2011/05/16

ディレクターズ・カット - ケイト・ブッシュ

イエスそうよまずあたしがシードケーキのかけらを口移しで彼に食べさせたのちょうど今年と同じうるう年で16年前のことだったわすごく長いキスで息が止まってしまいそうだったのイエスそうよ彼はあたしを山に咲く花みたいだって言ったのイエスそうよあたしたちはみんな花なの女の身体はイエスそうよこうやって句読点がないと息が続かなくてすごく苦しいでしょうでも仕方ないのだってジェイムズ・ジョイスが悪いのよユリシーズの最終章ペネロペイアはこうやってお尻の穴をなめたり彼をしゃぶったりとかいう話がてんこ盛りのモリー・ブルームのおしゃべりが句読点抜きでえんえん書かれているんですものイエスそうよこの章だけでも読むのに二時間じゃ足りないのよその間ずっと句読点なしなのよ信じられるイエスそうよもっと信じられないのはそんな話をそのまま歌にしようとしたケイト・ブッシュ(Kate Bush)よ1989年のアルバム「センシュアル・ワールド(The Sensual World)」のアルバム・タイトル曲はペネロペイアの一節をそのまま使って歌にしたものだったのだけどジョイスの孫に使用の許可を求めたら断られてしまったのもっともだと思うわイエスそうよだってこんなの歌にしようなんて普通の人間が思いつくはずないものジョイスの孫は頭のへんな女がへんなこと言ってきたまあじいさんのファンには元々へんなのが多いからなと片付けてしまったのかもしれないけど仕方なくケイトは歌詞を変えてリリースしたのだけどケイトのことだからあんのじょうずっと根に持っててそれだけじゃなくその後の1993年のアルバム「レッド・シューズ(The Red Shoes)」の出来もいまひとつ納得がいってなくてこの二つのアルバムにはすごく大切な曲があるのにそれを充分に表現しきれなかったと後悔していてというかこの二つのアルバムに収録したいくつかの曲は本来ひとつの作品としてあるべきものじゃないかとずっとずっと考えていて最近になって昔のトラックを再構成してヴォーカルを録り直してダメもとでもう一度ジョイスのユリシーズから使っていいかきいてみたらなんとオーケーの返事が出てケイトはうれしくて月まで飛んでいきそうなくらい喜んでできたのが今日発売になったばかりの「ディレクターズ・カット(Director's Cut)」なのよだからこれは断じて古い曲のリメイクなんかじゃなくてまったく新しいアルバムなのだからイエスそうよ件の「センシュアル・ワールド」も歌詞を元々のジョイスの一節を使ったものにしてタイトルも「フラワー・オブ・ザ・マウンテン(Flower of the Moutain)」になってるのだけどそんなケイトも普段は歴とした主婦で前作「エアリアル(Aerial)」で披露した親バカぶりも健在なの「Deeper Understanding」でコンピュータの声をやっているのが実は12歳になる息子です元々作品を作るのに時間がかかるというか自分が納得いくまで作り込まないと気が済まない人な上家事と音楽の両立で作品の間隔が数年空いてしまうのはどうしようもないケイトは次のアルバム製作に取りかかっていて来年にも次を出したいとか言っていますでもイエスそうよ昔からケイトを聴き続けているあたしたちは知っているのよそんなに早くできるはずがない早くても三年後まあ五年後あたりが良いところかなイエスそうよあたしはすべての匂いとあたしの胸を感じられるように彼を引き寄せイエスそうよ彼の心臓は狂ったように高鳴っていてイエスそうよ止まんなくなるわねこれしばらくこれでいこうかしら

2011/05/05

ザ・レインコーツ・アット BBMIX フェスティヴァル 2010

最近のレインコーツ(The Raincoats)のライブ映像、色々 YouTube に上がってるはいるんですが、どれもこれもハンディカメラで撮ったようなショボイやつばかりで、もっとちゃんとしたのないのかよ、レインコーツだぞ、レインコーツ、レインコーツが演奏してるんだからちゃんと撮ったの出せよとか文句言いながら探してたら出てきました。昨年の11月、パリでおこなわれた BBMIX フェスティヴァル 2010でのライブの模様です。フェスティヴァル主催者が公式にアップしたものなので、演奏もジーナ・バーチ(Gina Birch)の顔のシワも実にクリアに撮れています。

ところがですね、このヴィデオなんとアナ・ダ・シルヴァ(Ana da Silva)が出ていないんですよ。冒頭のインタビューで説明されていますが、ライブ当日のサウンドチェックのときアナが手首を骨折して演奏できなくなってしまったんです。ただでさえスカスカでよれよれのレインコーツのサウンドなのに、アナが抜けてステージが成り立つのか?もちろん誰もがそう思います。

ところがですね、アナには悪いんだけど、素晴らしいんですよ、このステージ。プリティだぜ、惚れ直したぜ!ジーナ・バーチ!こんなベースサウンド、絶対ジーナにしか作り出せません。アナの穴を埋めようとステージを右へ左へのヴァイオリンのアン・ウッド(Anne Wood)もファンタスティック。あなたもレインコーツに絶対欠かせないメンバーです。ホントすごいんですよ、このおばちゃんたち。

オラのおすすめ、ザ・レインコーツの「No One's Little Girl」と「Shouting Out Loud」、2曲続けてお聴きください。

2011/05/04

ツイン・ピークスの香り (Your Fonder Heart - アナイアス・ミッチェル)

Anaïs Mitchell by Niklas
Anaïs Mitchell, a photo by Niklas on Flickr.

デイヴィッド・リンチ(David Lynch)が映画を作らずにあまりぱっとしないサウンドスケイプなんてやっている今日この頃ですが、みなさんいかがお過ごしでしょう。

本日はアナイアス・ミッチェル(Anaïs Mitchell)さんをご紹介します。2011年の今なおツイン・ピークスの香りを漂わせている人はこのお姉さんをおいてほかにいません。次のヴィデオを見れば納得いただけることでしょう。かの有名なミス・ツイン・ピークスのコンテストを彷彿とさせる光景です。次にウィンダム・アールが狙っているのは彼女に間違いありません。

会場の野郎さんたちは、彼女の声と妙な足の動きを一瞬たりとも聞き逃したり見逃したりしないように、曲の間ずっと息を止めて見つめています。そして曲が終わった瞬間、雄叫びのような歓声が一斉に上がります。

一応説明しておきますと、アナイアス・ミッチェルさんはアメリカのヴァーモント州アディソン出身のフォーク歌手で2002年にCDデビュー、自分自身のコンサートのほかに2007年からは「ヘイディーズタウン(Hedestown)」というフォーク・オペラを主催し、あちこちで上演しています。昨年2010年にはこのオペラの曲を収録したアルバムがヒット、イギリスの wears the trousers magazine でジョアンナ・ニューサム(Joanna Newsom)の「Have One On Me」を抑えて年間ベストアルバムの第一位に選ばれています

2011/05/03

ジェシー・ジェーンの物語 (The Saga of Jasse Jane - アリス・クーパー)

Hamar Music Festival 2010 - Alice Cooper 05 by repost.no
Hamar Music Festival 2010 - Alice Cooper 05, a photo by repost.no on Flickr.

アーティストとか芸人が担っている仕事とは「普通に暮らしていただけでは見えない何かを見せること」ことです。もちろん普通の生活の中にも楽しいことや感動することはたくさんありますが、それだけでは満たされない「もっと何かを見たい、感じたい」という欲求を持っているからこそ人は映画や音楽を見たり聴いたりします。それが娯楽というものです。

中でも重要なのはエログロ、スプラッタです。日本の古典芸能、特に歌舞伎や文楽においてエログロ、スプラッタがその根幹を成す欠かせない要素となっているのはみなさんご存じの通りです。ただしエログロ、スプラッタが「常識ある社会人が見る健全な娯楽」として認知されている国は世界的にまだ少数派のようです。

アリス・クーパーは彼の声と歌詞、メロディーによって、私たちの普段暮らしている世界に似て非なる世界を作り出します。荒唐無稽でエログロ、スプラッタな世界です。アリスの歌の力とは聴き手が住んだことのない世界、経験したことのない人生の記憶を思い出させることです。

ジェシー・ジェーンの名前は知ってますよね?思い出せない?アリスが歌うジェシーの歌を聴いてみてください。懐かしく切ないメロディーと共にあなたがジェシーだった頃の記憶がよみがえることでしょう。

俺は今、テキサスの牢屋の中にいる

俺は姉貴のウェディングドレスを着て
ジュディ・ガーランドの歌を聴きながら
一晩中トレーラーを走らせていた

俺は今鉄格子の中だ

マックのハッピーセットを求めて
トレーラーを停め、中に入ると
店中みんな、こんなきれいな花嫁見たことないって感じだった

ジェシー・ジェーンは狂ってるんだろうか
それとも
蝶々みたいなドレスで着飾った、まともな男なんだろうか

金を払ってから
そのショボい町の労働者の方を振り返った
ひとりが顔を真っ赤にして拳を握り締め
手に持ったコーラを俺の顔にぶちまけた

ジェシー・ジェーンは狂ってるんだろうか
それとも
ファッションショー会場を探してる、ごく普通の市民なんだろうか

それで俺は頭にきて
ワンダーブラに挟んでいたピストルを取り出し
奴を撃った。みんな撃ち殺した
そして便所の個室に隠れているところを捕まった

俺の刑期は10年以上あるいは終身刑だ
ひとつだけ教えてやろう
俺はいつかここで
誰かすごくいい女房をみつけるんだ

ジェシー・ジェーンは狂ってるんだろうか
それとも
蝶々みたいなドレスで着飾った、まともな男なんだろうか

ジェシー・ジェーンは狂ってるんだろうか
それとも
ネバーランドに向かうピーターパンなんだろうか

2011/04/27

ケイト・ブッシュとフリーソフトウェア革命 (Deeper Understanding - ケイト・ブッシュ)

今から20年前の秋、C Magazine という雑誌の付録として、あのプログラムがオラの手元に届いた。5インチのフロッピーディスクに収められたそのプログラムは djgcc という名の C コンパイラだった。人類に深遠なる叡智をもたらすソースコード付きのソフトウェアだった。

オラは「グニュー、グニュー、グニュー」と3回唱えてパソコンにフロッピーをセットした。だけどコンパイラは動かなかった。当時最先端の32ビット CPU 80386が必要だったのだ。オラのパソコンは16ビットのやつだった。


前作「Aerial」から5年、ケイト・ブッシュ(Kate Bush)の新作「ディレクターズ・カット(Director's Cut)」はその名の通り既発表曲の新編集バージョンを収録したアルバムです。「The Sensual World(1989)」と「The Red Shoes(1993)」から選ばれた11曲で構成され、3曲は完全な新録音、そのほかの曲もヴォーカルとドラムがすべて録り直されています。リリースは5月中旬の予定です。

このアルバムからシングルとして「Deeper Understanding」が先行発売されています。パーソナルコンピュータをテーマに歌ったこの曲が最初にリリースされたのは1989年。一般にはまださほどコンピュータが普及していなかった時期です。もちろんインターネットなどはなく、普通の電話回線を使ったパソコン通信がごく一部の人の趣味として行われていた時代に作られた曲です。

今ではパソコンだけなくスマートフォンやタブレットなどを使ったネットアクセスがごく普通の人たちにも普及し、このケイトの新作の情報を得たり、ビデオを見たりしています。そのネットは djgcc で育ったプログラマや数多くのフリーソフトウェアによって支えられています。1989年にティーンエイジャーとしてこの曲を聴いていた少年、少女たちは、30代あるいは40代のおじさん、おばさんになっています。

さて、2011年の現在、この曲はどんな意味を持つのでしょう。

人がみんなよそよそしくなり
毎日夕暮れになるとぼくは
コンピュータの電源を入れ、一緒に過ごすようになった

ぼくは、雑誌を通じて手に入れた新しいプログラムを起動した

画面にメッセージが表示される
「寂しいの?それとも道に迷った?まず音声入出力装置を用意して」
ぼくは実行キーを押した

すると声が聞こえた
「こんにちは、ようこそ。あなた何もかもすべてにうんざりしてるのね。じゃあ私があなたに本当の愛と深い叡智を与えてあげましょう。」

2011/04/13

俺の最高傑作はまだ存在しない - ジョン・ライドン

Public Image LTD-4 by benzpics63
Public Image LTD-4, a photo by benzpics63 on Flickr.

昨年10月に義理の娘アリ・アップ(Ari Up)が病死して以来、「(妻の)ノーラのそばにいてやらなくちゃならない」と音楽活動を休止していたジョン・ライドン(John Lydon)ですが、5月からの PiL ツアー再開をひかえてエンジンがかかり始めたようです。ニューアルバムについてのインタビューが Yahoo! UK に掲載されています

俺の最高傑作はもうすぐ出る次のアルバムだ。間違いない。作り上げたことに満足し誇りを感じる作品になる。

だが最新作に大興奮したとしても、やがてまた、別のやり方、アイデアやアプローチを使って新たな曲を書き始めることになる。自分の過去を振り返って満足しているようなアーティストにろくな奴はいない。

人間ってのは、自分がそれまでできなかったことを達成したときにはじめて大きな喜びを感じるもんなんだ。

俺も21歳のときは、自分がもし50歳になんてなったら恥ずかしさのあまり死んでしまうだろうと思っていたよ。ワカモノの特権さ。無知という名のね。せいぜい楽しむことだ、ワカモノ。

だが自分が正しいことやっていて、それを成し遂げようと思い続けてるなら、たとえいくつになろうとも毎朝目覚める価値があるってもんさ。

2011/04/10

それまでとはまったく違う世界 (ファイヴ・イヤーズ - デイヴィッド・ボウイ)

David Bowie - The Rise And Fall Of Ziggy Stardust And The Spiders From Mars (1972) by luna715
David Bowie - The Rise And Fall Of Ziggy Stardust And The Spiders From Mars (1972), a photo by luna715 on Flickr.

「ジギー・スターダスト・アンド・ザ・スパイダース・フロム・マーズの栄華と没落 (The Rise and Fall of Ziggy Stardust and the Spiders from Mars)」というデイヴィッド・ボウイ(David Bowie)のアルバムがあります。1972年、今から40年近く前に発表された作品です。

アルバムはひとつのストーリーに沿って展開するいわゆるコンセプト・アルバムになっていて、人類の滅亡まであと5年という世界が描かれています。デイヴィッド・ボウイはその世界に突如彗星のように現れたロックスター、ジギー・スターダストを演じています。

今回紹介する「ファイヴ・イヤーズ(Five Years)」はこのアルバム冒頭を飾る曲です。あと5年しかないとニュースで報じられた直後の町の様子と、それを目にした青年(後のジギー・スターダスト)の心象風景が歌われています。

自分たちにはあと5年しか残されていない、それを知ったとき人はどうなるのか?世界はどうなるのか?日本に住む人の多くは今、これをかなり明確にイメージできる状態にあるのではないでしょうか?

絶望し途方に暮れる人がいます。お祈りをする人がいます。何を根拠に滅亡すると言うんだ、ちゃんとしたデータを示せ!と主張する人もいます。何とか対策を講じて滅亡を防ごうとがんばる人もいます。今がチャンスと株を買ったり売ったりに忙しい人もいます。今現在苦しみの真っただ中にいる人や5年を待たずに死んでしまう人もいます。

もしあと5年しか残っていないとしても、多くの人はその5年を生き続けるわけです。仕事をしたり、ごはんを食べたり、子供の面倒を見たりしなくちゃなりません。淡々と生活していくしかない。だけどそれまでとはまったく違う、そんな世界です。

広場を通り抜けると、たくさんの母親たちが泣いていた
ぼくらにはあと5年しか残されていない、そのニュースが報じられたところだった
ニュースキャスターの男は泣きながら、世界は間もなく滅びるのだと言った
その涙に濡れた顔を見て、嘘じゃないとわかった

電話やオペラハウスの音、大好きな曲のメロディーが聴こえた
少年たちや玩具や電気アイロンやテレビが見えた
身の回りのものをすべて覚えておかなくちゃならない気がして
ぜんぶ頭に押し込もうとして、ぼくの頭は破裂しそうになった
太った人、痩せた人、背の高い人、低い人
それからありとあらゆる無名な人、有名な人
ぼくは今まで、これほどたくさんの人を愛おしく感じたことはない

ぼくと同じくらいの年頃の少女が正気を失って、小さな子供たちを殴っていた
もし近くにいた黒人が止めなかったら、殺していたかもしれない
片腕の兵士が車のホイールをじっと見つめていた
ひとりの警官が跪き、牧師の足にキスをした
その光景を見た同性愛者が嘔吐した

ぼくがきみを見たのは、アイスクリームパーラーだったと思う
優雅にミルクセーキを飲みながら、笑い、元気に手を振る姿を
まさか自分がこんな風に歌われるなんて思ってもみなかったはず