2012/12/30

チーン、ゴンって調子のいつもと変わらないブライアン・イーノの音楽だろ - LUX

Galleria di Diana
Galleria di Diana, a photo by Lorenzo X on Flickr.

普通の人は普段、自分の生活空間にある壁紙の材質や色をあまり意識しないで過ごしています。いつも行ってる職場や学校の部屋の壁紙、どんな色でどんな材質だったか憶えていますか?毎日飽きるほど見ているはずなのに、いざ思い出そうとすると、なかなか思い出せなかったりします。でもそれはあなたの記憶力が悪いせいじゃありません。壁紙ってそういうものだからです。たいていの壁紙は目立たないように、人が特別に意識しないよう、記憶に残らないように作られているからです。

じゃあ壁紙なんてどうでもいいのかと言えば、もちろんそんなことはありません。日常意識していないながらも、壁紙はそこで過ごす人の気持ちにじわじわと影響を及ぼすからです。たとえばあなたが奮発して立派な家具を購入したとしましょう。でも部屋に置いてみると何だか違和感がある。そこだけ何だか取って付けたみたいに感じる。ああ、そうか、壁紙が煤けていて家具とマッチしないんだな。そういえば15年、一度も壁紙を貼り替えたことなかったな。人が壁紙を意識するのはそんなときです。

じゃあ壁紙を貼り替えることにしましょう。ホームセンターへ行って壁紙を買ってきて自分で貼り替えるという手もありますが、慣れていないとシワになったりズレたり面倒そうです。費用はかかりますが、やはり専門の内装業者に頼むことにしましょう。電話するとすぐに、大量の壁紙のサンプルが載ったぶ厚いカタログを持って業者がやってきます。そのサンプルを前にして、あなたはきっと途方に暮れます。

カタログには小さくて四角い壁紙のサンプルが大量に貼られています。ひとつ、ひとつ、確かに色、柄、材質が違います。模様の書かれたものなど、様々な壁紙があります。細かく見ていくと確かにひとつひとつ全然違います。よくもこんなに色々な壁紙があるもんだなと思います。中には普通の家にこれはちょっとと思うような派手なのもありますが、それ以外は壁に貼ってしまえばどれもこれもあまり変わらないようにも思えます。だいたい小さな壁紙の切れ端を見ても、実際にそれが部屋の壁に貼られたときどんな雰囲気になるのか、いまひとつイメージが湧きません。

その様子を察した業者があなたに尋ねます。どんな感じのものをお望みですか?ええっと、そうですね、日当たりのあまり良くない部屋なので明るいのがいいんですが...冬も暖かい雰囲気になるような。では、これとか、あるいはこれなんかはいかがでしょう?業者はたちどころに候補を数点に絞り込みます。

その後見積をもらって価格交渉して、実際に貼り替え工事が終わった部屋を見てあなたはこう思います。ああ、気のせいか少し明るい感じになって家具も違和感がない。ちょっとだけこの部屋に入るのが楽しみになったかな。

ブライアン・イーノ(Brian Eno)が作るアンビエント音楽というのは、いわば壁紙のような人に意識をさせない音楽です。室内の雰囲気といのは壁紙だけが作っているわけじゃなくて、天井や床や窓もあります。そこでどんな人が何をするのか、どんな家具やインテリアがあるのか、光がどのような感じで入ってくるのか、気温や湿度や窓から見える風景によっても違います。そこにもうひとつ、壁紙なんかと同レベルの目立たない音楽を加えることで、その空間をほんの少しだけ良いものにするというのがイーノのアイディアです。

意識されないように作られた音楽ですから、あれっ、そういえば何かかかっていたけどどんな音楽だっけ?というのが本来の正しい聴き方です。ということは、普通の人は普段あまり壁紙のことなんか話題にしないように、イーノとかアンビエント音楽なんて誰も話題にしないのがイーノが理想とする世界ということになります。だけどこのようにアンビエント音楽についてくだくだ書く人間が後を断たないということは、まだまだ道のりは遠いという証しでもあります。

それでもイーノ最初の公式アンビエント作品「Discreet Music」から37年、アンビエント音楽の「利用者」もそれなりに増えてきました。最新作「Lux (ラックス)」は元々イタリアのヴェナリア王宮(Reggia di Venaria)にある回廊ガレリア·ディ·ダイアナ(Galleria di Diana)のために作った音楽がベースになっているそうです。行ったことないのでよくわかりませんが、王宮と名がつくからにはおそらく国宝級の歴史遺産に違いありません。そういうところからイーノに「音楽を作ってくれ」って依頼が来るようになったんですねえ。きっと担当者は昔、ロキシー・ミュージックを聴いてたような人なんだと思います。

この作品の誕生に当たっては二つの話があるんだよ。まずそのひとつ、トリノの王宮内に二つの場所をつなぐある建物があるんだけど、そこで流す音楽を作る仕事を引き受けたんだ。その建物というのはものすごく長いギャラリーみたいなところで長さが100メートル、高さは15メートルもある1740年代にユヴァッラ(Filippo Juvarra)が設計したものなんだ。年間約100万人の観光客がその建物の中を通るんだけど、足早に通り過ぎてしまう人々をもうちょっとゆっくり歩くようにさせたいというのが依頼の内容だった。まるでレースでもやってるみたいにあっちからこっちへみんな通り過ぎてしまうので、せっかくの美しい場所に気付いてもらえないって依頼者は感じてたんだ。「みんながゆっくり歩くような曲を作っていただけませんか」って言われたんだよ。それでぼくは、これならちゃんと機能するだろうと思う曲を作り、それを持って飛行機でトリノへ飛んだんだ。スピーカーなどすべてぼくが言った通りにセットされていざその曲を流してみると、20秒もしないうちにこれじゃまるでダメだってわかった。

その場所にまるでマッチしてなかったんだ。その建物とはうらはらに現代的過ぎたんだよ。驚くほど素晴しいバロック様式で細かな装飾がいたるところに施されているんだけど、主役になってるのは建物じゃなく明るい光なんだ。両側に巨大な窓があって、足を踏み入れるとまず目に入ってくるのは光、そして日中刻々と変化する光の表情だったんだ。一方ぼくが自分のスタジオで作ってきた曲は、いや決してデキは悪くなかったけどさ、だけどあの場所で聴くとすごく室内っぽくて、反射光っぽくて、内省的で暗いってみんな感じたと思う。ぼくはポータブルなスタジオ機材も持って行ってたから、よし、2日ほどここに留まってどんなやり方がうまくいくか試してみようって決めたんだ。そうして帰る日までにぼくは、これならうまく機能しそうだというサウンド・テイストと歩調みたいなものを把握することができた。それからロンドンへ帰って作品を仕上げたというわけさ。で、二つの話をまとめると、一、ぼくは特定の場所用の曲を作るために招待された。二、そこで大失敗をした。

その王宮で使った音楽が今回のアルバムのベースになっている。ぼくはスタジオで寝転がれるように寝心地のいいベッドを持ち込み、その枕元両脇にスピーカーをセットして自分でこの音楽の中に浸れる環境を作ったんだよ(ヘッドフォンが嫌いなんでね)。どうしてそんなことをしたのかというと、王宮用に作った音楽を調整するためさ。そうやって作業をしてるうちに「すごい、この音楽、大いに気に言ったぞ。それだけじゃなく、今まで自分が作ったどんな音楽とも違って聴こえる」って思うようになったんだ。まあぼくの仕事に興味のない連中は「ああ、チーン、ゴンって調子のいつもと変わらないブライアン・イーノの音楽だよな」って言うに違いないけどさ、ぼくとっては今までと全然違う作品なんだ。

王宮の仕事のオファーを受けたとき、最初はその場所で24時間流しっぱなしにする音楽にしようと思っていた。だからジェネラティヴな作品、永遠に変化し続ける自己生成的なものを作ろうとしていた。だけどよく話を聞いてみると、彼らが求めていることを実現するには1時間再生したら次の1時間は止める、その方がいいと分かったんだ。実際そんな風に彼らに提案したんだよ。なぜならあのギャラリーを訪れる人の中にはミスター・イーノによる解釈が加わっていない、そのままの形であの場所を味わいたいという人もいるからね。それでぼくはエピソード的な音楽というアイディアを模索し始めた。最初から最後まで通しで聴かなくてもいい音楽、どこから聴き始めても、どこで聴き終えてもいい音楽だよ。数学の順列の考え方を取り入れて仕事を始めたんだ。労せずして多くのものが手に入るやり方だよ。集合の中から元を取り出して、ある短い長さの列を作る。時間と法則が許す限りいくらでも違ったものが作り出せるんだ。

ピアノの白鍵盤は7音階で構成されてるんだけど、(12セクションから成る)この作品の各セクションはその内の5音階を使って作られているんだ。計算してみると分かるけど、7音階から取り出せる5音階の組合せは21通りある。作品は12セクションだけど、いくつかは同じ音階を使っているものがあるので実際に使っている音階は9通りだ。きわめて公式的なんだ。シンプルな方法で色々を生成できる。ぼくの「内なるミニマリスト」がそうさせるんだよ。

The 77 Million Faces of Brian Eno

イーノ自身は今までと全然違う作品なんだって言ってますけど、普通の人は「この壁紙は従来の製品とはまったく違う画期的な製品なんですよ」って言われてもよくわかんないですよね。

でも今度のは違うんだよ、マジ。壁紙マニアにしか分からないかもしれないけど。

2012/12/22

1977年のクリスマスとセックス・ピストルズ

a cake with Sex Pistols written on it, the size of a car bonnet

最近、アメリカなんかでは「メリー・クリスマス」って言っちゃいけないそうです。世の中にはキリスト教だけじゃなくユダヤ教やらイスラム教やら創価学会やら色んな人がいるので「ハッピー・ホリデイズ」というのが政治的に中立で正しいということになっているそうで、街の看板やらテレビ CM などはみんな「ハッピー・ホリデイズ」になっているそうです。

ずいぶん昔に「宗教とまるで関係のない楽しいクリスマス」を確立してしまったわたしたち日本人からすると「いいじゃない、そんなに目くじら立てなくてもみんなで楽しめれば」って思うのですが、そうもいかないようです。この調子でいくと、2050年頃には「メリー・クリスマス」って言ってるのは日本人だけになっているかもしれません。いや、でもね、色んな宗教とか神様を差別せずに寛容に受け入れられる日本の文化というのは誇るべきものだと思うよ。

なんで日本人は色んな宗教に寛容なんだろう?それはですね、わたしたち日本人が今でも原始的な祖霊信仰の世界に生きてるからなんだと思います。日本人の大半は仏教徒だなんてよく言われていますが、仏教のことを調べてみると現在日本で仏教と呼ばれているものは元のゴータマ・ブッダの仏教とはまったくの別物であることがわかります。日本の仏教は土着の祖霊信仰と合体して日本独自のものに変貌を遂げています。

嘘だと思ったらそのへんのじいちゃん、ばあちゃんに「ホトケ様」と言って何を思い浮かべるか、尋ねてみるといいよ。ほとんどは家の仏壇とかに祀ってる亡くなった家族やご先祖さまのことを思うはずだから。日本人にとってのホトケ様というのは、ゴータマ・ブッダよりもまず自分に近い祖霊のことなんです。この祖霊信仰、現在も色濃く残っているがゆえに「色濃く残っている」ということがあまり意識されていません。

だってそうでしょう、普段「宗教?神様とか仏様とか、俺はそんなの関係ないなあ。考えてみたこともない」って言ってる人が「そういえば、親父の墓参り、もう何年も行ってないなあ」なんて言っても、誰も変に思わないでしょう?むしろそういう人が今の日本人の主流です。この墓参りに行けなくて何となく後ろめたく、申し訳なく感じる気持ち、これを祖霊崇拝と呼ぶのですよ。

だからホトケ様といえばまず死んだ親父とかばあちゃんのこと。もちろん自分ちだけじゃなくよその家にもホトケ様がいて、ホトケ様の世界にも序列とかがあって、そん中で一番エラいのがゴータマ・ブッダ=お釈迦様ってのが日本のごく普通の仏教です。

だからわたしたちにとってキリストというのは西洋のエラいホトケさんで、アッラーといえば「ほう、イランとかイラクではそういう名前のエラいホトケさんがいるんかい」という調子で、だからすべての神様を簡単に受け入れることができるんです。「メリー・クリスマス」だって「たまには西洋のホトケさんのお祝いをしたって別にバチは当たらんだろ」でオッケーなんです。

しかしながら世界には唯一のホトケ様しか信じられないという人が結構な数を占めているため、そういう人たちに対してわたしたち日本人はこれからも「まあまあ、メリークリスマスくらいで、そんなに目くじら立てなくても」と(なだ)めていかなければならない使命を負っているのです。

イギリス人のジョニー・ロットンもわたしたちと同じように「唯一絶対のホトケ様しか認められないなんてナンセンスだ」という考えを持っているようです。彼は「Religion」という曲でキリスト教世界を批判し、「Four Enclosed Walls」という曲をイスラエルで演奏して「アッラー」というフレーズをユダヤ人の聴衆に合唱させるなど数々の偉業を成し遂げてきました。彼はクリスマスをどう思ってるんでしょう?彼の考えは明快です。子どもたちからケーキとサンタを取り上げるな、取り除くべきは宗教の方だ、です。

子どもの頃、クリスマスがどんなに楽しみだったかおぼえてるか?子どもたちはクリスマスが大好きなんだ。だから絶対にクリスマスを厄介なものにしちゃいけない。クリスマスから宗教的な意味を取っぱらえばいいんだ。

John Lydon predicts anarchy in the UK for 2011: "Riots are a good sign"

1977年のクリスマス、イギリス、ウエスト・ヨークシャー州ハダーズフィールドの消防士たちは待遇の改善を求め、約3ヶ月にもおよぶ長期ストライキの真っ最中でした。当時の詳しい状況はよく知らないのですが、そこまでやるからにはよほどのひどい労働環境だったはずです。一方、消防士という仕事の性質上、ストライキに対する社会的な圧力もハンパなものではなかったはずです。

ストライキの間、消防士たちには給料が支払われずその家族は窮乏状態のままクリスマスを迎えることになったのですが、そこに手を差し伸べたのは我らがセックス・ピストルズでした。昼間のナイトクラブを借り切ってクリスマス・パーティーを開催、送迎バスをチャーターして消防士の子どもたちを招待したのです。

当時そのパーティーに招待されたクレイグとリンジーという名の二人がその思い出を語った2004年のインタビューが BBC のサイトに載っていたのでご紹介します。

クレイグ: お金は全部ピストルズが出してくれたんだ。会場へ行くとそこはお菓子やレコードがいっぱいあって、どれでも好きな物がもらえたんだ。10歳くらいの子どもたちが Never Mind The Bollocks (知ったことか、くそったれ!)って書かれたT シャツを着て走り回ってたよ。子どもがいっぱいで大騒ぎだった。

リンジー: 何もかも、本当にびっくりだったわ。テーブルにはザクロやオレンジなんかの果物でいっぱい。彼らはわたしたちのために、本当に夢みたいなものを用意してくれたの。

その年のクリスマスは、わたしたち消防士の子どもがたくさんのプレゼントをもらえるなんて、本当ならあり得ないことだったのよ。すごく大変な時期だったの。クリスマスには家族で集まってプレゼントをもらうのが楽しみだからみんないい子にしてたんだけど、両親は労働争議の真っ最中で、給料も支払われていなかったから...。

クレイグ: ...あれで親父の肩の荷が下りたんだと思うな。「そうだな、(ピストルズのパーティに)行かせた方が、子どもたちは楽しく過ごせるのかもしれないな」って考えたんだと思う。もしあのクリスマスを家で迎えていたらって考えると、やっぱりあそこへ行って良かったんだと思う。

リンジー: それまで見たこともないような光景だったわ!

クレイグ: ピストルズの4人が出てきて「Holidays In The Sun」を演奏したんだ。シド・ヴィシャスが子どもたちに向かって唾を吐いたもんだから、ジョニーは「止せよ、いつものファンとは違うんだぜ。みんな小さな子どもじゃないか」なんて言ってた。ジョニー・ロットンはこういうのが大好きみたいだった。すっごく楽しそうで、ケーキに頭から突っ込んだりしてた。指についたクリームをなめながらみんなにケーキを勧めてたんだけど、終いにはみんなに髪の毛をクリームまみれにされていたよ。

家に帰ったときはバッジやステッカー、T シャツやら LP レコードやら、おみやげでいっぱいだったことを憶えてるよ。でもしばらくするとそれは物置行きになって、やがてそのほとんどを母が捨ててしまったんだ。もし今も取ってあったら、ものすごい値打ち物だったのにな。そういえば同じように消防士の親を持つ小さな女の子がいたんだけど、ジョニー・ロットンは自分たちのゴールド・ディスクを皿代わりにしてケーキを乗っけてそのままその子にあげちゃったんだ。その後その子がどこに行ったのか、あのゴールド・ディスクがどうなったのか、もう誰にもわからないんだよ。

当時は親父がどんな問題に直面していたのか、まるで知らなかった。もちろん今ならわかるよ。俺たちもストライキをするからさ。その間、給料は支払われず、請求書だけが回ってくるんだ。今の俺たちのストライキはせいぜい2日くらいですぐに元の状態に戻るけど、親父たちがやっていたのは12週間から13週間にも及ぶ長期のストライキだった。13週間も収入ゼロだったんだ。ものすごくつらい戦いだったと思うよ。もし自分がそんな立場に置かれたらって考えるとぞっとするよ。

リンジー: あれでみんな気が晴れたの。両親に文句を言いたい気持なんか吹っ飛んだわ。最高のクリスマスを過ごせたんだもの。本当に信じられないほどの。

Happy Punk-mas in Huddersfield!

このパーティの模様はピストルズのドキュメンタリー映画「The Filth And The Fury (邦題: No Future)」にもほんの少しだけ映ってます。奇しくもこの日は(1970年代の)セックス・ピストルズがイギリスで演奏をした最後の日となりました。その聴衆がこの消防士の子どもたちだったのです。

みなさんも良いクリスマスが迎えられますように。メリー・クリスマス!

2012/12/16

若くてエネルギー溢れる俺ときみが手を組んで、一緒に選ばれようじゃないか (Elected - アリス・クーパー)

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Alice Cooper, a photo by Scott Butner on Flickr.

アリス・クーパーが何十年も人気を保ち、第一線で活躍している理由というのはですねえ、いつまでも「きみと俺」という悩める青少年に語りかける姿勢を保ち続けているからだと思います。

そんで人というのは年をとっておじさん、おばさんになっても案外まだ「悩める青少年」なんです。まじめに悩めば悩むほど深刻になって、出口が見えなくなってくるんですけど、そんなときでもアリスはニヤりと笑って語りかけてくれるんです。「俺はきみから生まれたんだぜ」って。

ジョン・ライドンも言ってる通り、アリス・クーパーは世界をちょっとだけマシな場所にしてくれた偉人のひとりです。世の中を少しでもマシにしたいと思ってるなら、みんなもうちょっとアリス・クーパーを聴くべきだと思うよ。

俺は極上品、きみが選ぶのは俺しかいない
俺を当選させてくれ
俺は金のロールス・ロイスに乗った生粋のアメリカ男
俺を当選させてくれ
子どもたちが望んでいるのは偽者じゃない、真の救世主
だから俺を選んでくれ
俺の作るルールでみんなを揺さぶってやろう
俺を当選させてくれ

俺は決して嘘はつかない
常に冷静な男だ
俺を当選させてくれ
俺は票を獲得しなくちゃならない
学校をどうするかは、前に言ったよな
俺を当選させてくれ

わたしが当選したあかつきには
新党(ニュー・パーティ)の結成をお約束しましょう
その名もどんちゃん騒ぎ(ワイルド・パーティ)です!
わたしたちは今、たくさんの問題を抱えています
ここ、テネシーはもちろんのこと
ナッシュヴィルもメンフィスも
アメリカ中が問題だらけです
ですが
わたしの知ったことじゃありません

俺たちはこの選挙に勝ち
この国を手中に収める
若くてエネルギー溢れる俺ときみが手を組んで
一緒に選ばれようじゃないか

2012/12/08

2013年4月の PiL 来日決定! ジョニーおじさんがやって来る!!

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Public Image Ltd. at the Royale, Boston, 10-15-2012, a photo by xrayspx on Flickr.

何の前触れもなく突然の発表、驚きのニュースです。来年2013年4月、PiL の来日単独コンサートが決定しました! 名古屋、大阪、東京の3ヶ所、その内東京は2回で計4回の公演です。いやあ、このところいつもツアー日程はギリギリまで発表されなかったので、こんなに早く発表されるなんて。心の準備がまだできてないんですけど。

でもこうやって早く日程が決まるってことは、資金的な余裕もできてプロモーターへの信用も付いたってことですから、大変喜ばしいことです。

公式サイトの発表によると、日本に来る前に北京と上海でもコンサートをやるそうです。ジョン・ライドンがいよいよ中国へ進出します。すごいなあ、中国だとどんなコンサートになるのかなあ。きっと PiL なんか聴いたこともないような人がたくさん来てジョニーのパフォーマンスを観て、そこで人生変わっちゃうような人が続出するんだろうなあ。

日本でのコンサートは去年もやってますけど、メインはフェス(サマソニ)への出演だったし、新木場 Studio Coast での単独公演は直前になって決まったものだったから、知らなかった、スケジュールの都合がつかなかったとかで行けなかった人もたくさんいるはず。今度はスケジュール調整する時間もたっぷりあるから大丈夫。お金、体調、スケジュール、しっかり準備して臨みましょう。

「えーっ、ジョニー・ロットンって昔の人で、今はもうデブのおっさんでしょう?そんなの観ても...。」と思ってる人がまだ多いのかもしれません。確かにデブです。もう56歳です。だけど今が全盛期なんです。信じられないくらいカッコ良くてキュートなデブのおっさんです。嘘だと思ったら去年 PiL を観た人たちの感想を読んでみてください。

まだ信じられない?そりゃ自分の目で確かめるしかないね。

今日集まってるのは恥ずかしがり屋ばかりなのか?今日はドキュメンタリーの撮影をしてるんだぜ。みんな気弱なヘタレなんかじゃないってことを見せてやれよ!

2012/12/01

そして何か答が見つかったら、ぼくに教えてほしい (マニフェスト - ロキシー・ミュージック)

Roxy Music - Manifesto

ブライアン・フェリー(Bryan Ferry)のニューアルバムは過去のロキシー・ミュージック(Roxy Music)やソロ作品からセレクトしたセルフカバー集です。ただし1920年代風のジャズ・アレンジ、しかもあろうことかヴォーカル無しのインスト・アルバムでその名も「The Jazz Age」です。

普段ならここでニューアルバムをネタに与太話を書くところなんですが、昨今の状況を考えるとやはり今あの曲について書いておく必要があるという結論に逹し、敢てうんと古い曲をご紹介することにします。

会って話したこともないのに唐突に断言しますが、ブライアン・フェリー(Bryan Ferry)というのはものすごく自分勝手な人です。おそらく本人に悪気とか自覚のまったくない、天然タイプだと思います。

ブライアン・フェリーがロキシー・ミュージックのシンガーとしてデビューしたのは1972年です。ところがその翌年、1973年にはもうソロ・アルバムをリリースしています。しかもロキシーのメンバーがほとんどそのままレコーディングに参加しているにも関わらず、ロキシー・ミュージックではなくブライアン・フェリー名義なんです。普通「何でや?」って思いますよね。たぶん彼にしてみると「ロキシーとは違うことやってるし、そんなに変かな?あれ?前に話したよね?」という感じなんだと思います。1970年代はその後もロキシーのアルバムと並行して毎年のようにソロ・アルバムを発表し続けました。

ただそんな彼でも気付くほど他のメンバーとの関係がこじれてきたのか、1975年の「Siren」を最後にロキシー・ミュージックとしての活動を一旦停止、ブライアンはソロ活動に専念し始めます。大昔のインタビューでブライアンが「ツアーバスで他のメンバーに気を遣って、ほら、あそこにカンガルーがいるよ!とか言うのに疲れちゃったんだ。」なんて言ってたのを記憶しています。気を遣うところが違うだろうと突っ込みを入れたくなりますが、そういう人なので仕方ありません。

ただしその後もソロのレコーディングやツアーにはロキシーのフィル・マンザネラ(Phil Manzanera)やポール・トンプソン(Paul Thompson)がしっかり参加していて何だかわけの分からない人たちです。

そしてそのわけの分からないまま1979年に突然ロキシー・ミュージックの復活作としてリリースされたのがアルバム「マニフェスト (Manifesto)」です。今回ご紹介するのはそのオープニングを飾るアルバムタイトル曲です。

マニフェストというのは声明、宣言を意味します。ロキシー・ミュージックとしてのマニフェストです。ただしブライアン・フェリーがメンバーとよく話し合った結果この曲が生まれた、なんてことはあり得ません。間違いなくブライアン自身のマニフェストです。

マニフェストというのは他人に対して宣言するわけですから、言ったこととやってることがまるで違うというのでは信用を失います。もちろん人間、生きていれば諸般の事情というものがあり、臨機応変に変えていかなければならないことも多々あります。ですから、マニフェスト作りというのは、何があろうと決して変わらないもの、何があろうと決して変えてはいけないものを厳しく自分に問い、見い出す作業となります。

この曲の発表当時、マニフェストというのは一般の日本人が知っている言葉ではありませんでした。私はこの曲でマニフェストという言葉を知りました。そしてマニフェストというのは、こうあるべきものだと確信しました。

ブライアン・フェリーは今もこのマニフェストそのままに生き、歌い続けています。ぜひみなさんにも見習っていただきたいと思います。

ぼくは支持する
不意に襲いかかり
きみに欠けているすべてをもたらす
人生の転機を

ぼくは支持する
数字の順に色を塗るだけの生活に
突如吹き込む一陣の風を
詰み重ねが幸運につながる
さあそれはどうだろう

ぼくは友情と穏かな航海の(とりこ)
寄港地では熱狂で迎えられ
ただ愛に溢れて
激しく握手を交す

あるいは
明日を求める者にとっては
まったく無意味でもかまわない
どの町にも必ずいるだろう
束縛されるくらいなら
死を選ぶようなイカレた男が

ぼくは支持する
きみを死の淵に引きずり込むまで
鉄槌(てっつい)を振るう男を
彼のドリルは
百万マイルの彼方までも震わせる

ぼくは支持する
革命の女神の到来を
彼女がどこにいるのか知らない
だけどその場所はここだと言い切る者たちを
ぼくは知ってる

しばしばぼくは
不完全さに苦しんできた
大理石に入ったひびと
涙でいっぱいの
弱々しく疲れ果てた顔を
ずっと調べていた

ぼくは動機なく戦うために
どこでもない場所で生まれた男
根はその性質に逆らい
無理矢理ピンと張っている

ぼくを信じたほうがいい
出会うものに疑問を投げかけ
そして何か答が見つかったら
ぼくに教えてほしい

2012/11/24

女性の肉屋 (New York - レ・ブチャレッツ)

Le Butcherettes
Le Butcherettes, a photo by rtppt on Flickr.

「ゴアバーガー・ショー(The Gorburger Show)」という番組をご存知でしょうか?元々は「ズームイン北海道」という名前だったんですけど、ある日宇宙からゴアバーガーというモンスターがスタジオにやって来て出演者を何人か食べてしまい、そのまま居座って自分のショーを始めてしまったんです。

一応バンドやミュージシャンをスタジオに招いてのトーク番組なんですが、相手が女性だとゴアバーガーはひたすらセクハラ・トークに終始します。ところどころ日本語字幕が出たり日本人アナウンサーが話したりで、わたしたち日本人にも分かりやすい構成になっています。

その第6回に Le Butcheretts のテリ・ジェンダー・ベンダー(Teri Gender Bender)とリア・ブラスウェル(Lia Braswell)が出演しました。二人はこの番組の趣旨をよく理解してる様子で、ゴアバーガーと一緒に「ねえ、あたしの臭う?」とか下ネタで盛り上がっています。

ところで Le Butcheretts というバンドの名前、辞書には載ってない言葉なので意味が分からない人も多いのでしょう。元々メキシコで結成されたバンドなのでスペイン語と勘違いしてる人もいるみたいです。番組の「Justify The Name of Your Band」コーナーで解説されてます。

日本のみんなのためにさらに詳しく説明すると、肉屋を意味する英語の Butcher に女性を意味する名刺語尾 -ette を付け、頭にはフランス語の冠詞 Leを付けたものです。女性の肉屋、肉屋ガールズってところです。

番組中ゴアバーガーはフランス語にも造詣が深いところを示したいのか「レ・ブチャレッツ」なんて発音してます。確かに複数名詞の前には冠詞 les (レ)を使うのが文法的に正しいのですが、なんちゃってフランス語なので le (ル)でいいんです。「ル・ブチャレッツ」です。

番組の後半で「New York」が演奏されています。ゴアバーガーに「カマ()くん」と紹介されているベーシストはもちろんオマー・ロドリゲス・ロペス(Omar Rodríguez-López)です。

(2012/12/9追記) その後調べてみたところ、地元メキシコでは「レ」ブチャレッツと発音されていることが判明しました。本人たちも「レ」って言ったり「ル」と言ったりなので、どっちでもいいみたいです。ちなみに Teri Gender Bender はメキシコで「テリ・ジェンデル・ベンデル」と発音されています。

わたしの脚の下は
息苦しくて耐えられないんでしょう
口にあなたが舌を差し込むと
うがいしたくてたまらなくなる

うがいしたくてたまらない!
うがいしたくてたまらない!
うがいしたくてたまらない!

ニュウヨォク!!
ニュウヨォク!!
ニュウヨォク!!

すごく(から)くて
まるであなたの憎しみの下に
金色(こんじき)のウィスキーが隠されてるみたい
もうわたしの時代なのよ!
わたしの時代なのよ!
わたしのもの!

ニュウヨォク!!
ニュウヨォク!!
ニュウヨォク!!

2012/11/23

テリ・ジェンダー・ベンダーがやって来る (Kiss My Brown Eye - ボウズニアン・レインボウズ)

Omar Rodríguez-López / Le Butcherettes
Teri Gender Bender, a photo by remixyourface on Flickr.

PiL 今年のツアーは今月初め、テキサス州オースチンで開かれた Fun Fun Fun Fest で締めとなったわけですが、11月のテキサスで PiL や Run D.M.C. が目玉になって開催されるフェスって一体どんなフェス?そこで YouTube の動画をチェックすると、フェスのハイライト集でジョン・ライドン以外にもうひとり、妙な踊りを踊りながら歌うお姉ちゃんが見つかりました。ボウズニアン・レインボウズ(Bosnian Rainbows)というバンドのヴォーカル、テリ・ジェンダー・ベンダー(Teri Gender Bender)でした。

日本語の情報がほとんどないグループなので簡単にご紹介しておきます。テリのほかの三人は、ギターのオマー・ロドリゲス・ロペス(Omar Rodríguez-López)とドラムのディアントニ・パークス(Deantoni Parks)、それにキーボードのニッキ・キャスパー(Nicci Kasper)というマーズ・ヴォルタ(The Mars Volta)一派です。

ヴォーカルのテリはレ・ブチャレッツ(Le Butcherettes)というバンドでもう5年くらい活動してる人ですが、ブチャレッツはテリ以外のメンバーが流動的な一方オマーがずっとレコーディングやライヴに関わっていて、やっぱりロドリゲス・ロペス・プロダクションに所属しています。ブチャレッツもユニークなバンドなので、また別に改めて書こうと思ってます。

最初はテリを除く三人がオマー・ロドリゲス・グループ(Omar Rodríguez-López Group)名義で活動していたんですが、テリがヴォーカルとして加わり、ボウズニアン・レインボウズと名を改めました。

4人は8月の末から世界をツアーで回っていて、ドイツ、イギリスはもちろん、ベルギー、フィンランド、スウェーデン、ノルウェー、デンマーク、オランダなどヨーロッパの寒い地方を中心に巡業しています。ロシアなんかペテルスブルクやキエフにまで行ってます。秋はアメリカ、オーストラリア各地を回ってこの後12月7日と8日、東京と大阪でライヴをやることになっています

アルバムなどはまだリリースしていないんですが、ドイツのスタジオ Clouds Hill Recordings で収録した7つのバンドのスタジオ・ライヴをセットにしたアナログ10インチ7枚組ボックス「...live at Clouds Hill」というのが12月に発売される予定になっていて、その1枚がボウズニアン・レインボウズの録音になります。

次のビデオはその Clouds Hill でのレコーディング風景を撮影したものです。

ヴォーカルはテリ・ジェンダー・ベンダー、昔の Nico にちょっと似た雰囲気もあります。ラテンの地に生まれ変わった生命力溢れる Nico って感じ。

2012/11/21

PiL のギグが終わるとみんな楽しそうに笑顔で帰るんだぜ。本当だよ。

PIL
PIL shot at Fun Fun Fun Fest 2012 by Dj Linda Lovely on Flickr.

PiL の北米ツアーは11月3日の Fun Fun Fun Festival で無事終了しました。1ヶ月足らずの間に20ヶ所、連日2時間前後のライヴという超ハード・スケジュールなのに、ツアー直前にジョン・ライドンが風邪をひくというアクシデントが発生、途中で声が出なくなるんじゃないかとすごく心配したんですが、取り越し苦労でした。

ライヴの合間にインタビュー、テレビ出演やらサイン会の数々をこなした上、日を追うに連れて疲れが出てくるどころか、ますます声の出が良くなるというジョニーの超人ぶりを思い知らされました。何で、どうやって、どこからあんな声出てくるの?

残念ながら今年のツアーはこれで終了。日本へは来られませんでした。でも日本だけじゃなく、ドイツやオーストラリア、南米なんか日本以上に長い間ツアーで行ってないから、また来年すぐに動き出してくれるはずです。

もうしばらくレコードや CD で我慢しましょう。ところで PiL の最新シングル「Reggie Song / Out of the Woods」はもう手に入れた?残念ながら国内盤の発売はないけど、輸入盤ショップや Amazon などで簡単に手に入ります。シングルとは言っても CD だとオマケでライヴが5曲も入ってるから、長さはアルバム並みの46分もあります。

そのほかにもネットで観られる/聴ける公式ライヴ音源がいくつか公開されているのでご紹介します。

Xfm Sessions
7月にロンドンのラジオ局 Xfm で放送されたスタジオ・ライヴ。
PUBLIC IMAGE LTD PERFORMS IN THE CURRENT STUDIO
10月にミネソタのラジオ局 The Current で放送されたスタジオ・ライヴ
PiL Live @ The Knitting Factory Reno
10月27日、ネバダ州レノ The Knitting Factory からリアルタイムでストリーミング放送されたライヴ映像。映像はピンボケですが音はバッチリで約2時間のライブ丸ごと観られます。

それから次の来日ライヴへ向けて、ジョニーからライヴの心得。

20年間休んで何をしてたんだって?何も休んじゃいない。レコード会社に破産状態に追い込まれていたんだよ。連中は俺が唯一、最も得意とすること、曲を書くことと人前でパフォーマンスする機会を俺から奪ったんだ。

ただの偏屈オヤジとしてのカムバックしたって意味はない。俺は自分が心から愛してる人間のために、人間の歌を歌いたかったんだ。俺は憎しみをいつまでも腹に抱えてるようなタイプの人間じゃない。そんな人間になるのはまっぴらだ。

俺はたとえ相手が大嫌いな人間だろうと、良く観察してそいつの良い所を見つけ出せる。それが俺のやり方だ。そうやって生きてきたんだ。たくさんの人間が憎悪で人生を腐らせるのをイヤというほど見てきた。時間とエネルギーを絶えずほかの人間を憎むことに費してると、やがて自分で自分を憎むハメになる。別に説教したいわけじゃない。だが俺はそうやって努力しながら生きてるんだ。

ライヴでは思う存分楽しんでくれ。自分自身を満喫するんだ。サウンドにふさわしい自由なダンスというものを理解して、カラダとアタマを解放するんだ。バンドと観客が一緒になって作り上げる最高の空間、この上ない快感だぜ。

俺は PiL を何よりも愛してる。俺たちは2時間目いっぱい、手抜きなしでプレイする。俺たちはみんなを解放するためにステージに立ってるんだ。アイルランド人の宴会とレイヴ・パーティとトルコ人の結婚式とギリシャ人結婚披露宴、そんなのを全部一緒に開くみたいなもんだ。俺たちの音楽は色んなものの融合物だ。俺はこと音楽に関してはチャレンジ精神が旺盛なんだ。恐れることなく突き進む。インプロヴィゼーションが溢れる一方で、ダンサブルでもある。PiL は常に形を変え続けるんだ。

PiL のギグが終わるとみんな楽しそうに笑顔で帰るんだぜ。本当だよ。

Q&A: John Lydon of Public Image Ltd.

2012/11/17

ちゃんときみの名前が書いてある (Comet - ワイアー)

Untitled
Robert Grey by Fergus Kelly on Flickr.

昨年に引き続きワイアー(Wire)のおじちゃんたちは今年も日本にやって来てくれました。いつも通り淡々と演奏して、淡々と帰っていきました。その淡々としたワイアーの中でも一際淡々としてるのがドラムのロバート・グレイ(Robert Grey)です。まるで寡黙なボクサーがトレーニングをしてるみたいにいつもステージの後ろで黙々とドラムを叩き続けています。

長年ワイアーを聞き続けてる人なら彼のドラムがワイアー・サウンドの要だということはよおく知ってると思います。いわゆるロック的なノリというものを完全に排除した彼のビートがワイアーをワイアーたらしめています。

嘘だと思ったらコリン・ニューマン(Colin Newman)が彼の奥さんマルカ(Malka Spigel)と一緒にやってるバンド GitHead と聴き比べてみてください。Wire も Githead もメンバーは4人で楽器構成も同じ、同じように多くの曲をコリン・ニューマンが書いて、似たようなメロディとギターサウンドで同じコリン・ニューマンが歌ってます。でも Wire と Githeadd それぞれの曲から受ける印象がまるで異なります。

たとえば Wire の 「One of Us」Githead の「Take Off」を聴き比べてみてください。

ね、全然違うでしょう。え?まったく同じに聴こえる?困ったなあ。いやビデオ撮影を担当したのが両方ともマルカなので、視覚に惑わされて同じように聴こえるのだと思います。目を瞑ってもう1回よおく聴いてください。

ね、違うでしょう?はい、違いますね。違うということになりました。この違いがどこから生まれるかというと、ロバート・グレイの叩くドラムのビートなんですよ。そういうことにしておいてください。

ええっと、ところで話は変わりますが中高年のみなさんの中には「ワイアーのドラムってロバート・ゴウトゥベッド(Robert Gotobed)って名前じゃなかったけ?」と疑問に思う方が少なくないと思います。はい、昔はそう名乗ってました。その理由については本人がこのように語っています。

Gotobed というのは先祖代々うちの名字なんだけど、祖父はこの名字が嫌いだったんだ。誰もホントの名字だって信じてくれなかったからさ。それで祖父は名字を Grey に変えたんだ。俺自身は Grey という名字で育ったんだけど、若い頃そのことを知り逆にこの奇抜な名字が気に入って Gotobed を名乗ることにしたんだ。当時はパンクの時代で変な名前を名乗ってるやつがたくさんいたから、俺の名字もきっとその類いだとみんな思ってたみたいだよ。

だけど時を経るに連れて俺も祖父と同じ意見を持つようになった。若いときには Gotobed という名字が力になることもあるが、年を取ると却ってそれが邪魔になるんだろうな。Grey という名字の方が今の自分にはふさわしいってわかったんだ。たぶん自分に自信が付いたせいだと思うよ。もう奇抜な名前で自分を誇示する必要なんてないからさ。

Wire's Pink Flag, by Wilson Neate

すごい速さでやって来る
彗星だ

こっちへ向かってやって来る
ちゃんときみの名前が書いてある

天からの贈り物
壊滅的大惨事

大合唱が起こる
大合唱が起こる
ぶぁ、ぶぁ、ぶぁ、ぶぁ、ぶぁ、ぶぁーん
後はただすすり泣く声

大合唱が起こる
大合唱が起こる
ぶぁ、ぶぁ、ぶぁ、ぶぁ、ぶぁ、ぶぁーん

大合唱が起こる
大合唱が起こる
ぶぁ、ぶぁ、ぶぁ、ぶぁ、ぶぁ、ぶぁーん

大合唱が起こる
大合唱が起こる
ぶぁ、ぶぁ、ぶぁ、ぶぁ、ぶぁ、ぶぁーん

大合唱が起こる
大合唱が起こる
大合唱が起こる
大合唱が起こる

2012/11/16

わたしたちのひいおばあちゃんはジプシーだったんですって - ハイム(Haim)

Haim の魅力は何と言っても演奏してる三人がみんなすごく楽しそうなこと。一応新人バンドなんだけど、みんな小さな頃からステージに立ってるから、すごくリラックスしてマイペースで演奏してる。ステージが特別なものじゃなくて日常生活の一部って感じで、三人の自然な魅力が伝わってきます。

ステージ中央、次女のダニエルはねえ、歌の合間に出る「ハッ!」って掛け声がとってもカッコいいんですよ。どれくらいカッコいいかというと、漢字で「()ッ!」って書いた方が似合うくらいものすごくカッコいい。ギターもワイルドで素晴しい。知ってた?ギブソン SG っていうのはこうやって鳴らすんだよ。これが正しい SG の弾き方なんだよ。

ステージ右側、長女でベースのエスティはしっかりしたテクニックで抜群の安定感、頼りになる姉ちゃん。「大丈夫、姉ちゃんにまかせといて!」って感じで、サウンドの土台を支えてる。バンドのひょうきんなムードメイカー。

ステージ左の三女アラナは明るい末っ子キャラ。キーボード、ギター、パーカッションにヴォーカルと忙しいんだけど、年齢に似合わずステージではすごく冷静でキメるところはちゃんとキメる。はずさない。ギターのストラップが切れたって慌てず騒がす冷静に座り込んで演奏を続けます

三人は現在イギリスをツアー中で、12月3日には第2弾の EP (シングル?)「Don't Save Me」がイギリスで発売になります。何で LA のバンドなのにイギリスなのかというと、契約したレコード会社ポリドールがイギリスの会社なんでイギリス、ヨーロッパでまず集中的にプロモーションをってことなんだと思います。ホワイト・ストライプスしかり、スパークスしかり、ユニークなアメリカのバンドというのはなぜか本国よりイギリスで先に火が点くもんなんですよ。

Q: あなたたち3人はまだ小さな頃から両親と一緒に町のあちこちのステージに立って色んなカバー曲を演奏していたと聞いてます。つまり家族として一緒に生活してるのと同じくらい長い間、お互いミュージシャンとしてもつき合ってるわけですよね。両親と一緒にプレイしてた頃の思い出を何か聞かせてくれませんか。

一番の思い出は両親と一緒に初めてフェアファックスの Kibbitz Room のステージに立ったときかな。わたしたちみんなまるでロックスターになったみたいだった。とても不思議な気分で、そんな風に感じたのは初めてのことだったの。

Q: あなたたちの誰か、今までにもうプレイしたくないって思ったことはありませんか?

もうプレイしたくないなんて誰も考えたことないわ。それぞれ(Haim 以外の)プロジェクトでツアーに出ることもあるけど、いつだって帰ってくるべき自分たちのバンドがあるってちゃんと分かってるもの。

Q: 現在あるいは過去において、音楽的に大きな影響を受けたものは何ですか?

わたしたち両親が聴くものなら何でも聴いたの。ママはフォークやモータウンが大好きで、パパのお気に入りはファンクと The Clash。それにわたしたち LA 育ちでしょっちゅう車に乗っていたからいつもラジオを聴いていたの。90年代のガール・グループのアン・ヴォーグ(En Vogue)やデスティニーズ・チャイルド(Destiny's Child)も大好きで、ほかにも KIIS FM でかかる曲はみんな好きだった。

Q: Haim としての活動を初めようと決めたのはいつですか?

それまでわたしたちは曲なんか書いたことはなかったんだけど、ある日みんなで座って一緒に曲を作ってみたのよ。1曲書いてみたらそれがすごく楽しくて止まんなくなっちゃって、何曲かでき上がったら今度はライヴでみんなに聴いてほしくて我慢できなくなった。最初のギグは2007年の7月7日。門出にふさわしい日付よね。終わった後で、これこそわたしたちがやりたかったことだって確信したわ。

Q: Haim の本格的な活動開始に当たって乗り越えなくちゃならなかった一番の問題は何でしたか?

アラナ(Alana)がハイスクールを卒業するのを待たなくちゃならなかったこと!

Q: 曲はどうやって作るんですか?みんなで一緒に書くんですか?

曲は3人一緒、みんなでドラムを叩いて作るの。曲のアイディアはたいていドラムのビートから生まれてくるのよ。

Q: 現時点では3曲入りの EP がリリースされていますが、今後の予定は?アルバムのレコーディング予定はあるんですか?

今まさに作ってるところなの。

Q: ツアーをやっていて楽しいことは何ですか?あるいは嫌なことって何かありますか?

わたしたち、知らない土地へ行ってステージに立つの大好き。パパが言ってたけど、わたしたちのひいおばあちゃんはジプシーだったんですって。わたしたちが同じ場所にじっとしていられないのはきっとジプシーの血のせいね。ツアーで嫌なことなんて何もないわ。ヴェジタリアン向けの食事を見つけるのにちょっとだけ苦労するけど。

Better Off With HAIM: An Inside Look At Indie's Best New Trio

次のビデオは Haim の成り立ちを紹介したミニ・ドキュメンタリーなんですけど、自宅スタジオでのリハーサル風景のほか、パパ・ハイム、ママ・ハイム、三人がまだ子どもの頃の写真や映像も見られてすごくおもしろいよ。車の中で三人が「Go Slow」を歌うシーンがあるんだけどとってもいい感じ。いつも三人こうやって歌ってるんだろうな。

パパ・ハイム: 男の子が欲しくて3度もがんばったのに、うまくいかなかったんだ。だけどこれで良かった。すごく満足だよ。

うん、最高だよ、パパ・ハイム、ぐっじょぶ!

2012/11/10

自分が自分らしくいられてすごく感謝してる (Harder Than You Think - パブリック・エネミー)

2012-movement-detroit-5.27.12-67-public-enemy
2012-movement-detroit-5.27.12-67-public- enemy, a photo by dailybeatz on Flicr.

こないだパブリック・エネミー(Public Enemy)を聴きながらLast.fmのチャートなんか眺めていたんですよ。そしたらなぜか「Harder Than You Think」がダントツのトップになってるんですよ。

あれえ?パブリック・エネミーのヒット曲といえば「Fight The Power」か「Bring the Noise」なんじゃないの?マニアックなファンなら「Don't Believe the Hype」を一番に挙げるかもしれないけど、なんで「Harder Than You Think」がトップなの?

だって「Harder Than You Think」は2007年のアルバム「How You Sell Soul to a Soulless People Who Sold Their Soul?」に収録されてる曲だよ。このアルバムそんなにヒットしなかったはずでしょう。確かビデオゲームに曲が使われたって話は聞いた記憶はあるけど、そんなんで曲が大評判になったりしないし、どこかオラの知らないところで映画のサントラか何かに使われた?

ということで調べてみたらすぐに分かりました。今年のロンドン・パラリンピックのテーマ曲としてこの曲が使われてたんですね。すみません、今になって知りました。イギリスの R&B シングル・チャート1位というのは、パブリック・エネミーにとって初めてのことだそうです。

最近はテレビでパラリンピックをずいぶん放送するようになったので、観た人も多いでしょう。オラも観ました。おもしろかった。なんかすごく未来的な感じがしました。未来のスポーツって、みんなこんな感じになるんじゃないかなって。

身体の不自由な人をじろじろ見ちゃいけませんって風潮が今もあります。まあ別に不自由じゃなくても、人をじろじろ見るのは失礼に当たりますが、特に相手が身体の不自由な人だとなるべくその不自由な部分を見ないようにするって気持ちが働いて、見る方の見方そのものが不自由になるというパラドックスがあったりします。

でもスポーツ・エンターテインメントってよおく見るもんだよね。見られる方は「俺を、わたしをよく見てくれ」ってやってるし、見る方はそれに応えてよおく見ます。見ていいんだ。見ちゃいけないものはないんだ。よおく見ていいんだ。見るとすごくおもしろいし、感動したりするとこが未来的。

なかなかやるな、2012年。

立ち上がれ
そうだ、簡単なことじゃない
立ち上がれ
そうだ、簡単なことじゃない
立ち上がれ
そうだ、簡単なことじゃない

俺たち、自分が自分らしくいられてすごく感謝してる
だから何度も同じことを言うが気にしないでくれ
こういうシンプルな言葉がカラダにいいんだ
おかげで犯罪ライムなんか用無しになる

そうだ、そうやって生きて愛すればいい
何も気にすることはない
5000人のリーダーたちは誰ひとり恐れなかった

騒げ、今こそ奴等をビビらせろ
自分の力で立ち上がれ
今もそれが一番美しい

2012/10/14

俺にとっては歌うことも議論なんだ - This is the story of Johnny Rotten

10月から今年の PiL ワールドツアー後半戦、アメリカとカナダでのツアーが始まっています。わずか1ヶ月の間に20ヶ所でライヴを行います。連日毎回2時間以上のライヴです。これがどれほど超人的なことか、去年の来日ライヴや4月の Heaven でのライヴ DVD を見た人ならわかると思います。

レッド・ツェッペリンなら2時間やっても実際にロバート・プラントが歌ってるのはその3割くらいの時間に過ぎません。でもジョニーは違うんですよ。2時間以上、本当に全身全霊で、目いっぱい休みなく吠え続けるんです。どうしてあんなことを毎日のようにやって喉をつぶさないのか、本当に不思議です。心配になってきます。でも YouTube に上がってくる各地でのライヴの様子を見ると、相変わらずの全力投球でまったく加減してません。

それだけでなく、ツアーの合間には数多くの音楽サイトのインタビューを受け、サイン会までやってます。つい先日はアル・ゴアが会長を務める民主党系メディア Current TV に出演、インタビューの冒頭でオバマ支持を明言して、反オバマな人たちから盛大に叩かれたりしています。

火中に栗を拾いに行くというか、火を見ると栗を探さずにいられない自分の性格を、ジョニーはインタビューでこのように語っています。

Q: どんなものに対して不誠実さを感じますか?

すべての政治家、公的機関、それに政党だよ。一旦その中に組込まれてしまうと、妥協を強いられることになる。そしてその妥協こそが嘘の源になってる。俺は妥協と戦うことにやりがいを感じてるのかもしれないな。俺は妥協する必要なんて感じない。人は多様になればなるほど良いものになれるんだ。

みんなの意見が一致することなんてあり得ない、それでいいんだってことにみんなどうして同意できないんだ?俺の特に仲のいい友人の何人かは、俺とはまるで意見が合わない。何ごとに関してもまったく一致しない。だけど俺にとってはそれこそが素晴しい関係なんだ。

Q: それはどうしてですか?

自分ではこうすべきだって思っていることが、ほかの人間にはそうとは限らない、それを絶えず俺に警告し気付かせてくれるからだよ。それがいいんだ。俺たちは誰もがそれぞれ違うことに興味を持ち、異なる視点や意見を持ってる。だが自分をさらけ出してまったく違った視点を持つ人と議論してみると、やがて自分が間違っていたと気付くこともある。それが学ぶ機会になるんだ。自分の間違いを認めることが最高の成果になる。確実に自分の糧になるんだよ。

Q: 自分が間違ってたと思ったのはどんなことですか?

すぐに思い付くことといえば、学校で教師と言い争ったことだな。だがその経験があったからこそ、俺は答に辿り着くこができた。俺は別に言い争いが好きなわけじゃない、ただシステムを盲信するんじゃなく真実は何かってことを知りたいだけなんだ。だからいつも議論してるんだよ。俺にとっては歌うことも議論なんだ。

Q: それは興味深い話ですね。どうして歌が議論になるんですか?

自分のものの見方を表明することだからさ。あるいは別の人間の視点に立ってものを見ようとする行為でもある。その見解は正しいものかもしれないし、間違っているかもしれない、だけどいずれにしろ、ほかの人間にコミュニケーションを促すことなんだ。そうやって新たな議論の種を蒔くんだよ。俺のことが嫌いで俺のやること成すことすべて気に入らない奴だっているが、逆に俺をヒーロー視する奴同様、ちゃんと議論をする限りどちらにもものを言う正当な権利があるのさ。ただもの分かりがいいだけの人間なんかよりはるかにマシだよ。「あの人いい人ね」ってのは人に対する最悪の侮辱だよ。

今日の昼間、YouTube で ACL Music Festival の中継を観ていたら、ニール・ヤングがコンサートのラストで「Hey Hey, My My」を歌っていました。知ってる人は知ってる、ジョニー・ロットンのことを歌った曲です。

1979年の「Rust Never Sleeps」に収録されている古い曲ですが、調べてみると奇しくも PiL が復活した2009年あたりからコンサートのセットリストに復活し、毎回最後に歌われているようです。同じインタビューの中で、この曲についての話もジョニーがしていました。

Q: ニール・ヤングが書いた「Hey Hey, My My」をあなたがどう思ってるのかずっと知りたかったんですが。

「Rust Never Sleeps」に入ってる曲だろ?笑っちゃうよ。(真似て歌い始める) "This is the story of Johnny Rotten. The king is gone but not forgotten." 俺もニール・ヤングが何を考えてこの曲を作ったのか知りたかったんだよ。だから VH1 で Rotten TV って番組をやってたとき、彼に直接その話を聞きたいってマネージメントに電話したことがあるんだ。だけど彼の事務所から返ってきた返事は「ジョニー・ロットンなんて知らない」だった(笑)。俺があの曲に関して知ってるのはそれだけさ。

Q: それはヒドい話ですね。その後もニール・ヤングに会ったことはないんですか?

彼はずっと俺のソング・ヒーローのひとりさ。彼が長年に渡って書いてきた詩や独特のアプローチが大好きなんだ。特にアルバム「Zuma」、あれが大好きなんだ。

Q: 素晴しいレコードですよね。

もちろん彼に会ってみたいとは思うよ。だけど長年思い描いてきた人物の場合、実際に会ってみるとがっかりするかもしれないって覚悟しなくちゃならない。

俺はビーチ・ボーイズも好きなんだよ。この間イギリスのテレビのライヴショーにビーチ・ボーイズが PiL と一緒に出演したんだ。YouTube なんかでも話題になってるはずだよ。その時俺はひどい風邪をひいていて喉の調子も良くなかったんだけどさ、ステージで歌ってるときは、驚異のヴォーカリスト集団ビーチ・ボーイズが聴いてるんだって、気になって仕方なかった(笑)。ブライアン・ウィルソンがすぐそばに座って指を鳴らしながら頭を揺らして楽しんでたんだぜ。すげえうれしかった。感激だよ。

その後バンドのメンバーのひとりが俺をブライアンに紹介してくれたんだけど、今まで会ったことがないほど奇妙な人物だった。だらっとして、心ここにあらずって感じだった。「写真を撮るのかい」って彼は言ったんだ。それで一緒に写真を撮ったんだけど、まるでロボットみたいだった。その後彼は椅子まで連れて行かれると、座ってテレビの画面をただ見つめていた。それが今のブライアンだった。俺は彼のことをすごく尊敬していたから、彼があんな風にボロボロになっているなんて信じたくなかったよ。

ま、ロットン様の音楽的嗜好はこうして実に多岐に富んでいるってことさ。

Mr. Rotten - John Lydon

でも PiL の演奏を聴いてるブライアン・ウィルソン、とても楽しそうだよ。

2012/09/30

それは地理的な場所じゃない、俺たちの心の中にある場所なんだ (Reggie Song - パブリック・イメージ・リミテッド)

明日10月1日、イギリスで PiL の新しいシングル「Reggie Song」が発売になります。今回取り上げているテーマはずばりエデンの園です。「Religion」の続編ともいえる曲で、いよいよ旧約聖書、創世記との対決です。

「The Room I Am In」の記事でも紹介した通り、ジョン・ライドンはここ数年インタビューで度々「この地上こそが天国なんだ (Heaven is on earth)」という言葉を口にしていますが、これがアルバム「This is PiL」を通じて共通するテーマにもなっています。

俺たちが経験できる唯一のものが、この現実なんだ。馬鹿野郎なのは、俺たちをエデンの園から追い出した神の方だ。だから俺たちにはエデンの園に帰る権利がある。そうすべきだ、そうしようぜ! そういう歌です。

俺たちの親友、特にランボーと仲のいいレジナルドって奴のことを歌った曲だ。もうずっと昔からの友達でさ、フィンズベリーパークで生まれ育ったアーセナル国の住民さ。どんな困難なことがあっても、決っしてあきらめない奴なんだ。あいつはジャマイカ人の血をひいてるんだけど、まあそんなことは俺たちにとって重要じゃない。俺たちはフィンズベリーパークの仲間なんだ。あいつは自分の子どもたちの面倒をみてやりたいんだけど、それが許されていない。政治システムのせいさ。そのシステムが彼からありとあらゆるチャンスを奪い、苦しめてるんだ。同じような問題はあちこちにあって、しばしば悪循環を引き起こしている。だけどあいつはそんな制度ともうまくつき合っていく方法を身に付けている。うまく操るんだよ。すごくイカれた奴さ。俺と同じくらいイカれてる。

俺たちはみんなイカれてるんだ。だがお互い愛しあってる。お互い真摯に、誠実につき合ってるからさ。レジナルドは賞賛に値する奴なんだ。ある日あいつが言ったんだよ。「灯火のように光れ」って。そして「ジョニー、おまえは灯火のように光らなくちゃならない」って言ったんだ。その言葉に俺が「エデンの園で」って付け加えたわけさ。すげえ!素晴しいリフレインだ。まさに真理だよ。俺たちはみんなエデンの園に帰りたいんだ。俺たちにとってのエデンの園がフィンズベリーパークなんだよ。だがそれは地理的な場所じゃない、俺たちの心の中にある場所なんだ。

JOHN LYDON: I AM FOLK MUSIC

この Reggie Song には4月のロンドン Heven でのライヴ映像をフィーチャーしたオフィシャルなビデオもあるんですが、もっと観ていただきたいのは9月25日にイギリス BBC テレビ音楽番組「Later... with Jools Holland」に出演したときのスタジオ・ライヴ映像です。PiL としてのテレビ出演は20年ぶりで、ジョニーはホームレス風ディナー・ファッションで登場します。この日のジョニー、風邪をひいていて声がちゃんと出ていないんですけど、それを補って余りある迫力が伝わってくるはずです。

レジナルドを知ってるかい?
分別をわきまえた奴でさ
あいつはちょっとしたアイディアを持ってる
それで穏やかな気持になれるんだ
あいつはヤバいものには近付かない
エデンの園アダムとイヴみたいに
すごく純真な奴なんだ

あいつは夢見てる
俺たちはみんな夢見てる
俺たちがここを出ていかなければならない理由なんてない
俺たちは、エデンの園で灯火のように光るんだ
悪いことなんて何もない、ここを出ていく理由もない

だから俺たちは光るんだ
光っているんだ

エデンの園で灯火のように光るんだ
出て行く理由なんて、どこにも、何ひとつもない
エデンの園で、俺を光らせてくれ
出て行く理由なんて、何ひとつない

あいつはロンドンで生まれた
俺もロンドンで生まれた
俺たちの多くはロンドンの生まれだ
だがどこの生まれだろうと関係ない
あんたもあの園に帰れば、まっとうな人間でいられる

俺はずっと夢見ている
悪いことも、出て行く理由も、何ひとつないんだ
エデンの園で灯火のように光るんだ
出て行く理由なんてどこにもない

上等なウィードから
七本の楡の木(セヴン・シスターズ)まで
何でも揃ってる
俺はそのフィンズベリーパークの生まれなんだ
こきげんだぜ
きっとあんたにもわかる日が来る
神の言葉をあれこれ考えたところで
大したことは何もわかりゃしない
あいつは女好きでさ
純真なやつなんだ
エデンの園にいるみたいに

エデンの園で灯火のように光れ
出て行く理由なんてどこにもない
エデンの園で灯火のように光るんだ
出て行く理由なんてどこにもない

俺はずっと夢見てる
出て行く理由なんてない
俺は今でもエデンの園に住んでいる

俺はずっと夢見てる
出て行く理由なんてない
俺は今も住んでいる
みんな住んでいるんだ
エデンの園に

2012/09/08

ハイム(Haim)、ポリドール・レコードと契約、ヨーロッパ・ツアー開始!

Haim 4
Haim 4, a photo by alansheaven on Flickr.

LA の三姉妹バンドのハイム、バンド側から正式のアナウンスはまだないのですが、どうやらポリドールと契約して、アルバムのレコーディングに取りかかっているようです。アラナがこんなツイートをしてました。

ポリドール・レコード 「さて君たちの中で誰かぼくらのために新しい音楽を作ってくれる人はいるかな?」
アラナ 「只今作業中」

ポリドールのサイトを見るとちゃんとハイムの名前が載ってました。遂にアルバムがリリースされるようですね。そのほかも活動が活発で色々動きがあるので、まとめてご紹介します。

まず数量限定でリリースされたアナログ EP「Foever」ですが、追加のプレスで白いレコードやTシャツ付きのパッケージが販売されています。ほかに「Just Tell Me That You Want Me」というフリートウッド・マック(Fleetwood Mac)のトリビュート・アルバムにも参加、これは一曲だけですが「Hold Me」をカバーしています。CD、ダウンロードで既に販売中です。

ライヴの方は、地元 LA での小さなフェス等への参加のほか、8月はマムフォード & サンズ(Mumford & Sons)主催の移動フェス(?) Gentleman of the Road に加わり北米4ヶ所でのコンサートを行いました。そして11月からは、ハイム初の本格的なヨーロッパ・ツアーが予定されていて、イギリスを中心にオランダ、ドイツ、フランスなどをまわります。

あと7月19日にサンタモニカ埠頭で開催された無料コンサートでのライヴの模様が YouTube にアップされていたのでご紹介します。曲は以下の8曲です。客席からの撮影ですが、音質、画質共にきれいに撮れていて、ハイムのパワフルなライヴの雰囲気が充分に堪能できます。やっぱハイム、ライヴが最高にかっこいい!

  1. Better Off
  2. The Wire
  3. Honey & I
  4. Forever
  5. Go Slow
  6. Oh Well (Fleetwood Mac cover)
  7. Falling
  8. Let Me Go

えっと、あと何か忘れてなかったかな。そうだ、「Forever」の公式カラオケ・ビデオも公開されてます。

2012/09/06

あんたがいるそこはずっと、まぎれもない天国なんだ (The Room I Am In - パブリック・イメージ・リミテッド)

Snow at Finsbury Park
Snow at Finsbury Park, a photo by Xenoc on Flickr.

ジョン・ライドンのロリポップ・ブログ(Lollipop Blog)、ブログと言ってもジョンが文章を書いて公開してるわけじゃありません。インタビューのビデオです。普段着のジョンが居間の椅子に座って話す様子を撮影、そのビデオを YouTube で公開するだけという、きわめて21世紀の PiL らしい低予算のプロモーション活動です。そのロリポップ・ブログ第4回のビデオが先日公開されました。今回のテーマは、ニューアルバム「This is PiL」収録の曲「The Room I Am In」についてです。

この曲は明確なビートやメロディーのない、いわゆるアンビエントな感じのサウンドで、従来の PiL にはなかったタイプの曲です。ジョンもほとんどメロディらしきものは歌わず詩を朗読しています。重苦しい一方でどこか美しいムードの漂う曲なんですが、曲の途中でなぜかジョンは笑っています。なぜでしょう。その理由は「ここが天国だから」です。

この曲はルー・エドモンズがスタジオで録ったものを編集したことから始まったんだ。メンバーの誰ひとりモノになるとは思ってなかった曲さ。テクノロジーの力で作り上げた音楽だな(笑)。みんなびっくりしたよ。彼は素晴しいものにしてくれたんだ。アンビエントで調子外れなサウンドで、心地良くて美しく、それでいて皮肉な感じも漂ってる。彼の心の底から生まれたサウンドだよ。

だから俺は、それに負けない相応(ふさわ)しい歌を入れようと思ったんだ。最終的に「絶望の中での生活」を心を込めて語るのがいいってわかったんだ。公営住宅の部屋、タールで汚れた壁、俺たちが育った場所の諸々についてさ。

だが地獄に思えるようなこの場所が、実は天国なんだってことを理解しなくちゃならない。俺たちが生きてるこの現実こそが天国なんだ。だから精一杯生きなくちゃならない。俺たちが経験できる唯一のものが、この現実なんだ。

宗教が広めてる最も有害な考えが「死後の救済」ってやつさ。宗教が言ってるのは今生きてることを無駄にしろってことじゃないか。

ここが天国なんだ。この部屋にいるみんな、世界中のみんなが今いるのが天国なんだ。今あんたがしている呼吸のひとつひとつ、それが天国なんだ。

あんたも自分の母親が癌になって、最後に息をひきとる場に立ち会えば、ああここが天国だったんだなってわかるはずだよ。

いつもだとここでライヴのビデオをご紹介するんですが、今のところ「The Room I Am In」はライヴで演奏されていないため、ビデオもありません。「へえ、ジョン・ライドンって、こんなこと歌う人なんだ」と興味を持った方はぜひ PiL のアルバム「This is Pil」をお買い求めください。

この窓からは、大した希望など見えた試しがない
このちっぽけな建物の外では
どんよりと曇った朝から始まり、晴れた空が広がり
夕暮れの色はやがて、漆黒と星だけの空になる
窓格子ごしにそれを眺めるだけ
汚物だらけの公営住宅
そこの部屋に俺はいる

わかっている
そんな中に
俺がいるちっぽけな部屋がある
俺の地獄
それが俺の居場所
それが俺の居場所

あんたがいるのはほかのどこでもない
あんたがいるそこはずっと
まぎれもない
天国なんだ

2012/09/01

みんなアメリカを探しに来たんだ (America - ファースト・エイド・キット)

Long Live Liberty
Long Live Liberty, a photo by Wallflower83 on Flickr.

ポーラー音楽賞(Polar Music Prize)、日本での知名度はいまひとつなんですが、ABBA のマネージャーだった Stig Anderson がスウェーデン王立音楽アカデミーの援助を受けて1989年に創設した賞で、音楽界のノーベル賞とも呼ばれています。今年はポール・サイモン(Paul Simon)とヨーヨー・マ(Yo-Yo Ma)が受賞し、授賞式が8月28日にストックホルムで開催されました。

受賞者を差し置いて、昨年に引き続きステージに立って歌ったのはスウェーデンが誇るおぼこ姉妹デュオ、ファースト・エイド・キット(First Aid Kit)です。去年は「Dancing Barefoot」を歌って受賞者のパティ・スミス(Patti Smith)を泣かせてしまったんですが、今年もまたやってくれました。

歌ったのはポール・サイモンのサイモン & ガーファンクル(Simon & Garfunkel)時代の曲「America」です。客席で聴いてるポール、うるうるしてます。なんだかこの授賞式、もはやファースト・エイド・キットの実力をベテラン・アーティストにアピールする場になってませんかね。

「America」は探していたものが、あるはずの場所に見つからなかった。いったい何を探していたのか、わからなくなってしまったという青春の歌です。そこで探すのを止めてしまうと単なる昔を懐しむ歌にしかなりませんが、そこが始まりだと気付けば希望の歌になります。

「ぼくら恋人同士にならないか。お互いの財産目当てに結婚を企むんだ」
「あら、わたしカバンの中に少しばかり土地を持ってるのよ」
それからぼくらは煙草を1箱とミセス・ワグナーのパイを買い、アメリカを探して歩き出した

「キャシー」
ピッツバーグでグレイハウンドの長距離バスに乗るとき、ぼくは言った
「ミシガンにいた頃のことが、今じゃもう夢みたいに思えるよ」
サギノーからはヒッチハイクで4日もかかった。
ぼくはアメリカを探しに来たんだ

バスの中ではゲームをしてふざけ合った
彼女が「あのギャバジンのスーツを着た男の人はきっとスパイね」と言えば
ぼくは「気を付けろよ、あの蝶ネクタイは隠しカメラだから」と応えた

「煙草を取ってくれないかな。レインコートのポケットに残っているはずなんだけど」
「1時間前に吸ったのが最後の一本よ。」
仕方ないのでぼくは景色を眺め、彼女は雑誌をめくった
広々とした平原に月が昇っていた

「キャシー、ぼくは道に迷ってしまったみたいだ」
彼女が眠っているのを知りながらぼくは言った
「どうしてだかわからないけど、虚しくて、苦しいんだ。」
ニュージャージーの高速道路ですれ違う車の数を数えた
彼らもみんなアメリカを探しに来たんだ
みんなアメリカを探しに来たんだ

ファースト・エイド・キット、来年の授賞式では誰の歌を歌うんでしょう。今から楽しみです。

2012/08/29

アナログ・レコードに手を出すな!

Record Slow motion with needle
Record Slow motion with needle, a photo by kingdesmond1337 on Flickr.

「CD の音はダメだよ。MP3 とか iPod なんてもってのほか。やっぱ音楽はレコードで聴かなくちゃ。音の質感というかツヤが違うんだよねえ。それに何といってもあの大きなジャケット。」

中高年の音楽ファンがこんなセリフをほざくのを聞いたことはありませんか?何だか「お前が聴いてるのは質の低い音楽なんだ」って言われてるみたいで、すごくムカつきますよね。だいたいレコードなんてそのへんの店に行っても売ってない過去の遺物です。じじい共と一緒にさっさと滅びてほしい。レコードにこだわっていた人種といえば DJ がいるけど、あいつらでさえ最近はレコードはおろか CD すら使わなくなっています。

だいたいさあ、レコードって直径30センチもあるでかい円盤なのに、1枚50分くらいしか曲が入らないんですよ。しかも表と裏、別々に25分だって。25分経ったら続きを聴くのに円盤をひっくり返さなきゃ聴けないんだって。信じられる?

レコードってあれ、ただのビニールの円盤に溝を刻んでるだけでしょう。それをダイヤモンドでできた小さな針で引っかいて振動させて、それを電気で増幅して音を鳴らすだけなんだって。あまりにも原始的というか、それって安土桃山時代あたりの技術ですよね。それに針でビニールをこするわけだから、レコードは聴くたびにだんだん磨り減ってくんだって。「磨り減るほど聴き込んだ音楽」って、あれ例えじゃないんだって、本当に磨り減るんですって。アタマ悪過ぎ。

もそもさあ、あんなでかいレコードとレコードプレイヤーなんて持ち歩けないでしょう。電車やスタバで聴きたいときどうするんですか。聴けないでしょう。いや、そう思って「外で音楽聴きたいときはどうするんですか?」って尋ねたことがあるんですよ。そしたら「頭の中にしっかり音が刻まれた脳内ジュークボックスがあるから大丈夫。どんな場所でもすぐに好きな曲が聴けるよ」だって。アタマおかしい。

普通は iPod や iPhone で好きなときに好きな場所で音楽聴きますよね。連中違うんですって。新しいレコードが手に入ってもどこでもすぐに聴けるわけじゃないから「今日は真っ直ぐ家に帰って、ご飯食べて、あのレコード聴くぞ。今日は家に帰ったら、絶対あのレコード聴くぞ」って一日中考えながら、ずっと我慢して過ごすんですって。間違いなく変態。

AMP Magazine のサイト見ていたら、PiL のジョン・ライドンっておっさんのインタビューが載ってて、例によってレコードについて熱く語っていたんですよ。このおっさんはレコード・マニアで、20年くらい借金で首がまわらなくて座敷牢状態で新作を発表できなかったらしいんだけど、それでも自分で集めたレコードは手離さなくて、今はロンドンとロスの2箇所に大量のレコード・コレクション保管してるんですって。話を聞いてる若いインタビュアーがまた世間知らずで「ぼくもレコード・プレイヤー買います!」なんて言い出す始末。みんな、気を確かに持って!

Q: ここ数年、アナログ・レコードがまた盛り返してきていることをどう思いますか?あなたがアナログ・レコードの熱狂的支持者である理由も教えてください。

音楽を理解し満喫したいなら、アナログ・レコードを聴くべきだだよ。CD も高い技術レベルで製造すればいいものになるかもしれないが、今のところアナログ・レコードの質感には及ばない。あと何といっても大きさなんだよ。12インチのビニールの円盤は、アーティストが聞き手とその世界を分かち合うため、招き入れるために必要な大きさなんだよ。レコードの溝に指が触れないように注意しながら、真ん中のラベルに書かれた情報を見て、自分が今聴こうとしてるものを確認するんだ。俺が今までに買った一番高価なものはレコード・プレイヤーなんだよ。

Q: レコード・プレイヤーは今まで持ってなかったんですけど、そんな話を聞くと1台欲しくなりますね。

こういうジェネレーション・ギャップが生じた原因は、レコード会社の経営的な判断によるものなんだ。レコードを聴いてきた俺とレコードを知らないあんたは、聴いてきたものがまるで違うんだよ。レコード会社は CD というより安く音楽を製造する手段を得て、レコードを作るのを止めてしまった。安くなった一方で質が落ちた。で、知っての通りダウンロード音楽になるとさらにまた質が落ちたんだ。何か変わる度にすぐそれと分かるほど質が落ちる。ひどい話だよ。

PiL としての俺の立場から言えば、俺たちみたいな低音のぶ厚い音楽を聴くときは、インターネット経由で、しかもヘッドフォンを使って聴いたりすべきじゃない。自分の好みの音楽かどうかを確かめるにはそれでも用は足りるかもしれないが、大きな音で、ちゃんとした音の感触を楽しみたいのなら CD を買ってほしい。もっといい音で聴きたいならアナログ・レコードを買ってくれ。レコード・プレイヤーを置く場所が必要になるけどな。

Q: もうひとつ私が持ってないものが...

ああ、コンピューターを一式買うのに似てるよ。レコードで音楽を聴くには色々用意しなくちゃならない物があって、それが揃って始めて音が聴けるようになる。いずれにせよ、俺がやってるような聴き方は快適だぜ。大きなスピーカーのコーン紙が振動して部屋の中に響き渡る、これ以上のものはないよ。静電気のパチパチいう音がターンテーブルで鳴って、細かな音の隅々まで聴こえてくる。俺たちはでっかい部屋でレコーディングしたんだ。それを再現したいなら、部屋の中を音で満たすしかないんだよ。

Q: レコード・プレイヤーを買ってきます!

それがいい。世界が一変するぜ。

JOHN LYDON talks about the new album, the Occupy movement, Pete Townsend’s unsavory remarks about age, and Kickstarter

ああ、それからグルーヴ(groove)って言葉あるでしょう。「イェー、このグルーヴ、感じるかい?」のグルーヴ。グルーヴってレコードの溝のことなんですって。

2012/08/27

ジョニー・ロットンはアメリカを愛してる (Johnny Rotten Loves America)

An old Black Confederate Solider and his Grandson
An old Black Confederate Solider and his Grandson, a photo by J. Stephen Conn on Flickr.

PiL の北米ツアーに合わせて10月1日にシングル「Out of the Woods」がリリースされる件、先日はさらっと書きましたけど、これアメリカ人にとっては大変な問題作なんですよ。「Anarchy in the UK」や「God Save the Queen」なんかより、はるかにインパクト大きいはず。これがもし大手レコード会社からのリリースだったら、絶対に発売が認められない内容の曲です。

この曲はアメリカ南北戦争でのチャンセラーズヴィルの戦いについて歌っている。南北戦争にすごく興味があって調べたんだが、アメリカの真の歴史が独善的な見方によって無視されてることがわかって、ものすごい憤りをおぼえたんだ。そこから生まれた曲なんだよ。

アフリカ系アメリカ人は、アメリカの歴史のその部分において完全に無視されているのさ。俺はフロリダで教師をしているネルソン・ウィンブッシュ(Nelson W. Winbush)という人物に会った。彼の曽祖父は黒人の南軍兵士(black confederate soldier)だったんだ。自由な身分にあり、ボランティアとして志願し、南軍の兵士になった人物さ。

アメリカの歴史における黒人の本当の歴史なんだが、これは今でもうかつに会話に持ち出すと大問題になってしまう内容なんだ。この曲はそうした事実すべてと関連している。すごく興味深い話だろ。

John Lydon's Guide To 'This Is PiL'

これだけじゃ何のことだかピンと来ない人が多いと思うので、ちょっと解説します。まずアメリカの南北戦争、学校の世界史の時間に習いましたよね、150年ほど前にアメリカで起きた内戦です。南部11州が合衆国からの独立を宣言して結成したアメリカ連合国(Confederate States of America)と北部の合衆国との間で起きた戦争で、アメリカ史上最大の62万人という(第二次世界大戦よりも多い)犠牲者をもたらした戦争でもあります。

北軍は奴隷制を否定(正義)、南軍は奴隷制を擁護(悪)、結果は正義の北軍が勝利し、リンカーンが奴隷の解放を宣言して平和が訪れました。こんなイメージで把えてる人が大半だと思います。ですが Two sides to every story、人間の起こす戦争というものはそう単純なものではありません。戦争の原因自体は奴隷制とは直接関係がなく、貿易政策や州の自治権をめぐる、産業構造の違いからくる利害の対立です。奴隷の解放は副次的な結果に過ぎない、仮に南軍が勝利したとしてもやはり世の流れによって、奴隷は解放されていただろうという見方もできるのです。

北軍に黒人の兵士がいたことは、映画「グローリー (Glory)」に描かれたこともあり、知っている人も多いでしょう。ところが北軍だけじゃなく、南軍にも黒人の兵士がいたんです。しかも奴隷ではなく自由な身分の黒人で、自ら志願して兵士になった人々が。

この曲は黒人の南軍兵士の視点で歌っているんだ。

Public Image Ltd live at Heaven: Lock up your children

この記事の最初にある古い写真に写っているのがその兵士のひとり、Louis Napoleon Nelsonです。彼の隣で軍服を着てポーズをとっている子どもは曾孫(ひまご)のネルソン・ウィンブッシュです。戦争から70年ほど後、1932年に撮られた写真です。ジョン・ライドンが会って話を聞いてきたというのは、このウィンブッシュ氏です。

「北軍 = 奴隷解放 = 正義」説ひいては合衆国の大義を揺がしかねない黒人南軍兵士の存在は、公式の記録が残っていないことから長らくアメリカ国内で否定され続け、認められるようになってきたのは、つい最近のことです

ジョン・ライドンがウィンブッシュ氏に会いに行ったのは2007年のことで、当時のジョンはレコードを出したくても出せない状況にあったため、テレビに活路を見出そうとしていました。そこで彼が作ったのが、ランボーと共にハリケーン・カトリーナの被災地や民兵の集会などを訪れ、アメリカ南部の歴史を探るというドキュメンタリー番組「Johnny Rotten Loves America」です。その取材のひとつでウィンブッシュ氏に出会ったわけです。

ところがこの番組、放送してくれるテレビ局が現われず、結局お蔵入りになってしまいました。番組のトレーラーだけは YouTube に上がっているので観ていただくとすぐにわかりますが、This is Jonny Rotten なアプローチです。アメリカのテレビ局が逃げ腰になるのも無理はありません。

スティーヴン・フライ(Stephen Frye)はアメリカ南部のことを何も理解しちゃいない。そこに暮してるのが人の良い人間ばかりだってことは知ってるかもしれないが、あの土地の歴史について何もわかっちゃいないんだ。彼が南北戦争に関する番組をつくったことがあったが、南北戦争は奴隷解放のためだったなんていう安易な考えに基いたものだった。そんなの嘘っぱちだ。事実じゃない。だったらリンカーンの妻がアメリカ最大の奴隷所有者だったという事実をどう説明するんだ?戦争が終わっても長いこと黒人たちが解放されなかったのはなぜなのか説明してくれよ。

南軍旗(Confederate flag)を人種差別主義者の旗のように言うのも止めるべきだ。そもそも黒人たちは合衆国の旗の(もと)で奴隷としてアフリカから連れて来られたんだぜ。俺は真実が知りたいだけなんだ。もちろん南部ではひどいことが行われていたろう。だが南北両方でひどいことが行われていたんだ。だが嘘をつき続けてる限り、国の問題は何ひとつ解決できやしない。特に歴史というやつは、嘘つきどもがあれこれ好んで操作するもんだからな。

この件は、真実がどうであったのか厳しく検証すべき問題なんだ。じゃないと俺たちは、虚空の中で無意味な空想上の議論をしてるだけに終わってしまう。

PiL's John Lydon on appearing in butter commercials and being on Judge Judy

つまりシングル「Out of the Woods」は5年越し、「Johnny Rotten Loves America」で果せなかったことに対するリターン・マッチなんです。10月からこのシングルを携えて PiL の仲間と共にジョン・ライドンが再びアメリカへ乗り込みます。

2012/08/24

PiL のニューシングル「Reggie Song」と「Out Of The Woods」は10月1日発売

Pil Bournemouth 2012 Nokia N8
Pil Bournemouth 2012 Nokia N8, a photo by wheelzwheeler on Flickr.

8月19日の Summer Sundae フェスティバルでイギリス・ツアーを終えたジョニー・アンド・ザ・ボーイズは、1ヶ月ちょっとの休憩を挟んで10月2日のフロリダからツアーを再開します。去年は北米をまわらなかったので、2年ぶりの北米ツアーということになります。一日も早く日本に来て欲しいんですが、今年はちょっと無理そうですね。11月にルー・エドモンズがレ・トリアボリーク(Les Triaboliques)のライヴ予定を入れちゃってるんで、年内の PiL ツアーは北米で終わりだと思います。残念ですが、来年に期待しましょう。

でもね、ジョニーは日本を贔屓(ひいき)にしてて、かなり頻繁に来てるんだよ。ツアーのアーカイブを見るとわかるけど、ブラジルやアルゼンチンなど南米には再始動してからまだ一度も行ってないし、オーストラリアにも89年以来行ってない。ドイツなんて去年一度計画が出たのに中止になっちゃったから、最後のライヴはなんと87年、もう25年も PiL で行ってないんだぜ、ドイツ。

コンサートのプロモーターも商売ですから、観客動員の見込めないバンドは呼んでくれません。PiL の来日を実現するためにファンができることといえば結局、CD などを買って「コンサートに人の集まる証拠」をつくるしかありません。ということで、みなさんニューアルバム「This is PiL」はもう購入しましたか?DVD 付きの限定盤は既に品薄になってるようなので、まだの人は早めに買っといた方が良いですよ。

「アルバムも全部持ってるし、もう買うものないよ」という人も安心してください。昨日 PiL の新しいシングル「Reggie Song」と「Out Of The Woods」のリリースが発表されました。10月1日の発売です。4月にも「One Drop」が発売されているのですが、あれはレコード・ストア・デイ限定という扱いだったので、今回のシングルが「This is PiL」からの初めてのシングル・カット、1992年の「Acid Drops」以来30年ぶりのシングルということになります。

ただし今回のリリース、変則的でちょっとわかりにくいので説明しときます。基本は12インチのアナログ・レコードで、イギリスとアメリカ向け、次の通り、それぞれ別内容のものが発売されます。

イギリス向け
  1. Reggie Song
  2. Enclosed Walls - Live from NYC 2010
  3. Disappointed - Live from NYC 2010
アメリカ向け
  1. Out of the Woods
  2. USLS1 - Live from NYC 2010
  3. Warrior - Live from NYC 2010

「なんで国によって別内容のシングルをリリースすんの?」と疑問を持つ人がいるかも知れませんが、昔はよくあったんですよ。その国でアピールしそうな曲を選んでシングル・カットするというのが、ごく普通におこなわれていました。ケイト・ブッシュのデビュー・シングルなんかイギリスは「嵐が丘(Wuthering Heights)」だったんですけど、日本のシングルは「Moving」で「嵐が丘」は B 面だったんだよ。

「Reggie Song」はロンドン、フィンズベリーパークに住むジョンの友人レジナルドの言葉を、「Out of the Woods」はアメリカ南北戦争で南軍の軍人だったストーンウォール・ジャクソンのことを歌っていて、イギリスとアメリカ、それぞれの国の人によおく聴いてもらいたいってことなんだと思います。

シングルのおまけとして収録されるライヴ曲は2010年の5月18日、ニューヨークの Terminal 5 で収録されたもので、レコード化されるのは初めてです。

「イギリスとアメリカだけ?日本は?それにまたアナログなの?レコードプレイヤー持ってないから、アナログ・レコードは聴けないよ!」という人も大丈夫、両方のシングル内容をひとまとめにしたお徳用 CD とダウンロード販売もちゃんと予定されています。

CD/ダウンロード版
  1. Reggie Song
  2. Out of the Woods
  3. Psychopath - Live from NYC 2010
  4. USLS1 - Live from NYC 2010
  5. Warrior - Live from NYC 2010
  6. Enclosed Walls - Live from NYC 2010
  7. Disappointed - Live from NYC 2010

国内盤の発売は?うーん、わかんないけど、また EMI Music Japan の中の人ががんばってくれるんじゃないかな?そういえば、最近になって気付いたんだけど、アナログ限定盤 EP 「One Drop」は EMI Music Japan のネットショップで売ってるんだよ。こちらも買い損ねた人はお早目に。

2012/08/18

俺はバリーの生まれだ (Bury Pts. 1 + 3 - ザ・フォール)

Untitled
Mark E Smith, a photo by Dan's Photo on Flickr.

現在イギリスの音楽シーンには、一筋縄ではいかない二大偏屈じじいがいます。一人はご存知、ロンドンはフィンズベリーパーク出身、PiL のジョン・ライドンです。もう一人、今回ご紹介するのがグレーター・マンチェスターはサルフォードの出身、ザ・フォール(The Fall)のマーク・E・スミス(Mark E. Smith)です。

マークがザ・フォールでデビューしたのはセックス・ピストルズ登場のすぐ後、1977年ですから、芸能生活35年の大ベテランです。ザ・フォール名義のアルバムだけで、もう29枚も出しています。見た目すごく老けていて、もう70近いんじゃないかという感じですが、ジョン・ライドンと同じ、現在56歳です。

次のビデオで演奏されているのは「Bury(バリー)」という曲で、グレーター・マンチェスター北部の町の名前がそのまま曲名になっています。2010年リリースのアルバム「Your Future Our Clutter」に収録されています。内容的にはマークの出自らしきものが歌われていて、PiL の「One Drop」や「Lollipop Opera」に相当する曲とも言えますが、前述の通り、マークはサルフォードの出身でバリー生まれではありません。このへんがマークのマークたる所以(ゆえん)です。

ビデオを観ていただければ、誰でもすぐにわかるでしょう。これが偏屈じじいじゃなければ、一体誰が偏屈じじいなんだって言うくらい偏屈じじいです。ステージ上を徘徊して、時々思い付いたようにわけのわからないことをマイクでがなり立てます。かと思えばマイクを放り出し、ベース・アンプのボリュームを勝手に上げたり、キーボードの女性にちょっかいを出したりします。あきれ果てるほどのじじいぶりですが、実は若いころからずっとこんなんです。あまり変わってません。最初は何じゃこれ、と思うかもしれませんが、繰り返し聴いていると強力なバックのサウンドと相俟ってだんだんクセになってきます。

ちなみにキーボードの女性はエレーナ・ポーローという名前で、マークの2番目か3番目の奥さんです。この人もなかなか変わった人で、コートをステージに持ってきてキーボードの下に押し込んだり、演奏中も肩から下げたバッグを手離しません。バッグにはマークがステージ上で何か発作を起こしたときのための薬が入ってるんじゃないかともっぱらの噂です

あとビデオの最後の方で上半身、衣服を着用していない女性が登場しますが、あれは一般のファンの方でメンバーではありません。

俺はバリーの生まれじゃない。俺はバリーの生まれじゃないんだ。俺はバリーの生まれじゃない。俺はバリーの生まれじゃないんだ。

ふざけんな、俺はミシガンの生まれだ。俺はバリー出身だ。フランスの王子なんだ。言っただろ。

この歌には意味があるんだ。どんな歌にだって意味がある。自動的にまた入れ替わる。

支払いある。支払いがあるんだ。支払いを俺の両肘が支えてるんだ。それで二人の子どもを食わせていかなくちゃならない。

今やってる。今やってるだろ。

道という道はすべて戦いだ。戦略だ。俺はバリーの生まれだ。ブーレでも同じだ。フルートみたいな音色のフランスの小品だ。俺にはできる。俺にはできる。

市役所のビルの横で、あんたはどの季節でも苦痛を感じるようになる。それから、ガラス張りの洒落た家の中で、よく隙間風を防いでいた。

やがてある日スペインの王が、できの悪い召使いの一群を引き連れて、バリーへやって来ようとする。

新しいレコーディングの手法。首に鎖を巻き付けて、ジャーン、彼が小走りで出て行く。俺がバリーの生まれだと言えば、あんたはもう何も言えない。

ふざけんな、俺はミシガンの生まれだ。俺はバリー出身だ。フランスの王子なんだ。言っただろ。

この歌には意味があるんだ。どんな歌にだって意味がある。自動的にまた入れ替わる。プレイ開始だ!

それで二人の子どもを食わせていかなくちゃならない。

俺はバリーの生まれじゃない。俺はバリーの生まれじゃないんだ。俺はバリーの生まれじゃない。俺はバリーの生まれじゃないんだ。

芸術家のマークは実際、灰色のリスみたいにクズどもの中から逃げ出した。ベン・マーシャルの記事を、大声で読み上げることで。あるいは下品な製造業界のユーザーが録音したものを使うことで。

俺はバリーの生まれだ。

2012/08/16

そんなもので俺を倒すことなどできない (Running Up That Hill - プラシーボ)

Brian singing
Brian singing, a photo by iko on Flickr.

ケイト・ブッシュの「Running Up That Hill」については昨日書いたばかりですけど、もうひとネタ。

有名な曲なので多くのアーティストやバンドがカバーしてるんですが、そのひとつに5年ほど前にプラシーボ(Placebo)がカバーしてシングル・ヒットしたバージョンがあります。若い人だとケイトのオリジナルは知らないけど、プラシーボのやつは聴いたことがあるという人が結構多いかもしれません。

英語ってのは日本語ほど男言葉、女言葉というのが明確ではないので、歌詞はほとんど変えなくても、歌い手によって男女の立場を入れ替えることが可能です。「Running Up That Hill」の場合、男性であるブライアン・モルコ(Brian Molko)がを歌うことで、立場が入れ替わりました。歌詞にある通り「お互いの身体を入れ替える(swap our places)」ことが実現したとも言えるでしょう。

先日オリンピック閉会式の「Running Up That Hill」を YouTube で探していたところ、もうひとつ面白いものを見つけました。プラシーボのバージョンがレッスルマニアというアメリカのプロレス・イベントで2010年版プロモーション・ビデオに使われていたんです。

最初はこの曲が、なんでこんなところに使われるんだろうと思っていたんですが、ビデオの冒頭、二人のレスラーがリング上で衝突するシーンのバックで"It doesnt't hurt me..." と歌が流れたところで理由がわかりました。ずっぱまりの曲です、これ。

アメリカのプロレスなどほとんど観たことないので知らなかったのですが、調べてみるとこの年のレッスルマニアのメインイベントはアンダーテイカー対ショーン・マイケルズという過去様々な因縁を持つ二人の対決で、ショーン・マイケルズは現役引退を賭けてリングに上がり、後世に語り継がれる名勝負となったそうです。

まあ、ビデオを観ていただければわかります。ここで「Running Up That Hill」は、リング上で戦い、傷付け合うという形でしか出会うことのできなかった二人の男の歌になっています。

そんなもので俺を倒すことなどできない
俺がどう感じてるのか、知りたいか?
俺が本当に痛みを感じていないのか、知りたいか?
俺が考えている取り引きについて、聞きたいか?
そうだ、おまえと俺のことだ

もし神と取り引きできるなら
二人、お互いの身体を入れ替えてもらえたら
一緒にあの道を駆けのぼって
一緒にあの丘を駆けのぼって
あの館に駆け上がれるのかもしれない

俺を傷付ける気はなかったんだろう
だが弾丸は、身体の奥深く突きささっている
俺もいつの間にか、おまえを引き裂こうとしている
お互いの心の中に怒りが渦巻いている

愛するものへの憎しみでいっぱいか?
なあ、俺たち両方に問題があるのかな?
そうだ、おまえと俺のことだ
もう二人は決して不幸にはならない

もし神と取り引きできるなら
二人、お互いの身体を入れ替えてもらえたら
一緒にあの道を駆けのぼり
一緒にあの丘を駆けのぼり
あの館に駆け上がるなんて
わけもないことなのにな

2012/08/15

もし神様と取り引きできるなら (Running Up That Hill - ケイト・ブッシュ)

帰省ラッシュやお墓参り、大雨、あるいはただ単にすごく暑いということで、みなさんすっかりお忘れかもしれませんが、ついこの間までロンドンでオリンピックが開かれていました。

そのオリンピック期間の終盤、8月6日にケイト・ブッシュのファン・サイト KateBushNews.com で 「Running Up That Hill (A Deal with God) 2012 Remix 発売のニュースが報じられたんですが、その発売日がオリンピック最終日の8月12日となっていたため「閉会式にケイトが出演するのでは?」と大きな話題になりました。結果的にケイトの出演は実現しなかったのですが、閉会式パフォーマンスのひとつでこの曲が大々的に使われました。

この「Running Up That Hill」は1985年のアルバム「Hounds of Love」からシングルカットされ、当時イギリスを始めヨーロッパでチャートの上位に入っただけでなく、それまでヒットのなかったアメリカでもトップ30に入り、世界的な大ヒットとなったケイトの代表曲です。

この曲で歌われているのは、お互いの無理解から破綻してしまった男女の関係です。愛し合っていたはずなのに、いつの間にかお互いを憎むようにまでなってしまった二人。でも神様と取り引きして二人の身体を入れ替えてもらったら、お互いをちゃんと理解し合えるのに、あの丘を二人で駆けあがっていけるのに、そんなある種妄想じみた願望が歌われています。明確なキーワードは何も出てきませんが、この曲を聞いて誰もが思い起こすのが「嵐ヶ丘」であり、キャシーとヒースクリフの二人の物語です。「嵐ヶ丘 パート2」とも言える内容の曲です。

閉会式に使われ、同日発売されたリミックス・ヴァージョンは iTunes StoreやAmazon MP3 などダウンロード限定のリリースです。昔のオリジナル・ヴァージョンを聴き込んだ人なら「あれっ?」と気付いたんじゃないでしょうか。そう、バックトラックのミックスが変えられているだけじゃなく、キーが低くなっているんです。メインのヴォーカルはオリジナルと明らかに違っていて、最近のケイトを思わせるやわらかな声になっています。公式には何も発表されていないんですが、おそらく「ディレクターズ・カット」レコーディングの際、一緒に録り直したヴォーカルじゃないかと思います。

この曲を使った閉会式のパフォーマンスは大きな白い箱を303個、男女たくさんのダンサーが小高くなったステージ中央に運び、その箱でピラミッドの形を組み上げるというものでした。303というのは今回のオリンピンクで競われた種目の数です。パフォーマンスと並行して、競技の様々なシーンがビデオで挿入されています。If I only could、もし叶うことなら身体を入れ替えてお互いの経験を交換したいのは、勝者と敗者?出場できた者と出場できなかった者?競技者とテレビを観ていただけのあなた?オリンピックに大騒ぎしていた人とそんなこととは無縁で生きていた人?そんな歌に聴こえます。

わたしは傷付いたりしないわ
わたしがどんな気持ちでいるのか、知りたくない?
本当に傷付いていないのか、知りなくない?
私が考えている取り引きについて、聞きたくない?
そうよ、あなたとわたしのこと

もし神様と取り引きできたら
二人、お互いの身体を入れ替えてもらえたら
二人であの道を駆けのぼって
二人であの丘を駆けのぼって
あの館に駆け上がれるのに

私を傷付ける気はなかったんでしょう
でも弾丸は、身体の奥深く突きささっている
私もいつの間にか、あなたを引き裂こうとしている
お互いの心の中に怒りが渦巻いている

愛するものへの憎しみでいっぱい?
ねえ、わたしたち両方が悪いんじゃない?
そうよ、あなたとわたしのこと
もう二人は決して不幸にはならない

もし神様と取り引きできるなら
二人の身体を入れ替えてもらえたら
二人であの道を駆けのぼり
二人であの丘を駆けのぼり
あの館に駆け上がるなんて
わけもないことなのに

2012/08/04

Metal Box とジョン・ライドンの借金

PiL のニューアルバム「This is PiL」が発売されて2ヶ月が過ぎました。自前のレーベル PiL Official からの発売なので、派手なお金をかけた宣伝は一切ありませんが、ジョン・ライドンはテレビ、ラジオ、雑誌、新聞、音楽サイトの取材、インタビューなどのプロモーション活動にを大量にこなしていて、発売直後の一時的なものにとどまらず、アルバムはコンスタントに売れているようです。Amazon UK を見ると、先日から始まったイギリス・ツアーに連動して、またチャートを上昇しています。

さて、前作「That What is Not」から今回の「This is PiL」まで、PiL としては20年ものブランクがあったわけですが、その理由はレコード会社との契約と借金で身動きが取れず、20年間いくら活動したくても、レコードを出したくても出せない状態だったからです。ツアーをやるにしろ、レコードを出すにしろ、それを実現するにはある程度まとまったお金が必要です。レコード会社が投資してくれないことには、何もできません。また契約に縛られているため、他のレコード会社に移ることもできません。

本当にひどい状況だった。頭が変になりそうだったよ。それでも俺は何とか切り抜けたが、俺だけじゃなく、レコード会社と契約してるアーティストにはホラー映画みたいな状況に陥ってるやつがたくさんいるんだ。彼らがうまく切り抜けてくれることを祈るよ。

ひどい馬鹿げた話は山ほどある。レコード会社は俺の独特のやり方が気に入らなくて、費用を俺に負担させるようになった。PiL が最初の2枚のアルバムを出したときなんか、連中は目の敵にしてたんだ。

PiL の移籍金を拠出してアルバムを出そうという別のレコード会社は、結局現れなかった。だから契約期間が切れるまで待つしかなかったんだ。不幸なことがもうひとつ、レコード会社への借金も残っていた。だから俺たちはまた別のレコード会社と契約して同じようなハメに陥らないように、自分たちでレーベルを立ち上げることにした。その金を稼ぐために約2年間、ずっとツアーし続ける必要があったんだ。

PiL singer John Lydon on record company battles

その2年間のツアーを始めるための資金を出したのは、もちろんレコード会社ではありません。ジョンにお金を出したのはバターの会社でした

それにしても、ジョンが借金漬けで20年も身動きが取れなくなったそもそものきっかけというのは何だったんでしょう?PiL を始めたときは無一文だったにしても、デビューシングルの「Public Image」はイギリスでベスト10入りするほどのヒットとなりました。その後も「This Is Not A Love Song」や「Rise」などのヒットを飛ばし、最もセールス的に振るわなかった80年代後半から92年にかけての時期も、ビルボードのロックチャートの上位に上がってくる程度には売れていたのに、です。

借金地獄の発端となったのはおそらく1979年リリースのセカンド・アルバム「Metal Box」でしょう。今でこそ PiLの名作として評価が確立しているアルバムですが、先のインタビューでジョンが言ってる通り、当時レコード会社はリリースを嫌がりました。内容的にレコード会社から見て歓迎できるものでなかっただけでなく、ジョンたちが特殊なパッケージでのリリースを要求したからです。

当時の一般的なアルバムの形は、30cm、33回転のアナログレコードでした。2枚組のレコードというのもありましたが、値段が高くなるのでそれが出せるのは実績があり、売り上げの期待できるビッグネームに限られていました。

またレコードの回転数には33回転と45回転の2種類あります。単位時間当りの回転が早い45回転の方が音質はだんぜん良いのですが、その分1枚のレコードに収録できる時間が短かくなります。つまり33回転なら1枚に納まる内容が、45回転だともう1枚増やさないと収録できなくなってしまうのです。ですから当時は「45回転はシングル・レコード用」と誰もが思い込んでいて、アルバムを45回転のレコードで出そうなんてバンドは皆無でした。

そんな時代に、音質を重視したジョンたちがレコード会社に要求したのは「Metal Box」を45回転の3枚組として出すことでした。しかもそれだけではなく、レコードをその名の通り金属製の缶に入れて発売すること求めたのです。前代未聞のことでした。

レコード会社は当然こんな要求をそのまま受け入れたりしません。交渉の末、最終的には6万セット限定でリリース、しかも高価な缶の代金はバンド側が負担するということで決着が付きました。こうして缶入り高音質レコード「Metal Box」は世に出たのです。当時、イギリスでは15ポンド前後の値段で販売されました

さて、問題はここでバンド側が負担した缶の代金はいくらだったのかということです。ジョンは2年前のインタビューで「あのパッケージに使った金を払い終えるのに18年もかかった」と言ってますから、相当な金額です。

一体いくらだったのか、探してみたらリリース直後、1980年の雑誌インタビューに Metal Box の製造費用27,000ポンドの内、缶の代金として20,000ポンドを負担したと書いてあるのが見つかりました。

あれ?だけどこの金額少な過ぎない?だって1セット15ポンドで販売すると6万セットで90万ポンドだよ。製造原価が3パーセント(27,000 / 900,0000 = 0.03)なんて安過ぎ、あり得ない。そんなんだったら、そもそもレコード会社も問題にしない。これは桁ひとつ間違ってるでしょう。製造原価30パーセントの27万ポンドだと思う。その内20万ポンドがバンド側の持ち出し。

当時の日本円にすると(今じゃ信じられないと思うけど、当時のレートは1英ポンドが450円なので)なんと9千万円! うん、これなら辻褄合う。20代前半の生意気なロックスターの若造に借金として背負わせて、がんじがらめにするには高過ぎず、安過ぎず最適な金額。レコードがヒットしても儲けはみんな借金の返済に消えいき、取り戻すまで18年もかかったというのも理解できる。単なる全体金額からの推測だけど、大きくは外れてないはず。

普通の大人が考えれば「なんて馬鹿なことを!どうしてそこまでしてパッケージや音質にこだわるんだ?自分で金出してレコードを配ってるようなもんじゃないか!」って感じだと思います。

でもだからこそ「Metal Box」は世に出て、たくさんの人に大きな影響を与え、現在の PiL やジョン・ライドンがあるんです。そういう馬鹿がいるからこそ、世の中ほんの少しずつだけど、マシになってきてるんだよ。

2012/07/28

どんなに深くても、俺は溺れたりしない (Deeper Water - パブリック・イメージ・リミテッド)

Johnny Rotten PIL
Johnny Rotten PIL, a photo by .noir photographer on Flickr.

ロンドン・オリンピックが始まり、世の新聞やテレビ、ネットのニュースはオリンピック一色となりました。なんだが開会式ではセックス・ピストルズやPiL の曲がかかったようですが、そんな騒ぎを尻目にジョン・ライドンと PiL のおじさんたちは本日ロチェスターで開かれる Music Event One でのステージを皮切りに、ニューアルバム「This is PiL」を引っ提げての本格的なイギリス・ツアーを開始します。

もちろんコンサート動員的には無茶苦茶不利な状況ですから、普通のアーティストやバンドなら、オリンピックとのタイアップ企画でもない限り、こんな時期にイギリスでツアーをやったりしません。それを(あえ)てやるのがジョン・ライドンであり、PiL というバンドです。なぜなら、この時期だからこそイギリスで歌わなければならない歌があり、鳴らさなければならない音があるからです。PiL がオリンピック期間中のイギリスの一角を占拠するわけです。「ロンドン・オリンピック対ジョン・ライドン」です。

オリンピックの開催に当たり、国や自治体はオリンピック開催に向けて競技やその付随施設建設や通信、交通機関の整備、国内外へ向けての大々的なプロモーションなどに莫大な額の税金を投入します。問題はその投資に見合う経済的な効果が得られるかどうかです。1948年のイギリスや1964年の日本には、間違いなく、それを上回る見返りがありました。オリンピックをきっかけに諸々の社会インフラを整備することで、多くの産業がその恩恵を受けられたからです。大規模施設、設備建設などの技術的な経験、蓄積も得られました。国内企業だけでなく、他の国との協力によって準備をすることで、海外との経済的な交流も活発化し、その後の貿易を飛躍的に促進するきっかけにもなりました。

でも世界上位レベルの高度なインフラを持ち、企業がグローバル化し、しかも工業が既に主産業ではなくなっている今のイギリスや日本のような国において、投入した税金に見合う恩恵を得られるのでしょうか?普通に考えて絶対無理です。

いや、そんなことはない。今でも投資に見合う大きな見返りが国全体にもたらされると主張する政治家や財界人はたくさんいます。巨大イベント事業であるオリンピックの開催を決めるのは、そういう政治家やそれを後押しする経済界の人たちです。お抱えの経済学者はオリンピックの経済効果について、わけのわからない数字を大量に並べて正当化します。

「今のイギリスにはオリンピックの費用を賄う余裕なんてないんだ。自滅行為だ。選手のサポートすらろくにできないんだぜ。連中は金もないのにアホな建物を建てたかっただけさ。地主たちにとっては、とんでもないゴールドラッシュだ。だが土地代がたんまり入ってくる奴がいる一方で、そこの住民たちは追い出される...」

「オリンピックはギリシャで生まれたんだろ?だったらギリシャでやればいい。」

「だけど水泳だけは好きなんだよ。水泳は得意なんだぜ。俺が幸せを感じるのは水の中、深い水の中(Deeper Water)なんだ。数年前、ダイビングの免許も取った。」

John Lydon talks PiL, Sex Pistols, Green Day and the Olympic Games

大企業から見れば、オリンピックというのは短期間に大きな収益を見込める、ものすごくおいしい事業です。もちろん短期的には確実に国内の仕事が増えます。だけどその話が本当なら、去年の夏、ロンドンでの大暴動はなぜ起きたんだ?去年の夏は、オリンピック準備の諸々の事業がピークで、仕事もたくさんあったはず。本当にたくさんのイギリス国民が恩恵を受けていたのなら、なんであんな暴動が起きるんだ?

少なくとも日本では、多くの人が去年の暴動のことなんか忘れてます。たぶんイギリスにもそういう人がたくさんいるはずです。でもジョニーは忘れてません。ニューアルバム「This is PiL」リリースに際してのインタビューやコンサートでの口上で、繰り返しあの暴動について言及しています。

「地に足を着けて、ちゃんとした価値観を持たなきゃならない。俺はそうした価値観をニューアルバムの曲に込めたつもりだ。俺は誰も傷付けたくないし、人の物を奪いたくもない。俺はこの世界をみんなと共有したい。俺は自分のスペースを主張する一方で、他の人間のスペースも尊重する。俺の足を踏みつけるな。だが俺にできることがあれば何か言ってほしい。」

「ちょうど(This is PiL の)レコーディングに入る頃、イングランドで暴動が起きて多くの人が死んだ。ひどい話だ。警察の署長、ロンドン市長、政治家たち、いわゆるリーダー連中はみな休暇中で、誰もコントロールできなかったらしい。責任者不在で明確な対応策もなく、何をすればいいのか分からないままの警官隊をあちこちうろうろさせただけだった。やがてガキどもがテレビやスーニカーを盗み出した。略奪の始まりさ。『このチャンスを逃す手はない』ってやつだ。」

「だがこのことはよく覚えておいたほうがいい。こんなことが起きるのはイギリスだけなんだ。ほかの国ではこんな事態にならない。あのガキどもは、夜どこにも行くところがないんだ。ソーシャルセンターは全部閉鎖されてしまい、ボールを蹴って遊べる芝生さえ、どこにもないんだ。」

John Lydon Ages (Sorta) Gracefully

今年に入ってからのコンサートではこの「Deeper Water」という曲が一番最初に演奏されています。阿呆どもの戯言(たわごと)を信用して岸に向かうな、深い沖を目指せ、深い水の中で生き抜けという内容の曲です。そこは権力者やリーダーがもはや存在しない、だけど足がつかなくて不安だらけ、自分の力で泳ぎ続けるしかない場所です。

「アイルランドに住んでたじいちゃんと一緒に釣りに行ったことがある。手漕ぎのちっぽけなボートで、海のうんと沖まで連れてかれたんだ。俺はまだすごく小さくて身体も弱かった頃なんで、ものすごく怖かった。だけど今にして思えば、すごくいい経験だったと思う。だからその後、泳ぎを覚えたときはプールの一番深いところで練習したんだ。いつでも足が付くような浅いところで練習しても、泳ぎは覚えられないってわかっていたからだよ。」

「ニューアルバムのレコーディングは、(あえ)て何のアイディアもまとめずにいきなり始めた。それぞれの機材をセットして、お互いの顔を見つめる。『よし、じゃあ俺たちこれからどうするんだ?』ってさ。例によって足の付かない一番深いところから始めたってわけさ。」

「パンクの本質は立ち止まらず、前に進み続けることだ。」

「それでも実際にはみんな進歩してるんだぜ。(ピストルズでデビューした)俺の若い頃は、国を動かしている権力を持った連中は何だかんだ言ってもやっぱり普通の人間より頭が良くて、様々な問題を解決する知見を持ち、自分のすべきことがわかってると、多くの人が信じていたんだ。だけどそうじゃない! 今じゃそんなことを信じる奴は誰もいないだろ?」

Stiff upper lippy - John Lydon Interview
The Sunday Times, 6 May 2012

海は荒れ狂い、どんどんせり上がる
入江の中で、俺の頭の中で

波に逆らい、涙の風を受けて船は進む
何年もの長い間、理由があって俺はここにいる

怒りを(あら)わにした阿呆どもは
軽はずみな判断を俺に(くだ)して
俺を岸に叩き付け
岩に激突させようとする
過去は水に沈み
(とどろ)く波が襲いかかる
俺は、より深い水を目指して飛び込む

より深い沖の水を
より深い水を
より深い水を
より深い水を

生気のない、無知で得体(えたい)のしれない奴らが
あんたを酔わせ、危険を隠して岸へ(みちび)
やがてあんたは岩に叩き付けられる

海は荒れ狂い、どんどんせり上がる
入江の中で、俺の頭の中で

危険を(かえり)みず、涙の海を船は進む
何年もの長い間ずっと、理由があって俺はここにいる
来る年も、来る年も

だが俺の船は決して沈まない
俺は溺れたりしない
俺はより深い沖の水を目指す

より深い水を
より深い水を
より深い水を目指す
より深い水を

俺は溺れたりしない、絶対に
俺はより深い沖の水を目指す
帆を()げ、ボイラーに燃料をくべて
水へ飛び込む
どんなに深くても、俺は溺れたりしない

より深い水を
より深い水を
より深い水を目指す
より深い水を

より深い水を
荒れ狂う海の中を
俺は溺れたりしない
より深い水を目指す
より深い水を

2012/07/13

イギー・ポップと野菜畑とニューアルバム Après

ちょっと遅くなっちゃったんですが、イギー・ポップのニューアルバムAprès(アプレ)をご紹介します。

前作 Préliminaires (2009)から3年ぶりとなるソロ作品で、5月下旬に発売されてるんですが、知らない人も多いと思います。というのもこのアルバム、所属レコード会社(EMI)から「こんなもん売れねえ!」とリリースを拒否されてしまったため、通常と異なるルートで販売されることになり、日本ではまったく宣伝されていないからなんです。

このアルバムに限り Believe Digital という会社が販売を担当しています。基本はダウンロード販売で、物理的な CD はフランスのオンライン・オークション・サイト Vente Privée を通じてのみ販売されるという、きわめて変則的な形でのリリースとなりました。

そんなんじゃ売れないと思うでしょう。ところが売れたんですよ。販売直後にフランスのアルバム・チャートで何と3位、ダウンロード・チャートでも11位になったんです。イギー史上、初の快挙!もう従来のレコード会社というものが、完全に役立たずで、いらない存在になってるということが、ここでもまた証明される結果となりました。

日本でも iTunes Store や Amazon MP3 で購入できます。そのほか、CD の販売もその後拡大されたらしく、国内のショップにも輸入盤がぼちぼち入荷しています。

さて肝心の内容なんですが、前作のタイトルが「準備」を意味するフランス語 Préliminaires で、今度もまたフランス語、「後」を意味する Après です。二部作の後編と考えて差し支えないでしょう。ただし今回オリジナル曲はなし、スタンダード曲中心のカヴァーで、エディット・ピアフやハリー・ニルソン、ビートルズの曲などを歌っています。また「死」をテーマにした厭世的なトーンの前作に対し、今回はずいぶんやわらかな、明るい雰囲気の作品に仕上がっています。

ここは俺のやる気を保つための家なんだ。2500人しかいない小さな村の中さ。マイアミの最も危険な地域のすぐ隣りなんだけど、ここはまったく別の場所みたいに感じられる。

ここは俺の野菜畑。ミシェル・オバマがホワイトハウスで野菜を作ってるって話を聞いて、これを思いついたんだ(笑)。すごくいいアイディアだろ。ここへ帰って来たらまず野菜を収穫して、それを切ってパテに混ぜて食べるんだ。

20年くらい前、ひどく体調を崩したときに韓国人の武道家に出会ったんだ。彼は俺に太極拳とその基礎となってる気功を教えてくれた。それ以来毎日かかさず実行してる。ある決まったの型の組み合わせによって心を落ち着かせ、エネルギーを作り出すんだ。

俺はここ15年か20年くらい、オフステージの生活を少しずつ、静かでゆっくりしたものにしてきた。俺に必要なことだった。そうすると、次第に声の出が良くなり、情熱を感じる対象が変わってきた。俺が子どもの頃に聴いてたような、静かな曲が歌いたくなってきたんだ。

ストゥージズのツアーで2ヶ月ずっとウワー oowUG! ファック・ユー uuQ!fw%^n$ ファッキン・ヘル !wwDgjki=#B!! ヘイ werQ!! ウワゥ vv%#oOO !ウワゥ!!とやった後、家に帰って考えたんだ。よし、スタジオでそんな曲を歌ってみようって。

そんなわけで俺は穏やかで地味な生活を送ってる。静かな生活だよ。ただしときにまだ、悪魔が俺に語りかけるんだよ。セラヴィ、ま、人生なんてそんなもんさ。

このアルバムで私が一番気に入ったのは、エディット・ピアフ(Édith Piaf)の曲、La Vie en Rose です。「エディット・ピアフ?誰それ?」という人でも聴けば必ず「ああ、これ聴いたことある」というくらい有名な曲です。イギーはフランス語でオリジナルの歌詞を歌っているのですが、曲のアレンジはなぜかシャンソンじゃなく、スローなジャズ・アレンジになっています。

イントロは空に向かって小さなしゃぼん玉をたくさん、ふーって吹いたときみたいな、印象的なピアノ・フレーズで始まります。続いて古いニューオリンズ・ジャズ風のトランペット(コルネット?)がメロディを奏でます。ああ、何だかルイ・アームストロングみたいでいいな、ルイ....っていうか、これ、そのまんまじゃん。

La Vie en Rose はルイ・アームストロング(Louis Armstrong)による、これまた有名なカヴァー・ヴァージョンがあるんですが、アレンジはこのアームストロング・ヴァージョンがほとんどそのまま使われているんです。つまり、イギーはエディット・ピアフとルイ・アームストロング、二人の曲をいっぺんにカヴァーしてることになるの、かな?

2012/07/06

Daytrotter で Haim のスタジオ・ライヴ公開

枚数限定リリースのアナログ盤 EP 「Forever」はみなさんお手元に届きましたでしょうか?Rough Trade の方は既に売り切れ、National Anthem の方も在庫僅かとなっています。「えっ、知らなかった。そんなのあったの?」という方は、今すぐ注文することをお勧めします。

ハイム(Haim)、音はプロフェッショナルだし、ちゃんとしたプロモーションビデオも作ってるし、ジャケット写真なんかもお洒落なんで、普通にレコード会社と契約してるバンドと勘違いされそうですが、今のところまだ独立系家族経営バンドです。

なので、手がまわんないんでしょうか。色々やってる割には宣伝が行き届いてない感じです。公式サイトのほか、FacebookTwitter のアカウントもあるんですが、ライヴや EP の販売さえちゃんとアナウンスされていない状況です。

つい先日 Daytrotter で4曲のスタジオ・ライヴが公開されたのですが、これも公式アナウンスが何もありません。しょうがないなあ。えー、今回 Daytorotter で録音されたのは以下の4曲です。

  1. Honey & I
  2. The Wire
  3. Go Slow
  4. Let Me Go

Honey & I が(たぶん)新曲。Go Slow は EP にも収録されてますね。The Wire と Let Me Go はライヴでお馴染の曲です。ライヴでのワイルドな演奏がハイムの魅力のひとつなんですが、観客のいないスタジオ・ライヴってことで、ちょっと抑えた感じになっています。恒例となっている Let Me Go エンディングの全員ドラム乱れ打ちも入ってませんが、ハイムのちょっと違う面が聴けます。

(2012/07/12 追記)Honey & I は SXSW でも演奏していました。YouTube でそのときの演奏が見られます

Daytrotter は有料の音楽サイトで登録が必要なんですが、7日間の無料お試しができるので、アカウントを持ってない人はこの機会にお試しください。ほかにも First Aid Kit とか Anaïs Mitchell などのスタジオ・ライヴもあります。

もうひとつ、チャイルディッシュ・ガンビーノ(Childish Gambino)が、Royalty というミックステープを無料公開しており、その中の Won't Stop という曲に次女のダニエルが参加してます。Foever のプロデューサー Ludwig Göransson はチャイルディッシュ・ガンビーノのアルバムもプロデュースしてるので、そのつながりで参加したものと思われます。

最後はこのブログで紹介してなかったヴィデオ、今年の SXSW で撮影されたもので、Go Slow のピクニック・バージョンです。3人揃ってかけ慣れない感じのサングラスをしているのは、通販メガネ・ブランドの Warby Parker がスポンサーになってるからです。

「俺たち」が生まれたところ (One Drop - パブリック・イメージ・リミテッド)

Johnny Rotten PIL
Johnny Rotten PIL, a photo by .noir photographer on Flickr.

35年前、ジョニー・ロットンはセックス・ピストルズの曲「God Save The Queen」で「お先真っ暗だ (No Future)」と歌いました。言葉の表面だけ見れば絶望の歌です。だけど当時セックス・ピストルズに飛び付いた若者たちがこの曲に感じたのは絶望なんかじゃありません。当時、中学生でこの曲を聴いた当事者として断言します。ピストルズの曲、ジョニーの歌に感じたものは「希望」です。ああ、こうやって「自分」を出してもいいんだ。こういうのが、ありなんだ。そういう驚きと希望です。

この現実の世界は「裸の王様」の世界です。大人たちは薄々「本当は王様は裸なんじゃないか」と気付いていますが、なぜか「そう言っちゃいけない」という暗黙のルールに縛られています。なぜ言っちゃいけないのか、もし言ったら何が起きるのか、考えること自体を恐れています。言わないことで自分や家族を守ってるのかもしれません。ただし波風を立てないというだけで、それが果して本当に守り切れるのか、事態をさらに悪化させているだけじゃないのか、というところまでは考えが及んでいません。今までそれで大丈夫だったんだから、今まで通りにしていれば大丈夫なはずだ。大抵はそんなところでしかありません。

そこへ恐れを知らぬ少年ジョニー・ロットンが登場して言ったわけです。「よく見ろよ。王様はどこをどう見たって、ありゃ裸だろ。」それまで大人たちが必死に支えてきたルールの崩壊する音が聞こえました。

本当はジョニーも怖くなかったわけじゃありません。得体の知れない圧力や怖さを感じてなかったはずはありません。にも関わらずひとり勇気を振り絞ったのは、何よりまず、その圧力に押し潰されそうだった自分自身を救いたかったためです。

ピストルズが俺を救ってくれたんだよ。ピストルズが俺を惨めさのどん底から、労働者階級の貧困生活から助け出してくれたんだ。ピストルズに参加したおかげで、俺は既成の枠組みにとらわれず、自分のアタマでものを考られるようになった。以来、俺は変わずそうし続けてる。俺は自分の考え方に自信を持ってる。失敗したとか、間違っていたとか、馬鹿なことをしたなんて、少しも思っていない。そんな気持ちになってしまうような、浅はかな考え方はとうの昔に捨てたんだ。

俺は人生にきちんと決着をつけたいんだ。正しいものにしたいんだ。自分だけじゃな 。ほかの人たちも、もっとマシな生き方ができるようにしたいと思っている。

人がどう思ってるかは知らないが、ピストルズの曲はみんなそういう歌なんだ。権利を剥奪された人間の歌だ。そりゃ今まで生きてきて色々良いこともあったよ。だからといって、子どもの頃受けたひどい仕打ちを忘れることはできない。俺をでき損ない扱いして、不当に扱った規則や決まりを決して忘れはしない。

emusic Interview: John Lydon

今年の2月、BBC 6 Music で放送された「One Drop」を初めて聴いたとき、何か昔初めてピストルズを聴いたときのような感じが甦りました。もちろん曲調はピストルズとは似ても似つかないのに、です。今までジョン・ライドンの中で二つに分かれていたピストルズ的なものと PiL 的なものが、一つになりつつあるんだと感じました。何がそう感じさせているのかは、すぐに分かりました。従来の PiL の曲にはなかったどこか暖かみのあるサウンドと共に、歌の主語に We が使われているからです。

ご存知の通り「God Save The Queen」や「Pretty Vacant」など、ピストルズ時代の曲には主語として We が頻繁に登場しています。ところが PiL の時代になると(Fodderstompf のようなごく一部の例外を除き) We は使われなくなり、主語はもっぱら I になりました。「俺たち」を封印し、常に「俺」の立場からだけ歌うようになったのです。これは俺だ、おまえじゃない。俺の歌だ。安易におまえと俺を同一視するな、というのが 、ピストルズから PiL へのジョン・ライドンの大きな変化であったわけです。

20年ぶりのニューアルバム「This is PiL」とその中の曲「One Drop」は、PiL 史上初めて、ジョン・ライドンが自分自身に We と歌うことを許した記念すべき曲です。曲の前半は次のように歌われます。

俺の名はジョン、ロンドンで生まれた
俺は人の弱みにつけこんだりしない
それが俺の流儀だ

俺たちの法則、それはルールと無縁、自由であること
混沌が俺たちを生んだ
俺たちを変えることなど、誰もできない
誰もそのわけを説明できない
だがそれこそが
俺達が俺達たる所以(ゆえん)

年齢なんか関係ない
俺たちは皆ティーンエイジャーだ
俺たちは絶望から這い出して
注目の的となった
俺たちが
最後のチャンスだ
俺たちが
最後のダンスだ

これだけだと、ジョンが自分自身とピストルズや PiL の仲間たちのことだけを歌っているようにも聞こえますが、曲の後半でそうではないことが明らかになります。

俺たちはロンドンで生まれた
ロンドン以外でも生まれた
ロンドンでも生まれた
ああ本当は、世界中いたるところで生まれたのさ

そう、この曲はジョン個人やその仲間のことだけ、あるいは同世代の人間やロンドンのことだけを歌ったものではありません。「俺たち」の歌です。

世界中であらゆるものが経済的、社会的な崩壊の危機に瀕している。この問題を自分なりに理解するためには、ごく個人的なところから考え直さなくちゃならない。だから俺は自分の子どもの頃のことを分析したんだ。まだ音楽の世界に入る前、仕事のない一人の若者として、どう感じていたかってことさ。それで「俺たちはティーンエイジャーだ。年齢なんか関係ない。」ってリフレインが生まれたんだ。

俺たち末端の人間のことなんか少しも考えない政府は、邪魔者以外の何者でもない。昔から少しも変わっていないんだ。不幸なことに行き着く先はいつも暴動さ。ほかに俺たちに何ができるって言うんだ?暴動ってのは、手っ取り早い息抜きなんだよ。だがそれは常に、誰かが傷付けられたり殺されたりという最悪の結果に終わる。

もちろん暴動を容認しようなんて考えはさらさらない。だが暴動に加わってしまう連中の気持ちはよくわかる。毎日がフラストレーションで、爆発しそうな状態なんだよ。開放弁のない圧力鍋みたいなもんさ。あらゆる問題の原因がそこにあるんだ。

俺は幸運にもキャリアのスタートで、歌を書くという役割を授かった。そして、それを途中で放り出さず、正しく誠実に作り続けることに力を注ぎ続けてきた。俺にとってはそれが人生最高のチャンスで、捨て去るなんて考えられない。俺の歌は俺の魂から生まれる。音楽が俺の魂なんだ。レディー・ガガも言ってるだろ「こうなる運命の(もと)に生まれてきたんだ (Born This Way)」って。

Public Image Ltd. What You Get

2012/06/29

ママは俺の髪をカールして口紅を塗り、傷跡を隠してくれた (Born This Way - アリス・クーパー)

Alice Cooper @ Credicard Hall
Alice Cooper @ Credicard Hall, a photo by Focka on Flickr.

今月開催されたボナルー・フェスティヴァル、インターネットで中継されたため観た方も多いことでしょう。私も観ました。目当ては最終日の大トリ、アリス・クーパーです。去年のツアーに参加していたギターのスティーヴ・ハンターが今年はいないのですが、その分オリアンティがバンドに馴染み、ゾンビ・メイクをして弾きまくってました。

アリスの場合、出し物が色々あるためか、通常シーズンを通じてセットリストはほぼ固定です。アンコールは Elected で、これで終わりだなって思っていたら、もう一曲やってくれました。インダストリアルなアレンジのイントロで、オリアンティのギターが入ったところで「ああ、よく知ってる曲だ」ってわかりました。よく知ってる曲なんだけど、あれ?これ、何だっけ?

俺が子どもの頃、ママが言ってた
「私たちはみんな、生まれながらのスーパースターなのよ」
ママは俺の髪をカールして口紅を塗り、傷跡を隠してくれた
「あなたはちっとも変じゃないのよ、坊や」
ママは言った
「神様はあなたを理想的な存在として作られたの」
「だからほら、頭を上げて、前へ進むのよ。」
「いい?ママの言うこと、よく聞くのよ」

俺には俺だけの美しさがある
だって神は間違ったものを作ったりしないからな
俺は間違っていない
こうなる運命の(もと)に生まれてきたんだ

自分を恥じることはない
自分を愛することから、始まるんだ
俺は間違っていない
こうなる運命の(もと)に生まれてきたんだ

俺の名前はアリスだって言ったら、親父は腰を抜かしてた
親父には、まるで理解できなかった
化粧をして、行儀悪くふるまったが、そんなのは序の口
変人になることは、罪なんかじゃない
あいつらには、どうすることもできない
俺たちのことなんか何もわからないんだから
いいか?俺の言うことを、聞き逃すんじゃないぞ

俺には俺だけの美しさがある
だって神は間違ったものを作ったりしないからな
俺は間違っていない
こうなる運命の(もと)に生まれてきたんだ

自分を恥じることはない
自分を愛することから、始まるんだ
俺は間違っていない
こうなる運命の(もと)に生まれてきたんだ

このアリス・クーパーの Born This Way に対するガガ様からのツィート。

@realAliceCooper 身に余る光栄でございます、殿。歌詞を自分用に変えて歌った部分もすばらしい。#フランケン・ガガとぜひ共演したい

「身に余る光栄です(I am not worthy)」ってのは、もちろんウェインズ・ワールドのネタ。さすがガガ様は礼儀というものをよく心得てらっしゃる。

2012/06/28

ハイム(Haim)、デビュー EP 「Forever」のアナログ盤は枚数限定

haim-the-band
haim-the-band, a photo by TreasureLA on Flickr.

最近 Haim をキーワードにこのブログへ飛んでくる人が結構います。さすがみなさんお目が高い、お耳が肥えてる。そう、今、大注目の三姉妹バンド、ハイム(Haim)は今年の SXSW 出演と、それに前後して発表されたデビュー EP「Forever」が話題になり、注目を集めてるバンドです。

これだけ話題になれば、すぐに大手レコード会社と契約してアルバムをリリースするのが従来のパターンだったんですが、ハイムはまだどことも契約してません。EP「Forever」は自主制作で CD 発売はなく、ネットで MP3 を無料配布してただけです。それでも NME の2012年上期ベスト・ソング20に選ばれるというところが、音楽業界の変化を感じさせます。

現時点で唯一の公式音源が「Forever」なんですが、数量限定のアナログ・レコードが7月2日に発売されることになりました。Rough TradeNational Anthem のサイトで予約受付中です。

一方 MP3 の無料配布は既に終了して、ダウンロード販売に切り替わっています。ところが売ってるのは iTunes Store UK だけなので、残念ながら日本からは購入できません。EP の内容はそのまま SoundCloud にもアップされているので、ダウンロードし損ねて、レコードプレイヤーを持ってない人はしばらくこれで我慢するしかありません。

(2012/07/16追記) 日本の iTunes Store でも購入できるようになりました。

現在ハイムはイギリスをミニ・ツアー中、BBC などのラジオにも出演してプロモーション活動を行なっています。スパークスやホワイト・ストライプスみたいに、本国アメリカよりイギリスで先に人気に火が付くパターンになりそうです。

Q: あたたたちは今年の SXSW で注目を浴び、その後ネットを中心に新人バンドとしては異例の評価を受けるようになったわけですが、こんなに早く認められるなんて予想していましたか?

いいえ、全然! SXSW ではただ興奮してプレイしただけ。最高だったわ!

Q: 人々があなたたちの音楽に惹かれる理由は何だと思いますか?

昔のレコードを聴いてみて。答はきっとそこにあるわ。

Q: デビュー EP の Forever を出したばかりですが、何かもう次の計画(フルアルバムなど)はあるんですか?

レコード用の曲はもう85%くらいできてるのよ。だからあとはスタジオへ入って録音するだけ。

Q: スタジオワークは苦手だって話を聞きましたけど?

わたしたちの頭の中ではたくさんの音楽が鳴ってるの。だからレコーディングでは、わたしたちが望む現実の音を見つけ出すのに苦労するのよ。だけどきっと、ちゃんとできるわよ。

Q: 曲はどんな風に作るんですか?

たいてい何かのビートとかドラムのトラックから始めて、メロディはその後についてくるの。詩に書くのは自分たちが知ってることや知ってる人のこと。友達から聞いた話や、夢に見た内容が歌になることもあるわ。

Q: メンバーが姉妹だってことがマイナスになることはありますか?ケンカはよくするんですか?

バンドも家族も似たようなものよ。わたしたちの場合、たまたま家族がバンドのメンバーだっただけ。もちろんちょっとしたケンカはよくするわよ。たいてい原因は誰かが黙って誰かの服を着たとかだけどね。わたしたちお互いずっと親友同士であり、同時に「ふざけんじゃないわよ!」って仲なのよ。

HAIM INTERVIEW (DON’T PANIC 18.06.12)

ということで、日本で CD などが発売されたり、ツアーで来日するまではもう少し時間がかかりそうですが、YouTube にはライヴの模様が色々上がってますので、こちらをお楽しみください。

Haim Live at Dingwalls
今月18日、ロンドンでのライヴ。アンコールでパパ・ハイムとママ・ハイムが登場、伝説のバンド Rockinhaim を再結成しています。
Haim Live at The Satellite
今年の2月20日、LA の The Satellite でのライヴ。
Haim Live at Bowery Electric
昨年10月21日、ニューヨークの Bowery Electric でのライヴ。
HAIM at the Palace Theater
2009年11月27日、LA The Palace Theater でジュリアン・カサブランカスのサポート・アクトを勤めたときの模様。このとき一番下のアラナはまだ16か17。

そしてこちらが Forever のプロモーションビデオです。ひとつ気になるのが、エスティがおへそのはるか上まで引っ張り上げてはいてるスカート。ああいう着こなしが今 LA で流行ってるんでしょうか?