2011/12/31

May the road rise with you (Rise - パブリック・イメージ・リミテッド)

fifty-one by athene.noctua
fifty-one, a photo by athene.noctua on Flickr.

PiL の代表曲「Rise」については以前も書いたんですが、間も無く2011年も終わろうとしてるんで、また書きます。

この曲には二つの印象的なフレーズが出てきます。ひとつは「Anger is an energy」です。これはそのまんまですから、特に説明の必要はないですよね。

もうひとつの重要フレーズは曲のタイトルにもなっている「May the road rise with you」です。アイルランドの伝統的な祝福の言葉に「May the roads rise to meet you」というのがあって、これが元になっているようです。でもちょっと待ってください。道というのはふつう rise したりしないもんです。

じゃあ道と同じように長く続くもので rise するものが何かないのかといえば、あります。川です。

if a river rises somewhere, it begins there

地下にたまった雨や雪解け水がある場所に突然 rise して流れ出したもの、それが川です。これでイメージがわきましたよね。ジョニーおじさんが歌う「道」は突然 rise するんです。

歩むべき道が
きみの前に立ち現れんことを
きみ自身が
道の源とならんことを

八木の野郎さんなんかは、この曲を聴くと急にヤクザに優しくされた情婦みたいにヨロッとなってしまうそうです。

それではみなさん良いお年を。May the road rise with you.

2011/12/29

帽子の中からウサギを取り出して見せましょう (Pulling Rabbits Out of a Hat - スパークス)

sparks9 by The Untrained Eye
sparks9, a photo by The Untrained Eye on Flickr.

切ない気持というのが洋の東西を問わず、偉大なポップソング、ラブソングを生み出す大切な要素であることは、多くの人が認める事実です。

ですが先日ふと「切ないって、英語でどういえばいいんだっけ?」と思って調べてみたんですが、なんかぴったりくる言葉がないんですよ。辞書には heartrending とか disconsolate という単語が載っているんですが、なんか大柄なハリウッド女優が号泣しながらハンカチで鼻水をチーン、ズズーッとやってる姿を想像してしまって、どうもしっくりきません。

かといって英語圏の人たちが「切ない気持」というものを理解していないのかといえば、そんなことはありません。なぜならスパークス(Sparks)という世界最高に切ないバンドが、絶大な人気といえないまでも、40年という長い間支持され続けているからです。

「切ない」という単語が存在しないからこそ、存在しない言葉を伝えようとして、ラッセル・メイル(Russell Mael)の声はあんなにも切ないのかもしれません。

「Pulling Rabbits Out of a Hat」はこれまで二度レコーディングされていて、同名のアルバム(1984)に収録されてるオリジナルのほか、セルフカバー・アルバム「Plagiarism (1997)」に入ってるオーケストラ・バージョンもあります。ビデオは2008年におこなわれた21夜におよぶキャリア総括ライブ Sparks Spectacular 第17夜のもので、オーケストラ付きの「Plagiarism」アレンジです。

ラッセル・メイルはどうしてこんな歌を泣かずに最後まで歌えるんだろう。

ぼくは太陽と月をつかんで
世界を手のひらに収めることだってできる
何だってぼくにはたやすいこと
だけどきみには、わかってもらえない

帽子の中からウサギを取り出して見せる
帽子の中からウサギを取り出して見せても
返ってくるのは、礼儀正しい拍手だけ
ただ拍手、拍手、拍手、拍手だけ

天国と地獄の驚愕の光景を目前に見せ
シャンゼリゼの光景にうっとりさせた後
タイタニック号を引き上げたとき
客席のきみが、帰ってしまうのが見えた

帽子の中からウサギを取り出して見せる
帽子の中からウサギを取り出して見せても
返ってくるのは、礼儀正しい拍手だけ
ただ拍手、拍手、拍手、拍手だけ

「おもしろいわね」きみが言ったのはそれだけ
「おもしろいわね」そしてきみは去っていった

ぼくは貧乏人を王様にすることもできる
水をワインに変えることだってできる
どれもぼくにはたやすいこと
だけどどうして、きみの心を変えられないんだろう

帽子の中からウサギを取り出して見せる
帽子の中からウサギを取り出して見せても
返ってくるのは、礼儀正しい拍手だけ
ただ拍手、拍手、拍手、拍手だけ

2011/12/25

晴れて今、我々は落ち目だ! (Father Christmas - ザ・キンクス)

46 - Kinks, The - Father Christmas - UK - 1977 by Affendaddy
46 - Kinks, The - Father Christmas - UK - 1977, a photo by Affendaddy on Flickr.

キンクス(The Kinks)は長いキャリアを持ち、数多くの優れた作品を世に出した有名なロックバンドでありますが、同時期に登場したビートルズやストーンズ、あるいはザ・フーなんかに比べて今ひとつ人気がありません。それはなぜかと言えば、ソングライターであるレイ・デイヴィス(Ray Davies)の曲が常に「自分たちが落ち目であること」を意識して書かれているからだと思います。

「落ち目」というのは誰でもなろうと思ってなれるものではありません。なぜなら落ち目になるためには「過去の栄光」が必要だからです。イギリスというのはかつて大英帝国として栄華を極め世界を支配した、今は落ち目の国です。そしてレイ・デイヴィスはこの落ち目の国での人々の生活心情を、その天才的才能を持ってポップソングに結実させてきた人です。世界の中で落ち目というものを経験した国がまだ数少ないことを考慮すれば、キンクスの曲を共感を持って受け入れられる人の絶対数がまだ少ないということですから、イギリス国内ほどには世界で売れなかったとしても不思議ではありません。

落ち目になるにはまず栄光をつかまねばなりません。多くの国が競い合う中で栄光を勝ち取るには、もちろん国民の長年に渡る努力だけではなく、多くの偶然、幸運を必要とします。そして勝ち取った栄光もやがてその勢いが尽きる時がきます。下り坂になるのですが、最初はみんな気が付きません。なんか変だな、調子悪いな、でもまたがんばれば何とかなると考えて、下り坂であることを自覚しません。そのうち下向きの加速度が増して、みんなが「これはひょっとして落ち目というやつ?」と気が付いたときはもう後の祭りです。下向きの勢いがついているので、再び上昇に転じるには、前に上ったときとは比べものにならないほどの努力と幸運が必要となるからです。ほとんど無理といって過言ではありません。

でもまあ過去の栄光とはいえ、何もないよりましです。場合によっては過去の栄光に敬意をはらってくれる人もいるし、過去の栄光の残り物が全部すぐになくなってしまうわけでもないからです。

イギリスに比べるときわめて短いものでしたが、かつて日本にも栄光の日々と呼べるものがありました。そしてわたしたちは今、誰の目にも明らかな落ち目です。だからやっと日本でも、多くの人がキンクスの歌に共感できる日が来たんじゃないかなと思います。

イギリスは日本より先に、はるかに長く大規模な落ち目を経験しています。その中で様々な失敗をして、今もまだ落ち目から抜け出すどころか、さらに状況が悪化しているようです。だからこそ、わたしたちは今、キンクスを聴いて学ばなければならないのです。

キンクスのアルバムを全部揃えなさいとは申しません。せめてベスト・アルバムくらいは一家に一枚購入して、いざというときのために、代表曲はすべて歌えるようにしておきましょう。

メリー・クリスマス。

子供の頃、ぼくはサンタを信じていた
サンタの正体はパパだって知ってたけど
クリスマスの夜には靴下をつるして
翌朝プレゼントを開けてよろこんだもの

だけどこの前、ぼくは自分でサンタをやることになった
サンタの格好でデパートの前に立っていたら
チンピラのガキどもがやって来て、ぼくはいきなり襲われた
となりに立ってたトナカイもぶちのめされた

それから奴らは言った

おいサンタ、金をよこしな
ガキのおもちゃなんかに用はない
よこさないとぶち殺すぞ
俺を怒らせるなよ、俺たちは金が欲しいんだ
おもちゃなんか金持ちのガキにくれてやれ

弟はスーパーヒーローのコスチュームなんか欲しがらない
妹もぬいぐるみなんかには興味がない
ジグソーパズルやおもちゃの金なんかくそくらえ
俺たちが欲しいのは現金だけだ

おいサンタ、金をよこしな
よこさないとぶち殺すぞ
おいサンタ、金をよこしな
ガキのおもちゃなんかに用はないんだ

だけどもし仕事があるなら、ひとつ俺の親父にくれないか
食わせなきゃならない家族がたくさんいるんだ
もし仕事をくれるなら、俺はマシンガンを手に入れて
あんたを町のチンピラどもから守ってやる

おいサンタ、金をよこしな
ガキのおもちゃなんかに用はないんだ
よこさないとぶち殺すぞ
俺を怒らせるなよ、俺たちは金が欲しいんだ
おもちゃなんか金持ちのガキにくれてやれ

ありがとうな、メリー・クリスマス
いいクリスマスを過ごせよ
だがいいか、ワインを飲むときも
何ももらえないガキが、たくさんいるってことを忘れんなよ

2011/12/03

今年のクリスマス・シングル決定版 (It's A Christmas, Single - ヴィヴ・アルバーティン)

Viv Albertine by Man Alive!
Viv Albertine, a photo by Man Alive! on Flickr.

今年始めに紹介したヴィヴ・アルバーティン(Viv Albertine)のアルバム制作費用の Pledge がつい先日終了しました。最初はレコーディングは完了していて、マスタリング費用が必要なんだって話だったのですが、なんだかんだで結局新たに全部レコーディングし直したみたいです。デニス・ボーヴェル(Dennis Bovell)やブルース・スミス(Bruce Smith)などスリッツ時代からのメンツのほか、どこをどう間違ったのかジャック・ブルース(Jack Bruce)なども参加してるそうです。

3年前、再びギターを手に取って弾き始めたときのわたしには時間がたくさんあったけど、誰もわたしのやることに関心なんか持ってなかった。わたしはパンク・アイコンでも伝説でもないのよ。ヘースティングズのちっぽけな家の中でたくさん曲を書いてギターを弾いていただけ。でも今は逆に忙しくて時間がなくなってしまったことがすごく残念。

VIV ALBERTINE: NO SUN, NO SUGAR, NO ALCOHOL INTERVIEW BY PHIL KING

アルバムは来年春のリリース予定ですが、昨年の「Home Sweet Home (...at Christmas)」に引き続き、今年もクリスマスソングを発表しました。その名も「It's A Christmas, Single」です。ニューヨークのアート系ゴス娘二人組トーク・ノーマル(Talk Normal)との共演です。

ヴィヴ・アルバーティン、56歳、日焼けには注意しています。スポーツジムにも通っています。アルコールも砂糖も控えています。娘が一人いますが、夫とは離婚しました。クリスマス・シングルです。

クリスマス・シングルって好き、すごく楽しいもの
クリスマス・シングルって好き、ママもそう言ってた
シングルでいたいの、もう終わったんだもの
シングルでいたいの、もう精液は飲みたくないの

シングルでいたいの、わたしはシングル・ガールだもの
シングルでいたいの、恋人たちって臭いもの
シングルでいたいの、ひょっとしたら身体の調子が悪いのかも
クリスマス・シングルって好き、さあ一緒に歌いましょう

シングルでいたいの、わたし間違ったりしないんだから
シングルでいたいの、だからって夜中いびきをかいたりしないわよ
クリスマス・シングルって好き、悲しいことなんて何もないもの
クリスマス・シングルって好き、でもミンスパイって大ッ嫌い

曲の MP3 データは SoundCloud でダウンロードできるようになっています

2011/11/30

PiL ニューアルバムのタイトルは「This is PiL」?

PiL @ the Royale Boston by bradsearles
PiL @ the Royale Boston, a photo by bradsearles on Flickr.

9月のレコーディング完了のお知らせ以降、しばらく音沙汰のなかった PiL ですが、昨日 BBC Radio 6 の Breakfast Show にちょっとだけジョン・ライドン(John Lydon)が登場し、ニューアルバムについて話してました。

アルバムのタイトルはアルバム内容そのものを示す「This is PiL」になると思う。俺たちの全活動、あらゆる努力とエネルギーを注ぎ込んだレコードなんだ。

John Lydon names new PiL album

12曲入りのアルバムで来春リリース予定、そのすぐ後には UK/ヨーロッパのツアーも予定しているそうです。うまくいけば来年また、今度は新曲を引っ提げて日本に来てくれるかもしれません。

他のメンバーは最近どうしてるかといえば、ルー・エドモンズ(Lu Edmonds)はミーコンズ(Mekons)としてニューアルバム「Ancient & Modern」をリリース、一緒にツアーをやってます

ブルース・スミス(Bruce Smith)はポップ・グループ(The Pop Group)として ATP に出演した後、ヴィヴ・アルバーティン(Viv Albertine)のアルバム・レコーディングに参加しています。

スコット・ファース(Scott Firth)はザ・ディープ・モー(The Deep Mo)のギタリストとしてライブ活動をしています。

2011/11/26

雪をあらわすことばを50聞かせて (50 Words For Snow - ケイト・ブッシュ)

オラが子供の頃を過ごしたのは旭川市の郊外です。延々と続く田んぼの中にできた新興住宅地です。田んぼの灌漑用水路に沿って立ち並んだ長屋式の市営住宅で育ちました。

雪が降ると、近所の空き地や公園で雪ダルマを作りました。雪の少ない地方の人は知らないと思いますけど、どんな雪でも雪ダルマを作れるわけじゃないんです。気温の低い日に降るいわゆるパウダースノーだと雪は固めてもすぐに崩れてしまいます。比較的暖かい日に降る、湿り気を帯びたボタ雪じゃないと雪ダルマは作れません。

まだ誰も雪に足を踏み入れていない公園などで、まず手で小さな雪玉を作って地面を転がします。雪玉のまわりに地面の雪がくっついて、ちょっと転がしただけで子供の腕では持ち上げられないほど重くて大きな雪玉になります。雪があまり深くない時期だと泥や枯れ草が雪玉にまじって、けっこうダーティな作業になります。

そんな雪玉をふたつ作って重ねると雪ダルマになるのですが、いつも少しでも大きな雪ダルマを作ろうとして雪玉を大きくし過ぎてしまうため、頭の部分を胴体に載せるのは大変な作業で、ひとつ作るともう汗びっしょりでした。

でき上がった後はわずかの間、雪の上に座って雪ダルマ完成の感慨にふけった後、おもむろに立ち上がりドロップキックで一撃のもと雪ダルマを破壊するのが楽しみでした。

ケイト・ブッシュ(Kate Bush)の新作「50 Words For Snow」は「雪」がテーマです。2011年の今どき「雪をテーマに1枚作ってみました」なんて言って、そのアルバムが一気にチャートの上位に入ってしまうような人は、世界広しといえどもケイト・ブッシュをおいてほかにいません。

たぶん最初は冬のような寒さを感じられるアルバムを作ろうとしたはずなんだけど、曲を書き始めてみるとすぐに全部の曲が雪に関するものになってしまったの。

雪の結晶ってひとつひとつがすべて違っていて、考えるだけですごく楽しい。何百万という雪の結晶があっても、中にどれひとつとして同じものはないんだから。

雪には人が忘れていた記憶を呼び起こすような、とても強い力が秘められていると思うの。イギリスにはあまり多くの雪は降らないのだけど、だからこそとても大切なもののように思えるのかもしれない。雪のある風景を目にしたとき感じるような雰囲気、それをアルバムを通じて実現したかったのよ。

50 Words For Snow: A Conversation With Kate Bush

世界が経済危機に瀕し、貧富の差が拡大、若者の多くは仕事を得られず都市部の出生率は低下、多くの先進国で高齢化が進む一方、アフリカや中東を中心にデモや戦争が続き、炭素ガス排出と気候変動に対する有効な対策は何も取らていないまま、地震や津波などの災害の末、原子力発電所で大事故が起きている今、ケイト・ブッシュが選んだテーマは「雪」です。

ほとんどの曲はピアノを中心に据えたシンプルなアレンジで、静かに、ささやくように、ゆっくりと「雪」の風景が歌われます。彼女が今歌うべきものが「雪」だからです。

アルバム・タイトル曲の「50 Words For Snow」は、俳優のスティーヴン・フライ(Stephen Fry)が、雪を表現する様々な言葉を50個、ゆっくりと読み上げるだけの曲です。ケイトは「ひとつ目」「ふたつ目」..「27個目」という具合に番号を読み上げ、合間に「その調子よ、ジョー、あと44個!」「がんばって、あと22個、雪をあらわす言葉を50聞かせてちょうだい!、エスキモーに負けるんじゃないわよ!」と力強く歌います。

これを聴くとオラなんか、どうしてもがんばらなくちゃなって思って涙が出てきてしまいます。

変?変じゃないよ。

2011/10/30

さあ世界へ飛び立とう (The Burden Of A Song - マガジン)

And this is my quizzical face... by tortipede
And this is my quizzical face..., a photo by tortipede on Flickr.

マガジン30年ぶりのニューアルバム「No Thyself」、日本やイギリスは予定通り先週発売になりました。iTunes Store でのダウンロード販売も始まってます。具体的にどれくらい売れているのかはわかりませんがレーベルの予想を上回る売れ行きの様子で、Amazon UK や Amazon Japan では一時的な品切れとなっており、予約したのにまだ入手できてない人も結構いるようです。マガジンのポップでキャッチーなメロディ、陰鬱できもちわるく、わけのわかんないユーモアに溢れたサウンドと歌をみんな待ちわびていたんですね。

肝心の内容のほうですが、デジタル・レコーディング技術を駆使した現代的な音の肌触りでありながらも、古くからのファンが聴けばすぐに「ああ、マガジンだ!マガジンに間違いない!これがマガジンでなくて何がマガジンだ!」と感じられる仕上がりなってます。たとえば「Other Thematic Material」は「The Correct Use of Soap!」を連想させる軽快でダンサブルなナンバーで、踊りながら一緒に歌いたくなってしまうのですが、歌詞は人前で歌うとかなり差し支えのある内容になっています。また「Physics」は本アルバムの目玉といえる曲ですが、なぜか突然 Booker T. & the MG's なサウンドです。思わず「きみらはいつから忌野清志郎になったんだ?」とツッコミを入れたくなります。

さて、30年経っても変わらないマガジンのきもちわるさは、ヴォーカルを担当するハワード・ディヴォート(Howard Devoto)の声、歌詞、そしてルックスやしぐさによるところが、かなり大きなウェートを占めます。年をとって髪が完全になくなり、顔が丸くなったことでさらにその迫力が増しています。彼の大きくてぐりんとした目は、いつも笑っているようにも見えるし、ぜんぜん笑っていないようにも見えます。無表情かと思えば、この上なく表情豊かにも見えます。

怒ってるんだか、悲しんでるんだか、笑ってるんだかわからない。聴くほうも深刻な顔をすればいいのか、笑っていいのかよくわからないんだけど、何だかすごくきもちわるくて、きもちいい。それがマガジンの歌です。

ぼくのいやみなところが光ってる
ぼくの優しさが悲鳴をあげている
あんたもそうなりそう?
本当に家に帰るつもり?

ぼくの優しさといやみなんて、この程度
歌のリフレインなんて、そんなもの
何か音を鳴らして、ぼくが歌えるようにしてくれ

お願いだから、ぼくに近寄らないで
清潔な拘束衣の中で、ぼくに歌わせて
すばらしい作曲家だけど、残念賞しかもらったことがない
でもあんたは誘惑の眼差しを向ける
ぼくらが逃げ出すのを望んでる?
あんたはぼくの邪魔ばかりしているのに

ぼくの優しさといやみなんて、この程度
歌のコーラスなんて、そんなもの
何か音を鳴らして、ぼくが歌えるようにしてくれ

さあ世界へ飛び立とう
感動的な真実に圧力をかけよう
あらゆるところから未来へ向けて
性器から脳みそへ向けて
ぼくらが元いたところへ

さあ世界へ飛び立とう
感動的な真実に圧力をかけよう
ぼくらはあらゆるところから未来へ向かう
膨らませ、けば立たせるんだ
ぼくのいやみなところが光ってる
ぼくの優しさが悲鳴をあげてる
ぼくらが逃げ出すのを望んでる?
あんたはぼくの邪魔ばかりしているのに

ぼくの優しさといやみなんて、この程度
歌のコーラスなんて、そんなもの
何か音を鳴らして、ぼくが歌えるようにしてくれ

2011/10/22

U.S.L.S. 1 - パブリック・イメージ・リミテッド

Lockerbie Memorial by Mr Ush
Lockerbie Memorial, a photo by Mr Ush on Flickr.

1988年12月21日夜、ニューヨークへ向けてヒースロー空港を飛び立ったパンアメリカン航空103便がスコットランドのロッカビー(Lockerbie)上空を飛行中に貨物室の荷物に隠されてていた爆弾が爆発、バラバラになった機体が住宅地に落下炎上し、ロッカビーの住人11名を含む270名が死亡する大惨事となりました。ジョン・ライドン(John Lydon)は妻のノーラと共にニューヨークへ行くためヒースロー空港からこの飛行機便に乗る予定だったのですが、この日に限ってなぜかノーラが荷造りに手間取って乗り遅れたため、幸いにも事故を逃れています

事件はリビアが関与したテロと言われており、2001年に容疑者の一人がスコットランドで終身刑に処せられ服役、2003年にはリビアが国としての責任を一部認めて遺族に対する補償金の支払いに応じています。

リビアという国は人口570万人くらいで北海道と変わらない規模なんですが、石油資源を持っているため数字上はアフリカ大陸の中で1人当たりの所得が最も高い国です。16世紀以降長らくヨーロッパ、イタリアの支配下にあったのですが、第二次世界大戦後に独立を果たしました。石油採掘が本格化したのも独立後のことです。

石油を掘るには莫大な設備投資、資金を必要です。このため当時の国王らは資金を求めて親欧米路線を取ったのですが、その利益を王家一族で独占したため国民の間では反王家、反欧米、反キリスト教感情が高まる結果となりました。そこに登場したのがカダフィです。1969年、カダフィの率いる軍がクーデターを起こして政権奪取に成功しました。当時の彼は若干27歳、イギリスへの留学経験もあるエリート将校でした。つまりこの時点の彼は、王家と欧米による圧政に敢然と反旗を翻し、無血革命を達成した若きヒーローだったわけです。

その後彼はアフリカにおける反欧米、汎アラブ(反イスラエル)の急先鋒となり欧米諸国と対立します。反イスラエルのテロ、ゲリラ勢力を支援しているという理由により、リビアは度々空爆や経済制裁にさらされることになります。先のパンナム機爆破事件は、アメリカがリビアを空爆したことに対する報復テロだと言われています。そんな中カダフィは、国内政治には直接民主制という高邁な理想を掲げる一方で、独裁体制を強固なものにしていったようです。

とここまでは表向きの話ですが、いくら石油がたくさんあったって買ってくれる国がなければリビアの利益は生まれません。カダフィとアメリカやイギリスをはじめ欧米各国との間にたくさんの裏取引があったと言われてます。カダフィの独裁体制がここまで強固なものになったのは、表向きは敵対関係にある欧米各国がカダフィを支持していたためというわけです。欧米からすれば、カダフィとうまくやれば利益も得られるし、反イスラエル勢力への牽制も効くので一石二鳥です。空爆やテロは本気でやっているわけでなく、お互いの国民感情を抑えるためのデモンストレーションというわけです。実際、パンナム機事件は270名の犠牲者を生んだ大犯罪にもかかわらず、なぜか犯人は2009年に病気で余命僅かという理由により突然釈放されリビアに帰国しています(そして2011年現在も存命)。またカダフィが今回、裁判にかけられることもなく殺されてしまったのはなぜでしょう?

カダフィの住む邸宅が空爆されることはなかったし、大統領が乗る旅客機エアフォースワンも爆破されませんでした。犠牲になったのはいつも何も知らない一般の人たちです。正義感に燃えていたはずの若者がやがて独裁者や裏取引をする政治家になってしまうのはなぜでしょう?何を間違えたのでしょう?何かそうなってしまう力が働いているんでしょうか?わたしたちはどうしたらいいんでしょう?

そんなこと俺に聞くなよ。自分の頭で考えな。

U.S.L.S. 1
またの名を US エアフォースワン
無用の存在

砂漠の夜空に月が輝くころ
澄んだ陽光の裏の顔、隠されていた人格が姿を現わし
夜が明けぬうちに騒ぎを起こす

やつらは自らの計画を遂行する
自分ですべきことを持たないやつのために、良からぬ仕事を作り出す
厳重に閉じ込めていたやつが脱走する

やつらは自分の利益のためなら骨身を惜しまない

U.S.L.S. 1
無用の存在

雲が何もない空を引き裂き
この航空機に挨拶をする
貨物室に仕掛けられた爆弾

やつらは自分の利益のためなら骨身を惜しまない

U.S.L.S. 1
無用の存在

2011/10/19

PiLのライブCD「Live At The Isle Of Wight Festival 2011」で曲の収録順が違ってる!

P.I.L. - Public Image Limited by Joao Friezas
P.I.L. - Public Image Limited, a photo by Joao Friezas on Flickr.

PiLのライブCD「Live At The Isle Of Wight Festival 2011」が先日やっと国内でも発売されたのですが、Twitter などで「曲順が間違って収録されている!」という報告が多数上がってます。2枚組のCDなんですが、それぞれ最後の曲の「Religion」と「Open Up」が1曲目になってしまっているもよう。

私が7月に ConcertLive から直接購入したものは問題なかったので、レコード店や Amazon の販売用に最近出荷された分でだけ発生している問題みたいです。また Amazon UK に曲順が違うことに気づかないままレビューを書いてる人がいたので、日本販売分だけの問題でもないようです。

「苦情言って返品してもちゃんとしたのがいつ届くかわからないし、リッピングして聴くから...」と我慢してる人が多いみたいなんですが、ちゃんとクレーム言ったほうがいいと思うな。せっかくの素晴らしいライブ作品をこんなんしちゃって、発売元の ConcertLive にはちゃんと反省してもらわないと。

2011/10/12

Wild Man - ケイト・ブッシュ

Wild Man Single - released 11 October

こないだ「早くてもあと3年は出ないぞ!」と書いたばかりですが、ケイト・ブッシュ(Kate Bush)のニューアルバム「50 Words For Snow」が来月21日にリリースされます。先行リリースのシングル「Wild Man」はダウンロード版のみですが既に発売されています。

オラの名誉のために言っておくと、これ絶対「ディレクターズ・カット」出すときにはもうほとんど出来上がってたんだと思うぞ。そうじゃなければケイトが年に2枚のアルバムなんてあり得ない。きっとケイトが「新作と昔の曲を録り直したのでアルバム2枚分あるのだけど、また2枚組で出すのがいいかしら?」なんて言うのを聞いた EMI の担当者が「いやいや、そんなもったいないことを!ダメです!分けて別々に出しましょう。新作のほうは雪とか冬のイメージだから、リリースを遅らせてクリスマスにしましょう。今年のクリスマス前に一大キャンペーンを打ちます!これで私の暮れのボーナスも安泰です!」なんて言ったんだと思う。絶対そうに決まってる。

ということで2005年以来の待望の新曲「Wild Man」は雪男へのラブソングです。YouTube にアップされている Radio Edit は途中で唐突にちょん切れてるような印象を受けますが、その通りです。フルバージョンを聴きたい人はアルバムのリリースを待つなんて呑気なことをしていてはいけません。日本の iTunes Store でも DRM なしで売ってます

もうすぐ手稲山にも雪が降ります。

人は、あなたをケモノと呼んでいる。カンチェンジュンガの悪魔。ワイルド・マン。忌わしき雪男。

テントの中に横たわっていると、あなたの泣く声が聞こえてくる。山中にこだまする孤独な声。

ラクパ峠を通ったとき、何かが岩の上から飛び降りた。遠い昔、ガロ丘陵地帯でディプ・マラクが、雪の上に足あとをみつけた。

ダージリンの学校の校長が、タボチェ修道院の近くであなたを見かけた。雪の上で遊んでいるところを。ドアをドンドンと叩いた後、あなたは屋根の上にのぼっていった。世界の屋根の上に。それからツツジの木を引き抜いて、走り去っていった。

あなたのことを知りたがっている人たちがいる。あなたを捕まえ、そして殺してしまうでしょう。

逃げて。逃げて。逃げて。

ラクパ峠を通ったとき、何かが岩の上から飛び降りた。遠い昔、ガロ丘陵地帯でディプ・マラクが、雪の上に足あとをみつけた。

わたしたちは、雪の上にあなたの足あとをみつけた。そして、すべて掃き消した。

アンナプルナのシェルパからチンハイのリンポシェに至るまで誰もが、カイラス山からヒマーチャル・プラデーシュまでのすべての羊飼いが、雪の上の足跡を見ている。

あなたはラングールなんかじゃなく、大きなヒグマでもない。あなたはワイルド・マン。

ロンブク氷河で、溺死したあなたを見たという人がいる。あなたを捕らえたがってる人たちがいる。あなたはケモノなんかじゃない。ラマ僧たちの言う通り、あなたはケモノなんかじゃない。

2011/10/08

世界から談合がなくなりますように (Sweetheart Contract - マガジン)

Magazine at Manchester Academy - 17th February 2009 by Kerry Burnout
Magazine at Manchester Academy - 17th February 2009, a photo by Kerry Burnout on Flickr.

ハワード・ディヴォート(Howard Devoto)さんは類まれな注意力をそなえていて、一般のソングライターなら気づかないようなことも見逃さず、曲の題材として積極的に取り上げます。1980年リリースのアルバム「正しい石けんの使い方 (The Correct Use of Soap)」に収録され、シングルカットされた「Sweetheart Contract」もそのひとつです。この曲で彼は談合の問題に真っ正面から取り組んでいます。

2009年のマガジン(Magazine)再結成ツアーでは、ダークでお洒落な4人組おねえさんバンド、イプソ・ファクト(Ipso Facto)のロウザリー・カニンガム(Rosalie Cunningham)さんがバッキング・ヴォーカルとして起用されました。この曲の冒頭でハワードさんは一旦舞台の袖に下がり、ロウザリーさんと手をつないで再登場します。曲の間も手はしっかり握ったまま離さず、1本のマイクで頬を寄せ合って歌います。談合というものがいかに逆らい難く、淫靡かつ邪悪な魅力で人を惹きつけるのか、これでよおくわかると思います。

ぼくらは工事現場の足場の下で、ソファに座ってコップ酒を飲んでいた
情報筋によると、ぼくらは監視されてるらしい - これが会議の内容

ぼくには学歴がある
ずっと長い時間、ぼくが仕切っていた

ぼくはたくさんの武器を手に入れた、しこたま手に入れた
「何より健康が一番」とだけ書かれた馴れ合い契約のおかげ

ぼくが優位だった
ずっと長い時間、ぼくが仕切っていた

ぼくは行きたいんだ、間違いの向こう側へ
ぼくはずっと、自分自身に苦痛を強いて、破滅を待ちのぞんできた

ぼくは保険金を手に入れた
ずっと長い時間、ぼくが仕切っていた

ぼくの特技は、自分の身とまわりで起きたこと、すべて忘れてしまえること
新聞が売れるようなものには、いつでも何でも賛成するのがぼくの流儀

ぼくには学歴がある
ずっと長い時間、ぼくが仕切っていた

ぼくが優位だった
ずっと長い時間、ぼくが仕切っていた

ぼくは保険金を手に入れた
ずっと長い時間、ぼくが仕切っていた

でもあれは返したほうがいいな
ぼくらのものじゃないから

2011/10/06

ハワード・ディヴォート氏(59)による老いと死への心構え (Holy Dotage - マガジン)

And then Brer Rabbit said... by tortipede
And then Brer Rabbit said..., a photo by tortipede on Flickr.

年寄りなら誰でも知ってるのに、若者は誰ひとり知らないこと。それは、人は誰でもあっという間に年老いるということです。年寄りが若者の姿を見るとき、実は同時にその年老いた姿も見ているのですが、若者に見えるのは今の姿だけです。

ただしここ数年 YouTube が一般に普及してきたため、ちょっと事情が変わってきました。現在も活躍しているロックスターや俳優が30年、40年前、どんな恰好をして、どんな風に話し、どんな風に歌い、どんな風に動いていたのか、誰にでも手軽に見られるようになったからです。人類史上、きわめて重要な出来事だと思います。

30年前と今の姿を比較して、30年前の姿の中に30年後の現在の姿を見つけられるようになります。あるいは現在の姿の中に30年前の姿を見出すようになります。その結果、年寄りや若者はどのように変化するのか、それはまだこれからのことなので、よくわかりません。でも年寄りも若者も、ほんのちょっとマシになるんじゃないかと思います。

先日紹介したマガジンのシングル「Hello Mister Curtis (With Apologies)」の B 面がこの曲「Holy Dotage」です。テーマはずばり「老いと死」です。ぜんぜんそんな風に聴こえないとは思いますけど。

ぼくは、自分のたましいに不要なものを
ハエみたいに叩き落とした
後は好きなようにさせた
何もそれを妨げるものはなかったから

ぼくはおそろしく老いぼれて
死が今までになく、ますます確実になった
ぼくはおそろしく老いぼれて
死が今までになく、ますます確実になった

ぼくはゆっくり、たくさんのニュースをむさぼる
だけどやり方を間違ったので
だんだん弱っていくはずが
逆にたくましくなってしまった

歴史はけっしてくり返さないというが
いつもほとんど同じ韻を踏んでいる

さあ来たぞ
宇宙の物語から到着したばかり
パリパリの新デザイン

ぼくのディミニッシュ・セブンスなところ
大口をたたきだすと止まらない
ぼくのたましいに不要なもの
ぼくはそれを、ひとつだけ残した

ぼくはおそろしく老いぼれて
死が今までになく、ますます確実になった
ぼくはおそろしく老いぼれて
死が今までになく、ますます確実になった

さあ来たぞ
宇宙の物語から到着したばかり
パリパリの新デザイン

ぼくはおそろしく老いぼれて
死が今までになく、ますます確実になった
ぼくはおそろしく老いぼれて
死が今までになく、ますます確実になった

2011/10/05

歌う前にあらかじめ、心からおわび申しあげます Hello Mister Curtis (With Apologies) - マガジン

Hello Mister Curtis (With Apologies)

今月24日発売、マガジン(Magazine)のニューアルバム「No Thyself」からのシングル第一弾は「Hello Mister Curtis (with apologies)」です。ジャケットはなんと、デビューシングル「Shot by Both Sides (1978)」とまったく同じ、ルドン(Odilon Redon)が描いたキメラです。彼らのこの曲に賭ける意気込みがうかがえます。

ただしシングルといってもリリースされるのは10インチのレコードだけです。CD の発売予定はありません。アナログレコードのプレイヤーを持っていない人はジャケットを眺めながら念力で曲を聴かなければならないのかというと、そんなことはありません。アナログレコードを買うともれなく MP3 データのダウンロード権も付いてきます。とても親切で良い販売方法だと思いますが、ヒットチャート入りは難しそうです。

さて人生には、言うと人を傷つける、人の気分を害するとわかっていても、どうしても言わなきゃならないこと、言わずにいられないことがあります。そんなとき、どうしたらいいか。昔、モンティ・パイソンの人たちが良い方法を思いつきました。先に謝ってしまえばいいのです。

ハワード・ディヴォート、1976年芸能界デビュー、当年とって59歳、歌う前にあらかじめ、心からおわび申しあげます。

こんにちは、カーティスさん
ご機嫌いかが、コベインさん
きみたちの傷口はいったいどこですか?
ちゃんとおしえてください
どこが痛むんですか?

きみたちの苦痛
きみたちの苦痛
きみたちの苦痛
この苦痛から、ぼくを解放してください

こんにちは、カーティスさん
ご機嫌いかが、コベインさん
きみたちは、ぼくよりずっと勇気があります
だから、また同じことをやってくれますよね
後悔してませんよね
もう一度やってくれますよね

きみたちの苦痛
きみたちの苦痛
きみたちの苦痛
この苦痛から、ぼくを解放してください

こんにちは、カーティスさん
ぼくらがきみのことを、忘れてしまわないようお祈りします
だけどぼくは決めたんです
ぼくはキングみたいに死ぬんです
エルヴィスみたいに死ぬんです

人里離れた便所の中で

ぼくは、年老いてしまう前に死にたいんです
ぼくは、年老いてしまう前に死にたいんです

2011/10/03

Bitches Brew - マイルス・デイヴィス

Miles Davis' Bitches Brew Dogfish Head Brewery by walknboston
Miles Davis' Bitches Brew Dogfish Head Brewery, a photo by walknboston on Flickr.

マイルス・デイヴィス(Miles Davis)はこわい顔をしてわかりにくいギャクを言うおじさんです。いつもこわい顔をしてるので周りの人たちはギャグに気がつきません。でも言った本人は自分のギャグのおもしろさに耐えられなくなって、ひとり「ヒッ、ヒッ、ヒッ」とか「クッ、クッ、クッ」とやります。それでやっと周りの人は、ああ、ギャグを言ったんだなと気づくのですが、こわいので笑えません。

マイルスは時期によってまったく違う音楽をやってますが、アルバム「Kind Of Blue(1959)」の時期のものが特に人気が高く、日本では居酒屋さんの定番 BGM となっています。一方「電気マイルス」と呼ばれる1970年前後の作品群はここ30年ほど無視されてきたのですが、ここへ来てもう一度「電気マイルス」と彼のギャグを見直そうという動きが出てきているようです。

昨年 The Quietus でジョン・ライドン(John Lydon)が、PiL のレコーディングにマイルスが乱入してお茶目をやらかしたときのことを話してます。

俺が「Album」をレコーディングしてるときに、マイルスがスタジオに来たことがあるんだ。あのアルバムの曲は意図的にかっちりとした作りになってる。俺がポップな感覚やポップなアレンジなどの完璧な枠組みを追求していた時期だったからさ。で、俺がスタジオで雄叫びを上げていたら、誰かがトランペットを吹きはじめた。マイルスが俺の後ろに立っていたんだ。その音はうつくしかったよ。だけど完全にヴォーカルの邪魔をしていた。俺が歌う部分をトランペットで吹いてるんだ。同じメロディラインでさ。だから彼の演奏を使うことはできなかった。すごくおもしろいよ、だが申し訳ないがこれは俺のレコードで「偉大なるジャズ・ミュージシャン」のものじゃないんだ。

で、結局彼は「Album」の製作からはずされた。だけど、俺のやってる曲を彼が気に入ったことがわかってすっごく興奮したよ。なんたって俺はマイルス・デイヴィスのファンなんだからさ。

「Bitches Brew」は俺の大好きなアルバムだ。何よりドラムが驚異的で、カンの「Tago Mago」で聴けるヤキ・リーベツァイトのドラミングに通じるものがある。マイルスのアルバムの中でもベストなメンバーが揃ってると思う。ほかのアルバムは、日本人なら簡単にコピーして完璧な演奏をしてしまいそうだからな(笑)。だが「Bitches Brew」だとそうはいかない。マイルスのギグは何度か観たことがあるんだけど、彼がステージでやってるアイデアが気に入ってさ、俺も同じようにしてるんだ。彼はステージで聴衆に背を向けるんだ。ときどきそうすることで、自分の気持ちを高めるんだよ。手を振ったり投げキッスをしたり、ファックオフ!と叫んでる聴衆の反対側を向くんだ。そうやってある種の中断状態をつくることで、自分が望む音楽的な状態を保つんだよ。

My Favourite Miles Davis Album By Lydon, Nick Cave, Wayne Coyne, Iggy & More

たぶん「Bitches Brew」発表当時より、今の人たちの方がこのアルバムを楽しめるんじゃないかな。結構踊れそうでしょ。

2011/09/25

みんなのうた (Don't Ask Me - パブリック・イメージ・リミテッド)

最近の PiL のライブを見ていて、あれ?なんかあのおねえさんみたいだなあ、と思った人も少なくないはずです。そうなんです。ジョニーおじさんは「うたのおじさん」なんです。彼が生来持つ、その素質が明らかになった曲が1990年の「Don't Ask Me」です。単独シングルとして発表されたこの曲は、他の曲とはちょっと違ったコミカルな曲調で、ビデオも明らかに子供をターゲットとして意識しています。

もちろん子供相手だからといって、ジョニーおじさんは手を抜いたりしません。真剣勝負です。政治家だのリーダーだの、オトナが正しい答えを持ってるなんて考えるな、他人から答えが得られるなんて思うな、自分のアタマで考えろ!という曲です。音楽を使った情操教育というのは、かくあるべきだと思います。

シングル曲なのでベスト・アルバムに収録されています。今だと Plastic Box が4枚組で値段も安くてお得です。お子様をお持ちのみなさんはぜひ1セット購入し、子供と一緒に「どーんあすくみー、こざーい、どんのー!」と歌ってください。ロンドン下町なまりの英語も一緒にマスターできます。

もし川の水がなくなってしまったら、どうする?
じめんをほって水をさがしても、空には死の影がしのびよる
あきビンをたいせつにすればよかった
あきカンをちゃんとリサイクルすればよかった
プラスティックマンのいうことなんか、しんじるんじゃなかった

トイレットペーパーもない、森みたいにきえちゃった
ハチミツは好きかい?ハチがいなくてもハチミツができたらスゴいよな
じぶんのやることには、せきにんをもってくれよ
きみはおれのじんせいを、だいなしにしたんだ
せかいひとつの大きなケーキ、きみはじぶんの分だけ、おおきく切りすぎた

「いったいどうなってるんだ!?」みんなが、かなきりごえでさけぶ
おれにきかないでくれよ、知るもんか
「いったいどうなってるんだ!?」みんなが、かなきりごえでさけぶ
おれをせめないでくれよ、いったとおりだろ

しんぶんをみたり、ニュースをみたりするけれど
なにもりかいせず、かんがえないで、はきだすだけ
はいしゅつガスのコントロールなんて、いみあるんだろうか?
あかしおがやってくる、だれもさんせいしてないのに
ちきゅうおんだんかのせいで、あたまはもうろう
海をおおう、よごれたあぶらは、てんごくがせっぷくして流したせい
しょうらいのけいかくは、だれかがとくするためのもの
からだはおおきくなっても、あたまのなかは、あれはてたまま

せいひんは、たくさんのみりょくをつかって、ぶあつくほうそうします
まがいものをかくすには、150枚のほうそうしが、ひつようです
ちきゅうをほごするために、まるごとプラスチックでつつんでしまいましょう
きゅうきょくのパッケージのかんせいだ
おれは、しゅしょうとか、だいとうりょうが
ほんとうのことをいうのを、きいたことがありません

どろどろの水の中をおよがされて、しゃくねつの中で焼かれる
このてんきでふきとばされてきた、きみのぶんぴぶつを、おれはたべる
おれはこのすごく高い、やぐらの上にのぼらなくちゃならない
でもこのきょくげいが、せいこうするみこみはない
うちゅうじんも、たすけにこない
いったいどうしたらいいんだ!?

「いったいどうなってるんだ!?」みんなが、かなきりごえでさけぶ
おれにきかないでくれよ、知るもんか
「いったいどうなってるんだ!?」みんなが、かなきりごえでさけぶ
おれをせめないでくれよ、いったとおりだろ

ちきゅうと、お日さまと、お月さまにお別れだ

こどもをだますのなんて、かんたんさ

2011/09/23

PiL がツアーで新曲を披露しなかった理由

John Lydon a.k.a. Johnny Rotten by Joao Friezas
John Lydon a.k.a. Johnny Rotten, a photo by Joao Friezas on Flickr.

8月の日本でのコンサートを最後に今年のツアーを終了した PiL は、それまでツアーの合間に断続的におこなっていたレコーディングに復帰し、アルバム作成を完了したもようです。ジョン・ライドン(John Lydon)はトロント映画祭に行ったときのインタビューで「トータル6週間のレコーディングで12曲を録音した」と言ってました。ね、言ったでしょう。レコーディング直前に詩の10曲や20曲が燃えたところで、今のジョンと PiL にはそれをものともしない勢いがあるんですってば。

で、次の問題はどこのレコード会社と契約し、いつリリースされるかですが、オフィシャル・サイトのニュースによると「新しいスタジオ・アルバムが完成したが、リリースは来年」とのことです。

「うーん、年内のリリースはないのか、残念。レコード会社、まだ決まらないのかなあ。PiL くらいのネーム・バリューがあれば、いくらでも他のレコード会社からオファーがあると思うけどな。でなきゃさっさと自分のレーベルを立ち上げてリリースできるはずなのに、なぜそうしないんだろう?」って誰もが思いますよね。でも現実はそう簡単ではないみたいです。調べてみたら、去年おこなわれたジョンのインタビューでこんなのが見つかりました。

ツアーのセットリストには新曲が一曲もない。これはバンドがいまだ古いレコード会社との契約に縛られているためだ。
「(新曲を演奏することで)レコード会社から権利がどうこう訴えられるような状況にしたくないんだ。」

Punk rocker John Lydon has plenty of attitude to spread around

他のインタビューでは「新曲はやらないんですか?」という質問に対し「PiL は今までさんざん色んなところでパクられてきたからな。レコードを出すまでは演りたくないんだよ。」などとトボケていましたが、実はこういう事情があったんです。ヴァージン・レコードとの契約が継続しているため、移籍などによってヴァージンとの関係を絶ち切らない限り、勝手にレコードをリリースできない。もし新曲を発表すれば自動的にその権利をヴァージンに渡してしまうことになる、というのが真相みたいです。

ConcertLive から出ているところを見ると、古い曲を演奏したライブ CD のリリースについては契約に引っかからないみたいです。とりあえずファンとして力になれるのは、最新のライブ CD を買うことぐらいしかありません。「Live At The Isle Of Wight Festival 2011」、みんなで買いましょう。現時点での最高傑作です。CD の国内発売は遅れて10月になるそうですが、MP3 ダウンロード版は9月19日から販売が始まってます。余裕のある人は両方買っちゃってかまいません。

一方、ジョン以外のメンバーの動きですが、ルー・エドモンズ(Lu Edmonds)はレ・トリアボリーク(Les Triaboliques)としての活動を再開、ブルース・スミス(Bruce Smith)はポップ・グループ(The Pop Group)として ATP America の I'll Be Your Mirror への出演が決まっています。

Don't Be Mean - ザ・レインコーツ

The Raincoats by Jason Persse
The Raincoats, a photo by Jason Persse on Flickr.

ウェストボーン・グローブをあなたが歩いてるところを見かけた。手を上げていることに気づいた。空に向かって、うんと高く上げていた。でもそれはわたしに手を振っていたんじゃなくて、黒い大型のタクシーを停めるためだった。そしてあなたは素早く乗りこんで行ってしまった。

ねえ、わかってる?わたしは木なんかじゃないのよ。わたしの名前はBirchだけど、樺の木なんかじゃないの。なのにあなたはわたしを無視する。

それでもかまわないのだけど、やっぱりわたしは考えはじめてしまう。わたしたちが年を取って白髪頭になっても、きっとわたしのことを見て見ぬふりをするんだわ。きっとあの日みたいにふるまうのよ。

いつかある日、わたしたちは、それぞれ孫たちと一緒に公園のベンチに腰かけるの。そしたらあなたは「こっちにおいで!」って大きな声を出すんだわ。でも呼んでるのはわたしのことじゃなくて、孫のジミーかジェニーかジャックのこと。きっとわたしたちのどちらかは、心臓を悪くしてるわね。

「おじいちゃん、おじいちゃん!どうしたの?早く動物園へ行こうよ!」
「静かにしろ、ジミー!だまってわしの手を握って歩くんだ!」

それでもかまわないのだけど、やっぱりわたしは考えはじめてしまう。わたしたちが年を取って白髪頭になっても、きっとわたしのことを見て見ぬふりをするんだわ。きっとあの日みたいにふるまうのよ。

そんなのわたしの勝手な思い込みだって、きっとあなたは言うわね。妄想体質だとか何とか。でもあなたに会ってからもう1年以上たつのよ!もうこれ以上涙をかくせないの。

あなたは冷たくふるまって、去って行った。でもわたしは本当にあなたのことが大好きだったのよ!意地悪しないでよ!意地悪しないで!ねえ、わたしに意地悪しないでってば!

それでもかまわないのだけど、やっぱりわたしは考えはじめてしまう。わたしたちが年を取って白髪頭になっても、きっとわたしのことを見て見ぬふりをするんだわ。きっとあの日みたいにふるまうのよ。

さようなら、愛しい人。さようなら。

レインコーツ(The Raincoats)のおばちゃんたちは現在北米ツアーの真っ最中です。まあツアーと言っても7ヶ所だけなんですけどね。それでも1982年以来、スポットでのフェス出演などを除けば実に29年ぶりの北米ツアーです。あちこちのブログやニュースのライブ評で「すんばらしい!」という声が上がってます。

ライブで必ず演奏される「Don't Be Mean」は、1996年にリリースされた4枚目のアルバム「Looking in the Shadows」に収録されているんですが、けしからんことにこのアルバム廃盤なんですよ。ほかの3枚のアルバムは権利を取り戻して、自分たちのレーベル We ThRee からリリースしてるんですが、「Looking in the Shadows」だけは大手ゲフィン・レコードから出したことがアダとなってるのか、再発できないようです。ただし同じ曲の別テイクがEP「Extended Play」に収録されており、こちらは入手可能です。

この曲はジーナ・バーチ(Gina Birch)の作品で、彼女がリード・ヴォーカルを取っています。彼女が40歳の頃に作ったブライアン・フェリーばりのパラノイア・ラブ・ソングです。ジーナが50代半ばになった今もこの曲を大きな声で歌い、多くの人がそれに感動しているって事実、とても素晴らしいことだと思います。これこそパンクです。

2011/09/16

ジョン・ライドン、トロント映画祭に登場

Sons Of Norway by zaskem
Sons Of Norway, a photo by zaskem on Flickr.

先日紹介した映画「Sons of Norway」のプロモーションのため、ジョニーおじさんはトロント映画祭のプレミアショーに出席しました。いくつかのインタビューにも応じてます。カメオ出演しただけの映画にしてはずいぶんがんばるなと思ったのですが、出演や音楽提供だけでなく資金も一部提供し、エグゼクティブ・プロデューサーとしても名を連ねていたのでした。

映画のストーリーは Nikolaj Frobenius の自伝的小説をベースにしたもので、舞台は1978年、セックス・ピストルズが活躍していた時期のノルウェー、14歳の Nikolaj が主人公です。Tront.com のインタビュー記事ではこんなことを話しています。

Nikolaj に自分と共通するものを感じたんだ。パンク時代のあれこれじゃなく、おかしな点がさ。母親が出てくるところとか、いくつか俺の記憶を呼び起こすシーンがあるんだ。

それから父ちゃんが Nikolaj をヌーディスト・キャンプに連れてくシーン、俺がヒッピー世代に対して感じていたことをすっごくうまく表現してるよ。実に完璧にね。

映画を観てる間、すごく色んなことが頭の中をよぎった。ゆうべ他の観客と一緒に観たときは、ほかのみんなもそうなんだとわかってすごく感動したよ。こみ上げてくるものがあった。

映画への協力はすんなり決まったわけじゃなく、2009年暮れ、ちょうど PiL 再始動の頃、Nikolaj と監督の Jens Lien がストーカーまがいのしつこいアプローチを繰り返した末にジョンを説得したそうです。

あいつら、まるでイナゴの大群みたいだったんだよ。ギグには毎回付きまとって、ひっきりなしに電話がかかってきた。ほとんど嫌がらせだよ。だけどそれで興味を持ったよ。あいつらにとってはホントにホントに、そこまでして実現したいってことがあるってことだからさ。

話を聞いてみると、単に俺の名前を使いたいって話じゃなかった。映画のストーリーは純粋なもので、他の映画ではほとんど見られない現実の人間の視点で描かれていた。それも完璧に。つまりティーンエイジャーの悩み、増すばかりの苦痛、そして奇怪な行動をする両親とかさ。

それからこの記事「ジョニー・ロットンが皇室支持者に転向 (Johnny Rotten’s royal about-face)」なんてタイトルになってるんですが、言ってることはいつもと変わりありません。

彼女は魅力的だよ。俺は女王ばあちゃんが大好きだ。組織や体制に対する怒りと、特定の人間に対する怒りはまるで意味が違う。二つを混同すんなよ。

映画が日本で公開されるかどうかはまだわかりません。でも観たいな。次のビデオはまた別のインタビューですが、前に紹介したトレーラーよりもちょっとだけ長くジョンの出演シーンが観られます。でもやっぱり「ウンコだ!」としか言ってません。

2011/09/08

マガジンのニューアルバム「No Thyself」、間もなくリリース

Magazine : "No Thyself"

2009年に再結成を果たしたきもちわるいバンド、マガジン(Magazine)がレコーディング中という話は春に報じられていたのですが、ついにニューアルバム「No Thyself」が完成し10月下旬に発売されます。Wire-Sound のサイトで予約受付中です。国内盤 CD の発売は未定ですが、2009年のライブアルバム「Real Life and Thereafter」同様、Amazon や iTunes Storeで MP3 のダウンロード販売はされるんじゃないかと思います。

「Magic, Murder and the Weather (1981)」以来、実に30年ぶりです。ジャケットはご存知ルドン(Odilon Redon)が描いた一つ目の巨人、キュクロープス(サイクロプス)です。きもちわるいです。

今回のレコーディングのメンバーですが、ずっとマガジンできもちわるいベースを弾いていたバリー・アダムソン(Barry Adamson)は残念なことに昨年脱退し、代わってジョン "スタン" ホワイト(Jon "Stan" White)という人がベーシストとして参加しています。フェイスレス(Faithless)やグルーヴ・アルマダ(Groove Armada)のツアー・メンバーとして活躍していた人だそうです。「Holy Dotage」という曲が Sound Cloud にアップされていたので聴いてみると、けっこうきもちわるいベースを弾いてます。

11月にはイギリス10ヶ所でのきもちわるいツアーも予定されています。

2011/09/07

1988年8月エストニアでの PiL ライブ映像、期間限定公開

Estonia-8 by didkovskaya
Estonia-8, a photo by didkovskaya on Flickr.

(注: この記事に書かれている YLE でのライブ映像公開期間は2011年9月末で終了しましたが、その後 PiL 出演部分が YouTube にアップされました。この文章の最後に載せてあるビデオがそれです。)

1988年8月、当時はまだソ連の支配下にあったエストニアで初めて、西側のロックバンドを招いて Rock Summer Festival が開催されました。12万人が集まったこのフェスでPiL(Public Image Ltd.)は初日のヘッドラインを飾りました。そのドキュメンタリービデオがフィンランドのテレビ局 YLE のサイトで1ヶ月の期間限定で公開されています

PiL は61分あたりから登場します。「Public Image」と「Home」の演奏はちょん切られてるけど、「Rise」はほぼフルに収録されてます。今年撮影されたジョン・ライドン(John Lydon)のインタビューも収録されてます。アルバム「Happy?」期なので、若き日のルーやブルース・スミス(Bruce Smith)と共に今は亡きジョン・マッギーオ(John McGeoch)の勇姿も見られます。12万人はハンパないです。見渡す限り人がぎっしりいます。

当時、日本の音楽雑誌などで PiL はほとんど取り上げられなくなっていて、このフェスティバルについては片隅の小さなニュースとして載った程度だったのですが、ジョンをはじめ PiL のメンバーにとってはきわめて重要な経験だったようです。当時のインタビューで、ジョンは次のように話してます。

ステージに出てしばらくは興奮のあまり声が出なくて最初の2曲は大変な思いをしたよ。完全にアガってた。あんなの初めてだった。普段は一旦ステージに上がってしまえば平気なのにさ。

あそこ集まった連中は、俺たちがそこにいるってだけで死ぬほど愛してくれたんだ。本当にそれだけでさ。ものすごい驚きだったよ。俺はいつもブーイングを浴びてばかりでそれが当たり前だったからさ。セックス・ピストルズはブーイングを浴びずに演奏したことなんてないんだよ。俺が音楽を始めて最初の反応は「ブー!失せろ!クズ野郎!」だったからな。

これまでで最高の成果だよ。お偉いさんたちはこの10年ずっと俺をファシスト扱いしてきたが、普通の人たちはちゃんと俺のことを分かっていた。彼らは今まで俺のライブを観たことなかったし、もちろん俺と話をしたことなんてないんだぜ。彼らが唯一観ることができたのは、フィンランドのテレビで放送された、わずかな数の俺たちのビデオだけなのにさ。

今じゃビデオというものに対する考えが変わったよ。エストニアに行くまでは、ありきたりな退屈した連中が住んでて、誰でも自由にレコードを買えるところだと思ってたんだ。でもそうじゃなかった。彼らはテレビで「Rise」を観て(英語がよくわからないから)おかしな歌詞で一緒に歌うんだ。感動的だよ。しかもエストニアではそれは禁じられた行為だから、みんな人に知られないようにやっていたんだ。

(訳注: 当時のエストニアではもちろん PiL のビデオなんて放送していません。フィンランドの電波を違法に受信して観ていたわけです。)

PIL IN RUSSIA: HOLIDAYS IN ESTONIA

またルー・エドモンズ(Lu Edmonds)もこのときの様子を次のように語っています。

すごく不思議な会場だった。奇怪なサンゴのような形したコンクリート製のステージで、合唱隊とか5千人がステージに立ち、12万人を相手に演奏できるようなところだったんだ。だからステージ上の音はバカでかくて具合が悪くなるほどだった。聴衆は1万人が集まっていた。ソ連のフェスティバルで西側のロックバンドが演奏するのは俺たちが初めてだったんだ。

PiL のレコードを聴くことは、当時のソ連では許されていなかった。そのほかにもたくさんのレコードやバンドが禁止されていた。もちろんピストルズもダメだ。もし持っているところを見つかれば、牢屋にぶち込まれてしまうんだから。

Lu Edmonds interview

2011/09/03

ジョン・ライドン、ノルウェーの青春映画「Sons of Norway」に出演

Shit by danximage
Shit, a photo by danximage on Flickr.

9月8日から開催されるトロント国際映画祭にノルウェーの「Sons of Norway」という映画が出品されているんですが、この映画にはなんとジョン・ライドン(John Lydon)がカメオ出演していて、YouTube にもトレーラーがアップされています。

映画は Nikolaj Frobenius という人の自伝的小説 Teori og praksis(Theory or Practice) をベースにした話で、友達や家族のことで悩み多き思春期の少年がバンドを作って云々というありがちなものみたいですが、サウンドトラックにはセックス・ピストルズ(Sex Pistols)の「God Save The Queen」や「Pretty Vacant」が使われていて、ジョン・ライドンは本人役で出演しています。

ジョンが出演するのは1シーンだけみたいです。時間は夜、場所はお城みたいな建物の雪が積もったバルコニー、ジョンは主人公の少年の隣に立ち、彼に人生の重要なアドバイスをします。

ジョン「シット! ようするに排泄物だ。」

少年「ハイセツブツ?」

ジョン「そうだ、ウンコだ!」

何に関するアドバイスなのかまったくわかりませんが、健全な青少年に対するアドバイスとしてこれほど的確なものはありません。

撮影自体は昨年2月におこなわれたもので、撮影時の様子はノルウェーの放送局のサイトで見られます

2011/08/22

打倒ボブ・ディランのおぼこ姉妹デュオ (I Met Up With The King - ファース ト・エイド・キット)

First Aid Kit 010 by lactulli
First Aid Kit 010, a photo by lactulli on Flickr.

本日ご紹介するのはスウェーデンから来た姉妹デュオ、ファースト・エイド・キット(First Aid Kit)です。

3年ほど前、YouTuube で公開したビデオが評判となり、数多くのコンサートこなした後、昨年ファースト・アルバム「The Big Black & The Blue」をリリース、さらにジャック・ホワイト(Jack White)の目に止まり、今年の初めにジャックのプロデュースで Thirdman Reccords からもシングルを1枚リリースしています。2枚目のアルバムレコーディングも既に完了していて、9月からは US ツアーが予定されています。

つまりプロのミュージシャンとしてのキャリアはもう3年ほどになるのですが、姉ちゃんのヨハンナは1990年生まれで今年21歳、三つ年下の妹クララはまだ18歳です。

スウェーデン出身のおぼこ娘といってもさすがに今は21世紀ですから、二人はご両親のかけるパティ・スミス(Patti Smith)、ヴェルヴェット・アンダーグラウンド(Velvet Underground)やピクシーズ(Pixies)などを聴いて育ったそうです。ヨハンナはジャーマン・テクノにハマっていたんですが、妹のクララはなぜかカーター・ファミリー(Carter Family)などの古いアメリカン・カントリーが大好きで、13歳でギターを持って歌いはじめ、後から姉ちゃんも一緒に歌うようになったそうです。

ビデオはファースト・アルバムに収録されている「I Met Up With The King」です。ボブ・ディラン(Bob Dylan)を意識して書いた曲だそうです。並のおぼこ娘にはないサムシング・ウィズ・ダークネスがあります。ギターを弾きながらリード部分を歌ってるのがクララです。ヨハンナはエンディングでキーボードを頭で弾いてます。

王様に出会った
彼は自分の体が燃えてるんだって言ってた
王様に出会った
彼の体は腐りはじめていた
彼は
ぼくは以前と何も変わっていない
だから忘れないでと言ってた

だけど
誰も彼のことを信じなかった
誰も彼のことを信じなかった

ひとりのきれいな少女がいた
彼女は世界に恋をしていた
そしてある少年を愛した
少年は彼女の体が目当てで、心には見向きもしなかった
少年は彼女の持っていたものをすべて奪った
何も残さずせんぶ奪っていった

だけど
誰も彼女のことを信じなかった
誰も彼女のことを信じなかった

地面の泥の中に突っ伏すと
自分が王様になったような気がする
あの少女になったような気がする
みんな何かを考えていて
みんな何かを知ってるけど
私には何もわからない
歴史にとって、私たちは何の意味もない
神様、感謝します

あなたは私のことを信じる?
私のことを信じる?
きっと信じないわね
信じるはずないわ

2011/08/21

こわくないよ、ジョニーおじさんだよ、きみの味方だよ (Psychopath - パブリック・イメージ・リミテッド)

PiL @ Benicàssim by fiberfib
PiL @ Benicàssim, a photo by fiberfib on Flickr.

サマーソニック 2011 の大阪、東京への出演、そして新木場スタジオコーストでの単独公演と8月13日から3日間連続でおこなわれた PiL (Public Image Ltd.)の来日コンサートはすべて無事終了しました。Twitter などネット上にもこれらのコンサートに行った人たちの声がたくさん寄せられています。ジョン・ライドン(John Lydon)に関する評価をオラが独自に手法でまとめたところ、多かった声の上位三つは次のような結果になりました。

  • かっこいい!
  • チャーミング!
  • すごい声!

さらにこれらの結果を一言でまとめると「ジョン・ライドンはかっこいい!」です。

普通ではあり得ないことです。太鼓腹で前歯の1本抜けた55歳のおっさんが手鼻を飛ばしながら歌うのを見て「かっこいい!」ですって?認めたくない人も多いでしょう。ですが、アイムソーリー、あいにくこれは事実です。

おそらくは「かっこいい!」と言った人たち自身、自分が実際に目にするまでは信じられなかったはずです。でも今のジョン・ライドンが歌う姿は信じられないほどかっこいいんです。この事実が多くの人たちに認められたことをオラはうれしく思います。また今のジョンを「かっこいい!」と感じ、そう表現できる人が日本にもたくさんいることを、オラは誇らしく思います。

音楽はずっと変革を叫ぶ抵抗の音であり声だったし、もちろん今もそうだ。

他人のボディ・ランゲージを読み取る能力というのは、人間にとって最も大事な能力なんだ。今じゃいくらでも好きなだけ長い時間ネットの世界で暮らせるが、それだけじゃ人間が本来持ってるこうした能力を高めることはできない。ま、インターネット上のポルノはまた格別だけどな。

俺たちとオーディエンスの間にはすごく特別な絆があるんだ。(PiL のコンサートでは)自分自身を自由に解き放つんだ。それがたとえ三本足のロバみたいな踊りだったとしても恥ずかしがることなんかない。むしろそれこそが重要なんだ。

宗教的な体験に近いとも言える。それはすごく親密な空間で、自分のそうした体験を別の人間と共有するところなんだ。生きてることを讃える場であり、これこそが PiL の真髄だ。

パンクはネガティブなものじゃないし、そうであったこともない。PiL はパンクを進化させたものだ。PiL はあらゆるアプローチを可能にする。きちんとした曲の形式に沿って演奏することもあれば、そんなものを放り投げてしまうこともできる。

パンクはかくあるべしという考えに従う必要はない。パンクは形を持たない。それはあんたが正直に、誠実に、敬意を持って表現するなら、あんたが望むどんな形にもなりうる。

John Lydon - A Reluctant National Treasure

中には自分をうまく表現できない子もいますが、そんな子だってジョニーおじさんは見捨てたりしません。

ずいぶんおとなしいな。こわがってるの?大丈夫だよ、ジョニーおじさんだよ。きみの味方だよ。

‘Uncle Johnny’ brings the party to Preston

本日紹介する曲は1997年にジョン・ライドン名義で発表したアルバム「Psycho's Path」に収録されている曲「Psychopath」です。最終日の新木場ではこの曲も演奏されました。

「Psycho's Path」がスタジオ・アルバムとして現時点でのジョンの最新録音です。つまり14年間新しい作品は出ていないんです。本人はアルバムも作りたいし、ツアーもしたかったのにそれが不可能だったんです。レコード会社って、一体何が仕事なんでしょう?

ピエロの恰好をしたサイコパスが俺の中にいる
俺を引きずり込もうとしている

俺はそいつに身を委ねた

空の上に辿り着くと
悪魔と天使は俺を無視して通り過ぎて行った

俺はそいつに身を委ねた

溺れる者のように、藁をつかもうともがく
手にしたのは見えない条項が書かれた契約書

俺はそいつに身を委ねた

もう逃げられない
ピエロの恰好をしたサイコパスが俺の中にいる
俺を引きずり込もうとしている

「いったいどんな気分だい?」
友人たちが話すのは、そんなくだらないことばかり

俺が手に入れたものは
誰かの指図でそうしたわけじゃない
俺がまだ手にいれてないものが
俺に必要なもの

俺はそいつに身を委ねた

俺ができる最もおぞましいことは
お前にこの身体を差し出すこと
俺ができる最もおぞましいことは
お前にこの身体を差し出すこと

俺はきみにつきまとう
吹き出物のように
ブードゥーの呪いのように

俺はそいつに身を委ねた

俺がまだ手に入れていないものこそ
信じるに値するもの

多くの無意味なこと
多すぎて区別できない
多くの現実と虚構の混濁

俺がまだ手に入れていないものこそ
俺が欲しいもの

ピエロの恰好をしたサイコパスが俺の中にいる
俺を引きずり込もうとしている

罪の中に浸っていたい
心の落ち着く場所がない
俺の頭の中にあるもの
俺が言ったこと
俺がすること
奴らは俺を糊みたいにはりつけ
身動きが取れないようにする

俺ができる最もおぞましいことは
お前にこの身体を差し出すこと
俺ができる最もおぞましいことは
お前にこの身体を差し出すこと

亡霊たちが引き起こす頭痛
俺に棲みついている寄生虫
奴らが頭の中を走り回っている

俺ができる最もおぞましいことは
お前にこの身体を差し出すこと

2011/08/18

ルー・エドモンズのラテン風ロシア演歌 (Gulaguajira - レ・トリアボリー ク)

Les Triaboliques by StimpsonJCat
Les Triaboliques, a photo by StimpsonJCat on Flickr.

ね、言った通りでしょ。ルー・エドモンズ(Lu Edmonds)すごかったでしょ。甘く見ていた人、反省してください。そう言ってるオラもルーのすごさに気づいたのは「ALiFE 2009」からなので、あまり大きなこと言えませんけど。

彼が出すノイズ・トーンは電気的でありながら、どこかアコースティックな響きを残しています。どうやらそれは、彼が複弦の楽器を好んで使うところからきているようです。

普通のギターだとひとつの音を出す弦は1本だけですが、2本隣接して弦を張りそれを同時に鳴らすようにしたものが複弦です。2本の弦が共鳴することで1本では出せないような複雑な音色を生み出します。マンドリンや12弦ギターが複弦の楽器として良く知られていますが、サズもそのひとつです。PiL のアルバム「Happy?」では所々に妙な響きのギターの音が散りばめられており、オラはずっとジョン・マッギーオ(John McGoech)の出す音だと思っていたのですが、実はルーの奏でる複弦だったことに最近やっと気づきました。

PiL で出してるようなルーのサウンド、もっと聴きたいという人も多いでしょう。彼は PiL 以外にも実にたくさんのバンドで演奏しているんですが、「PiL のライブで聴いたルーのサウンド」を期待して聴くと肩透かしをくらいます。いや、もちろん他のバンドでやっている演奏にも素晴らしいものは色々あるんですが、今の PiL で出してるようなサウンドではないんです。逆に言えば PiL の復活に参加することで、それまでにはなかったルー・エドモンズのサウンドが開花したとも言えます。

ひとつルーの別の面を紹介しましょう。レ・トリアボリーク(Les Triaboliques)と言って、ジャスティン・アダムズ(Justin Adams)、ベン・マンデルソン(Ben Mandelson)それにルーという普通の人はあまり知らない変なおじさん三人組です。三人で国籍不明の妙な音楽を作り出します。ビデオの曲「Gulaguajira」はラテン風味のロシア演歌みたいな曲で、ルーがヴォーカルを担当してます。

ここでルーが弾いてる楽器は一見バンジョーのようなんですが、良く見ると複弦で弦が12本、しかもフレットレスです。手製のオリジナル品のようです。同じ楽器を使って「Flowers of Romance」を演奏しているビデオもありますので、ぜひ聴き比べてみてください。

(2015/10/07追記)楽器の名前が判明しました。ジュンブシュ(cümbüs)っていうトルコの楽器だそうです

2011/08/15

PiL at 新木場 スタジオコースト

凄かった…俺の目の前にジョン・ライドンいたんだぜ。暴れられなかった。終始固まってた。8月15日 via Keitai Web Favorite Retweet Reply


PiL、ベースの音凄すぎて背骨割れて骨髄液漏れるかおもたわ8月15日 via SOICHA Favorite Retweet Reply


楽しかった〜〜。ライドンのジジイホントすげぇー声量だ。8月15日 via yubitter Favorite Retweet Reply


ライドン先生かっこよすぎやで……ひとつひとつのポーズはどう考えてもカッコいくないのだが!8月15日 via Twitter for iPhone Favorite Retweet Reply


PiLめちゃくちゃかっこよかった!あの人、声でかい‼8月15日 via Twitter for iPhone Favorite Retweet Reply


やっぱりジョン・ライドンはLIVEな人だね8月15日 via モバツイ / www.movatwi.jp Favorite Retweet Reply


PiLやばいよPiL(´д`*)初の生ジョン・ライドンおいたん可愛すぎてどうしようかと思った。8月15日 via Echofon Favorite Retweet Reply


人を惹きつけてやまない人ってのがいるもんですなぁ。トンガった悪ガキの「ジョニー・ロットン」時代とまた全然違うチャーミングなジョニーにアンコール終わっても帰らないお客さん多数。菅さんにあのチャームが爪の先ほどでもあればなぁw8月15日 via Keitai Web Favorite Retweet Reply


ジョン・ライドン、完全に若返り&このバンドは本気なんだな8月15日 via Twitter for iPhone Favorite Retweet Reply


二時間を超える熱演だった。ジョン・ライドンそのほとんどで叫んでたよ。一曲目からラブソングだった。明日休みにしてて良かったというライブでした:) http://t.co/lARWuc28月15日 via PictShare Favorite Retweet Reply


PiL単独。バンドがタイトで重くて、たぶんライドン先生のお蔭だと思いますが、奇妙な浮遊感があって好きなタイプ。CDだと箱庭的閉塞感を感じたけど、ライブは拡がりが。息もあって、ラストはジョンがバンドも裏方も全部紹介するというファミリーぶりで、長く一緒にやってるのかなと思わせました。8月15日 via SOICHA Favorite Retweet Reply


PiL良かった。あああ、良かった。PAの前にいたので耳よりノドに効いた!すごかった。ジョンは凄い。頭の血管切れそうなくらい声張り上げて2時間20分もでシャウトしていた!凄い!8月15日 via TwitBird Favorite Retweet Reply


終わって電車の中。あっという間の2時間。ジョン凄いや。完璧。 http://img.ly/7m9N #pil8月15日 via Twitterrific Favorite Retweet Reply


今のPiL本当に凄いから絶対にこのメンバーでアルバムを残して欲しい。今日のライブ観た人は皆同意するはず。リリースは自主になるのだろうけど。8月15日 via Keitai Web Favorite Retweet Reply


PILはちゃんと生きて帰ってきたぁ(⌒~⌒)〃今までのPILの中でダントツで1番っしょ☆ルーは凄すぎだって( ̄∀ ̄)〃8月15日 via モバツイ / www.movatwi.jp Favorite Retweet Reply


8/15 public image limited 『もう一曲聴きたいか?よし、タバコ一本吸ってからな』→舞台からはけ、アンコール待ち。こういう然り気無いセンス、ジョン・ライドンて天才だなぁと思う。しっかし2時間20分ライブやって、涙目で愛してるぜ!って、こんなキャラでした?8月15日 via Keitai Web Favorite Retweet Reply


PiL超最高だった!!!スタジオコーストで今まで観た外タレでダントツで1番良かったです。ジョンライドン天才すぎる。キャイさんめちゃくちゃ興奮してました http://t.co/vJl5gAu http://t.co/0v526EG8月15日 via Echo (iPhone) Favorite Retweet Reply