「お先真っ暗だ (No Future)」と歌いました。言葉の表面だけ見れば絶望の歌です。だけど当時セックス・ピストルズに飛び付いた若者たちがこの曲に感じたのは絶望なんかじゃありません。当時、中学生でこの曲を聴いた当事者として断言します。ピストルズの曲、ジョニーの歌に感じたものは「希望」です。ああ、こうやって「自分」を出してもいいんだ。こういうのが、ありなんだ。そういう驚きと希望です。

この現実の世界は「裸の王様」の世界です。大人たちは薄々「本当は王様は裸なんじゃないか」と気付いていますが、なぜか「そう言っちゃいけない」という暗黙のルールに縛られています。なぜ言っちゃいけないのか、もし言ったら何が起きるのか、考えること自体を恐れています。言わないことで自分や家族を守ってるのかもしれません。ただし波風を立てないというだけで、それが果して本当に守り切れるのか、事態をさらに悪化させているだけじゃないのか、というところまでは考えが及んでいません。今までそれで大丈夫だったんだから、今まで通りにしていれば大丈夫なはずだ。大抵はそんなところでしかありません。

そこへ恐れを知らぬ少年ジョニー・ロットンが登場して言ったわけです。「よく見ろよ。王様はどこをどう見たって、ありゃ裸だろ。」それまで大人たちが必死に支えてきたルールの崩壊する音が聞こえました。

本当はジョニーも怖くなかったわけじゃありません。得体の知れない圧力や怖さを感じてなかったはずはありません。にも関わらずひとり勇気を振り絞ったのは、何よりまず、その圧力に押し潰されそうだった自分自身を救いたかったためです。

ピストルズが俺を救ってくれたんだよ。ピストルズが俺を惨めさのどん底から、労働者階級の貧困生活から助け出してくれたんだ。ピストルズに参加したおかげで、俺は既成の枠組みにとらわれず、自分のアタマでものを考られるようになった。以来、俺は変わずそうし続けてる。俺は自分の考え方に自信を持ってる。失敗したとか、間違っていたとか、馬鹿なことをしたなんて、少しも思っていない。そんな気持ちになってしまうような、浅はかな考え方はとうの昔に捨てたんだ。

俺は人生にきちんと決着をつけたいんだ。正しいものにしたいんだ。自分だけじゃな 。ほかの人たちも、もっとマシな生き方ができるようにしたいと思っている。

人がどう思ってるかは知らないが、ピストルズの曲はみんなそういう歌なんだ。権利を剥奪された人間の歌だ。そりゃ今まで生きてきて色々良いこともあったよ。だからといって、子どもの頃受けたひどい仕打ちを忘れることはできない。俺をでき損ない扱いして、不当に扱った規則や決まりを決して忘れはしない。

emusic Interview: John Lydon

今年の2月、BBC 6 Music で放送された「One Drop」を初めて聴いたとき、何か昔初めてピストルズを聴いたときのような感じが甦りました。もちろん曲調はピストルズとは似ても似つかないのに、です。今までジョン・ライドンの中で二つに分かれていたピストルズ的なものと PiL 的なものが、一つになりつつあるんだと感じました。何がそう感じさせているのかは、すぐに分かりました。従来の PiL の曲にはなかったどこか暖かみのあるサウンドと共に、歌の主語に We が使われているからです。

ご存知の通り「God Save The Queen」や「Pretty Vacant」など、ピストルズ時代の曲には主語として We が頻繁に登場しています。ところが PiL の時代になると(Fodderstompf のようなごく一部の例外を除き) We は使われなくなり、主語はもっぱら I になりました。「俺たち」を封印し、常に「俺」の立場からだけ歌うようになったのです。これは俺だ、おまえじゃない。俺の歌だ。安易におまえと俺を同一視するな、というのが 、ピストルズから PiL へのジョン・ライドンの大きな変化であったわけです。

20年ぶりのニューアルバム「This is PiL」とその中の曲「One Drop」は、PiL 史上初めて、ジョン・ライドンが自分自身に We と歌うことを許した記念すべき曲です。曲の前半は次のように歌われます。

俺の名はジョン、ロンドンで生まれた
俺は人の弱みにつけこんだりしない
それが俺の流儀だ

俺たちの法則、それはルールと無縁、自由であること
混沌が俺たちを生んだ
俺たちを変えることなど、誰もできない
誰もそのわけを説明できない
だがそれこそが
俺達が俺達たる所以(ゆえん)

年齢なんか関係ない
俺たちは皆ティーンエイジャーだ
俺たちは絶望から這い出して
注目の的となった
俺たちが
最後のチャンスだ
俺たちが
最後のダンスだ

これだけだと、ジョンが自分自身とピストルズや PiL の仲間たちのことだけを歌っているようにも聞こえますが、曲の後半でそうではないことが明らかになります。

俺たちはロンドンで生まれた
ロンドン以外でも生まれた
ロンドンでも生まれた
ああ本当は、世界中いたるところで生まれたのさ

そう、この曲はジョン個人やその仲間のことだけ、あるいは同世代の人間やロンドンのことだけを歌ったものではありません。「俺たち」の歌です。

世界中であらゆるものが経済的、社会的な崩壊の危機に瀕している。この問題を自分なりに理解するためには、ごく個人的なところから考え直さなくちゃならない。だから俺は自分の子どもの頃のことを分析したんだ。まだ音楽の世界に入る前、仕事のない一人の若者として、どう感じていたかってことさ。それで「俺たちはティーンエイジャーだ。年齢なんか関係ない。」ってリフレインが生まれたんだ。

俺たち末端の人間のことなんか少しも考えない政府は、邪魔者以外の何者でもない。昔から少しも変わっていないんだ。不幸なことに行き着く先はいつも暴動さ。ほかに俺たちに何ができるって言うんだ?暴動ってのは、手っ取り早い息抜きなんだよ。だがそれは常に、誰かが傷付けられたり殺されたりという最悪の結果に終わる。

もちろん暴動を容認しようなんて考えはさらさらない。だが暴動に加わってしまう連中の気持ちはよくわかる。毎日がフラストレーションで、爆発しそうな状態なんだよ。開放弁のない圧力鍋みたいなもんさ。あらゆる問題の原因がそこにあるんだ。

俺は幸運にもキャリアのスタートで、歌を書くという役割を授かった。そして、それを途中で放り出さず、正しく誠実に作り続けることに力を注ぎ続けてきた。俺にとってはそれが人生最高のチャンスで、捨て去るなんて考えられない。俺の歌は俺の魂から生まれる。音楽が俺の魂なんだ。レディー・ガガも言ってるだろ「こうなる運命の(もと)に生まれてきたんだ (Born This Way)」って。

Public Image Ltd. What You Get

2012/06/29

ママは俺の髪をカールして口紅を塗り、傷跡を隠してくれた (Born This Way - アリス・クーパー)

Alice Cooper @ Credicard Hall
Alice Cooper @ Credicard Hall, a photo by Focka on Flickr.

今月開催されたボナルー・フェスティヴァル、インターネットで中継されたため観た方も多いことでしょう。私も観ました。目当ては最終日の大トリ、アリス・クーパーです。去年のツアーに参加していたギターのスティーヴ・ハンターが今年はいないのですが、その分オリアンティがバンドに馴染み、ゾンビ・メイクをして弾きまくってました。

アリスの場合、出し物が色々あるためか、通常シーズンを通じてセットリストはほぼ固定です。アンコールは Elected で、これで終わりだなって思っていたら、もう一曲やってくれました。インダストリアルなアレンジのイントロで、オリアンティのギターが入ったところで「ああ、よく知ってる曲だ」ってわかりました。よく知ってる曲なんだけど、あれ?これ、何だっけ?

俺が子どもの頃、ママが言ってた
「私たちはみんな、生まれながらのスーパースターなのよ」
ママは俺の髪をカールして口紅を塗り、傷跡を隠してくれた
「あなたはちっとも変じゃないのよ、坊や」
ママは言った
「神様はあなたを理想的な存在として作られたの」
「だからほら、頭を上げて、前へ進むのよ。」
「いい?ママの言うこと、よく聞くのよ」

俺には俺だけの美しさがある
だって神は間違ったものを作ったりしないからな
俺は間違っていない
こうなる運命の(もと)に生まれてきたんだ

自分を恥じることはない
自分を愛することから、始まるんだ
俺は間違っていない
こうなる運命の(もと)に生まれてきたんだ

俺の名前はアリスだって言ったら、親父は腰を抜かしてた
親父には、まるで理解できなかった
化粧をして、行儀悪くふるまったが、そんなのは序の口
変人になることは、罪なんかじゃない
あいつらには、どうすることもできない
俺たちのことなんか何もわからないんだから
いいか?俺の言うことを、聞き逃すんじゃないぞ

俺には俺だけの美しさがある
だって神は間違ったものを作ったりしないからな
俺は間違っていない
こうなる運命の(もと)に生まれてきたんだ

自分を恥じることはない
自分を愛することから、始まるんだ
俺は間違っていない
こうなる運命の(もと)に生まれてきたんだ

このアリス・クーパーの Born This Way に対するガガ様からのツィート。

@realAliceCooper 身に余る光栄でございます、殿。歌詞を自分用に変えて歌った部分もすばらしい。#フランケン・ガガとぜひ共演したい

「身に余る光栄です(I am not worthy)」ってのは、もちろんウェインズ・ワールドのネタ。さすがガガ様は礼儀というものをよく心得てらっしゃる。

2012/06/28

ハイム(Haim)、デビュー EP 「Forever」のアナログ盤は枚数限定

haim-the-band
haim-the-band, a photo by TreasureLA on Flickr.

最近 Haim をキーワードにこのブログへ飛んでくる人が結構います。さすがみなさんお目が高い、お耳が肥えてる。そう、今、大注目の三姉妹バンド、ハイム(Haim)は今年の SXSW 出演と、それに前後して発表されたデビュー EP「Forever」が話題になり、注目を集めてるバンドです。

これだけ話題になれば、すぐに大手レコード会社と契約してアルバムをリリースするのが従来のパターンだったんですが、ハイムはまだどことも契約してません。EP「Forever」は自主制作で CD 発売はなく、ネットで MP3 を無料配布してただけです。それでも NME の2012年上期ベスト・ソング20に選ばれるというところが、音楽業界の変化を感じさせます。

現時点で唯一の公式音源が「Forever」なんですが、数量限定のアナログ・レコードが7月2日に発売されることになりました。Rough TradeNational Anthem のサイトで予約受付中です。

一方 MP3 の無料配布は既に終了して、ダウンロード販売に切り替わっています。ところが売ってるのは iTunes Store UK だけなので、残念ながら日本からは購入できません。EP の内容はそのまま SoundCloud にもアップされているので、ダウンロードし損ねて、レコードプレイヤーを持ってない人はしばらくこれで我慢するしかありません。

(2012/07/16追記) 日本の iTunes Store でも購入できるようになりました。

現在ハイムはイギリスをミニ・ツアー中、BBC などのラジオにも出演してプロモーション活動を行なっています。スパークスやホワイト・ストライプスみたいに、本国アメリカよりイギリスで先に人気に火が付くパターンになりそうです。

Q: あたたたちは今年の SXSW で注目を浴び、その後ネットを中心に新人バンドとしては異例の評価を受けるようになったわけですが、こんなに早く認められるなんて予想していましたか?

いいえ、全然! SXSW ではただ興奮してプレイしただけ。最高だったわ!

Q: 人々があなたたちの音楽に惹かれる理由は何だと思いますか?

昔のレコードを聴いてみて。答はきっとそこにあるわ。

Q: デビュー EP の Forever を出したばかりですが、何かもう次の計画(フルアルバムなど)はあるんですか?

レコード用の曲はもう85%くらいできてるのよ。だからあとはスタジオへ入って録音するだけ。

Q: スタジオワークは苦手だって話を聞きましたけど?

わたしたちの頭の中ではたくさんの音楽が鳴ってるの。だからレコーディングでは、わたしたちが望む現実の音を見つけ出すのに苦労するのよ。だけどきっと、ちゃんとできるわよ。

Q: 曲はどんな風に作るんですか?

たいてい何かのビートとかドラムのトラックから始めて、メロディはその後についてくるの。詩に書くのは自分たちが知ってることや知ってる人のこと。友達から聞いた話や、夢に見た内容が歌になることもあるわ。

Q: メンバーが姉妹だってことがマイナスになることはありますか?ケンカはよくするんですか?

バンドも家族も似たようなものよ。わたしたちの場合、たまたま家族がバンドのメンバーだっただけ。もちろんちょっとしたケンカはよくするわよ。たいてい原因は誰かが黙って誰かの服を着たとかだけどね。わたしたちお互いずっと親友同士であり、同時に「ふざけんじゃないわよ!」って仲なのよ。

HAIM INTERVIEW (DON’T PANIC 18.06.12)

ということで、日本で CD などが発売されたり、ツアーで来日するまではもう少し時間がかかりそうですが、YouTube にはライヴの模様が色々上がってますので、こちらをお楽しみください。

Haim Live at Dingwalls
今月18日、ロンドンでのライヴ。アンコールでパパ・ハイムとママ・ハイムが登場、伝説のバンド Rockinhaim を再結成しています。
Haim Live at The Satellite
今年の2月20日、LA の The Satellite でのライヴ。
Haim Live at Bowery Electric
昨年10月21日、ニューヨークの Bowery Electric でのライヴ。
HAIM at the Palace Theater
2009年11月27日、LA The Palace Theater でジュリアン・カサブランカスのサポート・アクトを勤めたときの模様。このとき一番下のアラナはまだ16か17。

そしてこちらが Forever のプロモーションビデオです。ひとつ気になるのが、エスティがおへそのはるか上まで引っ張り上げてはいてるスカート。ああいう着こなしが今 LA で流行ってるんでしょうか?

2012/06/23

ロックのステージが伝統芸能になる日 (二代目アリス・クーパーを考える)

Alice Cooper & Orianthi
Alice Cooper & Orianthi, a photo by Mike__Lawrence on Flickr.

前回「これからは旅芸人一座の時代だ」という話をしたので、この人に触れておかないわけにはいけません。アリス・クーパーです。業界デビューは1967年ですから、この道45年の大ベテランです。マリリン・マンソン、ロブ・ゾンビ、キッスなどに大きな影響を及ぼし、シアトリカルなステージとショック・ロックの創始者として知られる偉い人です。アリス・クーパー一座を率い、今も精力的にライヴ活動を続けています。

ロック音楽というものが生まれてそろそろ50年くらい経ちます。ロックが生まれて間もない頃は演る方も聴く方も若くて「ロック音楽 = 若者の音楽」のように思われていたのですが、当然そんなの錯覚で、時が経つに連れ人は年を取っていきます。今では60代、70代のロック・ミュージシャンもリスナーも珍しくありません。

何十年にも渡って活動を続けているロック・ミュージシャンはけっこうたくさんいます。ただし、昔一世を風靡したアーティストでも、その後のキャリアの中で新たなファンを獲得できなければ、観客は中年や年寄りばかりになってしまいます。

ところがアリスは違います。アリスのステージというのは、ぶっちゃけ40年前も今も、あまり変わっていません。変わっていないのになぜか、常に新しいファンを獲得し続けています。アリスのライヴには兄ちゃん、姉ちゃん、おじさん、おばさんだけでなく、最近ファンになったガキんちょや、アリスと同年代のじいちゃん、ばあちゃんまで、他に例を見ないほど幅広い年齢層のファンが集まります。メタルなギターが鳴り響くステージの最前列でばあちゃんがガキんちょと一緒に「あ〜い、らぶざでぇっど」と歌ってる姿、これほど感動的な光景がほかにあるでしょうか?

新たなファンを常に獲得し続ける理由、それはもちろんアリス自身の作詞、作曲能力やステージ・パフォーマーとしての才能、魅力によるものであることに疑いはありません。だけどそれだけじゃないと思います。アリスのステージや作品にはアリス自身を越えた何かが宿ってるんだと思います。

日本の伝統芸能の世界でよく使われる言いまわしに「芸は一代限り」というのがあります。人の才能とか魅力というのは他人に引き継げません。その人だけのものです。だけど一方で、個人の才能を越えて引き継げるものがあるからこそ、「伝統」芸能というものが成り立つわけです。

ロック音楽とそのコンサートいうのは、まだ歴史の浅い芸能です。だからまだ伝統として引き継ぐべき形が見出せていないのだとも言えます。だけどアリスのステージは?アリスはひょっとしたら、今後数百年に渡って引き継がれる普遍的な何かを既に見つけたんじゃないかと思うのです。

普通、人は「俺は18歳、だけど頭は赤ん坊のまま、心はもう年寄り」とか「俺は死体が大好き」なんて歌やギロチン、縛り首パフォーマンスに伝統としての価値を認めたりしません。ですが、確かにここに何かあるんです。世代を越えて人を惹き付ける何かがあるんです。それをアリスが発見したんです。

アリスは今年64歳なんですが、今でも年間80本とか90本という、驚異的な数のステージをこなしています。ずっとそれを続けてます。旅芸人なんです。ですが体力的に考えて、今のようなステージができるのはあと数年でしょう。ここから先は勝手な妄想なんですが、アリスは今、自分の芸を引き継ぐべき跡取りを探してるんじゃないかと思うんです。

一年ほど前、アリスのバンドにオリアンティ(Orianthi)が加わりました。マイケル・ジャクソンの This is It にも出ていた、まだ20代の若き女性ギタリストです。何の根拠もないんですが、アリスはこのオリアンティを二代目アリス・クーパーにしようと考えてるんじゃないかな、と思うんです。

Q: アリスと一緒にやることになった経緯を教えてもらえますか?

ボブ・エズリンからのメールがきっかけだったの。ボブとはフィフィ・ドブソンの曲で一緒に仕事したことがあったんだけど、私がニューアルバムをレコーディングしていたナッシュビルまで彼が会いに来て、アリスのバンドでやってみる気はないかって誘ってくれたのよ。アリスとは一度アメリカン・アイドルで一緒に School's Out をプレイしたこともあったし、すごく惹かれる話だったのよ。

でもやってみたらこれマジですかって感じだった。だってアリスの曲を全部1週間で覚えなくちゃならなかったんだから。だけどこういうチャレンジは大好き。自分を未知の新しい分野に挑戦させるの。ミュージシャンってそういう人種なのよ。

Q: ええと、あなたはまだ15歳でしたよね?アリス・クーパーの長年に渡る膨大な作品についてあまりご存知なかったのでは?

15よりはちょっとだけ老けてるわよ!(笑) もちろん School's Out や Poison とか曲は色々聴いていたわ。アリスのことはずっと、すばらしくクールで最高のオリジネーターだと思っていたけど、バンドでアリスの曲をカバーしたことはなかっただけ。

1週間かそこらの大急ぎでレパートリーを覚えてみて分かったのは、曲がすごくうまく書かれてるってことだったの。クールなギター・パートがたくさんあるだけじゃなく、プレイヤーがさらに活躍できる余地が残されているのよ。スティーヴ・ハンターと一緒にプレイできるのも楽しい。今までやってきたことはまったく違う経験なのよ。

Q: マイケル・ジャクソンと一緒に仕事をした後ですから、間違いなくたくさんのバンドやツアーのオファーがあったと思うんですが、なぜアリス・クーパーを選んだんですか?

それが正しいと思ったからよ。ホンモノのロックンロールで、今まで私がやったこととは全然違っていたから。私はロッキー・ホラー・ショーみたいで、演劇的なアリスのステージが大好きなの。単なるコンサートじゃなくて、まさにショーなのよ。彼は素晴しいパフォーマーであり、ホンモノの存在感を持ってる。私はそういうのをやりたかったのよ。

Interview: Orianthi on touring with Alice Cooper

ね、なかなかいい娘でしょう、オリアンティ。二代目アリス・クーパーもありかなって思わない?もしオリアンティが来年のツアーと次のアルバムのレコーディングに参加するなら、俄然その確率は高くなると思います。

もちろんそんないきなりじゃなく、これから10年くらいかけて徐々にステージ上でのオリアンティの役割を増やして、その後、初代アリス・クーパーの引退と同時に二代目襲名披露を行うって感じでいかがでしょう?

あと30年くらい経って貫禄の付いたオリアンティがアリス・メイクで「私が車をドライヴ、あんたは私のタイヤの下敷き」って Under My Wheels を歌うの聴きたくない?オラは聴きたいなあ。