2011/05/30

昔々、ヒース生い茂る荒涼たる国からケイト・ブッシュというお嬢さんが日本へやってきて... (Moving - ケイト・ブッシュ)

On the moors by zootle
On the moors, a photo by zootle on Flickr.

最近「ケイト・ブッシュ ディレクターズ・カット」の検索キーワードで先日書いた句読点のない記事に飛んでくる人がずいぶんいるなあと思って調べてみたら、Google で今この記事がトップにランクされてんの。ええーっ、いいのかなあ。商業音楽サイトとかでもっとちゃんと紹介した記事があるでしょう?とか思ってまた調べてみたら、ない。日本語のアルバム紹介やインタビューの記事ぜんぜんない。

で、さらに調べてびっくりしたんだけど「ディレクターズ・カット」の日本版 CD の発売ってなんと2ヶ月後、7月まで出ないの。うっそお。今回のアルバムはケイト自身のレーベル Fish People からのリリースなので契約でモタついたのかなあ?まあそんなことでレコード会社からの広告で収入を得ている日本の商業音楽サイトはケイト・ブッシュの記事を自粛、ケイト・ブッシュの新作は存在しないことになってるらしい。

ロッキングオンなんかは今年の1月に「ケイト・ブッシュ、今年中になにかしらのリリース?」って記事が出て、その後は先週の「『ディレクターズ・カット』が UK チャートで初登場2位」って記事だけ。なんかライターの人たち、書きたいときに書きたいことが書けなくて可哀想。オラが代わりに書いてあげます。ケイト・ブッシュの新作はすでに出ています。素晴らしいです。iTunes Store とか輸入盤で入手できます。

そういえばロッキングオンで思い出した。ケイトは昔々の1978年に一度だけ来日して歌ったことがあるんです。東京音楽祭というのに出演するためだったのですが、このときロッキングオンがインタビューしてるんですよ。ロッキングオンにとって初めての本物のインタビュー記事だったのかもしれない。インタビュアーは松村雄策さん。編集後記のオマケみたいな扱いで半ページくらいの小さな記事だったように記憶しています。

東京音楽祭でのケイトのパフォーマンスはテレビで放送されたんですよ。もちろんオラは見ました。びっくりしました。そのときの様子、うれしいことに YouTube で見られます。1曲だけです。この1曲歌うためだけにデビューして間もないケイトがイギリスからはるばるやって来てくれました。そしてこの1曲で充分という最高のパフォーマンスを見せてくれました。

言っとくけど、これ口パクじゃないからね。歌も演奏も生の一発勝負。この頃はまだワイヤレスマイクというものが普及してなかったので、胸にぶら下げた花飾りみたいなのにマイクを隠して歌っています。よく見るとわかるはず。

2011/05/28

カーズ - ゲイリー・ニューマン

Gary Numan by Capital M
Gary Numan, a photo by Capital M on Flickr.

先日ウィキペディアを見ていて、ゲイリー・ニューマン(Gary Numan)の項目にたったこれだけしか書かれていないことに気づきました。アナログ・シンセサイザー音楽のパイオニアとして、クラフトワーク(Kraftwerk)なんかと一緒に再評価されているもんだとばかり思っていたのだけど、日本ではほとんど無視?個人的にはそれほど思い入れのあるミュージシャンじゃないんですが、もうちょっとちゃんと聴いてあげてよ、ゲイリー・ニューマン。

ゲイリー・ニューマンが登場したのは1978年です。シンセ入りのパンクバンドみたいな感じで登場したんですが、最初はパッとしませんでした。ところがサウンドの中心をギターからシンセサイザーに移した2枚目のアルバム「Replicas」からのシングル「Are 'Friends' Electric?」がイギリスでナンバーワンヒットとなり、続いてゲイリー・ニューマン名義で出したアルバム「The Pleasure Principle」は世界的なヒットとなりました。

日本でレコードが発売されたのは1980年になってからだったと思いますが、やはり「The Pleasure Principle」はたくさん売れました。実際に何枚売れたのかは知りませんが、その後数年、中古レコード屋さんで「在庫過剰のため引き取りできないレコード」の筆頭に上がっていたのがゲイリー・ニューマンでした。

アナログ・シンセサイザーのサウンドが当時そんなに珍しかったかというと、そんなことはありません。もうとっくにシンセサイザーそのものは楽器としての普及期に入っていたのですが、ゲイリー・ニューマンの場合その使い方が斬新だったのです。人力で演奏される単調なドラム、ベースの上にどこか「もわっと」としたシンセサイザーのサウンドが覆います。メロディーは単調で同じフレーズが執拗に繰り返されます。さらに天然ディレイのかかったような彼の声が乗っかり、全体が明るいような暗いようなぼわっとしたもわっとした音の世界が展開されます。聴いているとすごく心地良いような、でもどこか不安な感じのする、奇妙なバランスで成り立っているサウンドです。

最近すっかりインダストリアル兄貴としての地位を確立したトレント・レズナー(Trent Reznor)も昔からゲイリー・ニューマンが大好きで、2009年のナイン・インチ・ネイルズ(Nine Inch Nails)最終ツアーではゲストに招いて一緒にステージに立っています。

今回紹介するのはそのときのビデオで、昔の大ヒット曲「カーズ(Cars)」を演ってます。注目したいのはゲイリー・ニューマンのステージ・アクションです。マイクを両手で押さえてのしかかるように歌う様はまるでトレント・レズナーみたいです。一方のレズナー兄貴は後ろで演奏、曲の間奏部分ではタンバリンを振っているのですが、どう見ても筋トレにしか見えません。

車の中にいれば
最高に安全
すべてのドアをロックする
それが車の中で
生き延びる唯一の方法

車の中にいても
ラジオだけは受信できる
きみの声が聴ける
だから車の中で
何日もこのままで平気

車の中にいると
頭の中のイメージはすぐに消えてしまう
だからお願い
きみ自身がここに来てよ
車のドアを開けるから

車の中で
今夜ここを出発しようかと考えた
とはいえ車の中で考えることは
なにもかも
間違っているみたいだけど

2011/05/21

戦うゴム紐娘 (ラバーバンド・ガール - ケイト・ブッシュ)

えっとケイト・ブッシュ(Kate Bush)の「ディレクターズ・カット(Director's Cut)」については先日も書いたばかりですが、どうも世間では古い曲の単なるリミックスと受け取っている人が少なくないようです。いや違うんだってば。新作なんだってば。アルバム付属のブックレット冒頭でご本人もこのように語っています。

何年かの間私は「The Sensual World」と「The Red Shoes」の曲をいくつか選んでやり直したいと思っていました。オリジナルの録音からミュージシャンのベストなパフォーマンスを保ちつつそのトラックを取り出して、それをまた縫い合わせる際に新たなシーンとテクスチャーを加えてみたかったのです。つまり映画のディレクターズ・カットのようなことを音楽でやろうとしたわけです。ですがこれらの歌をもう一度歌ってみると自分が間違った(キー)でドアを開けようとしていることに気づきました。だから私は別な(キー)を用意しました。そしてドアを開けてみると...。」

まあインタビューで「次のアルバムの曲はもうでき上がってて...」なんてことを言ってるので知らない人が「ディレクターズ・カットは本当の新作が出るまでのつなぎ?」と勘違いするのも無理ないとは思いますが、長年ケイトのファンやっていると分かるんです。そんなに簡単に次は出ないんです。時間感覚が普通のミュージシャンとは違うんです。おまけに大切な一人息子はもう12歳です。そろそろ思春期で「うるせえ、ババア!」とか言い出す年頃です。そんなんなったらもうケイトが大変なことになってアルバムどころでなくなるのは目に見えてます。個人的にはケイトみたいな母親を持った息子の方が大変だなと思います。同情します。

今回のアルバムには完全な新録音が3曲収録されています。中でもハイライトはアルバム最終曲「ラバーバンド・ガール(Rubberband Girl)」です。サウンドがなぜか突然ストーンズのベガーズ・バンケットです。ブルース・ハープまで入ってます。「ストリート・ファイティング・マン(Street Fighting Man)」になってます。

「もうガールってトシじゃないだろ。ばあさんはさっさと引退しな!」とか言う元気な娘さんがいたら、ぜひぜひ挑戦してください。ケイトはいつでも受けて立ちます。どこからでもかかってきなさい。

木々が揺れているのを見ると
ゆらゆら揺れているのを見ると
逆らってばかりの私より
ずっと分別があるみたい

ゴム紐は勢いよくはね返る
ゴム紐はビートをはね返す
私がゴム紐みたいに柔軟なら
すぐに立ち直れるのに

ゴム紐は勢いよくはね返る
ゴム紐でポニーテールを束ねて
ゴム紐みたいにピーンと響けたら
ゴム紐娘になれるのに

私はゴム紐娘
私はゴム紐娘
ゴム紐娘になりたい

たとえカタパルトから発射されたって
地面にしっかり着地して
またすぐに立ち直る

ゴム紐は勢いよくはね返る
ゴム紐はビートをはね返す
私がゴム紐みたいに柔軟なら
すぐに立ち直れるのに

ゴム紐でズボンをとめて
ゴム紐でポニーテールを束ねて
ゴム紐みたいにピーンと響けたら
ゴム紐娘になれるのに

私はゴム紐娘
私はゴム紐娘
ゴム紐娘になりたい

ゴム紐はビートをはね返す
ゴム紐はビートをはね返す
ゴム紐みたいにパチンとはじけたい
ゴム紐みたいにピーンと響きたい
私はゴム紐娘

2011/05/20

お日様さんさんさん (Sun - ジョン・ライドン)

Public Image LTD by benzpics63
Public Image LTD, a photo by benzpics63 on Flickr.

まもなくPiL(Public Image Ltd.)のツアーが再開されます。この夏にはジョニーおじさんが日本へやってきます。コンサートを楽しみに待っている良い子のみんなへおじさんからの注意事項。

6月6日のシェフィールド公演からツアーが始まりますが、オーディエンスは今回のツアーに何を期待できるでしょう?

自分自身を楽しむ、そうすることでオーディエンスとしてコンサートに関われる。自分自身を楽しめ、そしたら俺たちはもっと楽しめるように後押ししてやる。PiL とオーディエンスは素晴らしい絆で結ばれているんだ。PiL のオーディエンスに関して大いに気に入ってるのは、そのバラエティが豊富なことさ。実に様々な種類のおもしろい連中が集まってくる。一方ピストルズ時代は最悪だった。ユニフォームみたいにパンクファッションで身を固めた連中ばかりでさ。あの手の服装も最初に登場したときは斬新なものだったが、それもすぐに個性を主張するスタイルではなく単なるありきたりなファッションになった。だからメディアなんかに自分の好きなもの、嫌いなものを左右されるな。俺はとにかくものごとを分け隔てる壁をぶち破ることが好きなんだ。いつも心をオープンにしていろ、頭と魂を常に外に向けて開放していろ。

Lydon Time | Toast Magazine

ということです。よろしいですね。夏なので女性は浴衣姿で行くと、おじさんきっと喜ぶと思います。

それから最近のコンサートではいつも「In the Sun」という曲を合唱しているようなので、みんな歌詞をよく覚えておくように。1997年リリースのアルバム「Psycho's Path」に収録されてる曲です。ずっと廃盤になっていたのですが、来日に合わせて再発が決まったもようです。

お日さまの下でお座りして
自然に身をまかせると
何の因果か、自然がオラに意地悪する

駐車場が恋しい、コンクリートが恋しい
都会が恋しい、雨とみぞれが恋しい

自分でコントロールできる天気がほしい
穴という穴ぜんぶを水浸しにしたい
自然なんて心地よく感じたことない
自分の天気は自分で決める

脳たりんのダンスを踊らせて
脳たりんのダンスを踊らせて

お日様お日様お日様さんさんさん
お日様お日様お日様さんさんさん

2011/05/16

ディレクターズ・カット - ケイト・ブッシュ

イエスそうよまずあたしがシードケーキのかけらを口移しで彼に食べさせたのちょうど今年と同じうるう年で16年前のことだったわすごく長いキスで息が止まってしまいそうだったのイエスそうよ彼はあたしを山に咲く花みたいだって言ったのイエスそうよあたしたちはみんな花なの女の身体はイエスそうよこうやって句読点がないと息が続かなくてすごく苦しいでしょうでも仕方ないのだってジェイムズ・ジョイスが悪いのよユリシーズの最終章ペネロペイアはこうやってお尻の穴をなめたり彼をしゃぶったりとかいう話がてんこ盛りのモリー・ブルームのおしゃべりが句読点抜きでえんえん書かれているんですものイエスそうよこの章だけでも読むのに二時間じゃ足りないのよその間ずっと句読点なしなのよ信じられるイエスそうよもっと信じられないのはそんな話をそのまま歌にしようとしたケイト・ブッシュ(Kate Bush)よ1989年のアルバム「センシュアル・ワールド(The Sensual World)」のアルバム・タイトル曲はペネロペイアの一節をそのまま使って歌にしたものだったのだけどジョイスの孫に使用の許可を求めたら断られてしまったのもっともだと思うわイエスそうよだってこんなの歌にしようなんて普通の人間が思いつくはずないものジョイスの孫は頭のへんな女がへんなこと言ってきたまあじいさんのファンには元々へんなのが多いからなと片付けてしまったのかもしれないけど仕方なくケイトは歌詞を変えてリリースしたのだけどケイトのことだからあんのじょうずっと根に持っててそれだけじゃなくその後の1993年のアルバム「レッド・シューズ(The Red Shoes)」の出来もいまひとつ納得がいってなくてこの二つのアルバムにはすごく大切な曲があるのにそれを充分に表現しきれなかったと後悔していてというかこの二つのアルバムに収録したいくつかの曲は本来ひとつの作品としてあるべきものじゃないかとずっとずっと考えていて最近になって昔のトラックを再構成してヴォーカルを録り直してダメもとでもう一度ジョイスのユリシーズから使っていいかきいてみたらなんとオーケーの返事が出てケイトはうれしくて月まで飛んでいきそうなくらい喜んでできたのが今日発売になったばかりの「ディレクターズ・カット(Director's Cut)」なのよだからこれは断じて古い曲のリメイクなんかじゃなくてまったく新しいアルバムなのだからイエスそうよ件の「センシュアル・ワールド」も歌詞を元々のジョイスの一節を使ったものにしてタイトルも「フラワー・オブ・ザ・マウンテン(Flower of the Moutain)」になってるのだけどそんなケイトも普段は歴とした主婦で前作「エアリアル(Aerial)」で披露した親バカぶりも健在なの「Deeper Understanding」でコンピュータの声をやっているのが実は12歳になる息子です元々作品を作るのに時間がかかるというか自分が納得いくまで作り込まないと気が済まない人な上家事と音楽の両立で作品の間隔が数年空いてしまうのはどうしようもないケイトは次のアルバム製作に取りかかっていて来年にも次を出したいとか言っていますでもイエスそうよ昔からケイトを聴き続けているあたしたちは知っているのよそんなに早くできるはずがない早くても三年後まあ五年後あたりが良いところかなイエスそうよあたしはすべての匂いとあたしの胸を感じられるように彼を引き寄せイエスそうよ彼の心臓は狂ったように高鳴っていてイエスそうよ止まんなくなるわねこれしばらくこれでいこうかしら

2011/05/05

ザ・レインコーツ・アット BBMIX フェスティヴァル 2010

最近のレインコーツ(The Raincoats)のライブ映像、色々 YouTube に上がってるはいるんですが、どれもこれもハンディカメラで撮ったようなショボイやつばかりで、もっとちゃんとしたのないのかよ、レインコーツだぞ、レインコーツ、レインコーツが演奏してるんだからちゃんと撮ったの出せよとか文句言いながら探してたら出てきました。昨年の11月、パリでおこなわれた BBMIX フェスティヴァル 2010でのライブの模様です。フェスティヴァル主催者が公式にアップしたものなので、演奏もジーナ・バーチ(Gina Birch)の顔のシワも実にクリアに撮れています。

ところがですね、このヴィデオなんとアナ・ダ・シルヴァ(Ana da Silva)が出ていないんですよ。冒頭のインタビューで説明されていますが、ライブ当日のサウンドチェックのときアナが手首を骨折して演奏できなくなってしまったんです。ただでさえスカスカでよれよれのレインコーツのサウンドなのに、アナが抜けてステージが成り立つのか?もちろん誰もがそう思います。

ところがですね、アナには悪いんだけど、素晴らしいんですよ、このステージ。プリティだぜ、惚れ直したぜ!ジーナ・バーチ!こんなベースサウンド、絶対ジーナにしか作り出せません。アナの穴を埋めようとステージを右へ左へのヴァイオリンのアン・ウッド(Anne Wood)もファンタスティック。あなたもレインコーツに絶対欠かせないメンバーです。ホントすごいんですよ、このおばちゃんたち。

オラのおすすめ、ザ・レインコーツの「No One's Little Girl」と「Shouting Out Loud」、2曲続けてお聴きください。

2011/05/04

ツイン・ピークスの香り (Your Fonder Heart - アナイアス・ミッチェル)

Anaïs Mitchell by Niklas
Anaïs Mitchell, a photo by Niklas on Flickr.

デイヴィッド・リンチ(David Lynch)が映画を作らずにあまりぱっとしないサウンドスケイプなんてやっている今日この頃ですが、みなさんいかがお過ごしでしょう。

本日はアナイアス・ミッチェル(Anaïs Mitchell)さんをご紹介します。2011年の今なおツイン・ピークスの香りを漂わせている人はこのお姉さんをおいてほかにいません。次のヴィデオを見れば納得いただけることでしょう。かの有名なミス・ツイン・ピークスのコンテストを彷彿とさせる光景です。次にウィンダム・アールが狙っているのは彼女に間違いありません。

会場の野郎さんたちは、彼女の声と妙な足の動きを一瞬たりとも聞き逃したり見逃したりしないように、曲の間ずっと息を止めて見つめています。そして曲が終わった瞬間、雄叫びのような歓声が一斉に上がります。

一応説明しておきますと、アナイアス・ミッチェルさんはアメリカのヴァーモント州アディソン出身のフォーク歌手で2002年にCDデビュー、自分自身のコンサートのほかに2007年からは「ヘイディーズタウン(Hedestown)」というフォーク・オペラを主催し、あちこちで上演しています。昨年2010年にはこのオペラの曲を収録したアルバムがヒット、イギリスの wears the trousers magazine でジョアンナ・ニューサム(Joanna Newsom)の「Have One On Me」を抑えて年間ベストアルバムの第一位に選ばれています

2011/05/03

ジェシー・ジェーンの物語 (The Saga of Jasse Jane - アリス・クーパー)

Hamar Music Festival 2010 - Alice Cooper 05 by repost.no
Hamar Music Festival 2010 - Alice Cooper 05, a photo by repost.no on Flickr.

アーティストとか芸人が担っている仕事とは「普通に暮らしていただけでは見えない何かを見せること」ことです。もちろん普通の生活の中にも楽しいことや感動することはたくさんありますが、それだけでは満たされない「もっと何かを見たい、感じたい」という欲求を持っているからこそ人は映画や音楽を見たり聴いたりします。それが娯楽というものです。

中でも重要なのはエログロ、スプラッタです。日本の古典芸能、特に歌舞伎や文楽においてエログロ、スプラッタがその根幹を成す欠かせない要素となっているのはみなさんご存じの通りです。ただしエログロ、スプラッタが「常識ある社会人が見る健全な娯楽」として認知されている国は世界的にまだ少数派のようです。

アリス・クーパーは彼の声と歌詞、メロディーによって、私たちの普段暮らしている世界に似て非なる世界を作り出します。荒唐無稽でエログロ、スプラッタな世界です。アリスの歌の力とは聴き手が住んだことのない世界、経験したことのない人生の記憶を思い出させることです。

ジェシー・ジェーンの名前は知ってますよね?思い出せない?アリスが歌うジェシーの歌を聴いてみてください。懐かしく切ないメロディーと共にあなたがジェシーだった頃の記憶がよみがえることでしょう。

俺は今、テキサスの牢屋の中にいる

俺は姉貴のウェディングドレスを着て
ジュディ・ガーランドの歌を聴きながら
一晩中トレーラーを走らせていた

俺は今鉄格子の中だ

マックのハッピーセットを求めて
トレーラーを停め、中に入ると
店中みんな、こんなきれいな花嫁見たことないって感じだった

ジェシー・ジェーンは狂ってるんだろうか
それとも
蝶々みたいなドレスで着飾った、まともな男なんだろうか

金を払ってから
そのショボい町の労働者の方を振り返った
ひとりが顔を真っ赤にして拳を握り締め
手に持ったコーラを俺の顔にぶちまけた

ジェシー・ジェーンは狂ってるんだろうか
それとも
ファッションショー会場を探してる、ごく普通の市民なんだろうか

それで俺は頭にきて
ワンダーブラに挟んでいたピストルを取り出し
奴を撃った。みんな撃ち殺した
そして便所の個室に隠れているところを捕まった

俺の刑期は10年以上あるいは終身刑だ
ひとつだけ教えてやろう
俺はいつかここで
誰かすごくいい女房をみつけるんだ

ジェシー・ジェーンは狂ってるんだろうか
それとも
蝶々みたいなドレスで着飾った、まともな男なんだろうか

ジェシー・ジェーンは狂ってるんだろうか
それとも
ネバーランドに向かうピーターパンなんだろうか